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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【第4章】北海道奪還作戦決行 編

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15時10分は「ひとごー、ひとまる」って読むらしいね(ネットで出てきた)



 任務終了の夜。

 モスモスが寝床にしていた広い草むらに仮拠点を造り、ミノタウロスの殲滅作戦およびダンジョン入り口の囲い封鎖作業が開始された。

 そんな中、俺は一人で大学と動物園の二つに入り口のあるダンジョンの低階層攻略を行っていた。


 いや……嘘を付いた。


 後にひょっこりと付いてきているティアがいる。

 でも、気持ちだけは一人で攻略している。


「ちょっ、早いっす! 早いっす! もう少しゆっくりお願いするっすよ!」


「…………」


 少しだけ後ろを振り返りティアの汗だくになった辛そうな表情を見た。


 はぁ……仕方ないか。


「ちょっ……もう……無理……っす」


 あっ倒れた。


 ゆっくりと俯せに倒れたティアを抱える。


「水……水……っす」


 か細い声でそう言ってきた。

 俺は五百ミリリットルのペットボトルを取り出し、ティアの口に詰め込んだ。


「ほい、水。よくそんな体力で今まで自衛隊について行けたね。体力だけはただの一般人と変わらないじゃない?」


 ゴクゴクゴク。


 俺の言葉など無視してティアは必死に水を飲み干している。


「ぷはーっ! 生き返ったっす!」


「ほい、一つ千円ね」


「お金取るんっすか?! しかも、千円って微妙にありそうな値段じゃないっすか」


「ダンジョンで水を恵んでもらったんだ。千円くらいが妥当じゃない?」


「わ、分かったすよ。自分の安月給をここぞと毟り取るNumber1(ワン)……という噂が広まるっすね」


 俺はそんな小言を言い始めたティアを無視して、ダンジョン攻略を再開することにした。

 そして、ティアはもういなく…………。


「ちょ、待つっすよ!! 謝るっす、謝るから、置いてかないでくださいっす!」


 ティアは疲れて死んでいたはずの体で走って追いかけてきた。


 ……走ろうと思えば走れるんじゃん。

 だから、原田さんにいつも走らされるんだよ。


 そうして、俺はこのダンジョンの五階層までの攻略を三時間ほどで終わらせて、第二拠点であるモスモス跡地へと帰還した。


 一応、俺が今回やった低階層攻略にも意味はある。


 所謂、湧き潰しってやつだ。

 自衛隊が管理しているダンジョンは全て定期的な湧き潰しが行われている。

 原理も何も分かってはいないが、おおよそ五階層を攻略していると二週間は地上に魔獣が出てくることはないらしい。


 いつもこういう湧き潰しは自衛隊の育成の一環として行うか、高ランクダンジョンであればより強いダンジョン事務所に定期依頼をする。

 しかし、今回のこの通称、牛ダンジョンは未知のダンジョンであり、威力偵察も兼ねて今回は俺が行った。


 やったね、このダンジョンに入った人は俺が初めてだって。


 ティアの見解だとダンジョンの危険度はDかCになるらしい。

 Dとはランキング9桁で、Cとは8桁で入ることのできるダンジョンのこと。


 まあ、別に特段難しいダンジョンではないってことらしい。

 自衛隊でも対応可能な範囲のダンジョンであるため、今後の湧き潰しも自衛隊が行っていくそうだ。


 ふーん……初攻略は俺が貰うけどね。


 その後、俺とティアは夕食を食べてから寝床へと付いた。

 久しぶりに今日はクウが一緒に寝たがっているからモフモフしてから一緒に寝た。


 ……ただ途中から冷気剥き出しで寝始めたからそっと床に降ろした。

 ごめんよ、クウ。春に冷気はキツイ。


 あっそうそう。

 工藤さんは当分使い物にならなそうだった。


 誰この人?

 って、言いたくなるほど奥さんに甘えていた。

 奥さんも満更でもなさそうにずっと付き添っていた。


 いや……うん、別にいいと思うよ?

 工藤さんは元々奥さんを探すために自衛隊に入ったわけだし?

 むしろそれが叶えば自衛隊にいる意味も無くなるわけだし?


 でもさ……大人なんだからせめて最後まで頑張ろうぜ?


 と、心の中ではそう思っていた元ニートで十八歳の男。


 今後の指揮は麻生隊員が執ることになったらしい。




 ******************************




 翌日、ダメ大人になった工藤さんの代わりに指揮を取ることになった麻生隊員に呼び出された。

 呼ばれたテントへと行くと、そこはドロップ品を管理する場所だった。


 ふわーっ。


 俺はつい欠伸を我慢できなくて、麻生さんの前で声を漏らした。


「朝早くに呼び出してすまないね」


「いえいえ、それで用って何ですか?」


 麻生隊員は一枚の紙を渡してきた。

 そこにはずらっと今回の戦利品であろうドロップ品が書かれていた。


「これがどうしました? ドロップ品の仕分けは東京に帰ってからって聞いてましたけど」


 作戦決行前の契約書ではドロップ品についての項目に簡単にこう書かれていた。


 戦利品の回収は自衛隊が主導で行うよ。

 戦利品の分配は主要作戦終了後、東京の基地で日時を決めて行うからね。

 自分が倒した魔獣の戦利品であれば拾ってもいいけど、他人の戦利品を横取りすると罪になるから注意してね。

 基本はその作戦の功績に合わせて分配するからよろしく!

 ただし凶悪指定魔獣のレアドロップ品や普通の魔獣からのレアドロップ品であればこの次第ではなく、それを倒した人に第一優先権があるからね!


 まあ、大雑把に言うとこんな感じだ。


 それで俺はこの書類を見て明らかに赤字で強調されている部分に目がいった。


「ええ、その予定です。ただ今回Number1(ワン)が倒された凶悪指定魔獣のモスモスからレアドロップ品が落ちたのでその確認をしたいと思っています」


 やはりそうだったのか。

 当たりだ。


「この赤字で記されているセレクトスキルスクロールですか?」


「その通りです。それはモスモスの毛皮ドロップ品の下に挟まっていたので、間違いなく所有権はNumber1(ワン)にある物と思います。(やなぎ)隊員、現物を出してください」


 麻生隊員は斜め後ろで立っていた、すらっとした身長の高い女性隊員に向かって言った。


「はい」


 その女性の手元にいきなり現れたのは間違いなく、俺の知っているスキルスクロールそのものだった。

 それを受け取り、すぐに異世界鑑定をかける。



【result】

 名称 ≫セレクトスキルスクロール・上級

 効果 ≫スクロールに記載されているスキルを一つ任意に選択して取得できる。

 一覧 ≫超投擲・風圧強・フライ・超筋力増加



 ふっ。

 ふっはっはっはっ。


 笑いが止まらないぜ。

 顔のにやけが止まらないよ。


 俺はその場で奇妙な声を上げながらガッツポーズをした。


 ありがとう麻生さん。

 ありがとう柳さん。

 そして……ありがとう今は亡きモスモスちゃん。


「ど、どうしましたNumber1(ワン)?」


 柳ちゃんは俺のことを心配するような顔で言ってきた。


 いや、何大したことないさ。

 ……やばいにやけ顔が止まらないぜ。


「ワ、Number1(ワン)、大丈夫ですか?! 私、余計なことでもしましたか?」


 まだ柳ちゃんは俺の心配をしてくれていた。

 可愛い人だ。たぶん同い年か、年下。


 対して、麻生隊員は若干俺の奇声を聞いてから引いている。

 顔には出さないけど、体は素直なようだ。


「ふーっ、落ち着いたごめんごめん。つい嬉しくって」


「な、何がですか?」


 うーん、柳ちゃん。

 君良いキャラしてるわ!

 質問が直球でよろしい!


「ふっふっふっ。それ俺が貰っていいんですよね?」


「は、はい大丈夫です! その為にここに来てもらったのですから!」


 うん、元気もあってよろしい!


 俺はすぐにその場でスクロールを開き、とあるスキルを選択した。


 魔法やスキルを取り過ぎたら死ぬ?

 俺は異常な数の能力を所持している?


 明らかに精霊とサリエス師匠が関係しているだろう。

 師匠がやったことなんだ、俺はまだまだ能力を所持できる自信がある。

 それにこのスキルを習得しないなんて選択肢俺の中にはない!


 躊躇せずに、四つのスキルの中から一つ選択した。



<アクティブスキル・フライを獲得しました。レア度・5、プラチナスキル。おめでとうございます。>



 懐かしい機械的な獲得情報を告げる声が脳内に聞こえてきた。




【skill】

 名称 ≫フライ

 レア度≫5 (プラチナスキル)

 状態 ≫アクティブ

 効果 ≫飛行可能性を持つ部位、物体を浮かし操ることが可能になる。使用可能時間は3600秒。クールタイムは使用した時間必要。



 俺の心は今、買ってもらった玩具を誰かに自慢したい子供同然なのだ。


「アイ、防具形態に変更」


 俺は麻生隊員と柳隊員を置き去りにして、指輪状態のアイに言った。


「――ッ!!」


 元気な返事が返って来た。

 その瞬間、指輪からブワッと大量の紅葉した葉が現れ、俺の体を包み込む。


 そこには羽の一枚一枚が紅葉と同じ鮮やかな色をした羽を纏う俺の姿があった。


「うわっ!?」


 これが麻生隊員の反応。


「うわあぉ、綺麗!!」


 これが柳ちゃんの驚き。

 うん、やっぱり彼女いいわ。俺の周りにはいないタイプで新鮮だ。


 でも、まだまだ。

 アイの嬉しそうな感情が俺の中に流れ込んでくる。


 そうだよな。

 アイは今までクウやぽんと比べると寂しかったよな。

 でも、大丈夫。

 今日からは誰よりも輝くよ。


 そう考えながら、俺は心の中で呟く。


(フライッ!)


 その瞬間、俺の足は翼に引っ張られるように浮き始めた。


「うおっ、難しいなこれ」


 空中でバランスを取るのって難しい。

 超バランス感覚のスキルがなかったらと考えると怖いな。

 しかも、このスキル体を浮かすんじゃなくて、翼を浮かすって感じ。

 バランスなんて自分でとれやっ! って言われている気分。


「と、飛んだ?!」


「ブラーボーッ!!」


 ついに彼女は両手を上に掲げて盛大に拍手をし始めた。


 ……いや、さすがにその反応は予想できないって。


 つい、柳ちゃんの反応に笑いを堪えきれず吹いてしまった。


「ぶっ、柳ちゃん何そ――へぶしっ!?」


 その瞬間、俺の視界はぐるんと180°回転し、後ろ周りで地面に頭を打ち付けた。


 ああ、神よ。

 何て仕打ちをするのだ。


 その次に俺の意識は無くなり、闇に閉ざされた。




 *****************************




「ブラーボーッ!! あっ……」


 私がそう今の気持ちを体で表した瞬間、Number1(ワン)が逆上がり(落ちのみ)をして意識を失った。

 その瞬間、Number1(ワン)の服が溶けるように脱げ、そこから三匹の小さな動物が現れた。


 全部小さい。


 白い狐、黒いぽっちゃり狸、赤い鳥。


「キャーッ! 可愛い!!」


 私は可愛いものに目がなかった。

 ゆっくりと私は動物たちに歩み寄る。


 しかし、その子動物たちはNumber1(ワン)の顔をペシペシと叩き、胸の上に乗っかり始めた。


 ななな……なんて可愛い子たちなの?!


 私は気持ちが抑えきれなくなり、抱き着こうとした。


 ……無理だった。


 ひらりと私の手を躱された。


 もう一回……無理だった。

 次はペシッと手を弾かれた。


「お、おい! 柳隊員、何している?! そんなことより救急……いや、一人だけ医療部隊の隊員を連れてきてくれ! 一人だけでいい! できるだけ位の高い者を、それと……この動物のことは絶対に他言するなよ?」


 いきなり後ろから麻生隊員が慌てるように私に向かって言ってきた。


「何で話しちゃダメなんですか?」


「これは絶対にNumber1(ワン)が秘密にしていることだ。彼と自衛隊との関係は壊したくない、彼とのことは全て慎重に扱わなければならないからだ。分かったか?」


「は、はい!」


 いつもは優しく温厚な麻生隊員の強気な言葉に私はつい敬礼をして、すぐに探しに行った。


 それにしてもあの可愛い子たちは何なのだろう。

 私も欲しいなぁ。

 やっぱりダンジョンの物だよねぇ。


 うん、決めた!

 私、この作戦終わったら自衛隊からダンジョン冒険者に転職しよっかな!


 あっでもアイテムボックスを持っているだけの少しだけ戦える人材を欲してくれる事務所なんてあるのかなぁ……。


 まあ、いいや。


 おっ、医療部隊のテント見っけ!


 私はそこで一人の隊員を引き連れて、Number1(ワン)の介護をした。

 別に大きな怪我とか後遺症とかはないらしい。

 ただ強い衝撃を受けて気絶しただけ。


 Numbe1(ワン)がベッドで寝ている間、動物っ子たちはずっと彼の元に付き添っていた。

 その子たちは私に害意はないと分かってくれたんだと思う。

 少しだけ触ることを許してくれた。

 ものっっっっ凄い、ふさふさしてた。まじ天使。


 あっ、それとNumber1(ワン)の素顔を初めて見たけど意外とカッコ良かったよ!

 正確に言うと黄色い声を上げるほどのイケメンではないけれども、この顔面レベルの男子を追い求めている女子は多いと思うよ。

 別に隠すほどの顔ではないと思う、うん。

 

 一応、言っておくと診察するには趣味の悪いお面は邪魔だったから取っただけ。

 麻生隊員にもちろん外見についても他言しないように命令されている。


 その後も私はNumber1(ワン)のベッドの横で戦利品についての書類を纏めたり、報告による功績を数値化したりずっと仕事をしていた。

 

 アイって赤い鳥の子?

 異世界鑑定だと???ばかりで何も分からないけど、私に少しだけ懐いてくれたみたい!

 私の膝の上で今はスヤスヤと寝てるんだっ! 可愛い! 最高! 仕事も捗りまくってますよ!



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