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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【第4章】北海道奪還作戦決行 編

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意思疎通って大事



「こちらNumber1(ワン)。工藤さん、魔獣はどこから湧いてるんですか?」


 俺は三度目の波を退けてから違和感を覚えていた。


 これだけの数のミノタウロスが隠れていたこと。

 そして、魔獣同士で連携を取っていること。


 魔獣自体で連携を取ることはよくあることだが、ここまで纏まった魔獣は俺の経験でも初めてだ。

 モスモスがいた場所を中心に四方八方からタイミングを見計らったかのように押し寄せる魔獣。

 リーダーを据えて隣のグループと連携を取ったりもしていた。


 これは明らかにミノタウロスの背後には知力の高い魔獣がいると考えて良いだろう。

 だから、俺は工藤さんに当てがあるか尋ねた。


『ザザッ、こちら工藤。あくまで推測だが……』


「推測でも構いません」


『ザザッ、動物園と大学。この辺りが怪しいと踏んでいる』


「了解。これよりNumber1(ワン)、遊撃から離脱します」


 俺はそう言って、無線を切った。


 一応、俺は事前に許可を得ている。

 不測の事態、違和感を覚えたとき、俺は遊撃部隊を離れ単独行動できる。


 大学……確かダンジョンの入り口があった場所だな。

 それに動物園か。


 ダンジョンの入り口は必ずしも一つ、これは常識?

 違う、この世界に常識なんて持ち込んではいけない。


 よしっ、動物園に向かおう。


 俺はさらに速度を上げて走り出した。




 ******************************




(ビンゴ!)


 俺は草影に隠れながら小さな声で呟いた。


 先程まで市街地を中心に戦闘をしていたから気づかなかった。

 しかし、少し市街地から離れれば一目瞭然だった。


 俺達は囲まれていた。


 モスモスを餌にされ、まんまと誘き出されていたのかもしれない。


 でも、今日俺達が攻め入ると知っていた?

 魔獣が人間の言葉を理解できるとは思えない。


 こっち側にスパイがいる?


 いや、人間が魔獣に力を貸すはずがない。メリットがない。

 そんな漫画でもあるまいし。


 とりあえず、雑魚を倒すよりも頭脳を潰すのが先決だな。


『超級魔法・オプティカルカモフラージュ』


 俺は自分に透明化の魔法を掛ける。

 そして、再び旭川の市街地を中心に周辺を走り回った。




 これで全てわかった。

 ここの魔獣は異常だ。


 俺はそう結論付けた。


 現在、目の前には簡易的な集落を造り、生活をしている魔獣の姿があった。

 それもダンジョンの入り口を中心とした、生活圏を築き上げている。


 藁や木で簡易的に組み上げられた家が無作為に建てられており、その周辺には忙しそうに歩き回るミノタウロスの姿。

 木材を運ぶ個体、道を整備する個体、畑を耕している個体……様々だ。


 そして…………人間がいた。それも複数人。


 そう人間だ。


 でも、ミノタウロスと同じように生活しているかと聞かれると俺は肯定しないだろう。


 踏み台にされる者、痛めつけられる者、戦いを強要されている者…………声に出したくないようなことをされている人までいる。

 酷い。

 こんなの奴隷以下の扱いだ。

 人間をただの道具としか思っていないような扱い。


 ダメだ、ただ見てるなんてできない。


 俺はすぐに無線で工藤さんに連絡する。


「こちらNumber1(ワン)。魔獣の集落と……人間を見つけた。合流する時間が惜しい、今すぐ突撃するが良いですよね?」


 すぐに返事が来た。


『ザザッ、こちら工藤。何があった? 状況を詳しく説明して欲しい』


 だよな、俺には伝える義務がある。


「人間が……人間が……奴隷以下の存在として扱われている。ああ、もう駄目だ。ごめん、工藤さん。もう見てられない、俺は助けに行きます!」


 俺は答えを聞かないように無線を耳から外そうとすると。


『救ってくれ、頼む』


 微かに工藤さんの懇願するような声が聞こえてきた。


 俺はつい無線機を握る手に力が入った。


 バキッ。


 一切の殺気を存在を隠すのを止めた。

 そして、強い視線を集落へと向ける。


 殺す。

 ここにいる魔獣は全て。


 それからの俺は全てがスローモーションに見えた。

 俺だけが時を掛けているようなそんな気がした。


『電速』


 電気の速さで俺は集落へと入る。

 そして、同時に首を切り落とした。人間を痛めつけていたミノタウロスの。


 そこで両手を銃の形にして構える。


『ディスチャージ』

『ディスチャージ』


 怒りの籠った電撃はいつもより少し速かった。


 さらに魔法を唱える。


『ショットガン』

『ショットガン』


 両手から同時に拡散されるように鳥の形をした水の弾丸を何発も何発も打ち続けた。


「ウモォォォ!」


 一体、白い個体が俺の魔法を躱しながら向かってきた。


 しかし、俺はそいつに目もくれない。


 これは戦いじゃない、一方的な虐殺だ。


 そいつは俺に向かって金色の斧を振り下ろしてきた。


 カキーンッ。


 当たるわけがない。


 斧が跳ね返り反動を受けたところを俺は氷の剣で両断した。


「モモウゥゥッ!!」


 次に一際大きい家の中から少し大きめの個体が現れた。


『ショットガン』


 それは右胸を貫いた。

 しかし、その巨体には微量のダメージしか通らなかったようだ。

 斧……いや、ハルバードを振りかぶりながら向かってきている。


 ショットガンでダメなら……。


『水月』


 三日月型の水の高圧水流がそのミノタウロスを襲う。


 ……一撃で下半身と上半身を両断された。


 あとは……。


 周囲を確認するも、魔獣の姿は一体もいなくなっていた。

 残るのはミノタウロスの角と金色の斧、ハルバードだけだった。


 俺はすぐに致命傷を負っていた人に駆け寄り回復魔法を掛けた。

 次へ、次へ、早く、早く治してあげないと。


 そう自分に考える余裕を与えないほどに迅速に行動していると、集落の出入り口付近にここにいたであろう人たちが恐る恐る集まってきた。


 俺はそこで最後の子供を治療する。


「よし君で最後だ。よく頑張ったね、よく耐えたね」


 そう言いながら、MPを惜しみなく使い回復魔法を掛ける。


 すると、その少年はガバっと俺に抱き着いてきた。


「…………ありがとう…………ありがとう…………ありがとう」


 ただ泣きながらそう言い続けていた。


 良かった、生きていてくれて良かった。

 俺はその少年の涙で崩れた顔をみてそう思った。

 それで視界は開けた気がした。

 スローモーションだった世界がいつもの早さに戻った。


 泣き止まない少年を抱き上げ、俺は集落の出入り口へと向かった。


 みんなが俺を見ていた。

 そして、素直に口から言葉が漏れた。


「もう大丈夫」


 安心させようといつの間にか俺の顔は笑顔になっていた。

 でも、彼らはお面で俺の顔が見えていないだろう。


 それでも声は届いた。

「もう大丈夫」その言葉を届けられた。


 彼らは力が抜けるようにその場に崩れ落ち、涙した。


 その泣き声の端から聞こえるのは「死ななくてよかった」、「生きててよかった」。

 そして、誰かも分からない名前をずっと口にしている者。


 俺は地面にブルーシートを引き、その上に毛布と簡単な食料を置いた。

 泣き止んだ者、放心状態から意識が覚醒した者からゆっくりと体を起こし、それらを手に取った。

 みんな毛布の端を力強く握っていた。

 手のひらから血を流している者すらいた。


 俺はその人の手を取り、ゆっくりと開いてあげた。

「大丈夫、大丈夫」そう何度も言った。


 それからすぐに俺は予備の無線を耳に付ける。


「こちらNumber1(ワン)、生きていた者は全員無事に保護しました。そちらの状況は?」


『おお! 良かった! こちら工藤。こっちの戦況は落ち着いたすぐに応援を寄こすから場所を教えてくれ』


「了解、現在地は――」




 その連絡から少しして自衛隊員の人たちが応援に来てくれた。


 その見慣れた、見たことのある緑色の目印を見たからだろう。

 再びここに囚われていた人たちは涙を流し、お互いに励ましあっていた。


 毎度同じだが、ここからは自衛隊に任せればいい。

 俺の領分ではない。


 そう思い俺もすぐに工藤さんたちと合流するべく、走り出そうとすると。


「「「「助けてくれてありがとう (ございます)」」」」


 何人もの人が俺に向かって涙ながらにそう言った。


 俺はただ手を挙げてその場を走り去った。


 ……正直、恥ずかしかった。むず痒かった。

 俺は今までの人生でこういうのとは無関係に生きてきた。

 元々ゲームしか取り柄のない役立たず、どっかの小さな企業に就職して適当に生きていく。

 それが俺だった。


 でも、今はこんな俺でも少しは誰かの役に立てたんだ。そう、初めて自分の目で耳で知ることができた。


 恥ずかしい……と同時に心の底から嬉しかった。


 それでもすぐに俺は自分の頬を引っ叩いた。


「まだ終わってない。せめて北海道を取り戻すまでは一介の人間に成ろう」


 そう思い、さらに速度を上げて工藤さんたちと合流した。


 工藤さんに話を聞くと、意外にも呆気ない収束だったらしい。


 恐らく俺が道中のついでで倒せるミノタウロスは首をサクッと跳ねていたからだろうと言っていた。

 いや、それは本当についでだったんだよ工藤さん。

 周辺を走っていた時はかなりの数のミノタウロスを見逃していたよ、俺。


 でも、俺が外周を走り回るようになってから明らかに波で押し寄せる魔獣の数が減ったらしい。

 そこから自衛隊も攻勢に出て徐々に外側へ外側へと進んでいたらしい。


 そして、俺がダンジョン難民を救い工藤さんに連絡を取る少し前。

 急に連携の乱れた魔獣たちをダンジョン冒険者と自衛隊の人たちがあっさりと全滅させたらしい。

 やはり単体であれば余裕だったが、連携を取られるのが痛手だったらしい。


 そして、今に至る。


 俺は工藤さんと少しの自衛隊員がいるテントへと足を踏み入れた。


Number1(ワン)の働きがなければ危なかった。本当に感謝している」


 突然、工藤さんが振り向いたと思えば俺に頭を下げてきた。


「何か工藤さんの頭は見慣れてるからありがたみが少ないですね」


 俺は笑ってそう言った。


「確かに。私は何度君に頭を下げればいいのだろうね」


 そう工藤さんも笑った。


 すると、オープンチャンネルで無線の雑音が鳴った。


『ザザッ、こちら春田。工藤上官! 工藤上官はいらっしゃいますか??』


 若干音割れしている春田さんの声が無線越しに聞こえた。


 それにしても何をそんなに焦っているのか。

 工藤さんも困ったような顔をしていたが、無線のボタンをオンにした。


「こちら工藤、春田隊員。聞こえているぞ」


 工藤さんはそう言った。


 それよりも、工藤さんって無線の時は何故か強気な命令口調で話すよね。

 初めて聞いた時はちょっと怖かった話は内緒。


 再びオープンチャンネルで無線が鳴った。


『こちら春田。良かった! 今すぐこちらへ来てください!』


「こちら工藤、何があった? 私はまだこっちでやるべきことがある。用件は端的に述べてくれ」


 若干の間を置いて返事が返ってくる。


『ザザッ、無事です! 奥さんを見つけました!』


 そう端的に言った。


 そうか、工藤さんの奥さん。

 良かった、あそこにいたのか。


 俺がそう思っていると、工藤さんはその場から走り出した。


「すまない、みんな。後は頼む!」


 そう言い残して、今までに見たことないような顔をして走っていった。


「「「了解!!」」」


 それにここにいた三人は一斉に敬礼をした。

 なんと上司思い部下なんだろう。

 この時、俺は自衛隊が少しカッコいいと思っていた。ほんのちょっとだけ。


 それにしても……。


 俺はその場に力なく座り込んだ。


「ど、どうしました?! Number1(ワン)、どこか悪いところでもありましたか?!」


 急な行動に驚いたのだろう、自衛隊の三人が一斉に俺の心配をしてきた。


「いや、本当に良かったな。そう思ってさ。俺、工藤さんに絶対見つかるなんて強気なこと言って見つからなかったら工藤さんに合わせる顔がない……なんて思ってたんだ。でも、良かった」


 そう、俺はただ「良かった」そういう思いから気が抜けただけだった。


「なるほど、Number1(ワン)も工藤上官のこと考えてくださっていたのですね。ありがとうございます!」



「いやいや、俺が自分で勝手にハードル上げて勝手に気が抜けてるだけだから気にしないで。あっトイレ行ってくるわ」


 俺はそう言って、人気の少ない所へと一人歩いて行った。


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