表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【第4章】北海道奪還作戦決行 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/144

あっ初めて感情任せのキャラ出ます。はい。

 


『全戦闘員に告ぐ。任務開始だ!』


 無線から工藤上官の声が鳴った。


 俺はオーダー通り、モスモスの目の前に現れ魔法を発動する。


『チャージ』

『チャージ』

『チャージ』

 ……

 …………


 ――Number1(ワン)には、今回できるだけ派手で威力のある攻撃でモスモスを討伐してもらいたい。


 これが今回のオーダーだった。


 だから、俺はあの特大魔法を選択した。

 恐らく攻撃過多だろう。モスモスは即死すると思う。


 でも、派手にやる意味はそこだけじゃない。

 魔獣をここにおびき寄せるため、ダンジョン難民に戦闘開始を知らせるため、俺達がここにいると合図を出すため。


『チャージ』

『チャージ』


 魔法のための時間はみんながモスモスの注意を引いてくれている。

 その攻撃のほとんどはモスモスにダメージを与えられていない。


 やはり俺の読み通りだった。

 モスモス特有の体中を覆った長い毛には魔法などの存在を不安定にさせる効果がある。

 昔、ダンジョン内でそういう魔獣と俺は何度も戦った。


 でも、注意を俺から逸らしみんなに向けることには成功している。


『チャージ』

『チャージ』


 完了。


 俺の右腕は溜まった電気で白く発光していた。

 隣にいるティアにアイコンタクトを取る。


『こちら湯楽、準備完了。すぐに撤退をしてくださいっす!』


 ティアの声が無線を通して二重に聞こえた。


 その言葉でモスモスと対峙していた人たちは全速力でその場から離れる。

 一人を除いて。


『ミスト・サイレント』


 彼は最後にモスモスの妨害を行ってから、一人遅れてその場から離れた。


 すると、隣のティアが俺にグーサインを出しながら声を掛ける。


Number1(ワン)、やっちゃってくださいっす!!」


 了解!


 俺は発光した右手をモスモスの上空に向ける。


『黒雷撃』


 ドゴーンッ!!


 ワイバーン掃討作戦の時と遜色ないほどの極太黒雷がモスモスを包み込むように落ちた。

 俺はMP切れの前にすぐに魔法を解除する。


 徐々に細く薄くなっていく黒い雷の柱。


 それが消えたころにはモスモスの姿は跡形もなくなっていた。

 残るのは毛皮らしきドロップ品のみ。


 ふうっと俺は安堵して溜息を吐いた。


『こちら工藤、魔獣の波を確認。モスモス周辺の戦闘員は予定通り戦闘態勢を維持、各個撃破せよ!』


 どうやら、安心したのは束の間だったらしい。


「じゃあ、自分は他の隊とすぐに合流するっす!」


 ティアはそう言って、俺から離れていった。


 ここからの俺の役割は……遊撃だ。


 俺は外套をファサッと靡かせ、その一瞬でお面を普通のから無音のお面に変更した。


 見たか!

 これぞ俺が最近習得した「瞬間お面変更」である。

 スローカメラでもない限り俺の顔はカメラには映らない!


 と、内心一人で興奮しているのであった。


 途中、誰もみていないことに気づき、一人寂しく遊撃を開始するのであった。




 ******************************




「おらぁ! おーし、これで二十体目だ! この勝負俺の勝ちかなぁ? うん?」


 俺は同じ龍園事務所の三柱の一人の宵田(よいた)と一緒にミノタウロスの波を処理していた。


「あ? 蔵中(くらなか)、お前数数えられたのか! それは意外なことで!」


 俺、蔵中半(くらなかはん)宵田和(よいたかず)はいつもこんな風に争っている。

 それも仕方のないことだ。


 俺達はいつも三柱とか言われ、争うように仕向けられているのだから。

 争い、助け合い、競い合う。

 そうして次世代を育てようなんて魂胆らしい、クソ爺が。


「何言ってんだよ、ははっ! 数が分からなきゃ日本じゃ学校に通えないだろうってが!」


「蔵中、お前学校なんて行ってるのか。奇特なことで」


「あ゛?!」


「やんのか、ごらぁ?!」


 俺達はこの大通りの交差点を任され死守している。二人で。

 今、俺が倒したミノタウロスで第二波の魔獣を倒した。


 にしても、どんだけ魔獣が蔓延っていやがるんだよ、ここはよ。


『こちら工藤、第三波を確認。各個撃破を継続、無理な場合は遊撃を行かせる。以上』


 まだ来んのかよ。

 さすがにミノタウロスは一体一体が強いから疲れるんだよな。


「おい、ゴミ田」


「何だクソ蔵」


「お前まだ行けるか?」


「当り前だろ」


「俺はちときつくなってきたな……」


「何弱音はいてやがるんだ! みっともねえぞ!」


「実際、お前もそうだろ。この波は頑張れば行けるが、次の波は分かんねえよ」


「クソ蔵が俺の限界を決めるんじゃねえ!」


「あ? 俺が本音で話してやってるのに、お前はな!」


「うっせぇーんだよ! 喋る気力があるなら、少しでも回復してろやクソ蔵が!」


「てめぇ、黙っていればいい気になりやがってッ!!」


 そんな争いをしていると、隣の交差点で戦闘をしていた鳴無の野郎の姿が霧から現れた。


「くそ、あいつはまだまだ元気そうだな。弱無が」


「ちッ、なんであいつが一番楽にしてんだよ。ゴリ無が」


「おい、来たぞゴミ田! 第三波だ!」


「分かってらぁ!!」


 俺はそう言って、自分の刀に手を掛け走った。

 しかし、すぐに止まった。


「おい、ゴミ田。あれは……」


 宵田も俺の言葉で気が付いたようだ。


「ああ、あれはちとやばいな」


 その第三波に一体ミノタウロスではない魔獣が紛れていた。


 体格は一回り大きく、全身が真っ白で角が黄金に輝いている。

 武器も黄金、明らかにミノタウロスよりも上位の存在だろう。


 一対一であれば、恐らく倒すことは容易だろう。

 しかし……。


「波に紛れられちゃ、数がキツイな。応援呼ぶか宵田」


「ああ、それは否定しねぇよ」


 俺はそう言って、無線を取った。


『こちら龍園事務所の蔵中。応援求む! 一体やばい奴が紛れてらぁ!』


『こちら工藤、了解した。Number1(ワン)頼めるか?』


『ザザッ、こちらNumber1(ワン)了解した』


 そこで無線は終わった。


 俺は宵田と自然に目を合わせてしまった。


Number1(ワン)が来るらしいな……」


「こりゃ頼もしいぜ! とりあえずそれまでここ死守しときますかッ!!」


「おう!」


 そうして、俺達は再び波に向かって走っていく。


 ミノタウロスはどうにかなる。

 しかし、予想よりも別種の牛が厄介で強かった。



【status】

 種族 ≫黄角牛

 レベル≫85

 スキル≫筋力増加Lv.max

     斬撃・斧Lv.8

     雄叫びLv.5



 普通のミノタウロスには斬撃と雄叫びがない。

 そして、レベルも五十前後と低い。


 対して、こいつは遠距離持ちかつ行動阻害スキルありのレベル差約三十。


 バリやばなんですけど!!


 頼むからNumber1(ワン)早く来てくれ!!


 その願いは届かなかった。


「ウモォォォッ!!!」


 その場に鳴り響く黄角牛の雄叫び。


 それを聞いた俺たちは一時的に体の自由が利かなくなった。


「くっそぉ! また行動阻害スキル使いやがったぞ! 連発とかアウトだろそれっ!!」


 そう、そのスキルは何度も連発するせいで俺たちは碌に戦うこともできなかった。


「おい、蔵中! 避けろっ!!」


「うぉ!」


 俺は寸でのところでミノタウロスの斧を避けた。


「気いつけろや!」


「分かってらぁ!」


 それからも俺たちは黄角牛の地面を削りながら迫る斬撃を避けながら、雄叫びを意識しつつ、ミノタウロスから一定の距離を保ち相手にしていた。


 ギリギリの戦いの最中、俺は現在一番のピンチが訪れていた。


 ミノタウロスの斧の振り下ろしに一瞬、反応が遅れた。

 目の前に迫る斧の刃。


 俺は必死に体を捻り回避しようとした。


「ウモオォォォッ!!!」


 それと同時に咆哮が響いた。


 おい、嘘だろッ!


 俺はこの世にいるなら神をぶん殴ってやりたいと心の中で思った。


 流石にこれは……ダメだ。

 目線の先には慌てる宵田の姿。手を伸ばす宵田の姿。

 あっ別にお前のことは好きじゃない。俺の視界に入って来るな、ゴミ田。


 俺は絶対に目を閉じなかった。

 死の瞬間は絶対に目を閉じないと決めていたからだ。


 眼前に迫るミノタウロスの斧。


 今までにないほどそれが遅く、スローモーションに見えた。


 ミスで死ぬとか本当にしょうもな、俺。


 ……。

 …………。

 ………………。


 あれ?


 スローモーションかと思った光景は実際にはそうでなかった。

 ミノタウロスが目の前で斧を振り下ろした状態で止まっていたのだ。

 まるで時が止まったかのように。


 すると、無線から声が聞こえた。


『いやー、蔵森くんだっけ? ごめんごめん。ちょっと膀胱が限界でお花摘みに行ってた。でも、ギリギリセーフだよね?』


 その声には聞き覚えがあった。


「あっ、た、助かったのか……? この声……Number1(ワン)なのか?」


『あっ、こちらNumber1(ワン)。ごめんごめん、名乗るのって慣れなくて忘れちゃうんだよね』


 俺はその言葉を聞いて、腰が抜けたように地面に尻餅をついた。

 ふと、宵田の方を見ると野郎はスローモーションになっていたわけではなく、ただ口をあんぐりと開けて固まっていただけだった。


 そうじゃない!

 金角牛はまだ死んでない!


 俺はすぐに立ちあがり、後ろを振り向く。


「なッ?!」


 そこには魔獣の姿が一切なかったのだ。


 あるのはミノタウロスのドロップ品である角と金の角が一つだけ虚しい姿で落ちていた。


『あれ、勝手に倒しちゃまずかった? 面倒くさかったからついでに倒しちゃったけど。いや、別に悪いことではないよね! 君はダンジョン冒険者だしね! 自衛隊員じゃないからいつでもダンジョンに入れるもんね! それじゃあ、俺は行くね。無理そうだったら、先に拠点に帰ることをお勧めするよ。じゃあね』


 Number1(ワン)の体が発光した。

 と、思ったらいつの間にか目の前にはいなくなっていた。


 な、なんだ?!

 今の何だよ!

 どこ行った?


 俺はキョロキョロと周囲を見回す。

 しかし、そこにいるのはアホ面を隠そうともしないゴミ田だけだった。


「おい! ゴミ田、お前見ていたんだろ! 何がどうなったんだ!」


 俺は詰め寄るように、ゴミ田の胸倉を掴み揺らした。

 それにはっとゴミ田は意識を取り戻した。


「クソ中、見てなかったのか今の……。一瞬だよ、一瞬。俺が見えたのは水の鳥だった……かもしれない」


 は?


「かもしれないって何だ! はっきりしろや!」


 しかし、ゴミ田の顔は思わしくない。


「いや、分かんねえんだわ。まじで。一瞬、俺の視界に青い鳥が映ったんだよ。多分、水っぽかった。それしか分かんねえんだよ……」


「どういうことだよ、俺の方が意味わからねえよ……」


 俺の言葉は尻すぼみに小さくなっていった。

 宵田も俺も情報が少なかった。




 俺達は同じ道場のライバルみたいな存在だった。

 そして、昔はヤンチャ坊主だったんだ。


 ダンジョン大災害でいきなり目の前に現れた魔獣にも臆することもなく立ち向かった。

 もちろん素手で勝てるような相手ではなかったから、逃げた。


 それから自衛隊によるダンジョンに挑む人材の募集を見た。

 俺達はすぐに準備して、二人で競うようにダンジョンに潜り続けた。


 荒い、雑、力任せ。

 これが俺たちの周りからの評価。

 その通り、俺達は我武者羅にただ力に任せて突き進んだ。


 そんな時、龍園と言う元武術の達人だという胡散臭い男に言い寄られた。


 ――お前の戦い方は危うい。しかし、才能は確かだ。我の作る事務所に来い。更なる高みを見せてやろう。


 俺は初めて完膚なきまでに龍園と名乗るクソ爺に負けた。

 悔しくて見返してやろうと、その事務所に入ってやった。


 しかし、そこにもまた奴がいたんだ。

 ゴミ田の野郎が。


 俺達は龍園のクソ爺に絞られながら強くなった。

 クソ爺に一本食わせるほど強くなった。


 あのクソ爺だ。

 世界ランキング300位台の化け物に。

 もちろん能力は使わず、単純な武術だけで。


 そんな俺たちはそれなりのプライドと自信がある。


 しかし、今のこの状況はなんなんだ?!


 俺とゴミ田、どっちも何もわからないってのは。

 そんなことあってはならないのだ。


 龍園のクソ爺は嫌いだが、龍園事務所の野郎どもは好きだ。

 そこで三柱と呼ばれる俺たちが認識すらできないことがあっていいものなのか?!

 それは龍園事務所の名を傷つけるのに等しい恥なのではないか?


 悔しい、悔しい、悔しい。


 世界一位だか、なんだか知らねえがそんなことはあってはならないんだよッ!!


「おい、ゴミ田! ぼーっとしてるんじゃねぇ! まだ戦えるんだろ? あ゛?!」


「羽虫がうっせぇぞ! こんなもん見せられて立ち止まってられるかっての!! むしろお前の方がガタ来てるんじゃねえのか?! 油断しやがって、クソ中が」


 俺はゴミ田に負けまいと、Number1(ワン)に置いて行かれてたまるかと一日中走り続けた。

 目に入った牛野郎は片っ端からぶった切っていった。


 何故かそれからの俺の体は冴えていた。

 疲れを知らない体になっていた。


 これがクソ爺の言っていたゾーンの状態ってやつか。


 今だけは誰にも負ける気がしねぇ!


 俺と宵田はただひたすら走り、戦い続けたのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ピッコマ様にて SMARTOON連載開始‼
※ ↓ 画像をタッチ又はクリックすると公式ページに移動します ※
i492363
webから大幅加筆された『あのダン』が2巻まで発売中!!
別ルートを辿る新たな”繋がり” や ”戦い”がすでに始まっている!
そして2巻では『あのラスボス』が早くも登場!?

はるちか先生による、コミック4巻が発売中‼
※ ↓ 画像をタッチ又はクリックすると公式ページに移動します ※
i492363
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「花摘み」は女子の登山家用語です。男子の場合は「雉子撃ち」が適切かと。 どちらもしゃがむことから来ています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ