新技解禁! 的な感じで地味な魔法もあるんだよ
「前方百メートル先にミノタウロスの反応五体っす! 続けて後方五十メートル先からミノタウロス四体接近中っす!」
「後方は僕がやります!」
「おっけー」
ティアの言葉を聞き、俺と鳴無くんが一斉に建物の影から飛び出す。
先に動いたのは鳴無くんだった。
『ミスト・サイレント』
彼を起点に前方百メートルが濃い霧に包まれた。
それと同時にミノタウロスの足跡や煩い息遣いが聞こえなくなる。
鳴無くんは腰から短剣を二本取り出して霧の中へと足音一つ出さずに紛れていく。
そして、彼の後姿は見えなくなった。
彼の戦闘は音が一切出ない。
足音も息遣いも、攻撃音も、魔獣の声も全てが聞こえないのだ。
扱う魔法は特殊属性の無音魔法。
直接の攻撃力はない。
それでも鳴無くんは自分の戦闘術を磨いた。
短剣一突き、一閃で相手の急所を狙い、一撃必殺の術を磨いた。
それが彼の戦闘スタイル。
遭遇戦では圧倒的に強いが、正面戦闘では分が悪い。
今回の任務は遭遇戦、彼以上に信頼できるダンジョン冒険者はいないってわけだ。
それに彼は日本でトップ三に入るダンジョン事務所の龍園事務所に所属しているエリートだ。
それなのに何故か彼の見た目は弱々しい。本当に弱々しい。
戦闘以外ではモブを貫いたようなモブっぽさが滲み出ている。
でも、その服の下には鍛え抜かれた体。
女子は絶対に好きな体だと思う。
ああ、これがギャップというやつなのだろうか。
俺も体を鍛えて……止めよう。
ゲームの時間が少なくなる。
今持っている中でのギャップを考えなくては……。
いや、無理があるかな。
無理にモテようとするのは止めよう。
寄ってきてくれた人を……。
あっ天海さん。
賢人と一緒にサバイバルしていたクラスメイトの怪我を治してあげたら、なんか俺に気がある感じだったよね。
そっか、これだ!
そんなことを悠長に考えていると霧が徐々に薄くなっていき、短剣に付いた血を振り払う鳴無くんが現れた。
その顔は殺しに快感を覚えた殺人鬼を想起させるような獰猛な笑みを浮かべていた。
いや、純粋に怖いよ!
いつもの弱々しい鳴無君の方が愛嬌あっていいと思うよ、うん。
「あれ、Number1はあれいらないんですか? だったら僕が貰っても……」
そして、彼は戦闘狂である。
「いや、相変わらず鳴無くんの戦闘は凄いなって思ってただけだよ。じゃあ、次は俺の番だね」
さて、新しく台風島で手にした秋風魔法六番目の魔法でも使おうか。
この魔法は出が遅いから使える場面が少ないんだよな。
そう思いながら小さな声で呟く。
『鷹風』
すると、目の前に手のひらサイズの鷹に象られた渦巻く風が現れた。
ふぅっと鷹に向かって息を吐く。
風の鷹は自我が芽生えたように翼を羽ばたかせ、その直後に視認できなくなる。
「よし、先に進もうか」
それを確認した俺は後ろにいる三人に振り返って言った。
「え?」
その言葉に驚く鳴無くんにニッコリと笑いかける。
って、お面で表情までは見えないか。
「大丈夫。ミノタウロスレベルなら即死だよ」
そう言った瞬間、俺の標的だったミノタウロス五体が悲鳴を上げることもなくその場にドサッと倒れた。
「ね? 言ったでしょ?」
俺はそう鳴無くんに笑いかけた。
まあ、見えてないだろうけど。
「Number1の言う通り先に進むっすよ! 当分魔獣はいないので、一気に目標地点まで進むっす!」
珍しくティアの機転が利く言葉で俺たち四人は進み始めた。
……それにしても旭川はミノタウロスしかいないな。
歩けばモォー、止まってもモォー、振り返ってもモォーだ。
旭川にもダンジョンの入り口が一つあると聞く。
こいつらはそこから出てきたのだろう。
牛関係のダンジョンってことかな。たぶん。
「建物の角を曲がって五十メートル先、ミノタウロス三体確認っす」
再びティアの索敵に反応があった。
でも、またモォーさんだ。
俺はみんなの顔を伺った。
「そろそろ私も活躍しないとですね」
そう答えたのは未だに一度も戦闘を行っていない麻生隊員だった。
「いいですよ」
「麻生さん、どうぞ。僕ばっかり魔獣と戦ってしまってすいません」
俺と鳴無くんが申し訳なさそうに答える。
「ははっ、いいさ。年長者が前途ある若者に先を譲るのは当たり前のことだろ?」
そう言って、麻生さんは上着の内側から二丁の銃を取り出した。
その銃の見た目はシンプルな一色の色で統一されていた。
片方は赤色、もう片方は茶色。
それを構えながら麻生隊員はゆっくりと建物の角に背中を付ける。
いいなあ、それ。かっこいい。
壁に背中を預けて銃を構えるのってなんか憧れるよね。
麻生隊員は一息吐いてから、勢いよく飛び出た。
バンッ、バンッ、バンッ。
建物に反響する三発の銃声。
俺もすぐに建物から顔を出し、状況を確認した。
ミノタウロス三体は全て頭部を粉砕されて、胴体だけが力なく立ち尽くしていた。
そして、遅れるように後ろへとそれが倒れたのであった。
「瞬殺でしたね。さすがです」
鳴無くんが新しいおもちゃを見るようなキラキラした目で麻生隊員にそう言った。
「ええ、でも私の力ではなく、この銃のおかげですよ」
麻生隊員はそう愛する子供を見るような目で手に持っている銃を見た。
「確か名前は宝石銃でしたよね。装填した宝石の種類と価値で威力や性質が変わるとか。羨ましいです」
「私は鳴無くんの魔法の方が羨ましく思いますよ」
二人の話が平行線を辿りそうだったので、俺が話に割って入る。
「お二人とも、隣の芝生は青いってことでいいでしょう。それよりも、先へ進みましょう」
「「はい」」
再び出発した俺たちはすぐに目下の標的であるモスモスを視界に捉えることになる。
それは数分後のこと。
先陣を切っていた俺は後ろを付いてきていた三人に止まるように合図を出す。
これやってみたかったんだよ。
俺が手を上げるだけでみんなが止まり、緊張感が高まる感じ。楽しい。
「鑑定効果範囲に入りました」
俺の言葉に反応して、全員が異世界鑑定をかける。
そこには全員が驚くべきモスモスのステータスが表示された。
【status】
種族 ≫モスモス
レベル≫480
スキル≫スコープLv.max
物理耐性Lv.9
魔法強化Lv.max
魔法 ≫生命魔法
暴風魔法
光魔法
「強いですね……」
「強い」
「やばいっすね」
「……弱い」
四人で息を合わせたかのように同時に言った。
うん、やっぱりみんなも驚いたよね。
何が巨悪指定魔獣だよ、期待して損した。
……って、ん?
顔を上げて皆の顔を見ると、そこにはティア以外の驚きを表した顔があった。
「……これは驚きました」
「なるほど、ランキング一位とはこれほどなのですか」
「あっ、え、あの……」
俺はこの場で何と言えばいいのか分からなくなり言葉が詰まった。
「自分は何となくNumber1ならそう言うと感じていたっす!」
ティアは何故か鼻を高くして言った。
「そうなんだ。凄いねティアは」
俺の棒読み言葉が響く。
その言葉にさらに鼻をフンと鳴らすティア。
その掛け合いに麻生隊員がクスッと笑った。
「ははっ、Number1が言うのであればここで死ぬような心配はいらなくなりましたね。では、予定通りモスモスは一旦無視して、ダンジョン難民の捜索に移りましょう」
「「「了解 (っす)」」」
今回の任務の目的にモスモスの討伐は含まれていない。
というよりも、できるだけ刺激しない方針だ。
倒せるのであれば倒しても支障はないと俺は思ったが、念には念の入れておきたいらしい。
今攻撃をして魔獣の活性化なんてことも考えられなくはない。
そうなると、計画を修正しなければならない。
準備のできていない隊員をいきなり戦場に送り出さなければならなくなるかもしれない。
そういう不測の事態だけは、この戦場では避けたい。
だから、今回モスモスの討伐は見送り、総員での作戦開始と同時にモスモスを討つ。
俺達はモスモスにティアのマーキングだけ施して、その場を後にした。
それからはできるだけモスモスを刺激しない範囲で旭川市内を捜索したが、ダンジョン難民は一人もいなかった。
唯一、見つけたのは白骨化した人骨が複数体分。
俺達はその度に捜索を一度中止し、遺体の回収と遺留品らしきものがあればそれを回収した。
そして、基地に戻りそれを自衛隊に引き渡したのであった。
今回の旭川偵察では何も得ることができなかった。
少し悔しくもあったが、俺は疲れた体を癒すため寝床に着いた。
******************************
翌日。
俺は再び仮設の指揮テントに呼ばれ、次の任務を命じられた。
――明日の朝五時より、モスモス討伐任務を開始する。追って詳細は連絡するが、Number1には先頭を切って戦ってもらうことになるのでよろしく頼む。
と言うことで、俺は今日一日暇になったのでいつもの場所で釣りをしていた。
本当は一人で再び旭川捜索に向かいたかったが、ダメと言われた。
流石に力づくで行くわけにもいかなかったので、今は大人しくすることにした。
やはり集団行動というのは苦手だ。
一人のほうが気楽で自由で性に合っている。
とは言っても、感性が似ている者や同じ方向性で動いている者ならば特段嫌なわけでもない。
ゲームのギルドシステムと同じだ。
似た者同士で集まるならば、それは楽しいギルドになる。
しかし、少しでも方向性が違えばギクシャクし、上手くいかない。
ゲームってのは他人に顔が見えない分、本性が出やすい側面がある。
そう考えると、現実の集団行動の方が幾分かはマシかもな。
おー、当たり来たっ!
これはキタキタキタ!
今までで最高のあたりの予感。
俺は力いっぱい引っ張った。
しかし、ここでダンジョンによる重度の弊害が現れる。
「……簡単すぎだろ」
力が強くなった分、駆け引きとかそう言うのが一切なくなり、釣りという娯楽がただのパワーゲームに成り下がってしまっていたのだ。
なんというマッチポンプ。
そして……。
「何故に海からウナギが釣れる」
そう、目の前の釣り糸には何故かニョロニョロとウナギがぶら下がっていた。
確かに海でもウナギって釣れるけど、ここ留萌だよ?
事前に調べた限りではそんな情報一切なかったよ。
どういうことだ、これ。
あの青海ウナギが関係しているのかな。
まあ、いいや。
後で自衛隊の人に食べられるか聞こう。
そうして、俺はウナギをアイテムボックスの中に放り込んだ。
さあ、もう少しだけ釣りで暇を潰そうかな。
釣り糸を海へと放り投げて、椅子に座った時だった。
「お願いします!」
声の方向を見ると、そこには俺に向かって頭を下げている鳴無くんとその愉快な仲間三人がいた。
んー、どういう状況か分からない。
何か頼まれた覚えはないけどな。
「えっと、何かお願いされたっけ?」
頬を掻きながら聞き返す。
「あっすいません。順番前後してしまいました! 僕と模擬戦してもらえませんか?」
そう言って、俺の目を力強く見つめてきた。
模擬戦……模擬戦ねぇ。
「嫌だけど?」
「えっ……あの、そこをどうか!」
「あっ当たり来た」
「その糸餌付いてませんでしたよ?」
「餌が要らない魚なんだよ」
「ルアーも付けてませんでしたよね?」
「珍しい魚もいるもんだなぁ」
「いや、いないですよ」
「………………」
「………………」
「嫌なものは嫌だっ!」
「そこを何とか!」
ついに鳴無くんは土下座を敢行した。
「逆に何で俺と戦いたいの? ……そういうフェチなの?」
「どのフェチですか……」
「それもそうか」
「僕はあなたと戦ってどれくらい通用するのか知りたいのです!」
通用するかね。
いや、鳴無くんと俺って相性最悪だと思うけどな。
俺には自動ガードのスキルあるし。
いくら武術を鍛えていても……ね。
と言っても、そんなことストレートに言えないしな。
そんな度胸もない。
「うーん、止めといたほうがいいよ?」
「大丈夫です! 僕はそんなことではへこたれません!」
あー、これあれだ。
引き下がらないやつだ。絶対。
「わかったよ。許可とか全部やってからまた来てね」
「はい! ありがとうございます!」
鳴無くん一行はそう言って、ダッシュで簡易基地の方へと向かった。
そして、すぐに戻ってきた。
こいつ……事前に準備してたな。
計画犯だ。
俺はため息を吐きながらも鳴無一行について行った。




