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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【第4章】北海道奪還作戦決行 編

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共有を強要してはならない、それはただのエゴだ

 


 ヒーローのように登場した俺に混乱している復讐男のことはひとまず置いておき、俺は下にいる憤怒のタルタロスに注目する。


 そこに立っていたのは先ほどまでの見上げるほど大きいタルタロスではなく人間サイズに小さくなったタルタロスであった。


 変わったのはそれだけではない。

 先程までの無精髭が似合うようなブ男から癖っ毛溢れる髪が似合うようなオオカミ少年に変わったのだ。


 それに……………


「強くなったな」


 つい口にだし困惑するほどにタルタロスから発せられる気迫……というかオーラのような威圧感が増した。


 この場が重い、吸う空気が重い。

 そう錯覚させられるほどにタルタロスから嫌な雰囲気を感じた。


 そうやって辺りを観察していると俺はタルタロスと目が合う。

 しかし、タルタロスは攻撃を仕掛けてくる様子もなく、ただ俺の目を見続けてくる。


 すると、後ろから声を掛けられる。


「どなたか存ぜぬが、助かった。感謝する」


 その男はそのまま俺とタルタロスの視線を遮るように間に入ってきた。

 俺はそれを止めるようにその男の肩に手を置く。


「おい、復讐男。お前一人であいつと戦うのか?」


「無論、アロスは我が一族の仇だ。俺が殺らなくて誰が殺る」


 その男は俺の方を見向きもせずにそう答える。


 俺はその男の言動に呆れる他なかった。

 察して欲しかった、こいつがここで死ぬのは惜しい。


 そう純粋に俺は直感で思った。


「そういう意味じゃない。お前はただの無鉄砲でバカな死にたがりなのかと聞いてるんだよ、察しろよ。お前そのまま戦えば確実に死ぬぞ」


 俺の怒りを込めた言葉に驚いたのかその男は少しの沈黙の後口を開いた。


「…………天地がひっくり返っても俺がアロスに勝てないことは分かっている。しかし、目の前に憎き仇が平然として生きているんだ。俺はこの場から逃げることなどできない。それはクロープス族にとって生涯の恥となる」


 そう言って、その男は俺の手を剥ぐように払ってきた。


 もしこの世界が漫画の世界だったら、その言葉を鷲掴みしこいつに向かって思いっきり投げつけていることだろう。

 それぐらいこいつを殴りたい。

 しかし、さすがに初対面の相手にいきなり殴りかかるほど俺は常識知らずではない。


 ここは落ち着いて、大人の対応を………


「って、ちがーう!! そういう意味で察しろと言っていない! もっと周りをよく見てみろ! 特にここ!」


 俺はそう言って自分の顔を強調するように自分で指を指す。


「お、お前がどうしたって言うんだ」


 その男は困惑した風に聞き返してきた。


 はあ、何という残念な復讐男なんだ。

 黒焔魔法とかいう特殊属性の魔法を自由に扱う技量を持っているのに他人の力を測れる技量はないのか。

 というか、そんなの直感で分かるだろ!


「察しろよ。あいつに対抗できる戦力がここにいるってことを! クロープス族だか仇だか俺にはさっぱりわからないが、あいつを倒したいって言うなら俺くらい使いこなして見せろよ!」


「何を言ってるんだ。お前からは微塵も力を感じないぞ」


 男はそう言って鼻をフンと鳴らした。


 なるほど、こいつはまごうことなき…………バカだ。


 俺はその男を無視して、地上に降り立ちタルタロスと向かい合う。

 それに続くように慌ててその男も地上に降りてくる。


 先に口を開いたのは俺だった。


「なんで大人しく待ってくれたのか知らないけど、こっちの準備はできたよ」


 憤怒のタルタロスは口を一切動かすことなく俺の言葉に返事をする。


『構わぬ。お前ほどの強者は初めてだ、楽しませてもらうぞ』


 んー、直接頭に言葉が響いてくるのは何とも気持ち悪い。

 それにやっぱりタルタロスは復讐男と違ってバカではないようだ。


「復讐男、お前は俺のサポートに回ってくれ」


 俺はタルタロスと目を合わせたまま後ろにいる復讐男に声を掛けた。


「お、おい……」


 そんな声が聞こえたが、俺はそれを無視して指にはまっていた赤と黄色の指輪を外す。

 その瞬間、その指輪が防具精霊のアイに変化し、元々身に纏っていたクウやぽんの防具姿の上に覆いかぶさるように外套へと変化した。


『小童、それがお前の本当の力か』


「な、なんだこの圧力は………」


 タルタロスはその鋭い目をさらに開き、復讐男は一歩後ずさるように両者驚いたのであった。

 俺はそんなことお構いなしに、右手で無造作に普通のお面を取り外しその場に捨て去り戦闘態勢をとった。


「行くぞ、タルタロス!」


『こい』


 お面の下から現れた俺の素顔は笑っていた。

 それに答えるかのようにタルタロスも口角を少し上げた。


 最初に動いたのは俺だった。

 アイテムボックスから螺旋槍を取り出し、ただの身体能力に任せて間合いを詰める。


 それに対し、タルタロスはそのサイズと共に小さくなり復活した二本の大剣を両手に持ち構える。


 とりあえず一発目は…………


「ただの突き!」


 俺は駆け引きなどは何もないただの突きを繰り出す。


『温い』


 タルタロスはそう言って、槍の切先の軌道を大剣で逸らした。


 しかし、俺はそんな単純な攻撃だけでは終わらせない。


「ウォーターライトソード・スロウ!!」


 その槍から枝分かれするように水の刃が一本出現し、タルタロスの顔を襲う。


『だから、温いて言っておろう』


 タルタロスはその攻撃を避けようとせず、正面からその攻撃を食らった。

 いや、食らったという表現は正しくないだろう。


 その水の刃はタルタロスの顔に傷一つ付けることができなかったのだから。


 俺は舌打ちをしながら一旦後ろに下がる。


「おい、どうなってんだよその硬さ。反則だろ」


 マジでどうなってるんだよ。

 流石に微塵も傷が付けられないとは思ってなかったぞ。


『小童が、そんな低級の魔法で我に傷がつくなどと甘えるな』


 はっ、水魔法が低級か。

 確かに水魔法自体は基本属性の魔法だが、俺の水魔法は威力で言えば上位属性に匹敵してると思うんだけどな。


 とりあえず水魔法ではこいつには傷一つ付けられないことが分かった。


『次は我の番だ。凌いで見せよ』


 タルタロスはそう言うと、さっきの俺と全く同じように突きの構えで突進してくる。

 俺はハニカムシールドを手前に展開し、それに過剰MPを注ぎ込む。


 ハニカムシールドは過剰にMPを注ぐことによって、触れたものをその空間に固定する。


 シールドと大剣が衝突したと同時にタルタロスはいきなり壁にぶつかったような衝撃を食らう。


『なんだこれは』


 自分の力が逃がされたような感覚を味わったタルタロスは不可思議な物を見るような目で俺を見る。


「俺の真似をして挑発をしたかったようだが、その大剣は俺が頂くよ」


 そう言うと、タルタロスは力づくでシールドに突き刺さった大剣を引き抜こうとするのを止め、一度後ろに下がった。


『奇妙な技を使う。面白い』


 ふむ、とりあえず俺のどの攻撃が通用するか確かめないと。

 近距離戦を楽しむのは止めて、いったん様子見だな。


 そこからはさらに戦闘がヒートアップする。


「黍嵐」

「ディスチャージ」

「サンダーボルト」

「アイスソーン・蕗の薹」

「ブラックバーン」


 俺は様々な魔法を連続で休むことなく畳みかける。


 時には嵐に巻き込まれ、時には雷に打たれ、時には足元から氷が迫ってくる。

 そうタルタロスに余裕を与えないように攻撃し続けた。


 しかし、タルタロスは嫌がったり逃げるそぶりは見せても、俺はその硬い皮膚に一つの傷も与えることができていなかった。


「おい、復讐男。お前はただの観客か?」


 俺は見る専していた復讐男に葉っぱをかける。


「俺は復讐男ではない、ディールだ。それに今は力を溜めている、そのまま抑えてろ」


 復讐男、改めディールは俺の後ろでただ見る専していたわけではなく、ずっと魔法を放つための力を溜めていたのだ。

 恐らく俺がタルタロスを押さえている今を好機と見て、最大火力の魔法をぶつけるのだろう。


 だが、早くしてくれ。

 この魔法の弾幕だってただじゃないんだ。


 つい、先日精霊解放を連続使用し、MPが枯渇するまで戦った。

 俺だって今は万全な状態ではない。


 俺は急かすようにディールに声を掛ける。


「反論する時間があるなら、あいつに魔法の一つでもお見舞いしてやれよ。あれはお前の仇なんだろ?」


「ああ、そうだ。お前はそのままアロスを押さえておけ。俺が仕留める」


「わかったよ」


 俺はそのまま攻撃を休むことなく魔法を打ち続けた。

 余裕のタルタロスに。


 何でだろう。


 そんな中、俺は疑問に思っていた。


 なぜ俺の魔法が効かないのか。

 今まで大なり小なり攻撃は与えられていた、

 しかし、今はあらゆる魔法を使ってもダメージらしいダメージを与えることができない。

 それどころか虫が集っているかのように嫌がっている程度だ。


 確かに今は通常状態での魔法攻撃だ。

 精霊解放の状態よりも威力は低いがそれでも一般的な魔法よりは威力も倍以上高い。


 いや、そんなことを細々考えなくたって理由は分かっている。


 あいつ、憤怒のタルタロスは俺が今まで戦ってきたどんな魔獣よりも強者だ。

 硬いだけじゃない、知能も高く言語も話せる。


 そして、この現状を見ればわかる。

 このままではまずいことを。


 だが、しかし。

 一先ずはディールの最大火力に期待するしかない。


 俺は急かすような目でディールを見る。

 すると、ディールは力強い目で言った。


「待たせた」


 この言葉を待っていた。


 俺は弾幕の中に一つの魔法を加える。


「アイスチェーン・クリスタル!!」


 それは目に見えるか見えないか程の細さで数え切れないほど放たれる。


『むっ、またしても奇妙な』


 そして、タルタロスの自由を奪うように体中に巻き付いた。


「いけ、ディール!」


「感謝! 『黒焔魔法・エンド(END)』」


 次の瞬間、ディールから何かが幽体離脱したかのように何かが現れた。

 そして、それが体から全て出るとディールは片膝を地面に着く。


「おい、その魔法大丈夫なのか?」


「大丈夫だ、これは俺の生命力をも消費する。これしき問題ない」


 すると、その幽体離脱した何かはゆらゆらとタルタロスに向かって進んで行く。

 それを見たタルタロスは感心したように『ほう』と一言だけ言って、その何かに全身を焼かれ覆われた。


 意外にもあっさりとディールの最大火力を食らってくれた。

 俺はその時、深くは考えなかった。


 これで終わってくれたらありがたいんだけどな。


 俺はつい心の中でそう思ってしまった。

 この時、俺はフラグという概念が頭からすっぽりと抜けていた。


 火の中にタルタロスの姿形が見えなくなり、ディールに向かって歩き始める。

 そう完全に気を緩めた瞬間だった。


 いきなり俺とディールに向かって不可視の圧倒的な何かが放たれた。


 俺は咄嗟にハニカムシールドを発動したが、その勢いを殺すことができなくそのまま押し切られる形で吹き飛ばされた。

 かなり遠くまで吹っ飛ばされた。


「アイスシールド! ハニカムシールド! アイスシールド!」


 勢いを殺そうと自分の背後にもシールドを何度も張るが、そんなのお構いなしに次々とそれは打ち破られ俺はどんどんタルタロスから距離を離されていった。


 俺はこの時、初めて喉から何か熱いものが込み上げてくる感覚を感じていた。


 すると、俺を襲っていた不可視の何かが急に消滅した。

 俺はすぐに後方にシールドを張り、これ以上飛ばされないように着地した。


「ふう、今のは何だったんだ?」


 そう安堵した瞬間だった。


「ごほっ、ごほっ…………ッッ!?」


 咳を押させようと口に当てた右手に血が付着していた。


「血?」


 初めての現象に俺は戸惑っていた。

 その瞬間、俺は急にあいつ、憤怒のタルタロスを怖く感じた。

 魔獣に対して純粋な恐怖を感じた。


 しかし、次の瞬間にはその恐怖が心の中から出ていくのが感じた。


 ああ、これがみんなが感じていた恐怖か。


 なんかそう思うと色々とスッキリしたような気分になった。


 俺自身、魔獣に対して恐怖を覚えたことは一度もなかった。

 それはこの世界がゲームみたいな世界だったからだろう。

 元々ゲームが好きな俺からしたら夢のような楽園のような世界だった。


 ダンジョン攻略はそれはもう楽しかった。

 時間を忘れてゲームに没頭するような感覚。

 自分のキャラクターのステータスをどうやって振ってどう強くしていくのか。

 どんな戦略でどう敵を倒していくのか。

 それに加えて、普通のゲームとは異なる自由度と無限の可能性、上限なんてない。


 そればかり考えて、夢見た没入型VRゲームを現実でやっている感覚に陥っていた。


 そんな俺は世界中のほぼすべての人が体験したいきなり魔獣に襲われ世界が狂っていく様子をこの目では見ていない。

 知っているのは資料館やニュースで見た資料だけ。


 それが地上への帰還と両親の死、妹の下半身不随という要因で急に現実に戻された気がしていた。

 でも、それは間接的な痛み。

 直接的な痛みではなかった。


 だから、俺は地上に戻った後のみんなが魔獣に恐怖する気持ちが共有できなかった。

 だけれども、みんなは俺がその痛みや恐怖を知っているものとして接してくる。


 実際に感じたことのない恐怖を一番知っている人として。

 ダンジョンを初めて攻略した者、ランキング1位の者であれば当たり前だと。


 それが俺は嫌だった。


 だから、それから逃げるように部屋に引きこもり、台風島に突撃したりもした。

 できるだけ一人にしてほしかった。

 無理矢理にその時間を作ったりもした。


 でも、俺は今初めてみんなと恐怖を少しだけ共有できた気がした。


 俺の血が付いた右手は震えが止まらない。

 武者震いとかそういう言い訳はしない。

 これは単純な「死」という恐怖からくる震え。

 自分の攻撃やディールの最大火力が通じなかったという圧倒的強者からくる震え。


 でも、これで少し俺は現実に向き合える気がした。

 だから、少し心が軽くなりスッキリした。


 俺はその場に天足で足場を作り、空を仰いだ。


「世界中のみんながこの恐怖を知っているのか……………怖かっただろうな」


 そう誰にというわけでもなく呟いた。


 俺は再びタルタロスに向かって走り出す。


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