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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【第4章】北海道奪還作戦決行 編

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復讐者は復讐者を良く語る

 


「オォォォォォッ!!」


 威嚇の意味を込めた咆哮なのか。

 それは日常的に行っている咆哮なのか。


 定かではないが憤怒のタルタロスは朝から何度もその雄叫びを上げている。

 数え間違えていなければ今ので6回目だ。


 そんな心臓に悪い声を何度も聞けばどんなお寝坊さんだって起きるだろう。

 もちろん俺たち一同はすでに起床済みだ。


 そして、テントの陰に隠れるようにみんなでどうするべきか小さな声で話し合っていた。


「どうするっすか。千歳にあいつがいるなんて報告なかったっすよ、大ピンチっすよ」


 真剣な面持ちで率先した発言をするティア。

 しかし、語尾の「っす」で全てが台無しとなっているのは否定できない。


 そこで俺はティアのおでこに強めにデコピンして、この緩くなりかけた空気を一新する。


「ティアのことは置いておいて。確認なんですが、憤怒のタルタロスは現在も討伐対象で間違いないですよね?」


 この隊で一番位の高い春田さんに向かって俺は聞いた。


「間違いありません。ですが、今ここにいる私たちだけではNumber1(ワン)のサポートとしては力が足りません。本隊に連絡し、応援を待ってから討伐するべきかと」


 春田隊員のその発言をかみ砕き考慮している…………フリをした。


 なぜフリをしたのか。

 それは……………。


 憤怒のタルタロスって絶対美味い魔獣だと思うんだよね。

 美味いとは経験値とかドロップとかそういう意味で。


 だって、この魔獣はいわゆる二つ名とかネームドモンスターとかそういう類に含まれる魔獣だと思う。

 今までこういった魔獣は見た覚えがない。


 そう、ダンジョン一つ攻略したって見ることができないほど貴重な魔獣の一体だと想像できる。


 結局、俺は何が言いたいのか……というと。


(一人で戦わせてくれッ!!)


 俺は一通り考えたふりをしてから、顔を上げ他の隊員にも尋ねる。


「みなさんも同じ考えですか?」


 その問いに全員がすぐに頭を縦に振った。

 いや、ティアだけは未だに一人地面で額を押さえながら暴れているけど。


「みなさんの意見は分かりました」


 その言葉でみんなは安心したような顔に変わった。


「けど、俺の力があいつに対してどこまで通用するか確認しといた方がいいと思うんですよ」


 そう言って、俺は中腰を止めテントの影から顔を出した。

 その途端、みんなの顔が明らかに不安の表情に変わった。


「っちょ、それはさすがに許可できないっすよ!」


 地面で暴れていたティアが今までにないくらい真面目に言ってきた。


「ドォォォーン」


 次の瞬間、この雰囲気をぶち壊すほどの大きな音が響いてきた。


 俺達は慌てて憤怒のタルタロスを確認する。


 しかし、さっきまでそこにいたはずの憤怒のタルタロスの姿が無くなっていた。


 思わず俺は思ったことを口にした。


「……どこ行った、あいつ?」


 しかし、この質問に対して正確な回答を持っている者がいないことは重々承知しているのだが、驚きのあまり口から零れてしまった。


 と、思っていたがこの問いに対して正確な解を応えられるものがこの場には一人いた。


「ち、違うっす! いるっす! あいつはまだあの場にいるっすよ!」


 そう答えたのは自称日本で一番索敵能力の高いティアこと、湯楽隊員だった。


「いるって、俺の目には何も映ってないよ」


「違うっす! あいつは木々で見えないだけで、倒れているっす!」


 なるほど、そういうことか。

 憤怒のタルタロスは何かの拍子で倒れたのか、寝たのか……そこは定かではないがこの位置からでは木々が邪魔して見えなくなっただけということか。


「わかった、姿隠しながら偵察してくるからみんなは今すぐここを片付けて車で留萌に向かって」


 俺はそう少しだけ命令口調で伝えた。


「わ、わかりました」


 今まで見たことのない俺の本気の顔を見たのか、春田隊員は少し驚きながらも了承してくれた。


「ありがと! テントだけは仕舞うのに時間が掛かるから俺が片付ける」


 そう言って、俺はテントに手をかざしてアイテムボックスに瞬時に収納した。

 それを見た他の隊員たちが急いで他のものを車に詰めていく。


 そうしていると、ティアが俺に近寄ってきた。


「今回も自分が付くっす!」


 そう自信満々に言った。

 しかし、俺はそれをすぐに否定する。


「ごめん、ティア。今回だけは俺が許可しない」


 そう今までにないくらい強めに言った。


 こいつ、憤怒のタルタロスはこの距離からではレベルまでは特定できないが明らかに強者であることはわかった。

 このレベルの魔獣とは戦ったことがなくもないが、かなり苦戦したのを覚えている。

 だから、以前のワイバーン掃討作戦とは違い、今回だけは誰かを守ってやれるほど余裕がないというのが本音。


 まあ、本音は本音。

 本心はこいつを独り占めにしたい、それだけなんだが。


 それに俺は気づいてしまった。


(人間的に俺はしょうもない人間だが、ダンジョンや魔獣に関しては実はそれなりにこの国では権限持っているんじゃないか、と。ちょっと強めに言えばみんな素直に聞いてくれるかも、と。)


 実際に今回ちょっと強めに上から物を言っただけでみんな借りてきた猫のように素直になった。


 かくいう、目の前で俺に許可しない発言を食らったティアは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。

 確か英語が話せる先輩は前にこの顔を「雷が鳴っているときのアヒルのように」なんて表現していた覚えがある。


 俺はこの表現を聞いて雷に打たれたような衝撃を覚えている。


 だって、鳩はいいとして豆鉄砲ってなんだよ。

 そんなの見たことなし。


 それよりも、雷とアヒルであれば見たこともあるもので断然分かりやすい。


 と、そんなどうでもいい思い出話は置いておいて。


「とりあえずあとで連絡するから。それじゃあ、俺は行くよ。『オプティカルカモフラージュ』」


 ティアにそれだけ言って、俺はすぐに透明化し憤怒のタルタロスの下へと走っていった。



 ******************************



 自然破壊とかは一切気にせず邪魔なものは魔法でふっとばしながら憤怒のタルタロスがいた方向に向かって小山を突き進んだ。


 そん中、俺は素晴らしい発見をして一人ニヤニヤしながら走っていた。


 最近、入手したスキル「ハニカムシールド」。

 これは純粋な防御スキルであり、六角形で半透明の盾を自在に操るものである。

 もちろん防御能力は折り紙つきだ。


 しかし、俺が目を付けたのはそんなどうでもいいことではない。

 世紀の大発見は二つ。


 一つは森を走り抜けるとき、蜘蛛の巣や飛んでくる虫にぶつかることが一切ないのだ。

 俺を囲むようにシールドを発動することで全くと言っていいほど不快な気持ちがない。


 そして、もう一つサングラス効果だ。

 これは新選事務所の飯尾綾人さんの戦闘を見ていて思いついた使用方法だ。


 元々半透明だったシールドに色を付けることとかできないかと試行錯誤していたあるとき、普通にできたのだ。

 もうそれはそれは普通に。


 そんなことで俺は気分爽快に小山を駆け抜けていた。

 気分よく走っていると急に広範囲で木々が消滅したような場所に出た。


 そこで一度足を止め、地面を触り確認する。


 こ、これは明らかにたった今出来た戦闘痕だ。

 それも強力な広範囲魔法で。


 その場所には感知系のスキルを持っていない俺ですら感じるほどの濃い魔法の流れを感じた。


 この魔法の流れとは独特だ。

 例えるならば晴天の時のカラッとした空気と雨が降った後のじめっとした空気程感じ方が違う。

 魔法の流れとは後者の雨の後のじめっとした空気感に近い。


 これを見たことで俺はあることを確信した。


(間違いなく、憤怒のタルタロスは攻撃によって転倒している)


 俺は再び速度を上げて、周囲の捜索に当たった。



 ******************************



 見つけた。

 憤怒のタルタロスを。


 そいつは戦闘痕のすぐ近くで仰向けに倒れていた。

 と言っても、俺の目線から見えるのは片足の足裏から膝のあたりまで。


 正直、こいつがどれだけの大きさなのか想像がつかない。


 と、そんなことはどうでもよく、今は関係のない話。


 俺は茂みに隠れて、憤怒のタルタロスではなく上を注視していた。


「やっと見つけたぞ! アロス!」


 そう大きな声で言い放っているそいつは空に浮いていた。

 俺みたく空に立っている、のではなく浮いているのだ。


「さっさと起き上がれ! 俺は不意打ちは嫌いだ。正面からお前を殺す」


 そう言っている人物は一見外国人に見える。

 肌はロシア人のような白に近い色で無造作に切られた黒い短髪。

 顔は堀の深い日本人には少ないタイプをしている。


 しかし、俺は経験からこいつがここにいるはずのない人間だとすぐに気づいた。


 そう、あちら側……異世界の住人であるということを。


「オォォォォォッ!!」


 すると、その挑発に反応したのかその巨体を揺らしながらゆっくりと憤怒のタルタロスが起き上がってきた。

 そこで俺は改めてこいつの大きさを知った。


(でっか………)


 その大きさは高層ビルよりも大きかった。


 初めて東京に出たときにビルを見上げた時よりも俺は今首を曲げながら見上げている。


「やっと起きたか、アロス! 例え世界が変わろうとも俺はお前を許すことはない。一族の仇、ここで晴らすっ!!」


 その男は今まで静かに揺らいでいたその怒りの感情を爆発させるように言った。


 今の言葉で大体想像がつくな。

 一族の仇…………か。


 俺が出る幕ではないのかもしれない。


 そのまま俺は茂みから一人と一体の戦闘を見守ることにした。



 先に動いたのは男の方だった。


『黒焔魔法・フラッシュ(flash)ポイント(point)


 男の手元から黒く燃え上がる小さな火種がゆっくりとタルタロスに向かって放たれる。

 その進む速度は欠伸が出るほどに遅い。


 もちろん挑まれているタルタロスもそんな悠長な攻撃を待つわけもなく、背中から一本の背丈ほどの大剣を取り出し力のまま黒い炎に向かって振り下ろす。

 その延長線上にいる男は躱す素振りも一切見せずにいた。


 それを見ていた俺は助けるべきか否かで葛藤を繰り返していた。

 しかし、俺はその場から飛び出すことはしなかった。


 その男がふと笑ったからだ。


 目の前で質量と重力、そしてタルタロスの腕力に任せて振り下ろされた大剣を前にして。


 そして、大剣が炎に触れた。


 次の瞬間、タルタロスに握られていた大剣の切先から半分が消滅した。

 そのまま振り下ろされた大剣はただ空を切り、大地に突き刺ささる。


 それと同時に地球がひっくり返ったと錯覚するほどの振動がここ一帯を襲った。


 俺は瞬時にジャンプし、天足で足場を作り揺れを回避する。


 それにしても…………なんというバカげた威力の魔法なんだ。

 俺の目には全てが見えていた。


 大剣が小さな炎に当たった瞬間、その炎が大剣を食い散らかすように切先から半分を一瞬で蒸発させた。


 すると、その男が再び何かを話し始める。


「覚えているか、アロス! お前が滅ぼしたクロープス族のことを…………分かるわけがないだろうな、怒りに支配された者には。それでも………俺は一族の生き残りとしてお前に止めを刺す!」


 生き残り…か。

 憤怒のタルタロス、怒りに支配された者。


 俺はその言葉を聞いて同情すると同時にもう一つの考えが頭の中に浮かんでいた。


(なんて、なんて…………ベタな野郎なんだ!!)


 もうベタベタのべたすぎだろ!

 一族の生き残りに敵討ち、怒りに支配された魔獣。

 というか、タルタロスってこっち(地球)では神なんだよな。


 その挑発に乗るようにタルタロスはもう一つの大剣を取り出し、再び怒りに任せたかのようにその男に向かって振り下ろす。


「もう怒りで正常な判断もできないのか………」


 男はそう言って右手を前に出し、魔法を唱える。


『黒焔魔法・ウァール(whirl)


 右手から太い黒い炎が現れ、タルタロスの大剣を包むように周りを旋回する。

 そして、男がその手を握り締めた瞬間に先程と同じように大剣が消滅した。


 今度は半分ではなく、柄から先全てが蒸発し消滅した。


 その男はその瞬間少し残念そうな顔をする。


「そうか………お前にもう自我はないのだな。怒りに負けたか」


 すると、タルタロスは柄から先を失った大剣を手から溢す。

 その男はそれを予測し、落下地点にすばやく飛行しその大剣を手に取り軽々と持ち上げる。


 そして、そのままその男は柄しかない大剣を呆然と佇むタルタロスに対し重力に任せて上から下に振り下ろす。


 終わった。

 仇の割にはあっけのない最後だったな。


 そう思った瞬間、俺の頭の中に怒りに狂ったと錯覚するような嫌な声が響いてくる。


『戯け。黙るがよい』


 その言葉と同時に、さっきまで一方的だったその男が羽虫の如く吹き飛ばされた。


 俺は頭に響く声に抗いながら、咄嗟に飛び出した。


 これはまずいと思った。

 彼一人では無理だと思った。


 その瞬間には体が勝手に動き、吹き飛ばされた彼を追いかける。

 手を伸ばすとギリギリ彼の服に指が引っかかった。


 俺はそれを力の限り引っ張り、彼を掴むことに成功する。


 空中で足場を作り、俺は彼の様子を見る。

 しかし、彼の意識は飛んでいるようだ。


 とりあえず往復ビンタしてみる。


 しかし、起きない。


 もう一回往復ビンタしてみるが、起きなかった。

 もう一回往復ビンタしてみるが………起きなかった。

 もう一回往復ビンタしてみるが…………………起きなかった。

 もう一回往復ビンタしてみるが………………………起きなかった。


 もう一回往復……………、


「んっ………俺は何を」


 その男は目を覚ましたが、俺の振りかぶったその手を止めることはもはや俺にすらできなかった。


 パン、パン!!


「い、痛っっっ!!??」


 彼はこの状況を一切理解できていないような目をしている。


 俺は覚醒した男をずっとお姫様抱っこしている趣味はないのでそのまま手を離す。


「おい、大丈夫か復讐男」


 瞬時に飛行系の能力を発動し、そのまま地面に落下することのなかった男に俺はそう言った。


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