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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【第4章】北海道奪還作戦決行 編

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どんぐりの背比べ、五十歩百歩

 


「以上が、 第一部隊と第二部隊の皆さんの行動予定です。質問ある方はどうぞ」


 翌日、日高ドラゴンダンジョンがあるここ日高山脈に工藤上官が合流した。

 工藤上官は本作戦全てにおける現場での総指揮権を委ねられている。


 しかし、作戦アルファにおいては工藤上官では戦闘能力面において力不足になる可能性があったため、合流がこの日となったのである。

 その為、それまでの作戦アルファでは代理の指揮を加山上官が行っていたのだ。


 そして、現在。

 工藤上官より、次の作戦「ベータ」における第一、二部隊に配属されている面々の行動予定が知らされた。

 作戦ベータでは、東西南北の計四か所に臨時基地の建設と周囲の安全確保および魔獣の排除が最終目標である。


 そこで日本内でも強者が集まっている第一、第二部隊の面々はそれぞれの場所へと再配属されるのだ。


「北の礼文島」には淡谷小太郎。

「東の根室」には新選事務所の飯尾綾人、権田孝、飼葉鈴菜、金井彩夏の四人。

「南西の函館」には相羽兄弟の二人とタイガー事務所の永井虎。


 そして、ここ南に位置する日高山脈には日本内ナンバー2の神竜也。


 という配属でそれぞれ行動することとなった。


 そこに作戦アルファには参加していないダンジョン冒険者の面々がそれぞれの場所へと加わる予定となっている。


 そして、かくいう俺はというと。


 強力な魔獣が潜んでいることが確認されている札幌、旭川、稚内の三か所の内、札幌、旭川の二か所に一番近い「西の留萌」に行くこととなったのである。


 ということで、今日一日を準備期間として明日一斉に目的地へ青森から海路を使い移動することとなった。


 海路を使う理由は、大量の資材の運搬と日本の近海には魔獣が存在していないため安全に移動することができるから、らしい。

 その為、ここに残る者以外は一度青森の基地へとヘリコプターで帰還する。


 ただし、俺は例外であった。


 俺はその中でも唯一、休憩を挟みながら陸路で留萌へと向かうことにしたのだ。


 その理由は至って簡単なこと。

 長時間の船旅が嫌だったからだ。


 酔い止めの魔法があったとしても、俺は長時間の船旅だけは絶対に勘弁したい。

 乗り物酔いに対しての耐性が皆無な俺はもはや心の奥底に「乗り物酔いは怖い」という洗脳を施されているのだ。

 これは仕方がないことだろう。


 ということで、今日から数日間一緒に陸路で留萌に向かう面々はそれぞれ準備済ませ、車に乗り込んだ。

 そして、俺の乗り込んだ車を含めた二台の車で留萌に出発したのであった。



 ******************************



「雪まだ少しだけ残ってるっすね。こんなちっぽけな雪でも人生初っすよ。ちょっと感激っす」


 俺は心の中で「そうだね」とだけティア隊員に返事をした。


 そう、かれこれ二時間以上留萌に向かう車の中でみんな暇を持て余していた。


 ティア隊員は黙るということを知らないのかずっと俺に話しかけてくるのだ。

 最初の方は口に出して返事をしていたが、だんだんと面倒くさくなってきた。


 そういう俺も特に何の変化もない道路を窓越しにただ眺めているだけ

 車に乗っている中で唯一仕事をしているのは運転手くらいなのではないだろうか。


 あーとりあえず早く終わらせてゲームしたい。

 切実に。


「でも、本当に道路荒れてるっすね。魔獣の足跡や戦闘痕がたくさんっす」


(うん、そうだね)


「おっ晴れてきたっすね」


(うん、そうだね)


「あっ魔獣っす」


 これにもまた俺は心の中で「そうだね」と返事をしておいた。


「…………って、なぜ同じトーンでそれ言うの?!」


「おっやっと返事してくれたっすね」


「いやいやいや、それはするでしょ! 魔獣に車襲われたら、俺は死ななくとも車は大破させられるんだよ?! 足が無くなったら困るのはみんな同じだから」


「そういえばそうっすね。なんか世界で一番強い人が同行していると気が抜けるって言うかなんというか………」


 そう言って、自衛隊員とは思えないほどだらっとシートに座るティア隊員。


「いや、気抜けてるのティアだけだから。他の隊員見てみろよ。しっかりお勤めしてるだろ」


「そうっすね、そろそろ仕事しますか。前方一キロくらい行ったところに五体いますね。まあ、Number1(ワン)から見ると雑魚だと思うんで宜しくっす」


「はいはい」


 俺はそう言って、シートベルトを外そうとする。


「あっちょっと待ってもらってもいいですか?」


 そう声を掛けてきたのは補助席に座っていた対策機関所属の隊員だった。

 確か名前は田中さんって言っていたはず、たしか。


「何ですか?」


「あの魔獣、私たちで対応してもいいですか?」


 おっ?

 あの魔獣を倒したいのかな?

 まあ、別に弱いなら経験値もドロップも少なそうだしいいけど。


「別にいいですよ。むしろ楽できるなら願ったり叶ったりですよ」


「ありがとうございます!!」


「いえいえ、田中さんって意外と戦闘狂なんですね」


「…………Number1(ワン)、もの凄く申し上げにくかったのですが」


「何です?」


「私の名前は田中ではないです。佐藤です」


 ………それは本当にすまん。

 何となくよくいる苗字の人だって覚えていたからてっきり田中かと。


「佐藤さん……ですね。すいません」


「いえいえ一応訂正しておこうかと思っただけですので。それと私は戦闘狂ではないです」


「え、じゃあ何で?」


「話はここまでにしましょうか。敵はスノウゴリラですね、倒してきます」


「あっはい、頑張ってください」


 佐藤さんがそう言うと、運転手の人がゆっくりと車がを止めた。

 後続の車も続けて止まり、そこから二人の隊員が降りてきた。


 それを確認してから佐藤さんも車を降り、その二人と合流した。


 すると、運転をしていた自衛隊員の人がさっきの俺の質問に代わりに答えてくれた。


「あっ一応説明しておきますと、機関所属の自衛隊員はあまりダンジョンに潜る機会とかが多くないんです。だから、格下の魔獣が現れた場合は誰が倒すかジャンケンしたりするんですよ」


「へえ、それはまた。魔獣の奪い合いですか」


「そういうことです。でも、一応ルールは決まったてたりします。そうしないと隊員同士で争いが起こりますからね」


「なるほど。あっ始まりますね。どうせなら皆さんの戦闘近くで見てきます」


 俺はそう言って、車から降り少し離れた位置から戦闘を見ることにした。



 ******************************



『ウォーターフロア』


 佐藤さんは水魔法のウォーターフロアを発動し、佐藤さんを起点に水の床が前方に広がっていく。

 その行動阻害の魔法で五体全ての行動に制限を掛ける。


 佐藤さんって水魔法の使い手だったのか。

 俺と同じだ。

 といっても、強い魔獣に対して基本属性の魔法って効果薄いからあまり使ってないけど。


 などと悠長なことを考えながら戦闘を見ていると、一体のスノウゴリラが道路のコンクリートを思いっきり踏み込み、周辺を破壊した。

 それと同時に佐藤さんのウォーターフロアが霧散した。


 んー、あの魔獣賢いな。

 水魔法、ウォーターフロアの弱点を知っているな。


 この魔法は発動した媒体、つまりこの場合においては「道路」に対して発動している。

 その媒体に一定以上の損傷が与えられるとこの魔法は強制的に霧散してしまうのだ。

 それを知っててなのか、あの魔獣は道路を破壊するという判断をしたのだ。


「いったん下がるぞ。一体アイスゴリラが混ざっている!」


 佐藤さんたち三人はすぐに後方に下がり警戒態勢を強くする。


 その佐藤さんの言葉を聞いて、俺は足でコンクリートを踏み抜いた個体を異世界鑑定する。



【status】

 種族 ≫アイスゴリラ

 レベル≫45

 スキル≫投擲Lv.7、筋力増大Lv.7

 魔法 ≫氷魔法Lv.5



 アイスゴリラ……スノウゴリラの同類か?

 違いが全く分からない。


 というか、スノウゴリラのステータスを忘れた。

 あっちも異世界鑑定で見ておこう。



【status】

 種族 ≫スノウゴリラ

 レベル≫40

 スキル≫投擲Lv.5、筋力増大Lv.5

 魔法 ≫雪魔法Lv.5



 ………うん、変わらない。

 何で佐藤さんたちは一度引いたのだろうか。


 すると、隣に先程の運転していた自衛隊員の人がきて説明してくれた。


「あれはアイスゴリラですね、珍しいです」


「あの魔獣には何かあるんですか?」


「アイスゴリラはスノウゴリラと違って基本魔法よりも上位の魔法を使います」


「あー氷魔法って上位属性ですもんね」


「そうです、一般的に上位属性の魔法を使う魔獣に対しては基本属性の魔法は効果が薄い、と言われています」


「はい」


 知ってますよ。

 というか、厳密にはその解釈だと少し違うんだけど。


「知っていましたか、これは失礼いたしました」


「いや、まあ戦っていれば分かることですからね。それよりも佐藤さんたち大丈夫ですか? 助けましょうか?」


「大丈夫ですよ。あれでも彼は機関内でも有数の水魔法使いですから」


 隊員の人がそう言うと、佐藤さんたちが再び動き出した。


『ウォーターバレット』


 佐藤さんがアイスゴリラに向かって水のバレットを集中攻撃する。

 そのバレットの数がデフォルトで出る十発よりも多い。


 確かに熟練度は高いみたいだ。


 アイスゴリラはその攻撃が自分に効果が薄いことを知っているのか腕でガードするだけでその場から動かない。

 その周囲にいた四体のスノウゴリラはその場から逃げるように二方向に躱す。


 その別れたスノウゴリラを佐藤さんと一緒に戦っていた自衛隊員が追い、アイスゴリラとスノウゴリラの射線を切った。


 なるほど、アイスゴリラの傲慢を利用して分断をしたのか。


 その佐藤さんの意図にに気付いたアイスゴリラがすぐに反撃に転じる。

 自分の巨体ほどの氷塊を出現させ、それを力任せに掴み佐藤さんに向かって投げてくる。


「おっあれは大丈夫ですかね。佐藤さん」


 俺の問いにはすぐに隊員の人が答えてくれる。


「大丈夫ですよ」


 大丈夫なのか。

 お手並み拝見だな佐藤さん。


 すると、佐藤さんは魔法を唱える。


『ウォータージェット』


 彼は足の裏から勢いよく水を放出することで、その氷塊を難なく躱した。

 さらに躱すだけではなく、それを利用した方向転換でアイスゴリラに向かって勢いよく向かって行く。


 おー、あの使い方は凄いな。

 水上スポーツで水の勢いで空中に浮くあれに似てる。

 面白そう。


 アイスゴリラとの間合いを詰めた佐藤さんは、まだ少し遠いと思える位置から空を切るように腕を横に振った。


 その一振りであっけなくこの戦闘は終わった。


 その直後、アイスゴリラの頭部が鋭利な何かで斬り飛ばされたのだ。


「あれは………ウォータージェットを一瞬だけ高圧で噴出した、で合ってますか?」


 俺は再び自衛隊の人に聞く。


「正解です。初見で分かるなんてさすがですね」


 やはりか。

 俺が水魔法をゲットしてから頑張ってやってみたけどできなかった使用方法だ。

 佐藤さんはそれをやってのけているのか。


 そんなことを考えていると他二人のスノウゴリラとの戦闘はいつの間にか終わっていた。


「確かに三人とも凄いですね。一芸だけじゃなく、二も三も武器を隠してるって感じです」


「我ら機関に所属している者は自分の所持している能力を最大限生かす努力を常日頃訓練しています。新しい能力を取得する、よりも今の能力を最大限にが方針ですので」


 俺とは全く考えが逆。

 まあ、魔法やスキルスクロールも数は多くないし、戦える戦力を多く育てるには理にかなっている育成方針なんだろう。


 それでも戦える戦力ってだけで圧倒できる戦力を持つ人が生まれるわけではない。


「なるほど、参考になります」


「いえいえ、質問はいくらでもしてください。それも私たちの仕事の一つですので」


 そんなことを話していると、堂々として佐藤さんたちが戻ってきた。


「あれ、見ていたんですかNumber1(ワン)。自分たちの戦いどうでした?」


 そうやって少し誇らしげに聞いてくる佐藤さん。


「最後の攻撃のやつ凄かったですね」


 俺はそう言って、佐藤さんの真似をして腕を何回か振ってみた。

 その行動に少しニヤッとする佐藤さん。


Number1(ワン)に言って貰えると嬉しいですね。あれを習得するのに結構大変だっ………」


 佐藤さんがそう言ってるときに俺は何となく同じウォータージェットを使ってみる。


「あっできちゃった…………」


 道路の脇で伸びきっている雑草に向かってやっていると、意外にも簡単にできてしまったのだ。

 そこら一帯の雑草が中間あたりから真っ二つに鎌で斬られたように鋭利な断面を見せている。


「「「「……………。」」」」


 その鋭利に斬れた雑草を見て、呆然とする隊員の人たち。


「いや、あの…ちょっと興味本位でやってみただけなんです。本当、悪意はないです」


 人の特技を目の前で習得してしまったこの空気感と言ったら、もう耐えきれません。

 すると、佐藤さんは絵に描いたようにその場に崩れ落ち、落ちこみ始めた。


「俺の……俺の唯一の自慢できる技だったのに」


 その佐藤さんを慰めるように両隣にいた隊員の人が佐藤さんを慰め始める。


「そうだよな、あれはお前が編み出したって自慢しまくってた技だもんな。悲しいよな」


「確か習得に半年以上の時間を費やしたって言ってたもんな。超自慢してたもんな、それが一回見られただけで真似されるなんてな。これが才能の差ってやつだよ」


 あれ、慰めじゃないかも。

 同期の人なのかな?

 完全にいじり倒してるわこの人たち。


「いや、本当すいません、そういうつもりでやったわけではなくてですね」


 俺が少し焦ったように佐藤さんに話しかけようとすると、佐藤さんが顔を上げて俺の目をギロッと見上げてきた。


「え、何ですか?! Number1(ワン)は初見の魔法を真似できるような漫画みたいなチートスキルでも持ってるんですか?!」


 あっこれもしかして怒ってる?

 やばい、どうしよう。


「いや、持ってないですけど……」


「じゃあ、何だって言うんですか?! 才能だとでも言いたげな目ですね!!」


 才能というか………スキルと努力?

 造形スキルの影響だと思うけど。


「いや、それも違うと思うんですけど……」


「というか、Number1(ワン)は水魔法の使い手だったんですね?! レベルはいくつですか?!」


 あれ、怒ってるというよりも悔しいって感じか。

 よく見ればそんな怒ってる様子ではないな。


「マックスですけど……」


「はっ?! 何ですかマックスって! 初めて聞きましたよ、魔法がマックスの人なんて!」


「はあ。それで、何が聞きたいんですか?」


「水魔法の未来を教えてください! 俺は今レベル7です! これ以降はどんな技を覚えられるんですか??」


 ああ、そういうことね。

 同じ水魔法の使い手として情報共有して欲しいと。


「まあ、いいですが、車に乗りながらにしましょう。外は寒いですから」


「わかりました!」


 その後の道中は暇を持て余すことなく、佐藤さんと水魔法について様々な情報を共有することとなったのである。


 あとから聞いた話、佐藤さんは結構な努力家であり自信家でもあるらしい。

 情報収集や訓練は隠れて人一倍やるタイプ。

 そんな彼が時間を費やしてようやく完成させた水魔法ウォータージェットを極短時間高出力で放出することで発生する、下位の魔獣にとっては認識することすら困難な水の刃。

 

 元々水魔法は覚えた時点でレベルに応じた技をデフォルトの型と威力で使用することができる。

 そんな魔法を思いのままの方法で使用することは短期間の努力ではまず不可能だ。

 それを時間と努力でやってのけた佐藤隊員は本当に凄いと思う。

 実際に俺自身もダンジョン内で幾度とその壁に阻まれた。


 ただそんな俺はチート能力に近い「造形操作」と「魔法力」と呼ばれる魔法の威力と形を自在に変えることのできるスキルを持っている。

 これは佐藤隊員の言っていた漫画の主人公みたいな一瞬で真似できるような代物ではない。

 それでも佐藤隊員の消費した時間と努力という部分を大幅に短縮できるものではある。


 要するに何が言いたいのか。


 「佐藤さん、マジごめん!」



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