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趣味に人は没頭する

 


 俺は無事、作戦第一段階の作戦名「アルファ」を終え地上にあるゲート前のテント内に来ていた。

 いや、正確に作戦が終了したと断定できているわけではないが一段落はしただろう。


 なにせ日本屈指の索敵能力を持つ湯楽隊員ですらダンジョン内に生息する魔獣の全体数なんて把握できない。


 だが、あれだけの数のワイバーンとドラゴンを倒したのだ。

 他にいたとしても当分は地上に出てくるようなことはないだろう。

 ドラゴンたちにだって知力の高いものは実際にいる。

 そこは断定できる。


 それにここから先のこのダンジョンに関する作戦には俺は参加しないことになっている。

 だから、あとは他の人に任せよう。


 ここから先の俺の仕事は北海道で確認されている凶悪魔獣の一体を倒すこと。

 それと旭川での工藤さんとの約束を果たすことだ。


 とりあえず俺はテントに帰って来てから初めにしたことは仮面を外した後のティータイム。

 紅茶のお供にお菓子を少々。


 オシャレなことをしていることは認めよう。


 だけれど…………元ニートだってオシャレなことぐらいしたい!

 というか案外紅茶って美味しいことに最近気づいたんだ!


 タージリン、アールグレイ、アッサム………名前はいまいちわかんないけど!

 戦闘後に飲むと心が安らいでいく感じがする。


 まあ、たまにめっちゃまずいと感じる外れの紅茶もあるけどね。


 っと、そんな紅茶話なんてどうでもいいんだ。

 賢人から口酸っぱく、作戦終了後には一度電話するように言われている。


 だから、俺は一度賢人に電話することにした。


『プルルルル、プルルル、プルルル、プルルル、プルルル、プルルル…………ただいま電話に出ることができません。ピーっと発信お……』


 俺はそこで電話を切った。


「出ないのかよ!」


 思わず一人で電話に突っ込んでしまった。


「イライラしてるんっすか? ほら紅茶でも飲んで落ち着いてくださいっす」


 そう言って、空っぽのカップに紅茶のお代わりを入れてくれるティア。

 俺はそれを一口飲んで、ジッとティアを見る。


「そういえば何でしれっと俺のティータイムに加わってるの?」


 俺がテントに戻りすぐに始めたティータイム。

 あとに続くようにティアが入ってきて「いやー、いい匂いっすね。自分も頂くっす」って入ってきたのだ。


 思わず二人分のカップとお菓子を用意してしまったが、改めて考えると訳が分からない。


「えっ自分紅茶大好きなんっすよ。だから、もしかして自分のために用意してくれたのかなって思ったっす」


「…………んなわけないだろ!!」


「まあ、いいじゃないっすか。ほら紅茶飲んでくださいっす、リラックス効果もあるんっすよ」


 ………まあ、別に余るほどあるしいいか。


「それよりも今の流れで忘れていたけど、賢人電話にでないな。あやつめ」


 俺がそう言うと、湯楽隊員がそっと俺に腕時計を見せてきた。


「今は夜中の1時過ぎっすよ。寝てるんじゃないっすか?」


「あーなるほど、もうそんな時間だったのか。アドレナリン出まくってて気づかなかった」


「そうっすよ、もういい子はみんなおやすみっす」


 良い子ね………。

 暗に俺がいい子ではないと言いたげなティアだな。

 こいつ地味に俺が同学年と分かってから弄ってこようとする精神はまじで凄いと思うよ。


 だって俺ってこれでも一応、好待遇でここに呼ばれている身なんだけど。

 そんなの関係ないって感じだよね。

 それはそれで気持ちが楽だから助かるけど。


 んー、でも一応誰かには電話しておこうかな。

 明日起きてぐちぐち言われるのも嫌だからな。

 まあ、さすがに言われないと思うけど一応ね。


 今起きているのは…………ンパだけかな。

 あいつには俺のニートゲーマーの精神を叩きこんでおいたからな。

 その精神を引き継いでいるのならば起きているはずだ。


 そう思い、俺はンパに電話を掛ける。

 もちろんンパには俺含めた数人にしか連絡が取れないスマホを買ってあげている。


『プルルル、プルル。もしもし私の名前はンパですよ』


 ふっ、こいつ何言ってるんだ。

 もしもしの後に続く言葉が「私の名前はンパですよ」ってなんだよ。


「おーンパ、起きてたか」


『ん、今はボス討伐中なのです! なので用件は手短にお願いしますよ!』


「おーやってるな、俺のいない間のギルドは任せたからな。二キャラ操作頑張れよ」


『任せてください! それで何かありました?』


「おー忘れてたよ。賢人に電話したけど起きなかったから代わりにンパに電話したんだよ。賢人の机の上に無事作戦が終わったってメモでも残しといて、それだけ」


『分かりましたであります!』


「おー頼んだぞー、じゃあな」


『わか………』


 ということで、連絡を終えた俺は今日やることは全て終わり寝る準備をしようと席を立った。


 しかし、ここでも空気を読まないティア隊員の言葉が炸裂する。


「ンパって誰っすか? 珍しい名前っすね、どっかの外国の人っすか?」


 ……本当に微妙なところで感が鋭いな。


「出身はアメリカって言ってた気がする。ゲームで知り合ったばかりの人だから詳しくは知らないけど」


 まあ、全部嘘だけど。


「そうなんっすか。あっそういえば加山上官から伝言頼まれてたっす!」


 伝言?

 明日の動きのことかな。


「今から忠実に再現するっすよ! 『湯楽隊員、ついでにNumber1(ワン)に伝言頼むよ。一度、私のいる指揮所に来て欲しい、と。Number1(ワン)は自前のテント使うって言ってたから建てる場所を案内するよ』だそうっすよ!」


 ティア隊員はそう、加山上官特有の渋めの声で言った。

 というか、それって大丈夫なの?

 加山上官ってめちゃくちゃ位高い人なんでしょ?

 まあ、いいやこれは聞かなかったことにしよ。


 俺は出口に向かって歩きながら、仮面を付け直し親指でティアにグーサインしておいた。


 その後、ゲートより少し遠くに設置してある簡易指揮所に入り、加山上官直々の案内の元テントを立てる場所まで来た。


「とりあえずゲートと周囲の防御柵とのちょうど中心位置で指揮所に近いここで宿をとってもらいますね。一応、ご迷惑かとも思いますが入り口と周囲に警備の隊員を配置させていただきますのでご了承ください。何かありましたらこの隊員を使ってもらっても大丈夫ですので」


 そう言って、俺達の後ろからついてきた五人の隊員が俺に軽く敬礼をしてきた。


「わかりました、よろしくお願いしますね」


 俺はそう五人に向かって言った。

 その後、俺はアイテムボックスから魔法のテントを取り出し言われた場所に設置した。


「これがNumber1(ワン)の愛用しているテントですか。見た目は普通のテントと変わりないですね」


 俺が出したテントの周囲を歩き回りながらジロジロと確認し始める加山上官。

 というか、目つき変わり過ぎて驚いている。

 いつもの優しい目から急にぎらぎらとした目に変わった。


 へえ、加山上官ってこういうのが好きなのか。


「中入ってみます?」


 俺がそう言うと、加山上官の背筋がピンとした。


「是非! ぜひお願いします!」


 おお、こういうところは謙虚じゃないんだな。

 加山上官は謙虚なイメージがあったけど、こういうときはガッと来るんだな。


「どうぞ入ってください。別に中は普通の部屋と変わりないですが」


「では、失礼して」


 こうして、俺の睡眠時間は加山上官の好奇心旺盛な質問と共に削られていくのであった。


 早くお風呂入りたい……。



 ******************************



 夢、俺の経験したことのある明晰夢は過去に起きたことが元になっている。

 というか、それ以外の明晰夢は見たことがない。


 そう考えると、今回の明晰夢は初めてだ。


 目の前にいる人物は過去に会ったことのある人物だが、この場所とこのシチュエーションは見覚えがない。


 場所は森?

 こんなにも自然溢れる森は見たことがない。

 それに木も見たことないほど高く感じる。


「久しぶり、サリエス師匠。というか、夢の人に久しぶりって合ってるのかな?」


 俺がそう言うと、目の前のサリエス師匠がにっこりと笑った。


「やあ、元気にしてたかい?」


「え?」


 どういうことだ?

 夢とは俺が作り出した虚像に過ぎないはず。


「その目は困惑してるね。蛍の目は感情豊かだから相変わらず分かりやすいね」


「そりゃ困惑もしますよ。自分が作り出した虚像と会話するなんて」


「ははっ、それもそうだよね! こっちの世界じゃ良くあることなんだけどね、そっちの世界は地球といったかな? そっちの世界じゃ珍しい現象だね」


「おお、何かサリエス師匠なのにサリエス師匠じゃないみたいな喋り方だ。変な感じ」


「蛍が会った僕は僕の分体だからね、今の僕は本体の方の僕だよ。それとこれは夢であって夢とは少し違うんだ」


 ん?

 ちょっと何言ってるのか謎過ぎる。


「なぞなぞ?」


 俺がそう聞き返すとそのサリエス師匠は少し吹くように笑った。


「ふっ、違うよ。説明すると、君の夢に僕が介入して君の精神と僕の精神をお互いのいる世界空間とは異なる虚無の空間に転移させているんだ」


「………ん?」


「まあ、要するに本体の僕が少しだけ会いに来たってことだよ」


「おーそりゃ本当なら凄いですね」


「本当だよ。昔から蛍はその勘繰りは変わらないね」


「だって俺はこれが夢という認識しかないですし、そんな簡単に会えたらそれこそ色々と辻褄合わなくなるじゃないですか」


「これはそんなメリットばかりの物ではないよ。君が起きたら僕と会った記憶が残る確率は十パーセントと言ったところだろうよ」


「あーそれなら納得できそうですわ。そのメリットだけじゃなくてデメリットを与えてくる感じがスキルか魔法っぽい」


「良かったよ。じゃあ、今から本題に入るね。この言葉を覚えて起きれたらこの賭けは成功だよ」


「なんですか? 師匠」


「蛍、君にはまだ足りないものがある。だから、僕のダンジョンの裏側にあるダンジョンに行くんだ。そこで……………………」



 ******************************



 そこで俺は目が覚めた。


 どうやら師匠の「賭け」とやらは成功したようだ。

 俺は師匠との会話を全てではないものの一部を覚えていた。


『僕のいたダンジョンの裏側にあるダンジョン』


 果たしてこれが意味しているダンジョンとは何なのか。


 裏とは何の裏なのか。

 隠し要素という意味なのか、球体での裏側の位置なのか。

 それともこの二つとも違う「裏」という意味を持つのか。


 真相は定かではないが、また一つ目的が増えたことには変わりないな。


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― 新着の感想 ―
[一言] 私はアールグレイは苦手です。好んで飲みたいとは思わない程度には。
[一言] スキルの取得に制限あるとか糞設定に何でしたの?超詰まらない。
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