集団の思想が一致したときそれは常識と成る
「別世界の瞳?」
「はいっす! 原理はよく分かんないっすけどこの目で見た人のオーラの色や大きさみたいなものが見えるんっす!」
「そのオーラとやらで何が分かるの?」
「うーん、詳しいことはよく分かんないんすけどオーラ色はその人の才能や魔法技量を表してるんだと思うっす! 大きさは多分その人の総合力って言うか……まあ、そんな感じっすよ! 自分でもよくわかっていないスキルなんで詳しく聞かれてもこれくらいしか答えられないっす」
なるほど……もしかしたら使いこなしたら私の戦闘力は53万だ! なんて言える日が来るかも的なスキルか。
それにしても湯楽隊員って便利で優秀な能力ばかり持っているようだな。
自分で運がいい方って言うのもあながち間違いではないのかな。
正直、その人の強さってどれだけ良いスキルや魔法を得られるかどうかっていう運ゲー要素高めだからな、このダンジョンって。
まあ、それを言うならここ最近の俺の運は絶頂期を迎えているから湯楽隊員にも負けている気がしない。
それでもゲームにおいても言えることだが運だけでは限界はすぐに来る、いずれはそれらを取り扱う技量の面に発展していくのだ。
だから、こんな世界でどれだけ良いスキルや魔法を得られたとしてもそれを使いこなす練習は怠ってはならない。
その点、湯楽隊員は自分の能力をかなり訓練しているように思える。
コイントスの時、実際に投げたコインは一つだけだったが本当は手の甲にもう一枚のコインを仕込んでいた。
それをオプティカルカモフラージュで他の人には見えないように少し工夫しただけ。
だから、俺が手を閉じたときには俺の手の中に表裏別々のコインが二枚。
あとは俺の有利なコインを可視化し、不利な方をオプティカルカモフラージュで隠すだけ。
たったそれだけの極最小に展開した魔法をあの一瞬で見破られたのだ。
「ちなみにだけど俺のオーラの色って何色なの?」
「ほとんど透明に近い色っすけど、薄っすらと藍色っぽい色がある感じっす」
透明?
こういうのの相場って普通色が濃い方がいい感じするんだけど、その点どうなんだろう。
「大体でいいんだけどそれっていいの? 悪いの? なんか色がないってあんまりいいイメージがないんだけど」
「何言ってるんすか! めちゃくちゃ凄いオーラの色してるっすよ。自分が今まで分析した結果に基づいた根拠のない判断っすけど、オーラの色が見えにくい人ほどたぶん魔法やスキルを扱う技量が高いんだと思うんっすよ。自分が知っている上位ランキングにも載るような人たちは軒並み色が薄いっす。中でもNumber1は目を凝らさないと分からないレベルでこんなにもうっすいオーラ見たのは初めてっすよ。だから、模擬戦の時に何倍も色の濃い大野木隊員といい感じに戦っていて変だとずっと思っていたっす!」
模擬戦の時から湯楽隊員は違和感を感じてたっていうことか。
元々湯楽隊員はこのスキルを自衛隊に秘密にしているということは俺のことも上に伝えてはいないだろう。
でもさ……
「なんかオーラが薄い薄いと言われ続けると弱い感じがするのに、めっちゃくちゃ褒められている現状に違和感が半端ないんだけど」
「そっすよね、最初は自分もそう思いましたが今は自分の中で納得してるっす。これはオーラの大きさにも関係しているんっすけど、技量が高い人たちってのは本能のレベルで自身のオーラを密度を濃く、できるだけ体の周りに纏わりつかせるようなオーラの形をしてるっす。逆に弱くなればなるほどオーラの形が歪だったり、無駄に大きかったりしてるっす。その点Number1は高級で厚めのダウンコートを着込んでるくらいのオーラでかなり小さく纏まってるっす。ここからは推測の面が多いっすけど、強い人ほどオーラを隠すことに長けているような気がするんすよね」
ということは、強い人ほどそのオーラというものが見えにくく、弱い人ほどオーラが見えやすいということか。
「なるほど、おおよそそのスキルのことが分かったよ。凄いスキルだね。でも、何で黙ってるの?」
湯楽隊員ならば新しいスキルを手に入れたら周りの同期とかに自慢したがるような性格っぽいのに。
なんというか……らしくない。
「……そんなに聞きたいっすか?」
えっ何?
そんな闇に触れるみたいな聞き方……。
「なんかやばいことなの?」
「いや、そうでもないっすよ。新参者にはよくある話っす」
「なんだよ、驚かすなよ。で、何でなの? まさか面倒臭かったからとかじゃないよね?」
「全然違いますよ! 結構自衛隊という組織の内部事情に関わってくる話っす」
内部事情?
それはそれで聞いたら厄介そうな。
まあ、気になるから聞くけど。
意外と湯楽隊員は口固そうだし。
「めっちゃ気になってきた、そういう社外秘みたいな話って」
「まあ、いいっすよ。まずダンジョン対策機関が自衛隊という組織に無理矢理に組み込まれた話って知ってますか?」
確か工藤さんが前に話してくれた覚えがあるな。
ダンジョンや魔獣が現れた当初は自衛隊という組織がそれの対処を行っていたが、次第にダンジョンや魔獣に関わってきた者だけが身体能力を急激に向上させていき弱い者と強い者という区別がされるようになってきたらしい。
そこから今まで抑えてきた欲求を抑えないように強さにものを言わせてくるもや、命令違反など様々な組織内での問題が浮上していったようだ。
それを改善するために急遽自衛隊内に別組織であるダンジョン対策機関を設置し、その最高階級にその当時指揮において優秀な結果をもたらした長瀬さんが就いた。
そこから長瀬さんや他の優秀な人材を筆頭にあっという間にダンジョン対策機関という組織を成り立たせてしまったらしい。
それから今まで通りの任務や業務を行っていく自衛隊という組織とダンジョンという異物に特化したダンジョン対策機関という組織関係が出来上がったらしい。
それでもダンジョン対策機関は新しい組織であり、ダンジョンに関われる人材もそれほど多くはない。
その為、個ではそれほど強くなくとも数の多い自衛隊と数は少ないがダンジョンに対抗できる戦力を持っているダンジョン対策機関はもちつもたれつという関係を築いているらしい。
「うん、前にその話は聞いたことがあるよ」
「それは説明が省けるっすね。一応、自衛隊と対策機関はお互い必要不可欠な関係を築いてるっす。けど、そんな急造組織にも関わらずダンジョンに対して有効な手段を持っていれば一般人でさえどんどん雇っていき、待遇も階級もかなり優遇されてるっす。そりゃ、日本という人口の多い国でも数千人ほどしかいない貴重な人材で社会にとっては当たり前のことなんです。けれど、それは今まで自衛隊として任務やきつい訓練をこなしてきた人たちはどう感じると思うっすか?」
なるほど、そういうことか。
同じ組織に所属する下の者たち同士での静かな争いがあるってことか。
妬み恨みはどこの世界でも一緒なんだな。
「大体理解できたよ。その話を聞く限り特に湯楽さんは当たりがきつかったんじゃないですか? 大野木さんや麻生さんなど対策機関に所属しながらもその中で強い人たちの大半は元自衛隊員の人たち。対して、湯楽隊員はその妬まれてる一般人ですよね」
「正解っす。特に自分は戦闘力はほとんどなくたった一つの便利な魔法が使えるってだけでかなり重宝されてますからね。自分で言うのもなんですけど自分の遠隔魔法は日本で一番優秀な索敵魔法っすから。そんな自分がさらに便利で優秀なこの別世界の瞳なんてスキルを持ってたら何されるか分かったもんじゃないっす。その内、集団リンチとかされるんじゃないっすかね」
そう言って苦笑いする湯楽隊員。
ここで俺は一つ納得できたことがあった。
「だから、湯楽隊員は原田さんに可愛がられてるんですか」
俺がそう言うと湯楽隊員は大きく目を開けて驚いた。
「まさか……そんな優しい人じゃないっすよ!」
「…………」
俺はその言葉には呆れの目を向けて返した。
「えっ嘘ですよね。…………まじっすか? えっ?! じゃあ、あの非人道的な訓練や怒号の数々はなんだったんですか!!」
こいつ気づいていなかったのかよ。
この話を聞いて今思えばだけど、原田さんはずっと湯楽隊員のことを気にかけてたよ。
恐らくそのきつい訓練だって湯楽隊員を一人でも十分やって行けるようにするための優しさだと思うよ。
俺は動揺している湯楽隊員にそっとアイスクリームを差し出した。
これでも食って頭を冷やしなさい。
そして、この作戦が終わったら存分に原田さんに感謝しなさい。
ザザザザザッ。
突然、木から逃げるように何かが一斉に飛び出してきた。
「さて、ようやっとお出ましのようだ」
俺は椅子から立ち上がり、湯楽隊員に聞こえるように言った。
湯楽隊員は原田さんの優しさを知った事実に驚いた後、間を置くことなく奴らが現れたことに動揺を隠せないでいた。
「えっと、えっと……」
「湯楽さん落ち着いて、まずは索敵魔法掛けておおよその数を教えて」
湯楽隊員はその言葉を聞いて落ち着きを取り戻し、目を黄色に変化させ索敵魔法を掛けた。
そして、魔法を掛けてすぐに返事が返ってきた。
「数およそ五千、うち百体ほどはワイバーンよりも反応が大きいです。恐らくドラゴンかと」
やはり湯楽隊員の魔法は優秀だな。
瞬時に数と反応を把握できるなんて凄い。
それに原田さんに鍛えられているだけあり、気持ちの立て直しも早かった。
「分かった、湯楽隊員は下がって。今から防御魔法を展開するからそこから絶対に顔を出さないで。忠告を無視したら命は保証できない、ただし守るならばその命は必ず俺が守るから」
「わかりましたが、俺は男には惚れないっすよ!」
やっぱり湯楽隊員は湯楽隊員のままか。
一言余計だよ。
別に俺は君を落とそうとして言っているわけではないよ。
ちょっとカッコつけたかったのは否定しないけど。
「それと今から使う技や能力は他の人に言わない方がいいよ。拷問されかねないほどに貴重な情報ばかりのやばい能力ばかりだから。俺ならば自力で解決できるけど、湯楽隊員は別だよ」
「わ、分かりました! 絶対の絶対に他言しません! ほら、見てくださいこの敬礼、ここまでしっかりとした敬礼は人生初です!」
「語尾のっすが無くなってるよ。緊張してるの?」
俺は笑うように問いかけた。
「大丈夫っす! 自分は今から歴史を目にする男になるっすから!」
何言ってんだこいつ。
歴史に刻まれるわけ…………。
えっまじ??
「ねえ、歴史って……」
俺が聞こうとすると、湯楽隊員は言葉を被せてきた。
「よそ見しないでくださいっすよ! もうそこまで来てるっすよ!」
ちょっと歴史のことが気になってそれどころじゃないんだけど。
まあ、そろそろ本気出すか。
『アイスシールド・雪花』
『アイスクリスタル』
『ハニカムシールド』
俺は湯楽隊員の前にアイスクリスタルで強化した氷雪魔法と新スキルの防御壁を重ねて展開した。
「あと、言い忘れてたけど俺自身もあまり本気で戦ったことないんだ。一応、防御を展開してるけど俺の魔法で壊れたらごめん」
俺はそれだけ言い残して湯楽隊員と距離を離した。
後から「えっ?!」とか「はっ?!」とか聞こえたけど、それはマジでごめん。
今まで本気を出すような相手っていなかったんだ。
練習がてらに、性能を調べるようにって感じで。
だから、今は少しワクワクしている。
レベル150から200のワイバーンが約5000体にドラゴンが100体。
これ以上ないくらいに全力をぶつけられそうな相手。
それにこの遮蔽物の少ない壮大な草原。
邪魔をする者はいない……いや、湯楽隊員はちょっと邪魔だけど。
さあ、始めますか。
「クウ、ぽん、アイ。強制起床の時間だ。力を貸して」
俺は一言そう言って自分のスイッチを入れた。
「クウッ!」
「ポンッ!」
「…………ッ!」
『精霊解放・冷狐』
俺の言葉に反応した首元のクウは、形態変化し全身をクウが覆う。
マフラーだった装備は、マフラーの形を残しながら上半身を全て覆った。
色は白と青の装飾。
『精霊解放・雷狸』
クウと同じく俺の言葉にぽんが反応し、その防具は下半身を覆うように形を変形させていった。
色は黒と黄の装飾。
『冷狐・雷狸、共に鳴け』
その言葉を発した瞬間、再び精霊防具の形が変形する。
それぞれ別々に変形していた防具は溶け合い混ざり合う。
その姿はさらに新しく変化した。
髪は日本人とは思えない白髪、これはクウの影響を受けている。
装備は黒を基調に黄色、青、白の模様を描いている。
そして、両手には2対の長さの違う短剣。
右手には白に青い装飾がされている、恐らくクウの尻尾部分が変化した短剣。
左手には黒を基調に黄色と青の装飾がされた、短めの短剣、これもぽんの尻尾が変化した部分と思われる。
精霊解放の共鳴した姿、それは新たな防具へと変化した。
「おし、完璧だ。アイはまだ精霊解放できないからとりあえず普通に防具化してくれ」
「…………!!」
最後にアイの防具化。
アイは言われた通り、クウとぽんの防具に覆いかぶさるように紅葉した羽のついた藍色の外套に変化した。
これが今の俺の全力の証である、最終装備の姿。
ちなみにこれから練習してアイの精霊解放も習得予定なので、現状での本気の姿である。
「中二病っすか?」
すると突然、湯楽隊員の声がどこからともなく聞こえてきた。
しかし、ここは湯楽隊員から500m以上離れているはずでありこの場に響くはずのない声。
「いや、これは仕方なくであって……」
「まあ、いいっす。別に中二病が悪いと言ってるわけじゃないので。ちなみにこれは遠隔魔法の一種で遠くの人と会話できる能力っす。ただし、視認できる範囲内のみっすが」
遠隔魔法なんでもありだな。
というよりも、断じて俺は中二病なんかではない。
もう18なんだ。
そんな時期はもう終えている。
……と言いたいがこの姿めちゃくちゃ心当たりがあるんだよな。
最初のダンジョンに入る前にやっていたMMORPGゲームのメインキャラの衣装とそっくりなんだよな。
精霊の防具ってもしかして俺の深層心理を読んで形を決めてたり……しないよな?




