バカと天才は紙一重なのか?
長瀬さんが俺の実力を証明すると冒険者たちに言った。
もちろん俺には知らされており、了承してある。
その場で魔法やスキルを使って証明してくれと言われたら断っていただろうが、そうではなかったので了承した。
その後、部屋の灯りを消し、スクリーンに船上での映像が映し出された。
そこには慌ただしく船上で動く隊員の人たちに数人の子供の姿が映っていた。
そうこの動画は北海道の海でワイバーンの大群に襲われ倒したときの映像である。
ただし、このままだと俺の顔が映ってしまうのでそこはモザイク処理をお願いしてあるので素顔はバレないだろう。
そうしてしばらくは暗闇の中スクリーンに映される映像だけがこの部屋を支配していた。
俺も普通に映像を観たかったのだが、仮面の視界が悪く見えなかったので仮面の改良案をずっと考えて過ごしていた。
その間チラチラと視線を感じたが、もうこれは慣れるしかないのだろう。
端から見たら正体不明のヤバイ奴みたいな立ち位置なのだ。
すると、途中に「おっ」とか「あっ」とか「なんだあれ」などと色々な声が上がった。
何かと思い、お面を少しずらし目を細めて確認するとそこには精霊解放した俺の姿が映っていた。
そして俺は重大な勘違いを発見してしまった。
あの船上での戦いで俺は意識を失ったと同時に水魔法のオプティカルカモフラージュが解けてしまったのだと思っていたのだが、実際はドラゴンのブレスを防いでる時にはすでに俺の姿は見えていたようなのだ。
まあ、別に大した勘違いではないのだがこの少し恥ずかしい気持ちは何なんだろう。
わかったぞ。
あの姿が妙に中二病感が拭えないからだろうか。
それにしても精霊解放を習得しているのは俺だけなのだろうか。
自分から能力を言いふらすようなことはしないが、もしいるならば話をしてみたい。
なんたってあの中二病衣装をまとう気持ちを共有したい。
映像が終わると部屋に白色の灯りが燈り、長瀬さんが再び前に立った。
「みなさんご静聴ありがとうございます。今流しました映像はNumber1とワイバーンの戦闘映像の一部です。これで奪還作戦を早くに踏み切ったことをご理解していただけましたでしょうか?」
多くの冒険者が無言で頷く中、一人のおっちゃんが手を挙げた。
「おう、長瀬はん。なんぼか質問ええか?」
凄い虎虎している感じのおっちゃんだった。
絶対あの人大阪の人だよね。
俺は隣の賢人に小声で話しかける。
(あの人絶対大阪の人だよね?)
(そうだよ。あの人大阪を拠点に活動してるタイガー事務所の虎さんって人。あんな感じの人だけど凄い優しい人だったよ)
(えっあんな我が強そうな人と仲良いの?)
(この間話しかけてくれて連絡先交換したんだ。めっちゃ質問してくるけど、ただの知りたがりみたいだよ。自分で言ってたし)
俺は絶対に仲良くなれなさそうだな。
ああいう、オラオラしてる人は基本無理だからな。
「虎さん、答えられる内容でしたらお答えしますよ」
「おうありがとな。まず映像の前半は全く姿が見えなかったよな? あれは魔法かスキルなんか?」
すると、長瀬さんは少しだけ固まり、俺へと視線を送ってきた。
「個人的なことは答えてくれるかどうかわかりませんが……どうですかね? 秋川さん」
次は賢人が俺を見てきたので俺は首を縦に振った。
賢人は俺の代わりにその虎虎さんの質問に答え始めた。
「虎さん、代わりに俺が答えますね。あれは魔法の一つで対象の姿を透明化または視認できなくなるような効果があります。映像の初め、突然ワイバーンが落ちだしたのはそれを使っていたからです」
賢人が質問に答えると虎虎さんは顎に手を当てて俺の方をジロジロと見てきた。
ちなみにこのおっちゃんは虎さんとかいう名前らしいが俺は虎虎さんと呼ぶことにした。
その方が俺の中でしっくりと来ているからだ。
「なるほどな。そんなとんでもない魔法もあるんやな。ちなみにその魔法はどんな魔法なのか教えてくれへんのか?」
「そこまでは答えられないです、すいません」
「いや、かまへんで。スキルや魔法の公開は義務やないからな。あくまで能力は自己申告や、証明できない能力とかも多いからな。じゃあ、もう一つ、あの魔法を身に纏ってるみたいな姿はなんや? あれ見たときはびっくりしたで」
ふむ、この人は精霊解放のことを知らないのか。
他の人はどうなんだろうか。
知っている人がいれば隠す必要は少ないが、知らないならば別に話す必要もない。
俺は隣の賢人に再び小声で話す。
(精霊、と一言だけ言ってみて。俺のほかに精霊防具持ってる人いるのか確認したいから)
(わかった)
「精霊……」
賢人が一言だけそう言うも特に反応するような人物はいなかった。
むしろ全員が頭にハテナマークが浮かんでいる様子だった。
ということは、精霊防具の存在を知っているのは日本では俺だけの可能性が高いな。
外国では知らんけど。
どうせ国同士でも情報戦やら何やらやっているんだろう。
(賢人、ありがと。いないみたいだから特別な装備とだけ伝えて)
(わかった)
「あれは特別な装備とでも思っていただけたら大丈夫です」
「そうか、あれもNumber1特有の特別なもんなのかな。気になるなぁ。まあええか。じゃあ最後に、Number1の異世界鑑定スキルのレベルは聞けへんかな? あのレベルが分かればおおよそそのダンジョン冒険者の経験や強さってもんが分かるからな。俺たち同業者からしたら一種の指標になるんや。どうやろか、これだけでも答えてもらえんかな? じゃないと、Number1と言えど不明なことが多すぎて安心できひんのや」
へえ、そうなのか。
異世界鑑定のスキルにそんな使い道があるのか。
確か俺の異世界鑑定のレベルは9だったな。
まあ、虎虎さんがああ言っているし、これぐらい言ってもいいかな。
それと。
別に賢人を経由して話す意味ってほとんどない気がしてきた。
むしろワンクッション挟んで話すのは面倒だ。
声からだけじゃ雨川蛍まで辿り着くのは難しいだろう。
もしバレたとしてもその人が有能だったってことで別に姿をさらしてもいいだろう。
そう考え、答えようとする賢人を左手で制した。
「んっんっ、あー。どうも初めまして。賢人を介して話すのも面倒なので、これからは俺から話しますね」
俺が声を発すると、数人ぐらいは驚いたようで目を見開いている。
他には警戒態勢を強めた人までいるくらいだった。
すると、虎虎さんが顎に手を当てて感心したような声を出した。
「ほーやっぱりNumber1も若いんやな。賢人くんと同じぐらいか」
「そうですよ、それで逆に一つ確認したいのですが異世界鑑定のスキルって地球に住んでる人には共通で付与されたスキルでしたよね?」
賢人に聞いた限りでは異世界鑑定のスキルはステータスの存在が判明したときにはすでに地球人は全員が持っていたスキルだそうなのだ。
確かに俺も最初から持っていた古参のスキルだ。
「そやで、君も貰ってるやろ?」
「ありますよ。たださっき言っていたスキルレベルで経験が分かるって具体的にはどんなことが分かるんですかね?」
「なんや知らんのか?」
「ええ、ここ最近に称号がランキングだと知ったぐらいですし」
「なるほどな、Number1の正体は籠り人だったんやな」
「籠り人って何ですか?」
「おお、あんまりダンジョンのこと知らんかったんよな。ダンジョンにはある点から見ると二パターンに分かれるんや。気軽に行けて帰還できる『ピクニックダンジョン』と帰還用のワープが設置されていなく容易に帰還できない『籠りダンジョン』とな。まあ、どっちもダンジョン冒険者内で勝手に呼んでいる名前やけどな。多くのダンジョンは前者が多いんやが、後者のようなダンジョンもたまにあるんや。そして、後者のダンジョンは死亡率が圧倒的に高い代わりにそこから帰ってきた者は強いんや」
なるほど。
籠りダンジョンだから籠り人ってわけか。
「そんな区別があるんですね」
「そやそや、それで話が逸れたが異世界鑑定のスキルレベルな。俺のスキルレベルは5でな、これでもこの中では高い方なんや。そして、異世界鑑定のレベルを上げる方法は一つだけなんや。ダンジョンのアイテムや魔獣をたくさん見て鑑定スキルを使うや。基本的に経験値を貰えるのは最初の1回だけ、それにレアリティみたいな物が高ければ高いほど経験値が美味い。だから、異世界鑑定が高い冒険者はそれなりの冒険をしてきた経験者なんや」
へー、それは初めて知ったな。
初見のアイテムだけがスキルのレベルをあげる経験値になるのか。
基本的に見たことがない物は初めに異世界鑑定をかけていたから俺はレベルが高いんだろうな。
「なるほど、ありがとうございます」
「俺の知識で良ければいくらでも教えたるわ! それでレベルいくつなんや?」
「異世界鑑定のレベルは9ですね。最近、8から9に上がったばかりです」
「な?! 9レベルやと?! どんな冒険したらそんなレベルになるんや?!」
どんなって……。
「まあ異世界鑑定するのは結構好きだったので常に何かしらに使っていましたね。……それぐらいですかね? 自分でもなんで俺がランキング1位なのか分かってないほどなので」
「でも、逆に安心できたわ! 初めは猿の仮面付けて一言もしゃべらんし、やばい奴だと思ってたわ。けど、普通に話せるし敬語も使えるしスキルレベルも高い」
あー、本当にすいません。
さすがに警戒しすぎなのかな?
いや、でもやっぱりこういう立場になってしまった以上最低限の警戒はするべきだよな。
虎虎さんはいい人だけど、ここにいる全員がそうとは限らない。
「ただ俺は平凡で自由な生活を維持したいだけなので害意がないと分かれば今後普通に接しますよ。世間にランキングが露見した今が少しだけ過剰で敏感なだけですから」
「なるほどやな。1位は1位で大変なんやな。わいなら周りに自慢しまくるやろうな、ははっ」
「まあ、それは人それぞれですよ。他に質問ある人はいないですか?」
虎虎さんは納得したようで大人しくなった。
すると、一人の女子が手を挙げた。
「はいはい! あやも質問いいですか?」
「はい、いいですよ」
「あっ、新選事務所でこの3人と固定チーム作ってる金井彩夏って言います! 20歳彼氏無しです!」
彼女は両隣に座っている女子一人と男二人を指さして言った。
それと彼氏がいないらしい。
それはもう頑張ってくださいとしか……。
「で、何ですか?」
俺は色々とスルーして聞き返した。
さて、どんな質問が飛んでくることか。
返せるような内容だと良いのだが。
「さっきの精霊って何ですか? 気になって夜はぐっすりですよ!」
この人は何を言ってるのだろうか。
そこは気になって夜も眠れないとかだろう。
あれだ、バカか。
「あんまり言いたくはないんですけど。逆にこの中で精霊の言葉に心当たりがある人はいますか?」
まあ、さっき確認した限りじゃいないと思うのだれど。
いても詳しく知る人はいないだろう。
と、考えていると長瀬さんがはっとしたように手をポンと叩いた。
「そういえば台湾に行ったときに精霊という言葉をあっちの外交大臣が溢したことがあった覚えがありますね」
台湾か。
日本のダンジョンをまとめる長瀬さんでこの情報量なのだからここにいる人たちは隠していない限りは知らないのだろう。
ということは、やはり詳しいことは話す必要はないな。
「そうですか。では、ここではあまり詳しいことは言えないですが、ダンジョンでは精霊に関係する物が存在するとでも思っていただければ」
という感じで、なんともあやふやな回答をした。
「なるほど! 分からないですが、わかりましたー。私も精霊ちゃんゲットしますね」
おっと、金井さんはやはりバカだったようだ。
いや、むしろ今の回答で分かったということは天才という線も……ないな。
絶対に深く物事を考えないタイプだな。
金井さんに乗ってここは話題を切り替えよう。
「では、他に質問はある方はいませんか?」
俺が再び見回すように質問を促した。
すると、金井さんの隣に座っているチャラ男イケメンが手を挙げた。
別にイケメン爆ぜろなんて思ってない。
チームに女子なんか入れてリア充爆発しろなんて思ってたりしない。
こんな奴にまともに答えてやるか! なんて思ってない。
「じゃあ、俺からも一ついいかな?」
まあ、聞くだけ聞いてやろうではないか。
でも、その前に一応確認を。
「金井さんのチームメイトの方ですよね?」
「そうだよ、彩夏と同じチームで前衛を務めている飯尾綾人という、よろしく」
ほらきたよ。
女子を下の名前で呼んでマウントを取るタイプだよ。
苦手だわー。
「はい、よろしくお願いします。質問の方を」
俺はほんの少しだけ冷たい対応を取った。
「ワイバーンと戦った正直な感想を教えて欲しい。強かったか弱かったかなどを」
それぐらいならば答えようかな。
別にこちは困らないし、他の人も気になることだろうし。
それにしてもワイバーンか……。
「まあ、面倒くさいですよね。空飛ぶ魔獣は基本面倒くさいのが多いので。でも、面倒くさいだけで雑魚には変わりないです」
氷雪魔法だと一撃で倒せないが、電撃魔法だと一撃だからな。
ゲームだとレベル差がかなりあり狩っても経験値的に旨くない。
「……さすが、というべきなのかな。ワイバーンを雑魚扱いか。じゃあ、ドラゴンはどう思ったのかな? 正直俺はかなり驚いているよ。ワイバーンをまとめているのがあのドラゴンだったなんて。しかもレベルが500なんて……」
「俺が戦ってきた中では割かしレベルは高い方ですね。俺一人であれば雑魚に変わりはないですね。ただあの動画のように誰かを守らないといけない場合だと、防御系の魔法やスキルは乏しいので苦戦するとは思います。一人ならばあんな鈍間な攻撃は躱して後ろから不意打ちしますからね」
「あのブレスを躱せるのか?」
「あんなに予備動作が大きければ普通に。無詠唱かつ予備動作なしに魔法を放ってくるウィッチ系統の方が厄介ですね」
「ふー、機動力も攻撃力も俺なんかとは桁が違うようだな。たださっきの映像の氷のシールドとドラゴンを2撃で倒した黒い雷撃、動画サイトに載っている映像から青白い落雷による攻撃しか見たことがないから実際にどんな戦闘をするのか見当がつかないな」
「戦闘スタイルですか? まあ、それならどうせすぐに見られるわけですし良いですよ。この会議が終わったらどこか広い場所借りて見せますよ。その方が皆さんも立ち回りとか意識しやすいでしょうし」
「楽しみにしてるよ」
「他に質問ある方はいますか?」
…………。
「いないですね。話を逸らしてすいません、長瀬さん続きをお願いします」
「色々回答してくれてありがとう。では、この後使えるように演習場を手配しておこう。では、皆さんも納得してくれたところで今回の本題である作戦内容について皆さんとの面談で決定したので説明します」
この後、長瀬さんから北海道奪還作戦の詳細な作戦内容が説明された。
俺は基本的に全ての作戦で参加予定だ。
初めのワイバーン掃討作戦である作戦アルファは11日後の4月2日から開始される。
今日は家に帰り明日からは自衛隊やダンジョン対策機関と共に行動することとなる。
これはもうゲームをやる暇が当分なくなりそうだ。
帰ったら一言所属ギルドに当分inできないことを伝えてから行くことにしよう。
それと同時にいつでもどこでもゲームができるように先輩の働きに期待することにした。
そうして会議は予定より少しだけ時間をオーバーして終え、この後は俺の戦闘スタイルをお披露目ということだ。
お披露目と言うと何か変な感じだが、俺のお願いで俺だけでなく作戦アルファに参加する人たちにはみんなに見せてもらうことにした。
これで初めて俺はちゃんとした強い人たちの戦闘姿が見れるのだ。
期待せずにはいられない。
でも、その前に。
「賢人、このお面視界悪いからトイレで無音の方に変えてくるわ。あとは喋りの方よろしく」
「おう、わかったよ。じゃあ先に演習場行ってるわ」
ということで、俺は賢人と長瀬さんに一言言ってからトイレに向かった。
もちろん場所なんて分からないので案内役で自衛隊の方が一人付いてきている。
「あの! Number1さん! ちょっといいですか?」
トイレに向かおうと会議室を出ようとすると、後ろから大きな声で止められた。
後ろを振り向くと、見覚えのある男性がいた。
「ああ、確か台風島の……」
「覚えててくれたんですね! あの時は助けていただいて本当にありがとうございました!」
その男性はそう言うとそのまま頭を深く下げてきた。
話してみると結構若い人なのかな。
20代半ばくらいには見えるな。
「頭上げてくださいよ。逆に怪我人をあの場で物だけ置いて放置なんて申し訳ないことしました」
「いえいえ、そんなこと言わないでくださいよ。あの場で回復を掛けてもらわなければ死ぬところでした」
「そう言っていただけると助かります」
「それで……あの……動画のことなんですが……」
「ああ、動画配信者なんですよね。あれは削除してもらってもいいですか?」
「そのことなんですが、だいぶ前に削除したんです。元々あの配信はLIVEで配信していたのでたまたまNumber1さんが映ってしまったという感じで……。気づいたときにすぐに削除したんですが、もうその時にはすでに遅くネットで拡散されてしまったのです。本当に私の不注意ですいませんでした!」
そういうことか。事情を知ってから動画を投稿しているならば、今後一切関りを持つつもりはなかった。
けれども、自分のダンジョン攻略を生配信していたのか。
それでたまたま俺の姿がその映像に映ってしまって拡散されたと。
「そうなんですか、なら仕方がないです。元々顔は映っていないし、技が一つ見られたくらいですので。それにしてもダンジョン内であれだけの綺麗な映像をどうやってLIVE配信していたんですか?」
もしかしたらその技術を先輩に教えば何かに役立つかもしれない。
「あれは私の行動記録というスキルなんですよ。その効果の一つで私の見たものをすべて記録してくれるんですが、それを生配信していたのです。けれど、あのスキルは私の目が閉じていても意識を失うまでは効果を発揮し続けるので、私の知らないことも多少であれば記録してくれるのです」
「なるほど凄いスキルですね。動画頑張ってください」
「はい! ありがとうございます! もう一つだけいいですかね?」
「なんですか?」
「これを貰っていただけないでしょうか?」
そう言ってその男性は分厚い封筒を渡してきた。
俺はすぐには受け取らなかった。
「これは?」
「台風島で頂いたアイテムの代金と回復代金と少し入っています」
「お金ですか? 別にいいですよ、そんなつもりで渡してはないですし」
それにあんなアイテムは端ものだ。
「じゃあ、せめて私から何か恩返しできるようなことありませんか?」
「急に言われても今は特に思いつかないですね」
「そうですか……」
「じゃあ、賢人と連絡先でも交換しといてください。何かあればこちらから連絡するので」
「はい! ありがとうございます! 連絡お待ちしております! Number1さんは私の命の恩人ですので、私のできる範囲であればなんでもさせていただきます!」
「わかりました。じゃあ、またあとで」
そう言うとまたその男性は頭を下げてきた。
うーん、なんとも面倒くさそうな人だ。
まあ、賢人が何とかしてくれるだろう。
そして俺は再度トイレへと向かった。
と、次は同行している自衛隊員の方が話しかけてきた。
確か名前はカガチさんとか言ってたような気がする。
同行してくれる自衛隊の方って毎回変わるから覚えらんないんだよな。
「あの……」
「なんですか?」
「あの……あまり雨川さんとは話すなと言われているのですが、一つだけお聞きしたいことがあるのですが聞いてもいいですかね?」
カガチさんはとても申しわけなさそうに話しかけてきた。
「えっとカガチさんでしたっけ? 別に俺に気を使わないでください。むしろ年上の方に敬語を使われる違和感はあまり好きじゃないので」
「私的な場所であればそうします。この場ではさすがに上官に怒られます」
そう言って苦笑いするカガチさん。
「そうしてください。それで聞きたいことって何ですか?」
「あっ、話が逸れましたね。雨川さんは新城さんのファンなのですか?」
「もちろんです! 新城秋が声を入れているアニメは全部見てます! 声が可愛い! 見た目も可愛い! そして何より上手い! 一度ライブに行ってみたいんですが、チケット当たったことないんですよねー」
「やっぱりそうでしたか! 実は僕も秋ちゃんのファンなんですよ! 上官から『Number1のために声優の新城秋のライブかサイン会のチケットを入手してくれ』って頼まれたのでもしかしたらと思ったんですよ!」
な、なんと?!
こんな近くに新城ファンがいるとは。
これは仲良くならねば。
俺はカガチさんの手を取り熱い握手を交わす。
「カガチさん! 俺たちはもう友達です! 新城ファンはみんないい人だと決まっているんですよ!」
すると、カガチさんは目をキラキラさせて強く握り返してくれた。
「はい! これは友情ですね!」
「そうです!」
「それともう一つ本題があるんです! 上官には話していなかったのですが、実は今度のライブ友達と行く予定だったのですが、友達の方が仕事が入ってしまったみたいで良かったら一緒に行きませんか?」
「えっ俺でいいんですか? そんな貴重なチケットを……」
「他に一緒に行ってくれるような知り合いの当てもないので逆に一緒に行ってくれると助かります!」
「じゃあ、行きましょう!」
そうして俺は念願の新城秋という超絶可愛い声優のライブチケットを入手したのであった。
いやー、今日はもう帰りたいな。
このハッピーな気分で今日という素晴らしい日を終えたいな。
「あっちなみにですがカガチじゃなくて加賀谷ですので!」
「……すいません」
ということで、カガチさん改め加賀谷さんにはトイレの外で誰も入れないように見張りをしてもらい俺は精霊防具のクウ、ぽんの2匹を装備し、無音のお面を装着した。
アイは戦闘においては羽が無駄に風抵抗を受けてしまうので今回はお預け。
もし飛べるようになったらその時は装備するつもりだ。
そして、加賀谷さんに連れられ屋内の広々とした演習場に案内された。




