傷口は抉れ!
俺は真野さんのおかげで車に酔うことなく無事に自衛隊の基地へと到着した。
車を降りるとそこには賢人に工藤さん、長瀬さん他数名の自衛隊の服を着た人たちが出迎えてくれた。
いや、出迎えてくれているのか?
賢人なんて今にも襲ってきそうなほど凶悪な顔をしている。
ふふっ、早速俺の新スキルが火を噴くのかな?
あっちなみに新スキルとはンパの屋敷の宝物庫らしき部屋にあったセレクトスキルスクロールを貰い、取得したスキルだ。
一応、ンパの物だから確認したのだが、レーザーカノンに不要なスキルはいらないんだとか。
変な拘りのあるやつだよな、このスキルあればそれなりに強くなれると思うのに。
そのまま俺は皆がいる方へと申し訳なさそうな顔をしながら歩いて行った。
こういう時は第一声が重要だ。
そして、ある程度近づくとすかさず華麗に頭を下げた。
「遅れてすいませんっ!」
「はぁ、蛍何があった?」
「とりあえず秋川くんも落ち着いて、ね? 外は寒いし一旦中に入ろうか」
賢人の言葉に被せるように工藤さんが助け舟を出してくれた。
「だってよ蛍、中入ろうぜ」
「おっおう」
あれもしかして賢人そんな怒ってないのかな?
ふふっ新スキルは火を噴かなかったぜ。
その後、俺はいつのまにか車から降りていた真野さんに一言お礼をし、大の大人に囲まれながら基地内部へと足を踏み入れた。
賢人について行くこと3分程でとある部屋の前へと来ていた。
中に入ると、奥側には10脚ほどの椅子と長机があり、ドア側には2脚の椅子だけがあった。
賢人はそのまま近くにあった2脚の方に座り、自衛隊の方はぞろぞろと奥の方の椅子に向かって行った。
俺は考えた。
んー、俺はこっちかなっと。
俺は徐に大人の最後尾についていき10脚あるうちの一番端っこに座った。
皆一度俺を探すように視線を巡らせてから俺の違和感に気づき、一様に「えっ?」みたいな視線が注がれた。
まあ、そうなりますよね。
「冗談ですよ、冗談。みなさんそんなマジな顔しないでくださいよ、ははっ」
俺はごまかすようにそんなことを言いながら賢人の隣に座り直した。
あちら側に偉そうに前かがみに座ってみたかったとかそんなことはない。
本当にないったらない。
ちなみに賢人は笑いを堪えていた。
おしっ、作戦成功。
賢人の怒りをどっかにやる作戦だ。
まあ、正直に言うと偶然の産物でしかないのだが。
「あー、冗談は置いておいて改めて遅れてすいません。えっと、どこから話せばいいですかね?」
俺がそう聞くと、工藤さんが口を開いた。
「とりあえず台風島で何があったのかな? 簡潔に話してくれると助かるよ」
台風島のことは賢人から聞いたのかな。
「えっと、簡単に言うとある島で足止め食らっていたと言えば伝わりますかね? ある島に足を踏み入れたらもうそれは大量の魔獣がいましてそれらを倒すのに時間が掛かってしまったって感じですね。それが遅刻の理由ですね」
「ワイバーンをも瞬殺する雨川くんが足止めされるほどの魔獣か……それは想像できないね」
「あっそういえば一応聞かれると思ってその魔獣の写真を撮ってきましたよ。これです」
俺はそう言って一枚の写真を見せた。
念のため戦闘の休憩中に撮っておいたヴァンパイアファミリアの写真だ。
改めて見ると写真は魔獣で埋め尽くされてただ黒く塗り潰したようにも見えた。
ただしよく見るとこれ全て魔獣だと分かるだろう。
「こ、これは?! これ全部が魔獣だと言うのかね?!」
机をバンと叩き、偉そうな50歳くらいの隊員の方が言ってきた。
ん?
どちら様ですか、初めましてですね。
「そうですよ、確かレベルは…………215くらいだったはずです。そんなに強くないので一体一体は弱かったのですが、何せ数がこれですからね。さすがに時間が掛かってしまいました。まあ、最後はあっさりとしてたんですけどね」
「「「はい?」」」
俺的には経験値旨い奴がいて結構ウハウハだったんだけどね。
俺がそう言うとみんなは何かに驚いたように目が点となって固まっていた。
「ん? 何か問題でもありました?」
「い、いや特に問題はないのだが……その、失礼した」
中でも口をあんぐりと開けていた先ほどの50代くらいの人が何故か謝ってきた。
「いやいや、大丈夫ですよ。それで皆さん何にそんな驚いているんですか? あっ賢人もな。あーもしかして数ですか? さすがにこれは俺でも初見はびっくりしましたよ、ははっ」
俺がそう言うとまたしてもみんな一様に目だけじゃなくて口まで点になり驚いていた。
あれ、俺なんか可笑しいこと言ったかな?
「あのー……、本当に何に驚いているんですか?」
「…………」
えっ?
無視?!
それは結構傷つくぞ。
俺は聞く人を変えるべく、賢人の肩を叩いたが反応してくれなかった。
こいつまでラグってるのかよ。
俺はそのまま頬をペチンと音が鳴るだけで威力のないように軽く叩いた。
「おい、賢人お前までラグってるんじゃないよ」
「ああ、ごめん。って、いやそりゃ驚くだろうが!」
「だから何が? って」
「はぁ……俺じゃなくて工藤さんに聞けって。俺よりも工藤さんたちの方が詳しいんだから」
俺はその言葉の通り工藤さんたちに向きなおって尋ねた。
「ごめんごめん、私たちも雨川くんの過小評価していたみたいだ。それで雨川くんはさっきレベル215が弱いって言ってたよね? その発言ができるのは世界でもシングル冒険者くらいだろうね」
あーレベルのことか。
そうならばさっさと教えてくれれば良かったのに。
俺は俺の価値観で魔獣を判断してるけど、一般的には普通じゃないということかな。
「まあ、そこは曲がりなりにも俺は世界で1番ってことですし? これぐらい当たり前と思って割り切ってくださいよ。それでもおかしかったらその都度指摘してくださいね」
俺がそう笑顔で言うと、再び工藤さんが口を開いた。
「じゃあ、まずはレベルについて簡単に話そうか。ワイバーンのレベルは大体いくらぐらいか知ってるかい?」
「んー、確か俺が戦ったのが150ぐらいだったような覚えがありますね。うろ覚えですが」
「うん、弱い個体だと大体それぐらいだ。強い個体だと200レベルを超えるくらいだ。それで日本の自衛隊と冒険者含めワイバーンに単体で対抗できる戦力は恐らく10人いるかいないかってところなんだよ。これで君がどれくらい非常識なことを言っているかわかるかい?」
なんとなくは想像できるけど、もう少し詳しい情報が欲しいな。
「その10人は一人でワイバーンを何体くらい相手にできるんですか?」
「長瀬局長、確か前に淡谷くんは15体くらいが限界って言ってましたっけ?」
「確かそれぐらいであったはずだ」
「ということだよ、雨川くん。淡谷くんって言うのは日本だとランキングが3番目に高いダンジョン冒険者のことだよ。これでわかるかい?」
日本で3番目に強い人か。
俺ならワイバーン何体相手にできるかな?
……数え切れないかもな。
そう考えると、うん。
俺が非常識ということが改めて証明されてしまったわけか。
さすがは世界1位。
ははっ、我ながら自画自賛とは面白い。
「何となくですが理解できました。まあ、そこは工藤さんも割り切ってくださいよ。俺は俺ですし。それに俺がいればワイバーンなんて何体でも相手できますので、たぶん……」
「まあ、もう君の発言には慣れるしかないのかもね。それでもさっきの215レベルが弱いの発言は驚いたよ、ははっ。さすがシングル冒険者の頂点の男だね」
「まあ、そういうことです。それで他は何を話せばいいですかね?」
「それじゃあ、もう一つ。台風島のダンジョンの砂場の島で誰か助けた覚えはあるかい?」
誰か……。
あー、そういえば致命傷の男に回復魔法掛けたっけ。
「いましたね。それがどうしました? というか何で知ってるんですか?」
「その男性が雨川くんにお礼が言いたいそうで後で会ってくれると助かるよ」
「はあ、分かりました。考えておきますね、別に助けたつもりはないので」
「うん、まあいいさ。それでここからが本題なんだけど……その前にもう昼ご飯の時間だね。この話は長くなるから食べてからにしようか」
ということで、ここのみんなで食堂へと向かうこととなった。
その道中。
「蛍、さっき工藤さんが言っていた助けた男の人な……」
「なんだよもったいぶって」
「いや、その動画配信者だったらしくてな……その……」
動画配信者?
ってことは、もしかして……。
マ・ジ・で・か!
俺は明らかに落ちこむほどに溜息を吐いた。
賢人はそれで理解したのか小さな声で「ドンマイ!」と言ってきた。
「それでその動画はまだ載ってるのか?」
「ああ、一昨日俺も確認したよ。お前がサンダーボルト使いまくって巨大ミミズを蹂躙している姿が鮮明に映っていたよ。幸いにも顔は仮面で映ってなかったが、後姿がな……」
「まあ、顔映ってないならギリセーフ?」
「まあ、最初は俺がNumber1だと後姿で勘違いされたくらいだからな。一般人だと蛍があの後姿のやつなんて見当がつかないだろう。見当がつくのはそれなりの上位のダンジョン冒険者だけだってさ。それにこのことは長瀬さんが他の冒険者に口止めしてくれてるみたいだから安心して生活はできるだろうよ」
「えっ何それ面白い。賢人が俺と勘違いされていたってこと? 詳しく教えろよ、ははっ」
俺がそう言って賢人のこめかみをからかうようにぐりぐりした。
すると、次は賢人が明らかに落ち込んだように溜息をついた。
おっ、この反応は絶対に何かあったな。
くっくっくっ、これは絶対に吐かせてやる。
その後、工藤さんと賢人と長瀬さんと4人で食堂でご飯を食べた。
それにしても長瀬さんと工藤さんがいるだけで道が勝手に開けて、勝手に席を譲ってくれるような光景は面白かったよ。
これが権力者なんだなってしみじみ感じながら食事したよ。
俺は絶対にああはなりたくないね。
むしろ気を使われるのは嫌いだ。
ちなみにメニューはちょっとしたステーキにスープやら何やらが色々と付いてきた定食だった。
美味しく食べながら、俺の台風島の話を色々とした。
ただ飯最高ですね。
台風島について色々話していたらボーナスくれるんだってさ。
やったね、情報って偉大だわ。
それに、台風島のダンジョンはかなり高レベルのダンジョンのようで俺以外に俺が助けた男性しかそのダンジョンに入れていないとか。
まず台風の中に入れる人が少なくて入れても初めから90レベル代の鳥型魔獣がわんさかいて普通の冒険者じゃ入れないんだとか。
だから、俺がダンジョンで人を助けたことが判明したらしい。
ということでこの情報を経て、このダンジョンの危険度ランクを上げると話していた。
俺は危険度ランクという言葉を初めて聞いた。
なんとダンジョンはそれぞれダンジョン対策機関によって危険度別にA、B、C、D、Eにランク分けされており、その実力を証明しないとその危険度ランクのダンジョンに入る許可が下りないんだとか。
俺は元から危険度の一番高いAランクダンジョンに入る許可があるため話す必要がなかったらしい。
ちなみにEランクダンジョンは自衛隊のダンジョン対策機関に所属しているか、認可のあるダンジョン事務所に所属していれば許可証が発行されるらしい。
Dランクダンジョンはランキングが9桁以内の者が入ることができ、Eランクの許可証を更新することで入ることができるらしい。
Cランクダンジョンで8桁、Bランクで6桁、Aランクで3桁のランキングがそれぞれ必要らしい。
まあ、一応例外などもあるようだが基本的にはそう言うことらしい。
ただこのダンジョンの危険度は結構コロコロと変わるらしい。
まあ、まだ低層しか攻略のできていないダンジョンばかりみたいなので危険度の断定は難しいらしい。
と、そんなこんなでご飯を食べ終えて再びお偉い人たちとの面談が再開したのであった。
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「と、まあ作戦の概要はこんな感じになっています」
あの中で一番地位が低そうな自衛隊員の方が俺に作戦の概要を説明してくれた。
「大体わかりました」
「はい、そこで現在当作戦に参加する予定の事務所に希望や戦力などを伺い詳細を詰めている段階になっています。調査が完了した他のダンジョン冒険者の方々は家に一度帰られている人もいればここに滞在している人たちもいらっしゃいます。一応、皆さん雨川さん待ちという形になっております。その説明の際に雨川さんが遅れていることをお話ししましたが、そこはご了承ください」
「大丈夫ですよ、むしろこっちが悪いんですから」
「そう言っていただけると助かります。それでは、雨川さんには一応どの作戦に参加するかなどの希望をお伺いできますが……」
「俺は基本的にお任せしますよ、元々そう言った契約ですし。最後の掃討作戦も参加しますし、ワイバーンでも何でもござれですよ。けれども、一つだけ。旭川の強力な魔獣討伐には俺を必ず加えてください。そして、そこでのある程度の自由をお願いします。そこだけは譲れないです」
旭川に参加するのは工藤さんとの元からの約束だ。
そこで工藤さんの奥さんを探すのが俺にとっては一番重要なことだったりする。
むしろそれがメインな気もする。
「わかりました、そこは工藤上官からある程度確認しているので問題ありません。それでしたらこの作戦を変更することなく済みそうです」
「それは良かったです」
「それでは皆さんとの面談が終わりましたので、明後日にもう一度皆さんには集まっていただく予定です。それまでは、ここに滞在してもらっても構いませんし、家に一度帰ってもらっても構いません。どうしますか?」
「んー賢人。俺は家に帰りたい。」
「俺も家でやり残したことあるから一度帰るよ」
ということで、俺達は一度自宅へと帰ることとなった。
のだが、賢人はもう少しだけ工藤さんたちと話すことが有るそうなので先に俺だけ家へと帰ることとなったのである。




