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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【第3章】東京 編

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気持ちを落ち着かせる香り



「…………!!」


 紅葉烏?

 そこには先ほど戦った紺色の羽を持つ紅葉烏の姿があった。


 あれ?

 精霊じゃないのかな?

 こいつってさっきの魔獣だよな。


 そう考えながら、俺はただただジッと紅葉烏を見つめていた。

 紅葉烏も同じようにただただ俺をジッと見返してくる。


 よく見ると可愛い顔をしているな、この魔獣。

 とりあえず、戦意はなさそうだから鑑定しますか。



 【status】

   種族 ≫防具精霊・紅葉烏

   名前 ≫

   契約者≫雨川 蛍

   スキル≫パッシブ ≫共存共栄

      ≫アクティブ≫防具化(外套)

   魔法 ≫秋風魔法Lv.5



 やっぱり防具精霊なのか、この魔獣は。

 もしかしてクウやぽんも元は魔獣なのかな。

 まあ、いつものことだが考えたところで答えがでるわけでもない。


 とりあえず害意はなさそうなので、近寄ってみる。


「お前は防具精霊で間違いないんだよな?」


「…………!」


 その紅葉烏は器用に羽で敬礼して、返事をしてきた。


「うん、そうなのか。それでお前は鳴いたりしないのか? 俺の他の防具精霊はクウッとかポンッって感じで鳴くんだけど」


 その紅葉烏はその小さな頭をブンブンと横に振った。


「うーん、困ったなあ。鳴き声がないと名付けが難しい………」


 紅葉烏に手の上に乗ってもらい、ジッと近くで観察する。


 紅葉烏……赤、黄、褐色、緑……紺色……藍色……。


「決めた! お前の名前は今日から『アイ』だ! ただし、拒否権はある! どうする?」


 俺がそう問うと、紅葉烏はその小さなくちばしで俺の額を嬉しそうにコツンと突いてきた。

 うん、大丈夫そうだな。


「よろしくな。それで早速だけど、防具化…………の前に、クウとぽんに紹介しておくか」


 俺はクウとぽんを起こし、獣化してもらう。


 すると、俺が紹介する前にクウとぽんが短い前足をちょこんと地面につけて頭を下げた。

 そして、アイも器用に両羽を地面につけて丁寧に挨拶を始めた。

 次にクウが頭を下げる、ぽんが頭を下げる、アイが頭を下げる、俺が女将流挨拶をするといった感じで混ざってみた。


 しかし、俺はこの行動を後で後悔した。

 正座を長時間していたため、知らぬ間に足が痺れてしまったのだ。

 そして現在、足が俺の意に反して棒のように振る舞うので地面に突っ伏していた。


「足の感覚が一切ないし、ジンジンして気持ち悪い………」


「クゥ……」


「ポッ……」


「…………ッ」


 そんな残念な人を見るような目で俺を見降ろさないでくれ。

 なんか悲しくなってくる。

 それにしても、正座を長時間やるとこんなにも足が言うことを聞かなくなるとは知らなかった。


 今日は次の島で進むのを止めようかな。

 新しい防具精霊も手に入れたことだし、検証もしたいからね。

 じゃあ、さっさと進みますか。


 ………

 …………………


 Oh、足がまだ痺れて動かない………。

 もう少しだけ待ってください。

 だから、君たちそんな目で見降ろさないでくれよ。


 俺はそう無言で精霊たちに訴えかけた。



******************************



 次の日、俺には羽が生えた。


 というのも、アイの防具姿には羽が生えていたのだ。

 防具姿の外套は紺色のフード付きで、背中には収納ができない大きな鳥の羽がついていた。

 それも紅葉烏の名に恥じない赤や黄、褐色や緑など紅葉を思わせる羽がその中にはあった。

 しかも、それ任意で赤色のみの羽にしたり、黄色、褐色、緑の単色だけにも変更できる。

 もちろん、アイの持つ藍色の羽にも変えることができた。


 この姿はさすがに中二病感満載の姿でちょっと恥ずかしいが、空を飛べるならば許せると思っていた。

 ………しかしこの羽、ある程度は動かすことができるのだが、空を飛ぶことはできなかった。


 この時点で俺は思った。

 この羽の意味は? と。


 そう言えば今まで飛行する魔獣は、羽に加えてフライや飛行、風乗りなどのスキルを常に持ち合わせていることを思い出した。

 ということは、空を飛ぶには羽に加えて飛行系統のスキルが必要ということになる。

 羽を手に入れた俺は、あとスキルをゲットするだけだ。


 まあ、今は新しい精霊防具と魔法が手に入ったことだしいいか。


 さて、新しい魔法の秋風魔法の検証をしますか。

 魔法の鑑定結果はこうだ。



 【秋風(あきかぜ)魔法】

   初秋風(はつあきかぜ)

   金木犀(きんもくせい)

   金風(きんぷう)

   秋風索漠(しゅうふうさくばく)

   黍嵐(きびあらし)



 うん、名前だけじゃ全然効果が分からない……。

 変な魔法があったら怖いけど、試してみるしかないか。


『初秋風』


 あっ秋が来た。

 って、感じの涼風がふわっと吹いた。

 やっぱりレベル1の魔法は基本使えないんだな。


 じゃあ、次


『金木犀』


 あっ金木犀の香りだ。

 って、感じの香りがフワッとした。

 これはあれだなルームスプレーみたいなもんだな。


 次、つぎ。


『金風』


 あっ秋だ、寒いー。

 って、感じの風が少し背中を押すくらいの強さで吹いた。


『秋風索漠』


 普段目には見えない風が灰色の風となり、目に見える形で吹いた。

 すると、この島に生えていた草木が風でなびいた瞬間に枯れ果てた。


 何この魔法…………。


 生命を奪う風?

 だとすると、強すぎるよな。

 即死魔法なんてこんな低レベルで覚えられる魔法とも考えられない。


 ということは、生命ではなく自然を対象とした朽ちる魔法ってとこかな。

 次の島の魔獣で再度検証してみるか。


『黍嵐』


 すると、急にその場に立っていられなくなるほどの寒い強風が周囲を襲う。


 この魔法はやばい。

 発動した俺自身もこの場に立っているのがきつい。 

 地面にアンカー打つか。


『ウォーターライトソード』


 足裏と両腕から水の刃を発生させ、地面に深く突き刺した。

 それでこの強風に耐えうるだろう。


 にしても、立ってるのがきついレベルの強風を発生させる魔法か。

 これは使えそうだけど、範囲が俺にも及ぶのがなあ………。

 まあ、使いどころによってか。


 さてさて、今のところすぐに使えそうな魔法はないな。

 これは当分我慢して使いつつ、レベルアップでいい魔法が出るのを待つしかないな。

 それか造形操作で風を操れるほど練習するか。


 おし、考えるより先に動けだ。

 さっさと実践で使って慣れていくしかないな。


 そして、俺は次の島、33番目の島へとワープする魔法陣へと足を踏み入れた。



******************************



 もう49番目の島へと到着していた。


『黍嵐』


 目の前の狼の魔獣に対して、上から押し付けるように強風を浴びせる。

 魔獣は吹き飛ばされないように地面に伏せて動かなくなる。

 そこを俺は練習台にする。


『ディスチャージ』


 ちょっとだけカッコつけて右手で銃の真似をして、その指先から電撃を動かない魔獣に向けて放つ。

 電撃は真っすぐに魔獣へと進み貫いた。

 そして、いつも通り光となり空中に溶けていく。


 次の個体には、俺が走りながら指で照準を合わせて放つ。

 それを繰り返した。


 これは以前に紅葉烏でディスチャージを外してしまったため、どんな個体に対してもどんな態勢でも当てられるように練習中なのだ。

 その為に、秋風魔法の黍嵐は魔獣の動きを阻害するのにちょうど良かった。


 先程、カッコつけて指を銃の形にしたと言ったが、実は理由がある。

 意外とこれ、照準を合わせるのに手軽で都合が良かったのだ。

 まあ、最初はちょっとだけカッコつけようとして指を銃の形にしたのは否定しない。


 あっいいこと思いついた!


 俺は両手の指を銃の形にする。


『ディスチャージ』

『ディスチャージ』


 二丁拳銃ってカッコいい………と、思ってやってみたけど左手で放った電撃は当たらなかった。

 うん、左手の照準合わせは練習するけど………当分は大人しく右手だけ使おう。


 というか、元々これぐらいのレベルの魔獣ならば俺のスキルの魔法力と合わせて考えると、このディスチャージの魔法で十分すぎる火力なのだ。

 そして、MPの燃費もいいし、発動から相手を貫く速度も水魔法や氷雪魔法より速い。

 いつもは色々な魔法を敢えて使うことで慣れるようにしていたが、そろそろ使う魔法を絞って熟練度を上げていった方がいいよな。


 とりあえずはこのディスチャージは要練習だ。

 ある程度、思うように変形させたり動かせたりできるようになったら他の魔法の練習もしていこうか。


 ということで、次はカーブでも掛けてみようかな。


『ディスチャージ』


 それは、想像した軌道は描くことなく、魔獣の1m程横に着弾した。

 これ相当難しいな………。


 もう少しだけ詳細を検証してみるか。


 ………

 ………………

 ………………………


 ディスチャージについて丸一日掛けて分かったことがある。


 まずは飛距離だ。

 今までは気にしたことがなかったが、この魔法には着弾点までの距離が一定だった。

 発動した場所から対象を結んで真っすぐ4km先まで電撃が進んだ。

 これは氷を一定の間隔で配置して確認した。


 基本的に雷みたいな放電は高いところから低いところに進む。

 地球でもよく見る落雷の放電は雲から地面という低い場所へ向かう。


 しかし、この魔法は発動した点から真っすぐ4km先まで地面と平行に真っすぐと進むのだ。

 これは魔法だから、ファンタジーだからと片付けるしかない。


 けれども一つだけ、明確に分かったことがある。

 4km先の着弾点はこの電撃の収束点であり、落雷でいう地面のような役割を果たしていた。

 そして、それは俺の意思と造形操作のスキルで任意に場所を変更することができたのだ。


 なので、例えばこの電撃の放電距離を1mと短くすることもできるし、4km以上の距離に設定することもできた。


 そしてもう一つわかったこと。

 それは軌道の設定方法だ。


 最初はなぜこの魔法は必ず思い描いた場所を貫通するのかという疑問から始まった。

 それは意外とすぐにわかった。


 基本、落雷は真っすぐ進まない。

 空気中の経路に沿って進む。


 それが何なのか検証し、考えているとある物を認識することができた。

 それは、魔法の収束点と似たようなもので、電撃が必ず通る通過点がいくつか軌道上に存在したのだ。

 その通過点が今までは自動で貫く対象に設定されていたため必中していた。

 そして、この電撃は現実の空気には干渉されず、通過点と収束点のみに作用する。


 今まで通過点は認識していなかったため、任意で動かすことができなかった。

 しかし、認識した今、電撃の軌道は通過点の配置次第でいくらでも変更することができた。


 それでも、基本的には収束点に対して大きく逸れない配置しか無理だ。

 例えば、こちらにUターンするように通過点を配置してみたが電撃はその軌道を進まずにある地点で減退した。


 ただこれが分かっただけでもかなりこの電撃魔法ディスチャージは柔軟な使い方ができるようになるだろう。


 周囲に被害を出さないように、収束点を魔獣のすぐ背後に設定し、通過点を変えることでカーブやジグザグな軌道でも描けるようになった。

 そして、元からある程度威力調整はスキルで出来るのでこれで検証は十分だろう。


 あとは、反射的にでもこれをできるようにパターンを決めたり、反復練習、実践練習をするのみだ!


 なんかこういう楽しいことで、自分の実力に直結する練習とかは好きかもしれない。

 結構、この時間が楽しい。



******************************



『ディスチャージ』


 その電撃は弧を描き、魔獣を貫き、すぐに収束する。


 余裕があるとき、俺はいつも心の中で「ストライク!」って言ってる。

 なんかこの魔法ってゲームの野球みたいだなってときどき思う。


「ん~、そろそろいい時間だな。今日はこの島で宿を取るかな」


 ということで、アイテムボックスから魔法のテントを取り出して簡易的にその場に設営した。

 中に入り、湯船にお湯を張っている間に、今日のドロップ品の整理をした。

 そして、お風呂に浸かり濡れた髪のまま眠ってしまった。


 プルルルル。

 プルルルル。


 ん?

 眠い目を擦りスマホの画面を確認すると、その電話は賢人からであった。


 時間は夜中の…………って、まだ夜の10時だった。

 久しぶりに体と頭をフル活用して疲れたから、すぐに眠ってしまったようだな。


「もしもし、何?」


『……もしかして寝てたか? 声が眠そう……』


「ん、寝てたけど大丈夫。歯磨きは忘れてたから逆に助かった」


『……そうか。それで……さっき工藤さんの側近の上木さんから連絡があった……』


「おっやっとか。北海道奪還作戦の件だよな?」


『……そうそう、2週間後の3月19日に工藤さんが青森から東京に来るみたいだから…………その時に現状報告とすり合わせをしたいってさ………』


「りょうかーい。今日が5日で、前日の18日に帰るとして、後13日しかここにいられないのか」


『……そうだな。……それと蛍のやってるゲームの大規模イベントをやるって情報が公開されたらしいぞ……』


「イベントだと? いつからだ!」


『……ちょうど蛍が帰ってくる週の土曜日だってさ……』


 ホッ。

 助かった。

 18日より前に開催されるなら、ダンジョンかイベントか揺れていたところだよ。


「情報ありがと! とりあえずは後13日はこっちに潜ってるよ。なんかあったら連絡くれ」


『……了解。それと長瀬さんから……できれば蛍の使える魔法やスキルの開示をしてくれないかって頼まれたけど断るよな? ……』


「もちろん開示する気はないよ、もし少しでも情報が欲しいなら『声優の新城さんのサイン会の券でも用意するんだ』とでも言っておいてくれ。まあ、俺がまだダンジョンに潜っている時の発売でもうどこも売り切れで俺でも全く手が出なかったんだから無理だろけどな」


『……鬼畜蛍だな。まあ、返事はしとくよ……』


「頼むよ」


『……起こして悪かったな、おやすみ。……あっ恵、ありがとう……』


 恵?

 ついに、恵ちゃんから恵にアップグレードしただと?


「賢人。今、恵のこと呼び捨てしなかったか?」


『……ああ、ちゃん付けは気持ち悪いから呼び捨てにして欲しいって言われたんだ……』


「ふーん、まあいいや。おやすみ」


 そうして、俺は電話を切った。


 それにしても、恵はちゃん付けを嫌うタイプではなかったよな?



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