紅葉は赤と黄と褐色、そして緑の織り成す芸術だ
あれから俺は30番目の空島に来ていた。
死にかけの男性を助けた次の島からは魔獣がわらわらと出現していた。
ということは、このダンジョンはリポップが遅いのか、一度しか戦うことのできない型なのだろう。
そして、このダンジョンには面白い規則性があった。
このダンジョンは途中の無駄がなく、全てボス戦のみで構成されていたのだ。
26の島では、モザイク必至のはちみつを持つ黄色い熊が15体ほどいた。
27の島では、毒攻撃をしてくる赤紫色の大きな熊が7体。
といった感じで、この30の島まではカラフルな熊が現れた。
そして、もう一つ面白いのがこのダンジョンの島の環境が毎回変化するのだ。
ただの平原であったり、毒々しい沼が配置されていたり、強風が常に吹き荒れていたりと。
その都度戦闘方法も変えていたりしたので、実戦訓練としてはかなり優秀なダンジョンだった。
それでも今のところはレベル帯の低い魔獣しか現れていないので、経験値的なのがあまり美味しくない。
なので、さくっと進んでいきたいところだ。
そんなことを考えながら、俺は島のワープ魔法陣を探し歩いていた。
すると、10mほど右側の地面が薄っすらと光っているのが目に映った。
あった………けど、色が赤いな。
今まで見てきた魔法陣は青白色だったが、今目の前にあるのは赤い魔法陣だった。
これは色によって効果が変わるのか?
それとも、ダンジョンのレベルが1段階上がるってことを示しているのかもな。
んー考えても分からないか。
もう少しだけ周りを探してみよう。
そして、そこから20m程歩いたところに見慣れた青い魔法陣があった。
普通の青い魔法陣もあるのか。
この島には魔法陣が二つ………。
そういえば、以前にひよりが普通のダンジョンなら帰還用の魔法陣が一定周期であるって言ってたよな。
だとすると、これはダンジョンの外に出る魔法陣かな。
それなら選択肢は一つかな、まだこのダンジョンを出る気はないしな。
俺は迷わずに青い魔法陣の上に乗った。
……
…………
視界が変わると、そこは足場が2mほどしかない本当に小さな島だった。
いや、島というよりも空に浮かぶ瓦礫って感じ。
そして、目の前には赤色や黄色、褐色の羽を持つ鳥型の魔獣が数え切れないほど飛んでいた。
これは限られた足場の中で飛行型の魔獣と戦えってことかな。
さぁ、始めようか。
【status】
種族 ≫紅葉烏
レベル≫130
スキル≫パッシブ ≫風乗りLv.max
群体行動Lv.max
飛行Lv.max
アクティブ≫紅葉化Lv.max
黄葉化Lv.max
褐葉化Lv.max
魔法 ≫
ステータスからはどんな攻撃を仕掛けてくるかわからないな。
すると、赤い羽を持つ紅葉烏の全身が突然赤く燃え、黄色い羽を持つ紅葉烏は黄色い電気を帯び、褐色の羽を持つ紅葉烏は岩のように硬質化した。
そして、そのまま俺に向かって全方位から一斉に突進を仕掛けてきた。
おっと、この数はいきなり捌けないな。
『電速』
俺は小さな地面を蹴り、真上に電速で瞬時に移動した。
そして、天足の能力で空中に一つの足場を作り、先ほどまで俺がいた場所を確認する。
さて、どうしようか。
あの数に一斉に全方向から突進されるのは厄介だな。
まずは数を減らさないと話にならないか。
『サンダーボルト』
先程練習した落雷をできる限り分散させて、乱れ打ちする。
しかし、全ての魔獣に照準を合わせたわけではないので攻撃をひらりと躱した個体もいた。
その撃ち漏らした魔獣が俺に向かって再度突進を仕掛けてきた。
この程度の数ならば俺の魔法でも一瞬で凍らせられるだろう。
『氷雪世界』
構えた手から膨大な白い冷気が眼下に向かってゆっくりと降りていく。
紅葉烏はその攻撃を躱すことができずに、そのまま冷気の中に突っ込んでいった。
そして、全ての個体が凍り落下していった。
それを確認した俺は足場を消して、面積の少ない地面へと降り立った。
あれ、魔法陣が現れないな。
島の面積が小さいからここに出現すると思ったんだけどな。
ドンッ。
気の抜いたその一瞬、背後から衝撃が走り、島から押し出されるように落下する。
背中にじんわりと痛みが走る。
背中が痛い。
落ちる。
やばい。
マジでやばい。
その瞬間、俺の中の時間だけが遅くなるのを感じた。
初めてのこの危機的状況に俺は対応が一切できなかった。
俺は徐々に小さくなる島をただ眺めていた。
こんなことは初めてだ。
危機的状況になっても俺は勝手に対応できるもんだと思っていた。
しかし、現実は違った。
背中の痛みで頭が回らない、突然のことで頭が回らない、そして体が言うことを聞かない。
俺はここで死ぬのか。
油断して死ぬ死に方ってかっこ悪い終わり方だな。
ゲームでもよく油断してゲームオーバーしてたよな。
本当に強くなっても変わらないのな。
ひよりをまた悲しませてしまうな。
あー、悔いがあるとすれば、あの声優さん一度生で見てみたかったなー。
本当に。
本当についてないな、俺の人生って。
……
…………
ん?
俺は何もしていない。
していないはずなのに、その瞬間に俺の体と空島は氷の鎖で繋がれた。
俺は転落死を免れたみたいだ。
「クッ!」
すると、首元のクウが励ますように顔だけ獣化し、こっちを向いて鳴いた。
「この鎖はクウがやったのか?」
「クウ!」
「助かったよ、俺の体なのに俺の体じゃないみたいな感覚に陥ってたよ」
すると、クウはその尻尾で俺の頭をふさふさと撫でてきた。
なんてできた子なんだ。
俺も返すように鎖で中ぶらりになりながらもクウの頭を撫で返した。
そして、背中を触ってみると生温かいものが手に触れた。
確認してみると、やはり手には血がついていた。
『エレクトリックヒール』
電撃魔法の回復魔法で背中を回復する。
あー、痛みが引いていく。
まさかの初の出血ダメージがこんなレベル帯の低いところになるなんて思いもしなかった。
それにしてもあそこで何が起こったんだ?
俺には何かに背中を押された感覚しかなかった。
背後に魔獣が潜んでいたのか?
ずっとこの機会を窺って。
すると、島の端っこからちょこんと俺を襲ったと思わしき魔獣が顔を出してきた。
あいつか。
【status】
種族 ≫紅葉烏 (ユニーク)
レベル≫245
スキル≫パッシブ ≫風乗りLv.max
飛行Lv.max
アクティブ≫紅葉化Lv.max
黄葉化Lv.max
褐葉化Lv.max
気配遮断Lv.max
魔法 ≫秋風魔法
ユニーク個体か。
確かに、あいつの羽の色は他の個体と違って紺色だな。
それに群体行動のスキルがなくて、気配遮断が生えているな。
さらに言うならば、秋風魔法とやらの魔法が加わってるな。
ユニーク個体というより、群れに馴染めない個体って感じなんじゃないかな?
だから、他の個体とは一緒に突進してこないで、潜んでいたのかな。
それでも俺はクウのおかげで生きている。
怪我も完治した。
そして、俺はもうお前をロックオンした。
もうどんな魔獣だろうと、ダンジョンだろうと油断なんてしない。
全力で叩き潰す。
『電速』
俺は瞬間的に上空へと移動する。
そして、右手を魔獣に向ける。
『ディスチャージ』
俺の右手から一閃の電撃が魔獣に向かって走る。
しかし、魔獣はそれを嘲笑うかのようにちょこんと躱した。
やはり、この魔獣が素早いな。
さっきもサンダーボルトを躱されたからな。
でも、広範囲魔法ならば素早さは関係ない。
『スノウエリア』
俺は周囲1km程を銀雪の世界へと変化させた。
そして、
『霰・氷柱』
エリア全域に激しい霰を天災の如く降らし、造形スキルで一部の霰を氷柱に変化させて魔獣へと攻撃した。
これは俺の中での最大広範囲魔法。
スノウエリアを一手間加える代わりに半径500mの広域に激しい霰と氷柱を落とす魔法。
ただ、俺のいる範囲だけ霰を避ける制御が結構難しい。
それでも今の俺ならば制御できる。
これならばどんなに素早い魔獣でも逃げることはできないだろう。
そうして、かなりの物量の霰と氷柱をその島に降らせたのを確認した後、氷雪魔法の霰のみを解除した。
そして、その島と周囲をよく観察する。
雪は残しておけば、あの紺色の羽は目立つだろう。
やはり島の上で横たわる先ほどの魔獣の姿があった。
少しすると光の粒子となり、そこには宝箱が出現した。
おお、宝箱が出た!
宝箱は大体いいドロップ品が入ってるから期待できるな。
これならば大怪我をしたことを許そうではないか。
それよりも、周囲の確認だ。
もしかしたらまだ似たような個体が隠れているかもしれない。
そうして、天足で造った足場に乗りながら、島の周囲をよく上から見下ろして確認する。
すると、島の中心に青い魔法陣が出現した。
これはここの魔獣が全滅した合図だよな。
俺は島に着地し、スノウエリアを解除する。
宝箱を近くで確認すると、それはローズウッドのような木材でできた質素な物であった。
罠はあるかな。
前のダンジョンでは宝箱に罠はなかったが、あそこはサリエス師匠のダンジョンだった。
しかし、ここは誰かの管理しているダンジョンではない。
警戒しておいて損はないか。
まずはこの小さな島に肉付けするような感じで氷を付けていき、足場の面積を確保する。
そして、宝箱を覆うように氷を張り、アイスクリスタルの魔法で強度を高めた。
そこの一部に小さな穴をあけて、そこから器用に長めの槍で宝箱を開けた。
その瞬間、宝箱を覆った氷の中が赤く染まった。
そして、氷がみるみる解けていく。
氷が解けると、宝箱の中には見たことのあるアイテムが入っていた。
【result】
名称 ≫精霊の封印石(赤)
説明 ≫精霊が封印されてる宝石。解除するには扉が必要。
このフランダースカットの宝石は確実に防具精霊のアイテムだな。
高まる鼓動を抑えながら、その宝石を手に取る。
すると、その宝石から濁流の如く紅葉した葉が噴き出した。
その葉が全て落ち葉となったとき、地面の一部が少し膨れ上がった。
それを注視していると、その落ち葉の山がごそごそと動き出す。
「…………!!」
そして、そこからそれはぴょこんと顔を出した。




