台風島にいざ行かん!!
「なあ、賢人。台風島って何?」
全員がテレビのニュースに釘付けになっている中、俺は賢人に尋ねた。
すると、賢人は「は?」みたいな顔をした。
「蛍さんや、それは大真面目に聞いてるのか?」
「大真面目も大真面目だよ。この顔がふざけてるように見えるのか?」
俺がそうちょっとだけ顔をキメて賢人に問いかける。
「はぁ、蛍。さては、お前東京に来てから新聞やニュース一切見てないな?」
「当り前だろう。そんな時間があったらアニメ見るかゲームするわ。それで、台風島ってマジで何なの?」
「まあ、簡単に言うならば移動型のダンジョンって感じかな」
移動型のダンジョン?
何それ、ちょっと面白そう。
「まずダンジョンって移動できるの?」
「今回の台風島って呼ばれるダンジョンはちょっと特殊だな。ダンジョンが本物の台風の目の中にあるらしいよ。そして、その台風はダンジョンの影響で消滅することがないらしい。加えて、大型の台風でまさに歩く災害みたいなもんだな」
わお、思ったより害悪なダンジョンだな。
「そのダンジョンに挑んだ人っているの?」
「いないはずだ。確かその台風の目の中には、うじゃうじゃと飛行型の魔獣がいるらしいよ。だから、台風の被害と同時に魔獣からの被害もあって最も最悪な災害とか言われてるんだよ」
そうかそうか、まだ誰も挑んでいないダンジョン。
ということは、まだ手付かずのダンジョンであって、強い魔獣がたくさんいると。
これは、行くしかないんじゃね?
「決めた、俺そのダンジョンに入るわ。先輩への後の説明は賢人が話しといて」
俺はそれだけ言い残して自分の部屋に閉じ籠った。
賢人には全て話したし、一部のアイテムはもう倉庫にありその権限は賢人のものだ。
後は、優秀な賢人がやってくれるだろう。
部屋の外のひよりからはガヤガヤとドア越しに言われているが、入ったと同時に氷雪魔法で扉をカチカチに凍らせたから誰も俺の邪魔はできない。
他の賢人や先輩、恵は特に何も言ってこなかった。
俺がダンジョンに行くと言ったらひよりだけが反対すると分かっていたからな。
ひよりは今のままで十分とか言ってたし。
それでも俺には成し遂げなきゃならないこともあるんだ。
サリエス師匠との約束、たくさんのダンジョンの攻略だ。
俺は誰に何と言われようとも、これだけは曲げない。
それにダンジョン攻略は現実の体を使ったゲームみたいなもので楽しいからね。
そして、強くなるのも嬉しい。
さてまずは、アイテムボックスの整理しないとな。
あと、あれも買っとかないと。
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その日の夜、俺は久しぶりにフル装備をしていた。
クウマフラーを首に巻き、ぽんの黒装備も着用。
体温調整機能付きの外套と天足もしっかりと装備した。
無音のお面はダンジョンに入ってから。
そして、扉を凍らせていた魔法を解除してから、自分の部屋を窓から降り、足装備の天足で向かいのビルに駆ける。
その後、とある場所で黒スーツの人物からある物を受け取り再び走りだし、とある裏技で俺は沖縄へと到着した。
台風島が最初に上陸するのは、ニュースの予想ではここだったはずだ。
そのまま歩いて海岸へと向かうと、遠くに明らかに異様なものが蠢いているのが確認できた。
「あれが台風島ってやつか」
俺は氷雪魔法で足場を作ったり、天足で駆けたりしながら海の上を進んだ。
そうすること30分ほどで風が明らかに強くなる場所まで来ていた。
たまに強風が襲い、吹き飛ばされそうになるもそのまま力業で突き進んだ。
そうやって、風と格闘していると急に風が弱くなり始めた。
ようやっと、到着ってわけか。
上を向くとそこには空を埋め尽くすほどの鳥型の魔獣がいた。
そして、そのさらに上空には空に浮かぶ島が見えた。
あそこがダンジョンかな。
てか、島が浮いてるんだが…………。
バ〇スって言ったら、落ちてきたりしないかな。
「バ〇ス!!」
俺がそう大きな声で空飛ぶ島に向かって叫ぶと、さっきまでダルそうに飛んでいた魔獣たちが一斉に俺の方向に向いた。
おっと、風が弱まったと言ってもまだ強い方だから聞こえないと思ってた。
あの魔獣耳いいのかな?
それより異世界鑑定しないと、
【status】
種族 ≫護り烏
レベル≫90
スキル≫風乗り、風壁、群体行動
魔法 ≫風魔法
うん、全然強くないな。
さくっと行きたいところだけど、あの島まで俺天足で駆けられるかな…………。
絶対に無理だな、高すぎる。
『雷化』
俺自身が雷と成り、護り烏を利用して上の烏、上の烏と次々に貫いていった。
「ついたー」
空飛ぶ島に俺は足を踏み入れた。
そこは、直径50mほどの土地しかなかった。
しかし、その真ん中には明らかにここがダンジョンですよ、と言わんばかりの一つの扉がぽつんとあった。
この扉は見たことがある。
あの巨乳のお姉さんの石扉だ。
それにしても、下からじゃこの島の高さがどれくらいか分からなかったけど、結構高いよな。
絶対、俺の家よりも高い所だよ。
下手したら、雲くらいの高さまで来てんじゃないのかな。
そう思わせるほどの高さにこの空飛ぶ島はあった。
でも、普通に息できてるよな。
ダンジョンの周りは普通の環境とは変化するのかな?
まあ、いいか。
さっさと、このダンジョンに入りますか。
俺はその石扉を片手で簡単に開けて、足を踏み入れた。
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「うわあぁぁぁぁぁーーー!!」
俺は絶賛フォーリングアンド絶叫中。
あれ、これなんか既視感。
でも、大丈夫俺は一度経験している。
この後は、減速するはず。
俺の予想通り、地面が近くになるにつれて物理的に減速し、地面にふんわりと着地した。
そこは俺の知っているダンジョンの中ではなかった。
そして、俺はここを知っている。
ここは台風の中だ。
単純にあの扉をくぐった後は下に落ちたのだろう。
俺の知っているダンジョンは発光苔の青い光が薄暗い土壁のダンジョンを照らすような暗いダンジョンだ。
しかし、ここは普通に外だし、先ほど倒した護り烏もそこら中に横たわっている。
あれ、てかなんでこいつらアイテム化してないの?
そう思い、護り烏を触ろうとしたが、俺の手は空を切った。
「触れない?」
別の個体を触ろうとするも、俺の手は空を切った。
「やっぱり触れないな」
そして、俺は気づいた。
風が一切吹いてないし、台風の移動と同じく俺の体も勝手に動いている。
あれだ、空港によくある平べったいエスカレーターみたいなのに乗っている気分だ。
風景は外だが、実際にいる空間はダンジョン的な感じなのかな。
俺は一つ深呼吸をして、よく周りを確認する。
「あった、あれに乗れってか?」
台風の目の中央辺りの地面に薄っすらと魔法陣が光っていた。
これ絶対ワープする奴じゃないの?
だって、確認した限りここ以外変なところないし。
俺はこれが即死トラップとかでないことを祈り、その魔法陣に片足を踏み入れた。
途端、俺の視界は変化した。
そこを表す言葉はこれだろう。
「異世界」
俺が今立っているのは空飛ぶ島の一つ。
そして、俺の目の前にはたくさんの空飛ぶ島がある。
小さい島もあれば、大きい島もある、赤い結晶で構成されている島もあれば、青いのもある。
水だけで出来た球状の島もあれば、真白な島もある。
正しく地球ではありえない、ファンタジーな光景であった。
俺の心は今までにないくらい躍った。
いや、今なお躍っている。
俺みたいなアニメやラノベを嗜むものであれば誰もが空想し、憧れる場所。
それが今目の前にあるのだ。
俺は瞬きを忘れるほどにその光景を目に焼き付けようとした。
この光景を見られただけでこのダンジョンに無理して入った甲斐があったな。
あっ写メとろ。
アイテムボックスから自分のスマホを取り出し、何枚も写真を撮った。
このダンジョンから帰ったら絶対いいカメラ買おう。
スマホだけで撮るのはもったいない、絶対に良いカメラで撮ったほうがいい。
でも、カメラマンを雇った方がいい写真が撮れるか…………。
いや、こういった光景はやっぱり独り占めしたい。
俺がカメラを勉強すればいいだけの話だな。
そうして十分に撮影した後で、俺は無音の仮面を装備した。
おし、いざ行かん俺的第二ダンジョン!!




