コーヒーの種類が分からない
東京の冬はマフラーを巻くほどの寒さではない。
やはり北海道の冬と比べてしまうと雪も降らないし、全然違うよな。
道産子の俺にとってはそんなに寒くは感じないので、クウとぽんは防具姿ではなく、ふさふさの指輪姿で装着している。
普段は獣の姿で家の中を自由に駆けまわったり、専用の寝床で寝ていたりする。
そのため、恵とひよりはクウとぽんの存在を知っている数少ない存在だ。
たまに、恵はクウかぽんを勝手に部屋の中へと連れていき一緒に寝ていたりする。
クウとぽんはもう少し嫌がってもいいと思うんだけどね。
そんな感じで俺は今歩いて高校へと登校していた。
でも、徒歩だと地味に遠い。
自転車でも買おうかな。
そんなことを考えながら他の自転車を漕いでいる高校生をぼーっと見ていた。
そんな時、ふと俺の目にバイクが映った。
バイクか。
17歳だし、一応免許は取れるのか。
まだ車の免許は取れないし、どうせなら取ってみようかな。
お金は余っているし、バイクや免許代金は問題ないだろう。
よーし、帰ったら調べてみようかな。
いや、後回しは良くないな。
この不毛な登校時間ともっと不毛な授業の時間に調べてみるか。
そうして俺は自衛隊に行くように言われていた高校へと到着した。
ふーん、意外と校舎綺麗だな。
そして他の生徒と比較しても違和感がないように、いかにも普通の顔で俺は校門をくぐり、校舎へと入った。
待てよ。
俺の靴箱とクラスを俺は知らないぞ。
それに俺は今何年生の扱いなんだろう?
学校の書類は面倒くさくて読み飛ばしていたから知らないや。
とりあえず靴はアイテムボックスにこっそりと仕舞って職員室に行くか。
って、あれ?
職員室の場所も分からないや。
うん、ここは勇気出して聞いてみるしかないか。
ということで、俺は一番近くにいた女の子に尋ねた。
「すいません、職員室ってどこですか?」
すると、その女の子が振り向いた。
あっやばい。
完全に聞く人間違えたかも。
その女子は俗に言うカーストが高そうな今どきギャルだった。
「ん? あなた見ない顔だね、転校生? だったら、そこの階段上がって2階の正面に職員室があるよ。中に入ってすぐ右にいる優しそうなおばちゃんに聞いたらなんでも教えてくれるから、その人に話しかけてみな。それじゃあね」
意外にも丁寧にかつ簡潔に全てを教えてくれた。
優秀なギャルなのか?
それにしてもさすがは東京だな、ギャルの質も高い。
そうして俺は言われた通りにすぐ近くの階段を上がり正面の部屋に入った。
そして、すぐ近くにいたおばさんに尋ねた。
「あの、自分のクラスと学年、下駄箱が分からないんですけど教えてください」
そう簡潔に尋ねたはずなのだが、そのおばさんはポカンとしたままの顔のまま固まった。
ああ、まあそうなるよね。
だって、いきなり見たこともない生徒が現れて自分の学年もクラスも分からないんだからそれはそんな顔になりますよね。
「あのー…………大丈夫ですか?」
「ああ、すまなかったね。一先ず君はうちの生徒なのかい?」
「ええ、そうですよ。今日が初めての登校ですが。えっと、ちょっと待ってくださいね」
そう言って、俺はバッグの中から生徒手帳を探す。
おっあった、あった。
「これどうぞ、俺の生徒手帳です」
「確かにうちのだね。ちょっと待ってね、雨川蛍くんだね。………おっ、あったあったよ。雨川君は2-Cクラスだね、場所はわかるかい?」
「あーわかんないですけど、散策がてら自分で探してみますね。まだ時間もありますし。あっそれと秋川賢人っていう生徒のクラスもわかりますか?」
「友達かい? 確か彼は転校生だったよね、だとしたら…………秋川君は2-Cで同じクラスだよ」
「ありがとうございます、下駄箱は賢人に聞くんで大丈夫です! それじゃあ、失礼します」
そんなやり取りをしてから俺は校内を少し散策しつつ自分のクラスを探し始めた。
それで分かったのがこの高校はマンモス校らしい。
かなり生徒の人数が多いし、クラスの数も多い。
そうして俺はついに自分のクラスを3階の真ん中辺りに発見した。
勇気を出して恐る恐る後ろ側のドアからクラスに入った。
初めにクラス内を見渡して賢人を探す。
すると、窓際の後ろから2番目の席に座っていた。
俺は注目を浴びながらも無視するようにして、賢人に話しかけた。
「賢人、3週間ぶり?」
「おお、蛍か、久しぶりだな。というか、なぜ急に学校に来たんだ?」
「いや、賢人に用事があったんだが、新しい連絡先そういえば知らなかったからわざわざここまで来た。それよりも俺の席ってどこなんだ?」
「お前の席は確か…………窓際の一番前の席だな。それよりも用事ってなんだ?」
「それは放課後に話そう。それよりも連絡先教えてくれ、不便で仕方ないよ」
「おう、はいこれ俺の連絡先な」
そんなやり取りをしていると先生が入ってきて、全員が席に着いた。
俺も慌てて席に着く。
「それじゃあ、出席を取るぞー! 秋川賢人」
「はい」
「えーっと、雨川」
「はい」
「って、え?」
その先生は俺の方を二度見して驚きの声を上げた。
いや、初対面だし、わかるよ。
けど、驚きすぎ、写真くらいは確認しているだろう。
そして、クラスのみんな一斉に俺の方向くな。
なんか恐いわ、呪われそう。
「先生、驚いてないで早く進めてください」
俺はこの静寂を自ら断ち切った。
「お、おうすまなかったな。じゃあ、次──」
そうして俺はその後寝たり、スマホをいじったりして授業をやり過ごした。
休憩時間ごとに賢人がすぐに来てくれて、無事に知らない人たちに集られることもなく学校を終えたのであった。
「おーし、賢人、どっか行こうぜ!」
俺は6限目が終わるや否や賢人の下へと走っていき、教室を出ようとした。
すると、
「ちょっと、待って雨川君!」
後ろから女子の声が聞こえた。
振り向くとそこには今朝場所を聞いた美人ギャルがいた。
「何?」
「この後、空いてる? 私に付き合ってくれない?」
「えっ何で?」
「何でって、君に興味があるからだよ」
いきなり何言ってんだ、この人。
「そんな勘違いさせるような発言をする女子は信用できないから却下で。すまないね、今から賢人と大事な話があるんだ」
「そうなのね、わかったわ。それなら仕方がないわね」
そんな淡泊なやり取りだけをして俺は賢人に向き直る。
「おい、賢人行こうぜ」
「いいのか、蛍。白石さんはこの学校でもマドンナ的存在なんだぞ? こんな絶好のチャンスをニートなお前が逃してどうするよ。それにしても白石さんから男子に話をするところ初めて見たな」
「ん? いんじゃね? 今朝少し話した程度だし、もし俺に興味あるならいつか賢人経由でまた話が来るだろ。そんなことよりも、賢人との話が今は重要だ。ほら、とっとと行くぞ」
そう言って、俺たちは学校を後にした。
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俺たちは学校の近くのとあるカフェに入った。
正直、俺はこんなわざわざオシャレなところで話さなくて良かったのだが、賢人が「一度入ってみたかったけど高くて入れなかったところだから奢ってくれ」と言われた、だからここにした。
賢人はよくわからないコーヒーを頼んでいたが、俺は飲めないので普通にホットミルクを頼んだ。
「それでさっきは聞かなかったが、なんで白石さんの誘いを断ったんだ?」
初めに賢人が口を開いた。
「ああ、それな。単純な話だ、今は俺の信用できる人間としか接点を持たないことにしているだけだ。例えばの話だが、その白石さんとやらがどこかの機関の差し金ともわからないだろ? 俺は今こんな状況だからな、人は選ぶことにしたんだ。それぐらいしないと、ひよりや賢人や他の友達や知り合いに迷惑が掛かるかもしれないからな」
「そういうことか、わかったよ。それで話って何なんだ?」
「賢人って昔言っていたよな『お金稼いで、億万長者になるんだ』って、その時は冗談ぽく言っていたが、それが今手に入るとするならその話に乗るか?」
「なんだ、回りくどいな。要するに何が言いたいんだ?」
「俺とダンジョン事務所を設立して、チームを組まないか?」
「やっぱりそういうことか。でも、事務所設立の許可とかはどうするんだ?」
「諸々の許可は既に得ているから、あとはチームメンバーを集めて、ベースを作るだけだ。そして、俺のチームの一人目を賢人お前に頼みたい」
「まあ、もう決めてるんだけど。いいぞ、組もう!」
「え? そんな即答でいいのか? 結構、今後を左右するような重要な決定だと思うんだけど」
「いずれ蛍からこの話が来ることは想定していたからな、もうだいぶ前から決めていたことだ」
「そうなのか、それは助かるよ」
「他のメンバーは決めているのか?」
「一人は決めている、明日辺りに連絡を取ってみるつもりだ。賢人もよく知っているあの人だよ」
そう言って俺は笑みを浮かべた。
「あー先輩か、それなら大丈夫だろう。でも、今は東京にいるのか?」
「いるんじゃないか? 先輩は頭いいから東京にいるだろう、たぶん」
「まあ、それなら先輩は任せるよ。それでベースはどこにするんだ?」
「無駄に広いうちでいいだろ? 部屋はいくらでも余ってるしな。必要な物も全て揃えられるくらいには資金があるからそれも全て賢人に任せたい」
「それで、俺は何をすればいいんだ?」
「賢人には、ベースの責任者と事務所の社長的な立ち位置で全て任せたい。仕事内容的には、アイテムの取り扱いや売買、ベースの管理、チームの管理が主な仕事かな? まあ、いずれ人手が足りなくなるだろうからそこはいい人がいればスカウトしようと考えてる。どうだ?」
「前線に出ないなら、それはありがたいよ。俺は前線で輝くタイプではないからな」
「まあ、俺も全てを理解しているわけじゃないから、その都度調整していこうぜ。なんせ俺達がやっていることは高校生が起業した的な立ち位置だからね」
「そうだな、じゃあ明日の放課後辺りに準備してから蛍の家に行くよ」
「わかった、それじゃ明日またうちで待ってるな!」
「おう! ついでにご馳走様っす、蛍」
「いや、構わないよ。今度からはこれはお前が扱う金だからな」
「まあ、それもそうだな。それじゃ行きますか!」
そうして俺たちはカフェを後にしてそれぞれの家へと帰っていった。
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その夜、俺は古いスマホを電波が通ってから初めて開いた。
すると、ある一人からだけ異常な数の連絡が来ていた。
開いて内容を確認してみると、その人は俺が消息不明になってから毎日欠かさずに連絡をしてくれていたみたいだ。
内容は俺の安否を心配するものもあれば、その日の先輩の出来事をただ記したものもあった。
本当に先輩は俺のこと好きだな。
まあ、その好きのベクトルが違うことは分かってるんだけどね。
俺は先輩に無事を簡潔に伝えて、明日会えないかの文章を送った。
しかし、今日中に返信が来ないことは知っているのですぐにスマホを閉じた。
先輩は今頃、深い眠りの中だろう。
起きるのも早いけど、寝るのも早い人だからね。
そうして、俺もふかふかのベッドに潜り就寝した。
なんと、今日はクウが一緒に寝てくれるらしい。
たまにはこういうのも悪くないね、おやすみ。




