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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【最終章】D侵略防衛戦争 編

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世界よ、表明せよ。

 


「さて、話を詰めるぞ。全員さっさと席につけ」


 俺の「世界の住み分け」という提案に乗ってくれたアマダは、少し身軽そうな足取りで自分の定位置の椅子へと座った。

 有無を言わせない口調は変わっていないが、ほんの少し声のトーンが高くなっていた気がする。


 全員がアマダの指示に従い、人数の割に多く配置されている椅子へと各々座っていくのであった。

 別に誰がどこの席に着くなんて決まりはないため、それぞれが好きな場所へと座るだけだ。

 とはいっても、ほぼ全員が最初に座った位置へと座る。


 対して、ジャビーガはアマダ達エルフから一番遠い席へと一人ぽつんと座った。


(まぁ、さすがにいきなり肩を組むほど仲良くはなれないか。今まで敵対していたんだ、ゆっくりとそれぞれの立ち位置を確立していけばいいさ。あれもこれも、全てはラストダンジョンを攻略するまでの辛抱だ)


 少し哀愁を漂わせているジャビーガを見つめながらそう思っていると、急にギロリと睨まれた。


「何か言いたいことでも?」


「いや、何でもないよ」


「いいから言え」


「単に最強の魔王が縮こまっている様が不思議だと思っただけだよ」


 素直に答えると、ジャビーガは不貞腐れたように視線を逸らした後、私は魔王だと言わんばかりの威厳を醸し出すように視線を鋭くさせた。

 一応、魔王としてのプライドは高いようだ。


 と、ジャビーガと何でもない会話をしていると、アマダがトントンと机を指先で二度叩いた。

 どうやら静かにしろと言いたいらしい。


「ジャビーガ、お前ぇの計画は後で聞く。一旦、俺の話を聞け」


「わかった、構わない」


 どことなくジャビーガという魔王が小さく感じる。

 俺に負けたからなのか、新たな目標ができてエルフたちと敵対する理由がなくなったからなのかはわからないけど、一回りくらい纏うオーラが小さいのだ。

 まあ、気のせいかもしれないけど。


「元々俺たちは二十年、これを目標として戦力の発掘と育成を行う予定だった。だが、それは止めだ」


「そうだな、遅すぎる」


「7年だ! 7年でラストダンジョンに挑める人間を発掘し、育成する。これが俺たちの譲歩できる最大年数だ、どうだ?」


「7年か……いいだろう。少し長いが、それが妥当であろう」


 そんな短い会話のキャッチボールで十分だったのか、アマダはにやりと笑った。

 そしてアマダはジャビーガではなく、机の上の何もない空間へと視線を向けた。


「てことで俺を除くエルフ四人で人材を発掘し、育成する予定だ」


「ちょっと待って兄さん」


 そんな時、今まで静かであった先輩が割って入った。


「なんだ?」


「私は除いてちょうだい。ラストダンジョンに行くにも『船』が必要でしょう? 今の時代の技術じゃ、何十人も乗せていけないわ」


「あぁ、確かにそうだな。シロアに『船』は任せていいんだな?」


「えぇ、任せてちょうだい。ディエントと二人で作るわ」


「よし、船は任せた。……つーことで、エルフ三人で計画を実行する。妹のカルナダ、弟のサリエス。そして、魔王ジャビーガだ」


 先輩から机上の見えないカメラに視線を変えて、アマダは言葉を続けた。


「もし人間側に俺たちに賛同するやつらがいれば、この三人の誰かに直接話をつけろ。それかここに招待した誰かでもいい、こいつらの話を通せば俺たちと連絡が付くようにする」


 そう言うと、アマダはゆっくりとここにいる全員の目を見つめた。


 勝手な性格をしている自覚はあったらしい。

 突然、ここに連れ去られ真実を告げられ、挙句の果てに俺とジャビーガの戦いまで見せられた他のシングル冒険者たちも説明を欲しがっていることに気が付いたアマダであった。


「もちろんここにいるお前ぇらが、第一優先だ。お前ぇらをここに招待したのも、地球上で最も才能があるからだ。もし今以上の力を望むならくれてやる。そこにいるバケモンじみた雨川蛍のようなレベルまですぐ駆け上がれるぞ」


(ちょっ!? このおじエルフ何言ってんの! あれだけ名前を言うのを嫌がってたのに、普通に本名ばらすなよ! ……まぁ、もう素顔はバレてるんだけどさ)


 と、そんな突っ込みを亜神様に言えるはずもなく、俺はすっと視線を逸らした。

 どうか誰も俺に注目していませんように、と心の中で何度も願いながら。

 目の前に半分神様がいるのだ、こんな小さな願いくらい叶えてくれるかもしれない。


「私はやるわ。あの男ほどに強くなれるならなんだって」

「僕もだ。僕も彼のようにフィーニスの力をすべて出しきりたいんだ」

「いいだろう、俺もだ。あの化け物に近づけるなら、悪魔にでもなってやろう」

「はいはい! よくわからないけど、楽しそうなので私も!」

「面白そうだ、私も中国代表として参加を表明する。今では彼の足元にも及ばないだろうが、彼に並べる力を得られるというなら、これ以上の幸福はない」

「はははっ、じゃあ私もだ。ブラジルに帰るよりも先に、月に行くことが決まるなんてね! あっ、1位の君! 連絡先を教えてくれないかい?」


 シングル冒険者たちはなぜこんなにも状況適応能力が高いのだろうか。

 全員が即断し、回答したのであった。


 上々な滑り出しに、アマダは不敵な笑みを浮かべていた。

 対して俺は……。


「あはははは……例え亜神であろうと後で覚えてろよ。名前すら必死に隠して生きてきたこの数年を返せ、おじエルフめ」


 もう隠すなんてやめた。

 世界中に暴露された恨みを前面に押し出し、アマダを睨むのであった。


「まあまあ、蛍、落ち着きなさい」


「師匠は黙っててよ。俺は今、おじエルフに怒ってるんだ。あとジャビーガが俺の面を割ったことも、まだ許してないからな!」


 アマダに続いて、俺は最大級の威圧を込めてジャビーガを見た。


 一度俺に負けたことで恐怖を知ったのか、びくりと一瞬体を震わせてジャビーガはそっぽを向いた。

 アマダは「ちっ、口が滑っただけだ。いつか謝る」とか言って謝る様子すらない。


 俺は参加する必要ない、なんて反抗的な脅しはできなくもないが、さすがにそこまで子供ではないのでぷんすかと怒るまでに留める。


 その後、隣に座っていた賢人に「まあ落ち着けって。言い忘れてたが、あのチケット取れたぞ」なんて情報を耳打ちされ、俺は手の平を百八十度変えることとなった。

 いや、高城秋の声優ライブチケットが取れたと言われたら、怒りなんかどこかに吹っ飛んだよね。


 俺は静かに席へと座り、この場の雰囲気のぴりぴり感が消え去った。


「つーことで、よく聞け地球の人間ども。ここにいる全員が参加を表明した、もう俺たちの計画が止まることはねぇ。7年後、シロアの作った『船』に乗ってラストダンジョン攻略を目指す。目的は、人間と魔獣たちが住みやすい世界を二つ作ることだ。これよりもいい案があるってならこの図太ぇ1位のように言ってこい、考えてやらんでもないからな。俺たちエルフは地位も名誉も金も何もかもいらねぇ、欲しいのは逸材だけだ」


 アマダはそこまで言うと、ピシッとカメラに向かって指を向けた。

 俺たちには何もない空間を指さししているようにしか見えないけど、アマダにはカメラのような何かが見えているのだろう。


「我こそは、というやつらは名乗りを上げろ。参加を表明する国も逸材を発掘しろ。逸材ってのは今強いやつらじゃねぇ、才能を持ったやつらだ。現にこいつはダンジョンに潜り始めて三か月で98位にまで上り詰めた、俺たちが見るのは才能、つまり伸びしろだけだ。わかったな? あとは兄弟たちがビシバシ鍛えるから安心しろ、すぐにランキングも二桁に乗るはずだ」


 アマダは近くに座っていた健を名指しして言った。

 思わぬ話の振られ方をして、健は戸惑いを隠せずにあたふたと口を開いた。そして、顔を真っ赤に染め、小さな声で「……新田健です」となぜか自己紹介をしていた。


 人間、突然話を振られると自己紹介するやつもいるらしい。


「おう、私に任せろ!」


「うん、私も微力ながら指導するよ」


 カルナダ姉さんとサリエス師匠もいつも通りに返事をした。


「じゃあ、7年後だ! この世界の理を破り捨て、真の平和を作ってやろうじゃないか。亜神である俺が力を貸すんだ、選ばれた者たちは誇りをもって修行に励め。英雄になれるのは行動を起こしたものだけだ、存分にアピールしてくれ。俺は才能を見逃さないからな」





 ステータス画面越しに見られていた映像はここで途切れていたらしい。

 それでもこの最後の言葉が世界中の人間たちに火を点け、行動を起こさせた。


 数々の大国が名乗りを上げ、世界全体としてラストダンジョン攻略を目指すようになっていた。


 こうして俺たちは7年後に人類の精鋭を集めて、月の裏側に存在する《ラストダンジョン》攻略を目指すことになった。



 ――そして。



 7年の月日が経った。



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― 新着の感想 ―
[一言] すいません、7年の経過が一瞬だったので(笑) 次回作、楽しみにしてます。
[一言] 気持ち細かいダイジェストは欲しいところ
[一言] もうかい!! ↑ 一応、突っ込ませていただきました。
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