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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【最終章】D侵略防衛戦争 編

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天秤ノ領域

 


 ディエントがスキルを発動した瞬間、周囲の光景が塗り替えられていくように変わった。


 そこは円形闘技場のような場所だった。


 広い円形の舞台が中央に据えられ、周囲には段々になった観客席が見える。

 石材やレンガ、コンクリートなどで作られているように見えるこの舞台は、イタリアのコロッセオを彷彿とさせる姿をしていた。


 その舞台の端にある四つの入り口、そのうち一つの入り口の前に俺は立っていた。

 気が付いた時には手を合わせていたディエントの姿は目の前からなくなっており、斜め上を見上げれば空中にどっしりと構えて浮遊しているディエントがいた。白く輝く一本の長剣を杖のように前へと構え、俺ともう一人の対戦相手を見下ろしていた。


 もう一人の対戦相手。


 彼女は俺とは反対側の入り口の前で、まるで時が止まっている様子で固まっていた。

 かなり際どい装備を身に着けているようで、目のやり場に困ってしまうほどだ。容姿も人間に近く、ただ少し耳が尖っているくらいしか違いは感じられない。

 実際に彼女が神と魔人のハーフであると一目で判断するのは難しいだろう。


 そんな時、ディエントが声を大にして言った。


「サリエス様、時間拘束の解除をお願いします!」


「はいはい……『タイム・リリース』」


 その瞬間、解放されたように彼女、ジャビーガが動き出した。


 突然の出来事に驚きを隠せずに、周囲をきょろきょろと見渡す。そして、察しがついたのかぷるんとした唇を強く噛み千切り、赤い血を垂らした。


「くそ四兄弟め、私の隙を狙って奇襲とはやってくれる」


 と、そこにアマダが舞台へと浮遊しながら降りてきた。

 ふわりふわりと焦ることなくジャビーガの近くまでやってきて、挨拶でも交わすかのように片手を上げた。


「よぉ、ジャビーガ。久しぶりだな」


「……アマダか、ようやく私の前に現れたな。この日をどれだけ待ちわびたことか」


「ひねくれた片思いはいらねえよ。お前ぇが俺を殺したがってるのは知ってるが、残念ながら俺はすでに亜神となった。立ってる場所が違ぇってわけだ」


「知っているさ。そのために神を殺す算段を付けてきた」


 そう言うや否や、ジャビーガは何もない空間から神々しい一本の剣を取り出した。

 アマダはそれを見て、少し慌てた様子で距離を離した。


「あー、待て待て。別に俺は逃げも隠れもしねぇよ……ただこいつに勝ってから俺の前に立ちやがれ。こいつも殺せないなら、到底俺なんかは殺せやしねぇよ」


「ほぅ? 逃げ足だけが取り柄のアマダが私から逃げないと約束するか。……いいだろう、貴様が逃げないと約束するならば、先にあいつを殺そう」


「案外、すんなり乗ってくれたな」


「貴様の逃げ足だけは私がよく知っているからだ。ようやく目の前に現れたのにまた逃げられたらたまったものではない。亜神になったんだ、約束を破るなどできまい」


 ジャビーガという魔王は常に亜神であるアマダを見下すような言葉遣いで、平然と立ち向かっていた。

 自信が体中から溢れ出ている感じがする。


(というか……なんか俺が殺される前提で話しているんですけど)


 そんなことを考えていると、近くの観客席から先輩が上半身を乗り出してこちらへと話しかけてきた。


「ほたるん、気を付けなさい」


「わかってるって」


「わかってないわよ。ジャビーガはあれでも私たちと同じエルフよ。それもバリバリの戦闘タイプでカルナダ姉さんとも対等に戦えるのよ。私やサリエスでさえ、少し分が悪いほどだわ」


「いや、それじゃあどれぐらい強いのか分からないんだけど」


「そうね……モンモンハンターで五十体くらいのモンスターと同時に戦うくらい強いってことよ」


「なるほど、それは分かりやすい」


 観客席の方を見上げると、先輩は本当に心配している様子であった。

 その様子からも本当にジャビーガというエルフは強いのだろう。間違いなく、今まで俺が戦ってきたどんな魔獣よりも強いはずだ。


 先輩は普段、あまり俺の心配をすることはない。

 当たり前に勝つと信じているゆえに、心配をしないのだ。そんな先輩がこんなにも俺の身を心配してくれてるのだ。


(……そもそもこうなったのも先輩が原因なんだけど)


 矛盾した状況に、さすがに呆れ笑いをしてしまった俺であった。


 周囲にはあの空間にいた人たちが各々好きな席に座って、この舞台を見下ろしている。

 どうやらあの人たちには俺を助けるという考えがまるでない様子だ。同じシングル冒険者として何か思うところはないのだろうか。

 まあ、いいんだけどさ。


「おい、蛍!」


 そんな時、賢人の声が上から聞こえてきた。

 上にある観客席を見上げ、「なんだよ」と答える。


「ンパの助けはいるか?」


「いるように見えるか?」


「いや、見えないな。まぁ、蛍なら大丈夫か」


「ちょっと! ンパは誰のものでもないですよ!」


「「はいはい」」


 賢人はぷんすかと怒り始めたンパを鎮めるように、「ンパはンパですよねぇ」なんて棒読みなセリフを吐きながら、近くの席へと戻っていった。

 そうして俺は視線を舞台の上にいるジャビーガへと向ける。


 そこでディエントが再び大きな声で言った。


「両者、前へ!」


「ほぅ、騎士王が取り仕切るか……まぁ、いいだろう」


 ジャビーガは感心したような声を漏らし、魔王らしい堂々とした立ち振る舞いで前へと歩き始めた。

 俺もその様子を見て、ゆっくりと前へと進み始める。


 いつもとやることは何も変わらない。

 ただ敵を倒すために最善の手を導き出して、相手を俺のフィールドに持ち込むだけだ。

 いくつもある魔法やスキルを駆使して、敵を倒せばいい。


 魔獣と何も変わらない。


 俺は俺のやり方で、この戦いに決着を付けるとしよう。


「止まれッ!」


 ディエントの騎士らしい堂々とした声が闘技場内に響き渡る。


 俺とジャビーガの距離は、目測で三十メートルほど離れている。


「この決闘はディエントが取り仕切る。俺の領域内でルールを破った場合、相応の罰が下るので注意せよ。両者、何か質問は?」


 そう言うと、ジャビーガが徐に手をあげた。


「勝敗はどう決める?」


「無論、どちらかが死ぬまで」


「さすがは騎士王だ、よくわかっている」


 短い会話であったが、二人の間にはどこか絆のようなものがあったように感じた。

 そこでジャビーガが俺の目を見て、口角を上げた。


「貴様、名は?」


「何? ガルティアでは名前を聞くのがマナーなの? なんでみんな俺の名前を聞きたがるんだかね。俺の名前にそんな価値があるとは思えないんだけど」


「ふっ、だいぶひねくれていやがるな貴様」


「よく言われる。まぁ、強いて言うなら……サリエス師匠の弟子であって、カルナダ姉さんの二番弟子でもあって……シロアの親友かな?」


「ほぅ、なるほどな。アマダが貴様を指名したのも納得できる。それでは騎士王の元、正々堂々殺してやるとしよう」


「いや、そんな簡単に死なないと思うよ?」


 俺が即座に反論すると、再びジャビーガがにやりと笑った。


「いいだろう。私は【魔知将】ジャビーガ、魔王を統べる者である。さぁ、ディエント! さっさと開始の合図をだせ!」


 その言葉で、俺とジャビーガはほぼ同時に姿勢を低くし、戦闘の構えをとった。


「天秤ノ領域では何人(なんぴと)もルールを破ること叶わぬ。一、互い以外に干渉はできぬ。二、死をもって勝敗を決する。三、第三者の干渉は認めぬ。四、正々堂々と戦うこと。良いか?」


「了承する」


「いいよ」


 シン、と闘技場内が静かになる。


「始めっ!」


 ディエントの合図とともに、俺とジャビーガの戦いが始まった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 完全に干渉されなくなったら地面に立つこともできなくなるし、ある程度融通効くのかな
[気になる点] 1と3のルール被ってますよねこれ… 事象だろうが道具だろうが言葉だろうがー、と言ったところをつぶそうとしたのかもしれませんがそれらも結局第三者の干渉以外の何者でもないですし… それなら…
[良い点] ん?この4ヶ条に照らすと精霊の力も借りれるか微妙なところですか? 慌てずにいってもらいたいですけど
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