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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【最終章】D侵略防衛戦争 編

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酒のつまみだ。早くやれ。

 


 ディール……いや、ディエントという名前だったか。


 俺の知らないディールは言葉一つ一つを噛みしめるように語ると、機敏な動きで立ち上がった。

 その真摯な眼差しは先輩に惚れているようにも見え、尊敬しているようにも見えた。

 一体二人がどんな仲なのかは詳しく知らないけど、俺の困惑は拭えないでいた。


 そんな時、ディールが不意にこちらへと振り向いた。


 かしゃりかしゃりと金属の擦れる音を鳴らしながら、俺の目の前まで近づいてくる。

 近くに来てようやくディールの顔が隙間から見えた。


 その表情はどこか申し訳なさそうな顔をしているように見えた。


「蛍、すまない」


「まぁ、いいけどさ。ディールにも事情があったんだろうし」


「あぁ、そうなんだが騎士として人を騙す行為だけは少し歯がゆい気持ちがあった。全部……とまではいかないが、一部、蛍たちには嘘を吐いた。賢人にもすまなかったと思っている」


 ディールは本当に申し訳なさそうに眉尻を下げながら、俺と賢人に向かって謝った。

 だけど、俺には「一部」という言葉が引っかかる。


 賢人も「一部」という言葉に引っかかったようだが、すぐに表情を切り替え問題ないという笑顔へと変わる。


「いや、俺は全部を信じていたわけではないからそんなにダメージはないよ。……それよりも先輩がシロア? そこがちょっとわけわからない」


 さすがの賢人でもその事実だけは理解できずに、動揺を隠せないでいた。

 アマダの記憶を直接覗いたので、先輩がシロアだということはすでに知っているのだろう。しかし、実際にシロアだった赤坂雪葉を目の前にして、やはり心の整理がつかなかったというところか。


「アッキー、そういうのは後でじっくり教えてあげるわ」


「先輩、変な言い方はやめて」


 いつも通りな先輩の雰囲気に当てられ、賢人の纏っていた空気がほんの少し柔らかくなった気がした。

 俺も同じだったけど、先輩のジョークってのは彼女が俺たちの知っている先輩なんだと再認識させてくれる効果があるらしい。


「そう? ねっとりでもいいわよ?」


「あとで訳は聞くよ。今は俺が部外者だと認識しているから黙っとくけど」


「あら、別にいいのに」


 ふふふっ、と先輩は笑った。

 そこで俺はディールへと向き直り、質問を投げかけることにした。


「それで一部ってのは、どこまでが嘘だったんだ?」


「俺がアロスに故郷の仲間たちを滅ぼされ、復讐に燃えていたのは紛れもなく事実だ。……そんな中で俺が吐いた嘘は三つある。俺がただの上位魔人であると偽り、魔王の一柱であることを隠していたこと。赤坂雪葉という人間がシロア様の新しい体だと知って隠し、知らない素振りをしたこと。最後に……これは賢人だけに吐いた嘘だが、シロアという存在を『男』として語り事実を捻じ曲げ、偽りの物語を話したこと。……本当にすまなかったと思っている」


 ディールはそう言うと、被っていた顔の鎧を外し素顔を露にする。

 そうして真剣な眼差しで頭を下げてきた。


「なんだそれだけか」


 そんなディールに対し、俺は軽く返事をした。

 アロスへの復讐心さえ嘘なら驚いたかもしれないけど、さすがにそこまでの大嘘は吐いていなかったようだ。

 俺にも俺なりの流儀があるように、ディールにもディールの枷があった。その枷に従って嘘を付いたなら別に怒るなんてことはしない。

 それが俺に対して不利益をもたらすのならば嫌だったけど、実際にそんなことはなかった。ただちょっと嘘を教えられただけだったのだ。俺が怒るのは違うだろうし、怒りという感情も湧いてはこなかった。


 俺の言葉の軽さに驚き、ディールは豆鉄砲を食らった鳩のように目を丸くして、咄嗟に顔を上げた。

 そんなディールに俺は笑いかけた。


「てか、ディールって魔王なんだ」


「あ……あぁ、【騎士王】ディエント。これが俺の本当の名である」


「なんか騎士王って異名は魔王って感じしないよね。どっちで呼べばいい? ディール? ディエント?」


「ディエントと呼んでくれると助かる。ディールは仮の名だ、蛍には真名で呼ばれたい」


「そっか、ディエントね。ディエントはちょくちょくホモ感出してくるよね。仕様ですか?」


 俺が率直な感想という名のジョークを述べると、ディエントは頭上に疑問符を浮かべた。

 どうやら「ホモ」や「仕様ですか?」という言葉に理解がない様子だ。


 隣の賢人は「確かに」と言って腹を抱えている。

 それに……5位の浅海真姫さんだ。


「ぷぷっ……騎士王のBLですか。悪くない組み合わせですねぇ」


 小さな声で腐女子モード全開の様子であった。

 元気でアホそうな雰囲気から、一気に空気感が腐り始めた瞬間を俺は見逃さなかった。

 しかし、ここは見て見ぬ振りが賢明な判断だろう。触らぬ腐女子に祟りなし。


「まぁ、そんなことはどうでもいいとして」


 俺はディエントに向かってそう言うと、未だに消えていない黄金の扉の方へと振り返った。


 扉が消えていないということは、まだ潜ってきていない人物がいるということだ。

 先輩の言葉から推測するに、ディエントは先輩が言っていた「有用な人物」で間違いないだろう。


 そうなると、もう一人俺の切り札という人物が現れていない。


 というか、誰が来るかは予想付いてるんだけど……。


 そう考えたタイミングでちょうどよく、扉の先から人影が現れた。


「ほぇ? なんですか、ここ。あっ! 蛍さん! ここどこなんですか! ンパはただトイレから出ただけなのに! まだ手を洗ってません!」


「ちょっ!? おい! 手洗ってないのに、俺に縋りつこうとするなっ!」


「いいじゃないですか! ンパは汚くないですから!」


「頼むからその手で触ろうとしないでくれ!」


 扉から現れたそのアホの子、ンパは俺を見るや否や動揺からその汚い手で縋りつこうと走り寄ってきたのだ。

 俺は慌ててその場から逃げ出し、この空間をぐるぐると追い回されることとなった。


 そんな時だった。


「おい、お前ぇら。俺の部屋で騒ぐんじゃねぇ、酒がまずくなるだろう。……それとだ、おい、お前ぇ」


 突然、アマダが怒鳴ったのだ。

 手に持っていた酒瓶を机の上にドンッと強く叩きつけ、ギロリと怒りの眼光を俺とンパに向けるのであった。

 亜神の怒りをぶつけられ、俺もンパも思わず足を止めてしまう。


 そんな中、アマダが賢人を指さして言った。


「えっ? 俺?」


「そうだ、いけ好かねぇイケメン野郎だ。酒のつまみに一発芸でもやりやがれ」


「な、なんで俺が……」


「お前ぇのダチが酒を不味くしたんだ。お前ぇが責任取れ。亜神の言うこと聞けねぇって言うんじゃねぇよな?」


 と、賢人はアマダの酒のつまみに一発芸を延々とやらされる羽目になったのである。

 なんだかんだ言って、尻ぬぐいしてくれる賢人は本当に良い友達だよ。半分以上ンパのせいだけど。


(まぁ……ここの映像って全部世界中に配信されているから、賢人は全世界に向けて芸を披露しているってわけだな。その事実に気が付いた時の賢人のリアクションが今から楽しみだなぁ)


 内心で、俺は親友を笑いの種にするのであった。


 ンパもアマダに怒鳴られたことで落ち着き、静かに俺の横に来て服の袖を握り締めていた。


「おい、何触ってるんだ」


「いいじゃないですか、ちょっとだけですよ」


 平然と語るンパを俺は拳骨で殴りつけ、「痛っ」と反省の声が聞こえたところで、先輩へと向き直った。

 先輩の斜め後ろにはいつでもシロアを守れる位置取りをしたディエントの姿もある。


「それで聞きそびれてたけど、俺が魔王の黒幕と戦うって話……俺じゃなきゃダメ?」


「ダメよ、これは絶対に譲れないわ。嫌だと言っても、ディエントの能力を使って強制的に戦わせるのだけどね。例え、ほたるんと言えどもよ」


 有無を言わせない。

 先輩の瞳からはそんな強い意志が感じられた。


 強制的、ということは俺にはどうやら選択肢がないように思える。

 元々ダンジョンに落ちたあの日から俺には選択肢がなかったような気がするのは気のせいだろうか、そう思うほどには現実逃避をしたくなっていた。


 しばらく考える素振りを見せながら、近々発売されるラノベのことについて考え耽っていた。まあ、現実逃避ってやつだ。


 その間、他の人たちは賢人の芸をただじっと笑わずに見ている。


 そうしてゆっくりと現実に戻ってきた俺は、先輩へと宣言することにした。


「一つ、言っておく」


「何かしら?」


「あっ、その前にどこにカメラあるの?」


「カメラ? あぁ、アマダ兄さんのやつね。それなら机の中央にあるわ」


「わかった、ありがとう」


 俺はそう言って、見た目は何もない机に向かった。

 そしてゆっくりと息を吸い、ふぅーと緊張を吐き出した。


「俺はリーダーにも、英雄にも、1位にもなりたくはない。頼むから、俺を担ごうとしないでくれ。頼むから、自由でいさせてくれ。それだけ先に伝えておくよ」


 それは世界に向けた俺の宣言だった。


 これから起こることは先輩から少しだけ聞いている。聞いていないこともある程度は推測できる。

 だから、最初に宣言することがこれからの俺の未来に対して有効だと判断したのだ。


 なんだか気持ちが軽くなった気がする。

 体も心なしか軽くなった気がして、俺は目一杯に背筋をグッと伸ばした。

 そのまま入念な準備運動を始め、軽く汗ばんできたところで先輩へと向き直った。


「逃げられないなら潔く戦うとするよ。願うならば俺で遊ぶのもこれを最後にしてほしいけどね」


「それは無理よ。ほたるんは私のモノだもの」


「ん~、先輩のモノになったつもりはないかな。まぁ、もうどうにでもなれって感じだけど」


「あら、珍しく割り切ってるわね。そんなほたるんも好きよ」


「はいはい、それが愛の告白ならどれほど嬉しかったことか」


「それは無理よ。私に『愛』や『好き』なんて感情は一生分かるわけがないんだもの」


「知ってるからこその言葉だよ」


「ふふっ、わかってるじゃない。そろそろ準備はいいかしら? ジャビーガも待ちわびているはずよ」


 ジャビーガ。

 その名前を聞いて、ふと俺は先輩の記憶映像を思い出した。


「そういえばジャビーガって先輩の元仲間なんでしょ? 記憶で一緒に旅をしていたよね。そこの真っ白な騎士のディエントと強い時のアロスの四人で」


「そうね、確かにそんな時期もあったわ。でも、アロスが大罪のスキルに自我を侵されたころから私たちは仲間ではなくなったわ。ジャビーガもその一人よ。アマダ兄さんの秘密を知って、世界の秘密を知って、自分が淘汰されない優しい世界を作るために私とは相反する道を選んだわ。まあ、ディエントだけは私と共にいてくれたのだけど」


「その時はジャビーガとも一緒に《ラストダンジョン》攻略を目論んでいたわけでしょ?」


「そうね、最初はできると思っていたのだけど……途中から私も計画に無理があるとわかって、転生計画に乗り出したのよ。だから、ジャビーガが殺されることは特に何とも思っていないわよ。むしろ私を殺そうとしたこともあるくらいだから、本当に心配はいらないわ」


「そうなんだ。そのジャビーガって魔王はだいぶ精神的に追い詰められてそうだよね」


「何に迫られているのかは知らないけど、確かにジャビーガはある日を境に暴走を始めるようになったわ。まぁ、おおよそ予想は付くのだけれど。神ってのは道楽主義なのよ」


「要するに、神は暇ってわけだ」


「そういうことね、ふふっ。相変わらずそのひょうひょうとした態度は好みよ。さぁ、そろそろ始めましょうか」


 先輩は珍しく元気な瞳をしていた。

 そして、先輩も俺と同じく見えないカメラの前へと立った。


「今からこの世界で間違いなく最強である『Number1』と、この魔獣の大規模行進を目論んだ最後の魔王の一柱であり、黒幕でもある『【魔知将】ジャビーガ』が決闘を行うわ。この映像を通して、この世界の誰がリーダー足りうるのか……その目で確かめなさい」


 一呼吸置き、さらに真剣な眼差しで訴え続ける。


「そして、アマダ兄さんの言う通り己で考えなさい。あなたたちがするべきことを」


 言葉の端々から強いメッセージが感じ取れるほどに、先輩の言葉には力が籠っていた。

 今、これを見ている世界中の人々がどう思っているかなんて俺は知らない。


 だけど、これだけの情報を揃えられて、世界中で起こっている現象を考えると誰もが考えさせられることになるだろう。


 これから先、それぞれの国がどのように動き出していくのか。

 未来のために今できることはなんなのか。


「さあ、ディエント。やっちゃいなさい」


「了解です」


 ディエントは拳を胸に強く打ち付け、ガシャンと音を立てながら俺へと振り向いた。

 そして、ゆっくりと手を伸ばしてくる。


「蛍、俺の手を取れ」


「わかった」


 ディエントが手のひらを俺に向けてきたので、手のひらに重ねるように俺の右手を置いた。


「騎士王の名において、我、ディエントが勝敗を見守る。正々堂々、曇りなき眼で審判する者なり。…………『天秤ノ領域(バランス・エリア)』ッ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 齟齬が色々繋がってきた。 ディールに嘘つかれるなんて。まぁしょうがない。 けれどこうなるとンパも何か隠してたりしないかななどと
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