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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【最終章】D侵略防衛戦争 編

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法螺貝なんて鳴らない

 


 俺はお面を別の物へと変え、あまり大げさな空からの登場はせず、こっそりと七ヶ浜まで戻ってきていた。

 ついでに『体温調整機能付き外套』をもう一枚上から羽織ることで、俺がNumber1ではないというアピールを付け加えておく。こうしておけばさっきみたいに歓声を上げられることもないだろう。


 と、思っていた。


「あー! Number1じゃないっすか! 久しぶりっすよ!」


 気の抜けるような変な接尾語が付くあいつの声がどこからか聞こえてきたのだ。

 俺は思わずズッコケそうになりながらも、声のする方向へと振り返る。


 こちらに満面の笑みで小走りしてくる、意外と小奇麗な格好をした湯楽涙ティアの姿があった。

 自衛官の制服には一切の汚れもなく、ティアのステータス構成からも戦場で戦わずにどこかで任務をしていたのだろうと推測できた。

 なぜここにいるのかという疑問もあったが、その前にこいつにはお灸を据えてやらねばならないようだ。


「ふんッ!」


 こっちに向かって走り寄ってくるティアの頬を、思いっきり叩いてやった。ティアの頬には綺麗なモミジが刻まれた。

 折角、俺はNumber1ではないというアピール素材を集めて変装してきたというのに、こいつは本当になんというバカだろうか。

 このまま海に沈めておいた方が今後も楽になるかもしれないという考えが過ぎったが、さすがに鬼のような思考は振り捨てた。


「い、痛いっすよ~」


「ティアが俺の努力を踏みにじったのが悪い。それよりもなぜティアがこんな場所にいるんだよ」


「え~、自分は何もしていないっすよ。自分はここを指揮しているNumber7とNumber10、原田隊員に今から来る魔獣の詳細な報告をしに来たっす。無線では伝わらない情報ってのもたまにはあるんすよ」


 いつも通り過ぎてなんだか気が抜けるような声だ。

 逆に肝が据わりすぎていて怖いともいえる。


「で、俺にも情報をくれるの?」


「もちろんっすよ! そのためにさっきからNumber1を探し回ってたんっす! なのにどこ行ってたんっすか。これでも自分は体力とメンタルに自信が無いんっすから」


 正面切って自分が弱いアピールしてくるティアであったが、やればできる子であることを俺は知っている。そう自分に甘いから、毎日のように原田隊員から扱かれるんだよ。

 でもまあ確かに、自衛隊側の人間に一言も言葉を残さずに行動してしまったのは申し訳ないと思っている。無線で連絡くれれば答えたのだが、ティアは基本バカだからそこまで頭が回らなかったのだろう。いや、さすがにそれはないか。

 無線では話せないような内容なのかもしれない。


「じゃあ手短に、五文以内で」


「了解っす! 第五波でこの海岸に来る魔獣の数はおおよそ二、三万程度っす! 第三波や第四波よりかはかなり少ないんっすが、予想よりもNumber7とNumber10の消耗が激しくてNumber1の力をお借りしたいっす」


 なるほどな。確かにこの七ヶ浜で最強戦力であったNumber7とNumber10は心身ともにボロボロな姿をしていた。この作戦が始まってからずっと重用され続けて、魔王メインダとの激戦で精神的、肉体的にも疲労を隠せないところまで来てしまったのだろう。


 俺も力を貸したいところだけど、少し気になる反応が海上にあったんだ。

 もしかしたら俺の見間違いかもしれない。

 それでももし見間違いではなかったとしたら、あの神聖な反応には覚えがあった。


 ……師匠、来てるのかな?


「俺は少し気になることがあるんだ。代わりにンパとディールに力を借りるといい」


「ンパ、ディール? 誰っすか? あっ、もしかして……」


 ティアには心当たりがあったようで、数人の自衛官に囲まれている異色な二人へと視線を向けた。

 ティアにしては勘が鋭いことに思わず感心してしまった。


「そうそう、あの二人。詳しくはあいつらから話を聞くといい、きっと力を貸してくれるはずだよ」


「わかったっす! それでNumber1はどこかに行くんすか?」


「俺は……距離を離して海の上で戦うよ。周りに誰かがいると思うように戦えないから」


 俺はそう言うと、ティアについてくるように伝え、早足でンパとディールの元へと駆け付けた。


 二人の周囲には野次馬……ではなく、事情を聞こうと集まった自衛官たちが三人ほどいた。

 一人が代表してンパとディールに質問を投げかけ、この後どのように扱えばよいのか推し量っている様子だ。

 おそらく上からの指示があったのだろう。


「だから、ンパはンパです! 上位魔人で名高きヴァンパイア一族の末裔ですよ!」


「ヴァ、ヴァンパイアですか?」


「そうなのです!」


「わ、分かりました。そのように記録しておきます。それでそちらの方は……」


「俺はディール、クロープス族の長である。君たちから見れば、別の世界から来た住人という存在だ」


「別の世界ですか……わかりました。それでお二人は誰の庇護下で……」


 事情を聴いていた自衛官の言葉を遮るように、俺はその輪の中に入っていった。

 そして自分の身分を示すために、名前の部分だけをシールで隠したステータスカードを堂々と見せる。


「あー、その……こいつらは俺の仲間なんで」


「あっ、はい……って、えっ!? Number1!?」


「えぇ、まぁ。そんな感じの人間です」


「わ、分かりました! 確かに彼らがNumber1と共闘していた様子を私もこの目で確認していたので、上にはそのように報告させてもらいます!」


「うんうん、お願いします。すいませんね、こんな時に変なやつら連れてきちゃって」


「いえ! 問題ありません! 私もあなたを尊敬する一人として、微力ながら尽力させていただきます」


「ああ、うん。ありがとう。次の第五波ではこいつらを先頭にする予定だから、その旨を伝えておいて。あとできればこの一帯の指揮を任せてほしい。俺たちが自由に立ち回った方がたぶん早く作戦も終わるから」


 俺が簡潔に伝えると、自衛官はすぐに状況を把握してくれた様子で敬礼してきた。そして、急いでこの場を離れ本部と連絡を取り始めたのであった。


 周囲で体を休めている人たちも今のこの状況を掴めていないのか、ちらちらと俺たちの方を見ていた。

 それも確かにそうだ。いきなり現れた俺と変な二人がこの戦場の主導権を握ろうとしているのだ。

 かといって、魔王との戦闘を見た後には話しかけづらいと見える。


 そんな予測をしていた時であった。


『七ヶ浜にいる全員に報告します。これから七ヶ浜の総指揮を原田隊員およびNumber7、Number10より、Number1とンパ様、ディール様に変更します。Number1の特徴は狐の面を被った男性、ンパ様の特徴は緑のドレスに薔薇の杖を持った女性、ディール様は黒の装束、四肢に鉄色の甲冑を付けた男性になります。彼らから指示があった場合、従うようにお願いいたします。混乱を避けるため、Number1には一度無線を通して声を皆さんに届けていただけるようお願いいたします。以上』


 ザザッと雑音が鳴り、無線が途切れたのであった。


 最初は情報伝達と決定までの流れが早いなぁと感心していた俺であったが、すぐに妙なお願いをされたことで目を右往左往させていた。

 とりあえず声を届るって、自己紹介的な感じでいいのだろうか。

 いや、混乱を避けるためということは容姿や今からやることを把握してもらっておいた方がいいはずだ。


 正直、気は乗らないがこの辺りにいる全員が無線報告を聞いていたので、横柄な態度で「嫌だ」なんて言える勇気もない。

 それだったら顔が隠れている今、俺の姿を全員に見せる方がまだマシだ。


「ディール。ンパを抱えて一緒に付いてきてくれ」


「いいだろう」


 俺は指輪のアイに指示を出し、翼を出してもらう。

 ディールは俺の指示通りにンパを脇に抱え、ふわりと宙に浮かび上がった。


 俺も追うように空を飛び始め、あまり高度が高すぎず、かといって七ヶ浜を見渡せないほどの高度ではない、ほどよいところま上がっていく。

 頃合いを見て、俺とデイールは並び合うように七ヶ浜を見下ろした。


 俺の赤い翼が目立っていたのだろうか。

 七ヶ浜にいたほとんどの人たちが俺の方を見上げていた。


 ゴホンッと一つ咳ばらいをし、俺は無線の通信ボタンを押す。


『えーっと、海の上にある赤い翼は見えますか? 見えた方は片手をあげてくれると助かります』


 俺が全員に語り掛けるように無線のマイクに向かってしゃべり始めた。

 すると全員が聞こえていたようで、俺の感知範囲にいるほぼ全員が片手を徐に上げてくれた。


『ありがとうございます。あぁ、もう下ろしてもらっていいですよ。俺が報告にあったこの七ヶ浜近辺の総指揮を預かったNumber1です。えー、急に指名されたので手短に作戦を説明します』


 そこまで話し、俺は一呼吸置いた。


 ティアから聞いた魔獣の数、この辺りにいる戦闘員の消耗度合い、Number7とNumber10の余力具合。

 全てを考慮した時、俺の中で一つの作戦が思いついていた。

 いや、作戦というのも烏滸がましいほどの力技である。


『俺が沖合の方で派手に立ち回ります。その中で討ち漏れた魔獣を俺の隣にいるこの二人が殲滅していきます。黒い方がディールという男で、ちっこい緑の方がンパというヴァンパイアです。まあ、それでどうにかなると思うのであとは任せてください。以上です』


 俺は作戦を伝え終わると、隣を浮遊しているディールとンパに向かった。

 二人は今の俺の言葉で何となく察しがついていた様子だ。


「まあ、あれだ。俺はあくまで数を減らすことに専念するから、撃ち漏れた個体を倒すのと、暇だったら高火力魔法で俺のいない魔獣の群れへと攻撃をぶっ放してくれ。自衛隊が『MP回復錠剤』の在庫を持っていると言っていたから、欲しいと言えばくれるだろう」


「構わない。蛍は俺に魔王を二人も屠る機会を与えてくれたからな、感謝している。今は蛍の指示下で動こう」


「わかりましたです!」


「ありがとう、頑張ろうっか」


 そうして俺はすぐに二人と別れ、沖合の方へと向かっていった。

 ンパとディールは海岸付近で待機するために海岸の方へと戻っていく。


 それから間もなくのことであった。


 水平線の先から、黒く蠢く魔獣たちの軍勢がわらわらと現れ始めたのだ。

 さすがにその魔獣の数をこの目で捉え、俺は思わず声を漏らしていた。


「うおぉ……こんな軍勢と半日以上も戦ってたのか。戦争してた昔の人も戦前はこんな気持ちだったのかな?」


 確実に俺ならメンタル崩壊してしまいそうだと思ったのであった。

 それでもこの第五波、つまり魔獣の最後の攻勢は最も数が少ない進行だと言っていた。


「まぁ、これくらいならばどうにかなるか」


 そういえばダンジョンから怒涛の展開すぎてろくなストレッチすらしていなかったなと思い、俺は空を飛びながらゆっくりと体を伸ばし始めた。


 後方の七ヶ浜にいる人たちは、ここから肉眼で見れば豆粒のような大きさにしか見えないので大暴れしても問題はないだろう。

 俺の中でも最も広範囲殲滅に特化している魔法は、少なくない被害を周囲に及ぼしてしまうのだ。これくらい距離を離していた方が気楽に攻撃を展開できるだろう。


 あぁ、布団が恋しい。


 そもそもなんでこんなことになっているのだろうか。

 俺はあまり工藤さんたちから事情を聴かずにここに来ていたので、正直なんで戦っているのかもわかっていない。

 カルナダ姉さんが残したメモ書きから、地上で魔獣が暴れ出していることまではわかっていた。


 あくまでそれしか知らないのだ。


 気が付けば魔王ゴートラスを倒して、魔王メインダまでを倒していた。

 そして最後の極めつけは魔獣の軍勢約三万だ。まるで一分一秒を争う社長にでもなった気分だよ。


「まぁ、これも終わればゆっくり寝られるよね」


 俺はそう呟き、アイテムボックスから『MP回復錠剤』を取り出してカリッとかみ砕いた。ほんのりと薬特有の苦みが広がったが、スポーツドリンクで胃の中へと流し込むと、途端に体中からMPが溢れ出していく感覚が襲ってきた。


「……凄まじい効果だな、これ」


 アイテム効力の強さに驚きつつも、俺はふぅと息を吐き精神を統一する。


「あと一踏ん張り、頑張れ俺――『超級魔法・竜田姫』発動」


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― 新着の感想 ―
[良い点] はじめてのMP回復だった? つまり、今まで戦ってきたことのない領域に踏み込み始めているんですかね。 限界のその先までいくのかもしれませんが
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