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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【最終章】D侵略防衛戦争 編

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白石さん、それ以上はダメ

 


 俺は仙台のダンジョン安全エリアに仮設されていた後衛の臨時基地に来ていた。


 次の魔獣の軍勢が押し寄せてくる前に、賢人の容態を見に来たのだ。


 基地の入り口で警備をしていた自衛官にステータスカードを見せ要件を伝えると、すぐに賢人の寝ている医療テントに案内してくれた。

 案内してくれた自衛官に「ここまでで大丈夫です、ありがとうございます」と伝えると、華麗な敬礼をして持ち場へと帰っていった。

 去り際の顔を見ていると、その自衛官、名前を浅田芽衣さんという方らしいが顔を赤くしているように見えた。具合が悪いならば休めばいいのに真面目だなと考えつつ、医療テントの中に入っていく。


 テントの中に入ってすぐに装着していたお面を脱ぎ、素顔を露にした。


「よう、賢人。生きてるか?」


 医療テントの中にはベッドに横たわる賢人の姿があった。


 枕元には賢人の付き添いをしてくれていた白石さんが、タンクトップ一枚のかなり際どい服装で座っており、どうやら支給されたタオルで汗を拭っていたようなのだ。

 その姿を見てしまい、俺は思わず顔を赤く染め視線を逸らした。

 白石さんは俺に気が付くと、慌てて姿勢を正す。自分の薄着な格好に気が付き、少し恥ずかしそうに程よく実った胸元を隠していた。


 賢人が俺の声を聞き、顔を青白く染めながら辛そうに首だけをこちらに向けた。


「辛うじてなんとかな。回復魔法が数秒間に合わなければ、出血しすぎて死んでたかもしれないってさ。今は輸血してもらってるからなんとか大丈夫」


 顔色は少し青白く、誰が見ても無事とはいいがたいものだった。

 それでも賢人は大丈夫なように見せようと必死に笑顔を作り出し、珍しく人前で強がっているのだと気が付いてしまった。


「白石さん、賢人の容態は?」


 俺はすぐに一緒についていたであろう白石さんへと視線を向ける。

 白石さんはどう答えるべきなのか困った様子で眉尻を下げ、賢人へと振り返った。


「はぁ、やっぱりバレたか……って何もねぇよ。ただ今は血が足りないだけだ。元々この戦いの前に輸血パックは日本中から搔き集められていたし、俺も事前に血液検査を受けていたから問題ない。すぐに追加の輸血パックも届くって聞いてるよ」


 賢人は白い顔で笑いながらそう言った。


 ただ俺が心配し過ぎだっただけなようで良かった。

 今は相当辛いのだろうが、治るとわかっているならば怖さは少ないだろう。


 俺が胸を撫でおろしていると、白石さんが声には出さずに「ほんとだよ」と口パクで教えてくれた。


「ふぅ、なんだ良かったよ。さすがに胸に穴が空いてるのを見て、死んだと思ったよ」


「どうやら俺の生命力は伊達じゃないらしいぜ」


「死にそうになってた奴がよく言うよ。そんな減らず口を叩けるのなら、本当に大丈夫そうだな。とはいっても、今は辛いんだろ? 大人しく寝てろ」


「そうだな、そうさせてもらうわ。確かに少し辛い」


 やはり賢人は笑いながら、そう答えるのであった。

 弱弱しい賢人を見ることが初めてで俺は内心驚いていたけど、目を瞑りすやすやと呼吸を整え始めた賢人を見て安心した。


 そんな時であった。


 ベッドのサイドテーブルの上に置かれていた無線と、俺の耳に付けていた無線が同時に雑音を鳴らし、次の瞬間には男性自衛官の報告が流れてきた。

 賢人も目を瞑りながら耳を傾け、白石さんはタオルで汗を拭きながらも無線の声に耳を澄まし始めた。


『ダンジョン冒険者、各自衛官に報告します。第四波の軍勢および、強個体魔獣二体の殲滅を確認いたしました。魔獣は皆さまの奮闘のおかげで、強個体魔獣はNumber1、Number7、Number10の活躍により討伐が完了しました。三十分後には、最後の魔獣の攻勢が始まります。それぞれ万全の状態で備えていただくようお願いします。以上です』


 ザザッと雑音が鳴り、報告無線が途切れる。

 その音声を聞き終わると、白石さんがゆっくりと顔を上げて俺を見た。


「少し時間いいかな?」


「うん、俺も色々聞きたいことがあるからいいよ。そこ、座っていい?」


「もちろん。飲み物は何にする?」


 白石さんの近くにあった椅子を手繰り寄せ、「よいしょっと」と声を漏らしながら座ると、白石さんがベッドの近くに置いてあったクーラーボックスを開けて聞いてきた。

 俺は中身を覗き込んで、ちょうどいい飲み物を発見する。


「あっ、じゃあスポーツドリンクで」


「はい、どうぞ」


「ありがとう」


 白石さんは甲斐甲斐しくペットボトルの蓋を適度に緩め、一捻りすれば開けられるように調整して渡してくれた。

 その優しさに甘え、俺は椅子に腰を沈めながらグイグイと飲み干していく。


「あ゛~、疲れたぁ」


 思わず温泉おじさんのような声が腹の底から漏れてしまった。

 そんな俺の様子を見て、白石さんは口元を手で押さえながらクスクスと笑い始めた。


「雨川くんはダンジョンに行ってたって聞いてるけど、途中から切り上げてきたの?」


 白石さんは俺に話しかけながら、タオルで自分の汗を拭きとり始めた。

 おそらくタンクトップ一枚でこの部屋にいたのも、汗を拭くためだったのだろう。そこに俺が来てしまい、中断していたと。


 俺的には眼福すぎて、正直目のやり場に困ってしまう。

 だというのに、白石さんはすでに恥じらいをどこかに捨ててきたのか、平然と色々な箇所に柔らかいタオルを当てていき汗を拭きとっていく。

 俺は焦点は彼女から微妙に逸らしつつ、視界の中には納めるという上級技を使いながら答えた。


「いや、ちゃんと最後まで攻略してきたよ。たぶんあそこは崩壊型のダンジョンだから、すぐになくなるはず」


「そっか、やっぱり凄いんだね。……私、雨川くんにずっと謝りたかったんだ」


「謝る?」


 その言葉に思わず、俺は白石さんの方を見てしまった。


 俺と白石さんの関係は……強いて挙げるとするならば東京に来てから一回会話をした程度のものしかない。

 賢人に会うために学校に行き、玄関で初めて話しかけた人。その日の放課後に俺なんかを誘ってくれた美人ギャル。

 まあ、その程度の関係だったのだろう。


 だから白石さんが七ヶ浜の戦場で戦っている姿を見たときは正直、目玉が飛び出るほどには驚いていた。

 そんな俺との関わりなんてほとんどない彼女が、俺に何を謝りたいというのだろうか。


「そう、私はずっと雨川くんに謝りたかったの」


「理由を聞いてもいい? 心当たりがないというか、なんというか」


「もしかしたら雨川君は忘れているかもしれないけど、ダンジョン対策機関元副局長の《荒谷浩二》って人覚えてる?」


 荒谷浩二……全然覚えてない。


 そう思い、「う~ん」と唸りながら記憶を遡っていると、ふとある人物の顔を思い出した。

 東京に来てすぐのとき、俺に対して上から強引に話を進めようとした人だ。

 長瀬さんたちに嫌われているようで、すぐに会議室から追い出された人だったからすっかり忘れてたけど。


「ああ、そういえば。初めて東京に来た時に会った気がするわ」


「その人ね、私の父親なの。正確には元父親というのが正しいのだけれど」


 白石さんの父親が荒谷浩二、元副局長。

 あっ、元ってことは今は違うんだ、何かやらかしちゃったのだろうか。


「それで何で白石さんが謝るの?」


「私も一応新選事務所でダンジョン冒険者をしているの。だから、あなたを尊敬しています。私と同い年なのに一人でダンジョンを一つ攻略してしまい、北海道奪還作戦でも活躍して、世間の注目を一身に集めるあなたを。そんな私が尊敬している人に、あいつがやらかしたと聞いた時には心底怒ったわ」


「…………」


「だから謝りたいの。ごめんなさい、私のダメな父さんが色々と迷惑を掛けて」


「……あぁ、うん。全然大丈夫……うん、全然ダイジョブだから」


 俺はできるだけ冷静にいようと、表情筋を戒めながら答えた。


 なんだこの気持ちは。

 気を抜くと頬が緩みそうになる、恥ずかしいと叫びたくなる、自分を褒めたたえたくなる、白石さんを好きになってしまいそうになる。


 落ち着けぇ、俺。

 勘違いをするんじゃない。確かに白石さんは美人で、ダンジョン冒険者で、なぜか話しやすくて、俺を尊敬しているだけじゃないか。

 そう、たったのそれだけで勘違いするな。


「ありがとう。それだけがずっと心残りだったの。私が雨川君の正体を知っていたのも、ダメ父さんがお酒に酔ったときに愚痴を零したから。だから、私が懲らしめてやったわ。あんな母さんを捨てるような奴、私は父とは認めたくない」


「す、すごい嫌いなんだね」


「えぇ、大嫌いよ。あいつのせいで、私は尊敬しているあなたに話しかけられなかった。後ろめたい気持ちが大きかったの。でも、今日話せてよかったわ」


「そ、そうなんだ」


 白石さん、臆せず俺のことを尊敬しているというのでその度に頬の筋肉が決壊しそうになる。

 俺はそういう褒められる言葉に慣れていないんだ。


「ごめんなさい、私ばかり話してしまって」


「いや、俺も白石さんの話を聞けて良かったよ」


 これは本当に思っている。

 その理由は簡単だ。


 俺はダンジョンでむさ苦しくも健と男二人で過ごしていたのだ。そこにようやく女子が加わったと思えば、カルナダ姉さんだ。あれは女子としてはカウントできかねる。

 そして攻略したと思えば、突然こんな戦争じみた場所に誘導された。

 俺はどれだけ戦えばいいんだよ。

 そう誰かに愚痴りたくなるほどであった。


 そんな時に、白石さんが現れた。

 目の前で恥ずかしげもなくタンクトップ姿でいてくれる君がどれだけ心の癒しになっただろうか。肌色成分が多いというだけで、なぜ男の心は優しくなってしまうのだろうか。


 要するに、なんか久しぶりに女子らしい女子と会った気がするのだ。

 それだけでも引き籠りがちな俺にとっては貴重なヒーリング要素になりうるのだ。


 そう、内心でトリップしかけていた。


 その時であった。


「失礼します! 追加の輸血パックを持ってきました!」


 テントの入り口が開かれ、医療系の白い衣服を身に纏った自衛官が急いで入ってきたのだ。

 俺はその様子を事前に感知していたので、ほぼ同じタイミングでお面を装着し直し立ち上がった。


「賢人をお願いします」


「あ、あなたは?」


 すれ違うようにテントを出ようとすると、その自衛官が首を傾げて聞いてきた。

 そんな時、白石さんが助け舟を出してくれた。


「じゃあ、あとはお願いね。Number1」


「ワ、ワ、ワ、Number1!?」


 テントを出ると、中から驚いた自衛官の声が聞こえてきた。

 さすがの俺もその反応にそろそろ慣れてきたので小さくクスリと笑い、指輪をコンコンと触る。


「アイ、行こうか」


「――ッ」


 指輪からぶわりと紅葉した葉が溢れかえり、俺の上半身を覆うようにまとわりついていく。

 そうして外套を身に纏い、赤い翼が出現した。


 バサリと翼を煽ぎ、近くの自衛官たちに飛び立つ合図を見せる。


 驚いている者、慣れた様子で見守る者など反応は様々だが、全員が俺から距離を空けてくれた。

 正直、一見して俺をNumber1だと認識できる自衛官はまだまだ少ない。


 俺の格好が平凡すぎて見分けがつかないと理由もあるが、もっともな理由はこの赤い翼が理由だった。

 アイの防具化は印象が強烈すぎるのだ。

 だから自衛官の間では赤い翼をもつ人物がNumber1であるという見分け方が浸透しているらしい。

 それも全員ではなく、北海道奪還作戦に参加した自衛官限定という話。


 要するに『Number1』という名前は誰もが知っているが、自衛官でさえ俺の姿を見て『Number1』と結びつけることができていないのだ。

 だからこそわざとでなくとも、驚きを周囲に振りまいてしまう。

 そこは本当にごめんと思ってるけど、個人としてはいつになったらこの奇異な目で見られなくなるのだろうと考えている。


「よーし、頑張ろう」


 俺は両手を軽く擦り合わせて周囲の腰を抜かした自衛官に「ごめん」と伝え、空へと飛び立った。


 目指すは七ヶ浜。

 最後の魔獣の攻勢が始まる場所で、俺は殲滅戦をやるとしよう。


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[良い点] おっと、フラグ回避
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