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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【最終章】D侵略防衛戦争 編

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グレイの精霊

 


 ようやく魔王の一柱、メインダが倒れた。

 その様子を最後まで確認した二人の影、Number7とNumber10はゆっくりと武器を引き抜き、ホッと胸を撫でおろした。


 それと同時に、ゴートラスを倒した時のディールのような何とも言えない表情を露にする。


 メインダは死んだことにより、飛行系の能力も解除されていた。

 魔王の遺体は俺たちに看取られながらゆっくりと海の底へと沈んでいく。


 その間にも魔法の反動もすっかりとなくなり、俺はウググに支えられることなく自力で飛行できるようになっていた。

 すぐにウググの黒焦げた腕を回復しようと傷のあった場所を確認したが、いつの間にか傷は塞がっており、綺麗な白い毛並みが復活していた。


(あぁ、そういえばカカトも言っていたな。ウググは自己再生の能力を持っていると)


「グゥ?」


 ウググが「大丈夫?」と俺の顔を覗き込んできた。


「大丈夫だよ、守ってくれてありがとうウググ。戻っていいよ」


「グゥ」


「はいはい、分かってますって。この戦いが終わったらこの世界のレシピ本はたくさん買ってあげるから心配するなって」


「グゥ」


「だからわかってるって。好きな食材も買っていいから」


「グゥ」


 そんなやり取りをしてようやくウググは、体を小さく変化させ元のイヤリング姿へと戻っていったのであった。


 ウググが俺と共に来ると言ったとき、一つだけ約束をしていたのだ。

 この世界、つまり地球にある料理を知りたいからこの世界にあるレシピを教えてほしいと。

 まあ、家事が得意なウググらしい可愛いお願いだったので俺はもちろんだと承諾した。


 ウググは俺のことも気に入ってくれていたみたいだが、それ以上にこの世界の料理について知りたくてついてきた節があると思う。


「クゥ!」


 頑張ったよ、そんな様子でクウが俺の足元にすり寄ってきた。

 俺がクウの額を何度か撫でてあげると、目を細めて嬉しそうに喉を鳴らしていた。そしてウググと同じように防具へと戻るように指示を出す。


 クウの体が再び神聖な光を発し、小さく姿を変えていく。

 その中で俺の首元へと納まり、いつものマフラー姿へと戻っていった。


「よし、『超級魔法・建御雷神』も解除だ」


「ポンッ!」


 そうして俺は一度、戦闘状態をすべて解除することにした。

 アイの羽だけは空を飛ぶために必要なので、そのまま防具の姿でいてもらうことにする。


 そしてゆっくりとディールとンパの元へと近づいていく。


 二人も俺の行動に気が付いたのか、あちらからも近づいてきた。


「とりあえずンパ、これ飲んどけ」


 俺はぐったりとしているンパに、カルナダ姉さんから貰った一つのアイテムを渡した。

『MP回復錠剤』、名前そのまんまの効果を持つアイテムだ。

 カルナダ姉さんを倒した後に、俺のアイテムが散乱していた場所に落ちていた、おそらく元々カルナダ姉さんの持ち物であろうアイテムだ。


 ンパはそれを見るや否や、赤い瞳をうるうると輝かせた。


「ほ、ほ、ほ……蛍さん大好きです!」


「いいからさっさと飲んどけって、いつまでディールに体重預けている気だよ」


「はいなのです!」


 ンパは心底嬉しそうに俺から錠剤を受け取り、ごくんと飲み込んだ。

 それから数秒ほどで自力で体を支えられるくらいには回復したのであった。


「ディールもいるか?」


「ああ、一応貰っておこうか」


 ディールも欲しそうな顔をしていたので、俺は一粒あげる。

 すぐにディールは飲み込むと、何度か手の平をわしゃわしゃと握り込み自分の体調を確認していた。


「これは……さすが『MP回復錠剤』だ。一瞬で体が軽くなった気がする」


「ちょっ!? 蛍さん!?」


「なになに」


 突然、ンパが驚いたようにあわあわと口を開きだした。


「そんな簡単に『MP回復錠剤』をあげていいんですか!? 本当にいいんですか!?」


「えっ、だめなの? だって辛そうだったし」


「いや、蛍さんがいいならいいんですけど……。貴重なものをありがとございます」


「……貴重? えっ、これいくらなの?」


 ンパは渋るように、小さな声で言ってきた。


「五錠で一億円くらいですよ」


「よし、二人とも今すぐ薬を吐け」


 一億円、そう言われて俺はすぐに真面目なトーンで二人へと迫っていく。

 しかし二人とも「無理」と言い、全然吐き出そうとしてくれなかった。


 えっ? 一億円だよ?

 美味い棒状のお菓子がいくつ買えると思っているんだ。

 ざっと計算しても一千万本だよ?


 確かにアイテムの価値も確認せずに渡してしまった俺も悪いけど、お前らもお前らだよ。

 そんな異常な値段なら受け取らないという選択肢はなかったのかよ。


「まあいいよ。それよりも俺は一度賢人の様子を見に行きたい。ここを任せてもいいか? まだまだ魔獣たちはいるようだしな」


「任せろ。『MP回復錠剤』分の仕事は果たすつもりだ。この国に来た魔王はメインダで最後だろうが、いつ他の魔王が来るとも限らんからな。俺はこのままここで戦うとする」


「もちろんですよ! ンパも頑張ります! 杖くらいちょちょいのちょいで振れるんですからっ!」


 二人とも自信満々で答えてくれたのであった。

 まあ、メインダに対して一度だけ攻撃をしただけだったから消化不良なのだろう。


「それじゃあ、任せるわ」


 それだけ伝え、俺は一度海岸へと戻ることにした。

 ディールとンパも俺と同じように海岸へと向かうようで、ゆっくりと俺の後を付いてきている。


 海岸へと降り立ち、アイの防具化を解いた。


 まさにその時であった。


「「「「おぉっ!」」」」


 周囲から大きな歓声が鳴り響いたのだ。


 思わぬ大音量の雄叫びに、俺はビクッと体を反応させ肩を縮ませていた。

 同時に両耳を手で塞ぎ、恐る恐る周囲を見渡す。


 海岸で大歓声を上げていたのは、この一帯でずっと戦っていたダンジョン冒険者たちや自衛官たちの喜びと勝利の雄叫びであった。

 ほぼ全員が安堵と勝利の明るい表情をしながら、片手を空へと掲げ、メインダを打ち取った俺たちの帰還を喜ぶように歓迎していたのだ。


 最初に見ていた時よりも数が多いな……野次馬かよ。


「すげぇ、あれが世界1位かよ!」

「格が全然違うな。さすがはシングルの頂点に立つ男だ」

「他の二人の攻撃もやばかったぞ! 何者だよ、あいつら!」

「さすがグレイ様だぜ!」

「キャーッ! ジュリオ様ぁ~」


 大歓声のあと、皆が口々に今見ていた戦いの感想を思い思いに語り始めた。


 ディールも俺と同じく少々居心地が悪そうな顔をしていた。

 それに対してンパはというと……。


「どうも、どうも~。ンパですよ! ンパはンパですよ!」


 満更でもなさそうなふにゃけた笑みを浮かべながら、大きく手を振り返し始めたのであった。

 ああ、こいつ……お調子者だったんだな。典型的な目立ちたがり屋だ。


 よし、こいつを人柱にしよう。


 俺がディールに「あとは任せる」と視線を送ると、ディールは大層面倒くさそうな顔をした。

 行かないでくれと懇願されていそうな目とも捉えられる。


 そんなディールなどお構いなしに、俺はこの注目から逃げようと走り出した。


 その時であった。


 不意に、後ろから声を掛けられ足を止められることとなった。


「ちょっと待ってくれないか?」


 その声には聞き覚えがあり、『守りの流水』で誰が話しかけてきたのかが分かったので、俺は振り返った。


「なに?」


「先ほどは助かったよ、ありがとう。僕はアメリカ所属のNumber7、ローガン・グレイだ」


「あー、うん。グレイさんね」


「ニンジャボーイアキカワから聞いたんだ。Number1、君が僕と同じ精霊と契約をした人間だって。本当なのか最初は疑っていたが、君の戦いを見てはっきりしたよ。君は精霊と契約をしている、間違いないよね?」


 ニンジャボーイアキカワ?

 ふふっ、賢人ってばそんな呼ばれ方しているのかよ。あとで散々にイジってやろう。


 俺は賢人の呼ばれ方に腹を抱えて笑いそうになったが、気力で笑いをこらえて、グレイと名乗る人物の顔を見た。


(……改めて近くで見ると、この人イカついな)


 それにしてもこのNumber7、グレイも精霊と契約をしている人なのか。


 もしそれが本当ならば、俺以外で初めて精霊と契約している人物に会ったことになるな。

 俺は彼に興味が湧き、賢人の元へと向かう前に少しばかり話をすることにした。


「間違いないよ。おいで、クウ、ぽん、アイ」


「クゥ」

「ポンッ」

「――ッ」


 俺がそう囁くと、全員が防具化を解き俺の周りに現れたのであった。


「わぁお、これは凄いね」


 グレイは心の底から嬉しそうに驚いていた。

 その大げさなリアクションを見て、これが本場のアメリカンな反応なのかと感心していた俺であった。


「グレイの精霊も呼んでよ」


「もちろんだよ。おいで、フィーニス」


 グレイが片耳に付いていた不死鳥のイヤリングに指先で触れると、イヤリングが淡く黄金色に輝き精霊が姿を現した。


 精霊は、やはり絵本でよく見るような不死鳥の姿をしていた。


 大きさ的には鷹ほどだろうか。

 グレイの頭の周りを優雅に飛び回り、「フイィ」と優しく鳴いたのであった。そして俺たちの精霊に気が付いたのだろう。

 飛行を止め、ゆっくりと精霊たちが一堂に集合する。


 クウ、ぽん、アイ、フィーニスが円を描くように並び座り、精霊流挨拶を交わすのであった。


 最初にフィーニスが首だけで「フイィ」と挨拶をする。

 その次にクウがちょこんと頭を下げ、ぽんが「ポンッ」と鳴きながら頭を下げる。

 最後にアイが器用に翼を折りたたんで頭を下げるのであった。


「わぁお、これは何だい? フィーニスが嬉しそうだ」


 グレイは初めて精霊たちの挨拶を見たのだろう。

 興味深そうに顔を精霊たちに近づけ、ジッとその様子を観察し始めた。


「これは精霊たちの挨拶のようなものだよ。こうやって順番に頭を何度も下げ合うんだ」


「ほぅ、これが精霊たちの挨拶なのか。僕たちでいうハグみたいなものなんだろうね。これは興味深い話を聞けたよ」


 グレイの言葉が徐々に熱を帯びてゆき、鼻息が荒々しくなっていく。


「そういえば俺の精霊たちを紹介していなかったね。白い狐が冷狐の《クウ》で、黒い狸が雷狸の《ぽん》、赤い鳥が紅葉烏の《アイ》だ」


「うんうん、いい名前をもらったね! 僕の精霊は灼熱鳥の《フィーニス》って言うんだ。精霊魔法の名前は溶岩魔法。名前の通り、マグマを操る能力だよ」


 マグマを操る精霊か。

 グレイはいい精霊と出会えたようだな。もしかしたらグレイが世界7位という地位を手にした理由は、この精霊と出会えたことが大きな要因なのだろうか。


「俺は氷雪魔法、電撃魔法、秋風魔法の三種類だ」


「やっぱり君は凄いね。三体と契約しているなんて思ってもみなかったよ。僕も精霊たちの強さを理解している身だ、君がどれだけ僕との実力差があるのかはわかっているつもりだよ。また、こうして話ができるといいな」


「ああ、そうだね。俺もグレイに聞きたいことが増えたよ。じゃあ、俺は一旦後ろに引くよ」


 そう言って、俺はグレイに背中を向けようとした。


「ニンジャボーイアキカワのところかい?」


「そうだよ、賢人は俺の数少ない友達なんだ」


「そっか、君が見てきてくれるなら安心できるね。こっちの戦場は僕たちが請け負うから、賢人の無事を確認してきてほしい」


「わかったよ」


 そうして俺はグレイと別れ、七ヶ浜を離れるように賢人が運ばれた後衛基地へと向かい始めた。




 ******************************




 ――第五波先頭付近に、空飛ぶ城の姿があった。


 城の最上階にある天上の間にて、戦況を見定めるように座っていた魔王がいた。

 名を【魔知将】ジャビーガ、今回のムーブダンジョン一斉方向転換を主導した魔王の一人であり、魔王最強と名高い魔王であった。


 ジャビーガは机上にある地図を見つめている。


 そうしていると地図上に置かれていたチェスのような黒と白の駒のうち、日本の地図上に置かれた黒い駒が赤く燃え上がり、灰となって崩れていった。


 その様子を見て、ジャビーガが不機嫌そうに呟いた。


「ゴートラスが逝ったか。……アロスに続いて、破壊の王までもが。一体、何者だ」


 ジャビーガは再び、地図の駒を見渡すように眺め始めた。


 先ほどまで地図上に転がっている駒は全部で二十もあった。

 黒が十一個、白が九個。

 そのうちすでに黒の駒が五個灰となり、白の駒が三個灰と化している。


「ベトナムに向かった《バッグドラス》と《爺や》が、人間の《6位》と《11位》を屠った。ロシアに向かった《マリノ》も《9位》を殺した……そこまでは順調だった」


 ジャビーガはそこまで言うと、自分の唇を悔しさから噛み千切った。

 ツーと赤い血が顎を伝っていき、地図に赤い染みを作る。


「オーストラリアにいた2位、ロシアの3位、台湾にいた4位が強すぎた。完全に私の予想を上回った人間だ。いとも簡単に魔王が四人も殺られた、これでは割に合わんではないか」


 ジャビーガは怒りをぶつけるように、机上の地図をドンッと拳で叩いた。


「……最後にゴートラスだ。一体、誰にやられた? 日本には何がいる?」


 そんな弱音を呟いた、その時であった。

 地図上に載る日本、そこに置いてあった残り一つの黒い駒が灰へと変わり崩れていったのだ。


 それが意味することは、死だ。


「なんだと!? メインダまでもが討たれただと!? まさか……そんなわけはない!」


 ジャビーガは順調に進むどころか、どんどんと形勢が悪くなっていく状況に焦燥を覚え始めていた。


 しかし、すぐに自分の理性を取り戻すように心を御した。


「いや、魔王がいくら殺られようと構わない。この作戦で肝心なのは……あいつを呼び寄せることだ。そうだ、あいつさえ私の目の前に現れれば……それだけでいい」


 ジャビーガは本来の目的を思い出し、不敵に笑うのであった。


 ジャビーガが始めたこのムーブダンジョン一斉移動は、着実に目的を果たしている。

 魔王が六体も死ぬことは想定外だったが、それ以外は順調だ。


 魔獣と人間の生贄の数も、世界規模で巻き起こっている騒動も。

 全てはあいつを私の前に立たせるために。


 そう思い出し、不敵な笑みを浮かべた。


 その時であった。


「…………天空城にハエが入り込んだか。ちょうどいい、本番の前の準備運動といこうか」


【人間 VS 魔王】

Number 6 (×)VS(〇)【暴食の王】バッグドラス

Number 11(×)VS(〇)【強欲の王】爺や

Number 2 (〇)VS(×)【嫉妬の王】トールネイス

 〃    (〇)VS(×)【怠惰の王】ガヴァリエス

Number 4 (〇)VS(×)【死神王】コーズ

Number 3 (〇)VS(×)【神槍天】ドューランス

Number 9 (×)VS(〇)【色欲の王】マリノ

Number 1 (〇)VS(×)【破壊の王】ゴートラス

  〃   (〇)VS(×)【傲慢の王】メインダ

【不参加】

Number5、Number8、【魔知将】ジャビーガ、【◆◆◆】◆◆◆◆◆、【憤怒の王】アロス(死亡)

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― 新着の感想 ―
[一言] 蛍以外勝負にならないのかと思っていたら、意外と他のランカー強いですね…。
[良い点] 整理されてしまった! 他のシングルや魔王をもっと知りたかったのでちょっと悲しみ。 しかし、戦いの規模感は伝わって来ます
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