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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【最終章】D侵略防衛戦争 編

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傲慢とはなんだ?

 


 ふと、二人と視線が合った気がした。


 もの凄い勢いで落下していくンパとディールが俺の脇を通り過ぎてゆく。

 ディールは両手をおにぎりを握るような形で構え、その拳の中がバチバチと黒い炎が爆発をしていた。

 ンパはぶつぶつと詠唱を始め、手に持っていた長い薔薇茎の杖をメインダへと向け構えていた。


 メインダの硬さは異常だ。


 俺の最大威力の攻撃をもってして、やっと鎧を剥がせたほどの頑丈さなのである。

 最後のトドメだと言っても、生半可な攻撃ではHP1も削ることができないだろう。


 だからこその、ンパとディールだ。


 ンパの超絶高火力砲に、ゴートラスとの戦いで見せたディールの超級黒焔魔法。この二つがあれば、最後のトドメとしてふさわしい威力を発揮するだろう。


『……ゴホッ…………これは…………傲慢だ……』


 メインダは空から舞い降りてきた二人の強者を見て、目を大きく見開いた。

 まだ俺一人が相手ならば勝機はゼロではなく、一矢報いることだってできていたかもしれない。

 しかし、この場面に来てさらに二人も強者が現れたのだ。


 その事実が、メインダを絶望の淵へと落としていった。


 それでもメインダは最後のあがきで、口から血反吐を溢しながらも防御スキルを唱えた。


『……これが我、最後の時なり…………『絶縁ノ盾(ぜつえんのたて)』ッッッ』


 実に静かな発動だった。

 メインダの体から何かの力が勢いよく吸い上げられていき、体を覆うほどの半球型シールドが形成されたのだ。

 能力の反動なのか、メインダの頬がげっそりと影を落としていた。


 異世界鑑定では効果が判別できないが、魔王メインダの最後の能力とあれば格別の効果を持っているのだろう。


 だがしかし。


 それを破れる力を持っているからこそ、俺はンパとディールを切り札として待機させておいたのだ。


「行け、異世界コンビ」


 俺はウググに体を支えてもらいンパとディールの後ろ姿を見つめながら、願いを届けるように小さく呟いた。


 すると、ンパとディールの体内MPがほぼ同時に膨れ上がった。


 昔はMPをこれほど詳細に感じ取ることができなかったけど、カルナダ姉さんの元で修行してようやく二人の凄さに気が付けた。

 確かに総合力で言えば、元々俺の方が強かったかもしれない。

 だけど、ンパとディールは二人ともMPの操作技術が抜群に優れている。それが彼らが強者になりえた要因の一つなのだろう。


 上位魔人は元からMPの操作技術に長けていたのか、あるいは血の滲むような努力の結果なのか。

 それはわからないが、今この時だけはそんな二人を自慢に思っていた。



 そうして、二人の攻撃が発動した。



「『超級黒焔魔法・ビッグバン』ッッッ」


「『エンシェント・レーザーカノン』ッッッ……んなぁーっ!!」


 ディールからは黒い炎の爆発魔法が。


 ンパからはいつの間にか詠唱が進化していた極太レーザー砲が。


 思わず顔を手で塞いでしまうほどの光量を持った攻撃が、二人の手元から無情にも放たれていく。


 メインダはさすがの攻撃力に、()()()


 その表情は今までのプライドが高そうでおごりたかぶっていた表情ではなく、どこにでもいる普通の人間と何も変わらない、優しい笑みだった。


『……ゴホッ……これは…………傲慢だ。いや、我が傲慢だったか』


 そして――。


 二人の攻撃は瞬きするほどの時間でメインダの防御を突破し、魔王メインダの無防備な体に降り注いだ。


 激しい轟音が空間を響き渡り、衝撃波がドンッと骨身まで伝わってくる。

 海面陥没によりメインダを中心に大きな高波が生まれ、円周上に広がっていく様子が見えていた。


 ディールはそれを見届けてすぐに飛行系の能力を使いその場で停止する。

 同時に隣ですでにぐったりとしているンパをキャッチし、二人は海へと落下することはなかった。


 そんな二人がすべてを出しきった顔をして、こちらに満足げな顔を向けてきた。


 その時であった。


『……ゴホッ…………『デス・ソード』ッ』


 死んだと思っていたメインダが、心身ともにボロボロになりながらも右腕を上へと向け、攻撃を放ったのだ。

 腕が黒い刃へと変形していき、異常な速度でグンッと伸びていく。


 音もなく、予備動作もなく、気配もない。

 暗殺に特化したような攻撃技のように見えた。


 その刃の先にいたのは……攻撃に気が付いている様子もなく、少し怠そうに笑っていたンパだった。


(やばいっ!? ディールも早く気が付け!)


「逃げッ――」


 俺は慌てるように声を出していた。


 まさにその時であった。

 魔王メインダの傍に、二つの影が静かに近づいていた。


「『雷槍・プゥント』ッ」


「『マグマソード・デルタキル』ッ」


 青い雷を纏った槍がメインダの胸に大きな穴を開け、溶岩のような赤い剣がメインダの攻撃を腕ごと叩き斬ったのだ。


『……ゴホッ…………人間は傲慢だ』


 メインダは自分の腕が海へと落ちていく様子を見て、自分の胸から槍の切っ先が突き抜けた様子を見て、ようやく不意打ちを食らったことに気が付いた。


 ほんの一瞬、メインダはもう一度笑ったのだ。

 上がった口角から、赤い一筋の血が顎を伝っていき、血の雫が海へと落ちていった。


 メインダはその状態のまま死んでいった。


 最後の言葉を残して、ようやく息が絶えたのである。

 死してなお、メインダは無様に倒れることなく立ったまま死んでいった。


 傲慢とは、他者を見下すことである。


 メインダがなぜ【傲慢の王】なんていう称号を手にしていたのかは、今となってはわからない。

 だけどやつがゴブリンで、人間を憎むような最後の言葉からは察しが付ていた。


「ああ、本当に……後味悪い世界だよ」


 俺、ウググ、クウ、ディール、ンパ、Number7、Number10。

 これだけの戦力を持って、ようやく【傲慢の王】メインダの硬い装甲を破ることに成功したのだ。


 これが本当に正解だったのか、俺には分からなかった。


 また魔王が一人この世を去ったのである。




 ******************************




【傲慢の王】メインダ。

 またの名を《デーモン・ゴブリンキング》元最弱魔獣であるゴブリンだった男である。


 ゴブリンはか弱い存在であり、弱肉強食の世界の中での地位は限りなく低かった。

 だからこそ、人間による様々な人体実験に使用されることも多い種族であった。まるで現代社会で実験に使用されるマウス、鼠とほぼ変わらない存在だったのだ。


 メインダもそのうちの一体だ。


 生まれたころから人間の非道な実験に使われ、自分はいつ死ねるのだろうかと日々考えていた。自殺はできない、名前も知らない人間の能力で禁止されていたからだ。

 薬を飲まされ、体を弄られ、暴力を振るわれ、拷問され……いつしかメインダは誰もが突破できない、かすり傷すら与えるのが困難な最強の防御力を手にしていた。


 そしてメインダは自らの手で実験者である人間たちを殺していった。


 それからメインダは「人間は傲慢である」と疑うことはなかった。



 しかし、ある日のことだった。



 人間の手から逃れ、森でひそかに暮らしていたメインダの元に一人の赤ん坊が迷い込んできたのだ。

 いや、自らの足で迷い込んできたのではなく、傲慢な人間の親によって森に捨てられたのであった。


 最初は殺そうと思っていた。指でプツンと握りつぶせるほどの小さな命だ、メインダは悩むことすらしなかった。


 ――あひゃひゃ。


 赤ん坊が笑ったのだ。

 その顔をメインダは知らなかった。


 人間の笑い声は、実に不愉快なものだ。それを常識として考えていたメインダにとっては、この赤ん坊がどんな感情で笑っているのかわからなかったのだ。


 メインダは赤ん坊が言葉を話せるまで育て、話を聞いてみたいと思った。


 赤ん坊には『マイ』という名前を付けた。

 マイは天真爛漫に育っていき、いつの間にか美しい人間の女性になった。その美しさは異種族であるメインダから見ても美しいと思えるほどであった。


 しかし、人間の寿命は短かった。


 マイは生涯どんな男とも番になることなく、森でメインダと一生を過ごした。


 ある日、マイは言ったのだ。


 ――あはは、赤ん坊のときの記憶なんてないよメインダ。でも……私はメインダと一生いられればそれで十分幸せだよ。だから、メインダは傲慢なんかじゃない、私が約束するよ。


 メインダはその感情が分からなかった。

 そしてわからないまま……マイが死んでいった。


 結局、メインダは何もわからなかった。

 それが恋心だとも気が付かず、人間の感情も理解できず、傲慢も理解できず。


 ただ一つ、マイの笑顔の意味だけはわかった気がする。


『マイ、傲慢とはなんだ? 結局、俺は分からなかったよ。あぁ、でも、幸せは何となく分かった気がするよ。死を目の前にして、マイと過ごしたあの時間だけが……俺の幸せだったんだ。ようやく気が付けたよ、ありがとう』


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― 新着の感想 ―
[良い点] まーたしんみりする挿入が。 こんな魔王達が信奉するシロアとはいったい
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