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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【最終章】D侵略防衛戦争 編

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がはははッ

 


「グゥ」


 ウググ、またの名を『魔神獣・トュルーイエティ』。

 神であるカカトと共にミタマ様の世界で出会った雪男にして、俺と同程度の力を有している家事が得意な相棒である。


 なぜウググが俺なんかと一緒にいてくれるのかはわからない。


 それでも一つ言えるのは、ウググがいれば怖いものなしということだ。


「来てくれ、ウググ」


 右耳に付けていた雪印のイヤリングが白く輝き始めた。

 小さかったイヤリングが徐々に肥大化していき、気が付いたときにはウググが俺の隣に立っていたのであった。


 深く白い毛並みに三メートル近い身長。そして体格の割に優しい二つの瞳。


 そして――。


「クウも出たいのか?」


「クゥ!」


 首元にマフラーとして収まっていたクウが戦闘に出たいともぞもぞ動き出したのだ。


 精霊の超級魔法を解放したことで、俺の精霊っ子たちは眠ることがなくなった。いや、正確には稀に寝るのだが、以前よりも寝る時間は格段と少なくなっていた。

 そして、自分の意志で戦闘を行えるようになっている。


 だからなのか、最近は戦う喜びを覚えたのである。


「クウ防具化解除だ。三人で一気にあの防御を突破するぞ」


「クゥ!」


 しゅるしゅると首元からクウが飛び出し、淡く光り輝くと狐の幼体から神聖さが滲み出る成体へと変化していく。

 身長は俺の腰程度まで大きくなり、毛並みが一層神々しくなった。


 ミタマ様、つまり稲荷の神の使いである神獣の冷狐は本当に美しい姿をしている。


 俺は両隣に立った二体の仲間の毛並みを触り、臨戦態勢を取った。


『がはははッ、これはなかなか……厳しい状況だ』


 この状況でもなお、メインダは豪快に笑っていた。

 それがただの強がりなのか、実際に余裕があるのかまではわからないが、メインダはやる気の様子だ。


 俺とメインダは同時に姿勢を軽く落とした。


 最初に動いたのは、メインダだった。


『行くぞッ! 『グラビィティ・インパクト』ッ』


 俺の移動速度とほぼ変わらない速度で急接近し、紫色に輝く金棒を振りかぶったのだ。

 すぐに回避しようと『幻影回避』のスキルを準備する。


 しかし――。


『ぬッ!?』


「グゥゥゥゥゥ」


 ウググが、まるで子供のチャンバラでも摘まむようにメインダの金棒を止めたのだ。

 かなりの威力を持った攻撃だったのだが、ウググはまるで意に介していない様子であった。


 圧倒的実力差。


 メインダはそれを感じたのだろう。

 さすがの【傲慢の王】でも動揺を隠せずに、鎧の奥にある青い瞳を右往左往とさせていた。


 かくいう俺も驚いていた。

 実際にウググが戦闘を行う場面は一度も見たことがなかったのだが、こう実際に見ると言葉では言い表せない強さなのだ。


 ただ一つ、カカトから聞いたウググの秘密があった。



 ――ウググは誰も傷つけないんだな。生涯、何かを守ると神に誓ったのがウググなんだな、仲良くしてほしいんだぁ。



 そう、ウググは攻撃ができない。

 それは敵であっても、味方であっても、傷をつけることを拒むのだという。

 じゃあ、なぜ今このタイミングで出したのか。それは単純だ、圧倒的防御力、自分で思考して防御してくれる味方は実にありがたい存在だ。


 正直言うと、俺はいまだに防御が苦手だ。

 思考回路がすでに回避に偏っており、いちいち防御しようなどと考えない。


 だからこそ、近くにウググがいてくれるだけで俺は攻撃に集中できるってわけだ。


「グゥッ!」


 ウググがメインダから金棒を取り上げ、どこかはるか遠くの海に向かってポイッと投げ飛ばした。


 すると、気を取り戻したメインダがすかさずウググに攻撃を加えた。


『……『スルー・インパクト』ッ』


 槍のように腕の形状を変化させ、ウググの腹目掛けて腕を貫こうとしたのだ。

 それは一見して、貫通攻撃だと気が付いた。


 それでも――。


「グゥ」


 ウググはやはり意に介さず指先でメインダの拳を止めたのであった。


 メインダは何度も何度も何度も何度も……拳をウググに対して振るった。

 その表情は焦りと恐怖に支配され、徐々に攻撃が乱暴になっていき、『ゼハァ、ゼハァ』と息を荒げていく。


 メインダの視界の中にはすでに、ウググの姿しか映っていない。


「クウ!」


 そんな時であった。


 クウが突然メインダに襲い掛かったのだ。

 強靭な顎で足元へと噛みつき、体内から猛烈な勢いで白い冷気を吐き出し、メインダの体を鎧の中から凍らせようとする。


 俺は心の中で「ナイスタイミング!」と呟いた。


「……クウ、回避ッ!」


「クゥッ!」


 今ならば、メインダの体の動きが鈍っているはずだ。


 素早い相手に使うことが困難な大技を決めるには今しかない。

 反動も大きいしラストアタックのモーションが大きいのだが、超級魔法を解禁した今、この魔法が俺にとって最大火力の攻撃であることは実証済みだ。


 それを今、実戦で使う。



「『電速・八連』ッ!」



 ポンと和太鼓の鳴る音が辺りに響き渡った。

 その瞬間に俺の体がカッと眩い緑色の電光を放ち、電撃の一部となってメインダへと切迫していく。


『消えたッ!?』


 メインダにとっては、俺が消えたように見えたのだろう。

 それもそのはずだ。

 超級魔法使用時のこの魔法はメインダ、お前の移動速度をはるかに超えているのだから。


 メインダが声を出していた時にはすでに、俺はメインダの死角である真横にいた。


『ぐはッ!?』


 メインダの鳩尾に、緑色の雷を纏った蹴りが突き刺さった。

 苦しそうな声が鎧の中から聞こえ、肺から空気が一気に押し出されたのがわかった。


「次ッ」


 その言葉をトリガーに、俺の体が黄色い電光へと輝きだす。

 次の瞬間には、吹き飛ばされたメインダの場所へと先回りして、背後を取っていた。


『がはッ!?』


 メインダの背中を斜め上空へと思いっきり蹴り上げた。


 今度はメインダの口から血反吐が漏れたのがわかった。


「次ッ」


 再び先回りをして、メインダを斜め上へと蹴り上げる。


「次ッ」


 斜め上へと蹴り上げ、蹴り上げ、蹴り上げ、蹴り上げ、蹴り上げ……。


 雷の速度を超えた、建御雷神様から教えてもらった本物の神の電撃速度を持って、俺は七度メインダの体に攻撃を加えることに成功していた。

 七度、つまり七色の電撃をそれぞれ与えたことになる。


 残りの和太鼓は一つ、その色は藍色。


 藍色の電撃効果は、全ての色の効果を持つ全属性持ちだ。

 最後にこの電撃を放つのが、『電速・八連』の締め技である。


「次ッ」


 俺は最後に、大きく上空へと電撃移動した。そう、メインダの近くではなく、あえて離れた位置に移動したのだ。


 魔王の鎧はすでにぼこぼこに凹まされ、部分的に緑色の肌が露になっていた。


 俺は上へ上へと蹴り上げられたメインダを上空から見下ろす。


 そのまま背後に付いてきていた八色の和太鼓が括りつけられた金色の円環を、さらに上空へと任意のままに移動させ、最後の準備に取り掛かった。


 そんな時であった。


『がははははッ、そんなものでは我は死なぬぞッ!! 殺れるものなら、殺ってみるがいい!!』


 観念した。

 そういう様子ではなく、メインダは自信満々にそう叫び出した。


 そして、手早く顔に付けていた鬼の鎧を剥ぎ捨て、その顔を露にした。

 口の端には血が大量に付着しており、それなりのダメージを受けていることが分かった。しかし、その表情はこの戦いを心底楽しんでいるような獰猛な笑みを浮かべていた。


 これには何の意図があるのだろうか。

 そこまでやつの考えを読むことはできないが、俺は少し不気味に思っていた。


 最後の魔法を起動する。


「ラストッ! 『電速・八連……藍雷龍(インディゴ)』ッッッ」


 上空の円環に括りつけられた八色の和太鼓から、龍を模した電撃が八体出現した。

 それらが螺旋するように重なり合っていき、一体の大きな藍色龍へと変化した。


 空から舞い降りてきた藍色の電撃龍は、ジロリと鋭い眼光をメインダへと向け激しく落ちていく。


『がははははッ、我も負けんぞッ! 『リベンジ・アクション』ッッッ』


 メインダが叫ぶと、やつの体が七色にカッと光り輝いた。

 そしてやつの体から現れたのは、先ほど俺が放った黒い龍……黒麒麟だった。


 そうか。

 メインダの自信がどこから湧いてきていたのか、ようやくわかった。

 やつの目的は「相殺」。

 それもただの相殺じゃない、俺が放った攻撃よりも威力を二倍以上に加速させて放っていたのだ。


 これがメインダの切り札。

 防御が堅い魔王らしい、最後の攻撃である。



 空から降る藍電撃の轟音が、雨を斬り裂きながら迫っていく。



 メインダから放たれた黒い龍電撃が空に上るように、雨の流れに逆らうように迫ってくる。



 二つの電撃が激しくぶつかり合った。



 しかし、それもほんの数秒のことだった。


 空から降ってきた藍色の電撃は、下から迫りくる電撃をすぐに食らいつくしてしまい、自分の糧として吸収してしまったのだ。

 そしてさらに巨大となった藍色の電撃が、無防備なメインダへと降り注いでいく。


『がはははッ――我の完敗だッ!!』


 最後にメインダはにやりと口角を上げた。

 そして、鎧を貫通し内部から激しく焼かれていく。


 その間、さすがのメインダでも苦痛の声を絶え間なく叫び続け、辺りにいた人間たちを騒然とさせた。


 俺はそんな魔王の最後を看取るために、空からじっとやつの顔を見つめていた。

 いつもならば「痛そうだなぁ」とか考え、目線を逸らしている頃だろう。

 それでも俺は魔王の最後を見つめ続けたのだ。


 これほどの強者と相まみえることはもうないかもしれない。


 そう思い、俺はこの戦いを噛みしめるようにジッと見ていたのだ。


 そうして一分が経過しただろうか。

 俺の攻撃も次第に減衰していき、あとに残っていたのはボロボロになったメインダだけであった。


 全身を覆っていた赤い鎧はすべて攻撃の熱により溶け、海のどこかへと消えていった。

 緑色だった肌が黒く焼け焦げ、それでもなお自分の意志で必死に立ち上がっていた魔王の姿がそこにはあった。


「えッ!?」


 その瞬間、俺はなんとも言えない驚きの声を上げていた。


 魔王メインダの青い瞳がギラリと輝き、こちらを見たのだ。同時に焼けただれた口元の口角をにやりと上げ、ゆっくりと片腕を俺の方へと向けた。



『……ゴホッ…………まだまだだ…………『リベンジ・アクション』ッッッッッ!!!!』



 魔王は最後の力を振り絞って、俺に一矢報いようとしてきたのだ。


(やばい、避けられないッ!?)


 俺は反射的に前面へとハニカムシールドを重ね掛けして、さらには氷雪魔法『アイスシールド』を張った。

 そう、咄嗟のことで俺の最大防御であるウググの存在を忘れていたのだ。


 突然、俺の視界を覆うように白い毛並みが現れた。


「グゥゥゥゥゥッ!!」


 メインダから迫りくる藍色の電撃攻撃を、ウググが身を挺して守ってくれたのだ。

 正面で腕を交差させ、その場で踏ん張るように電撃攻撃を防ぐ。


「グゥゥゥゥッ!!」


 始めてウググの雄叫びを聞いた。


 その声はどこか優しく、必死に守ってくれていることに俺は安心していた。

 近くにウググがいるだけでこんなにも安心できる。


 やはりウググは優しい魔獣だ。


 そうして耐えること一分ほどで、メインダの最後の攻撃が減衰していく。


 そこに残っていたのは、腕を黒く焼け焦がしたウググの姿であった。

 俺はすぐに回復魔法を掛けようとして、ウググの傍に行こうとした。


 しかし、『電速・八連』の反動がここで襲ってきた。


「うっ!?」


 吐きそうなほどの悪寒に、針を頭に刺されたような頭痛だった。

 典型的な風邪の症状である。短期的に襲ってくるので長引くことはないが、この時ばかりは痛みと苦しさにその場でもだえ苦しんだ。


 戦闘中であれば、非常に危険な隙である。


 しかし、それを補ってくれる仲間が俺にはいるのだ。


「クゥッ!!」


 いつの間にか海面に氷を張って立っていたクウが、この辺り一帯の海の表面を凍らせたのだ。

 その範囲には魔王メインダもいたため、下半身を分厚い氷で覆われてしまう。

 完全にメインダの身動きを封じていた。


 そして、ここでようやく俺の作戦が身を結ぶことになる。


 俺が頭を押さえながらも痛みで空に立ち止まていると、俺よりも上空の方から空気を裂くような二つの音が聞こえてきた。


 ヒューッと重力に従い落下してくる音。


 事前の打ち合わせどおりだ。


「あとは任せろ」


「最後はンパなのです!」


 ンパとディールが俺の背後から、つまり雲よりも高い上空から身を隠して最後の攻撃を加えるべく接近してきたのだ。


 そして、俺の両脇を二人が通り過ぎていった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >俺と同程度の力を有している あれ?隔絶してたのに、修行でそこまで強くなった?
[良い点] ウググを伴い最強の盾となってヘイト集めて、トドメの矛はンパとディールに任せる姿は、賢人のリベンジでしょうかね
[気になる点] 魔王達を遥かに上回る(であろう)シロアと戦う予定なのに魔王一体にこんなに苦戦してて大丈夫か?
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