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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【最終章】D侵略防衛戦争 編

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ドラゴンじゃないです!

 


 ゴートラスが最後、嬉しそうに笑っていたように見えた。


 俺の見間違いかもしれないが、ディールと最後の言葉を交わして体が光の粒子へと変わっていく中で、目が優しく弧を描き、口角が優しく上がったように見えたのだ。


 その光景がどうにも脳裏から離れなかった。


 ンパやディールと同じ優しかった人格が、心のどこかに残っていたのかもしれない。

 そう思うとなんだか、やるせない気持ちになってしまう。


「はぁ、本当に……嫌な世界だよ、まったく」


 俺はため息を吐きながら、斜め後ろでぼけーっと突っ立っていたンパを脇に抱える。

 もはや抱えられることに抵抗がなくなったのか、ンパはジッと俺の目を見上げてくるだけであった。


「ほら、行くぞ」


「は、はい!」


 翼をばさりと扇ぎ、ゆっくりと上昇しながら空中で佇んでいるディールへと近づいていく。

 すぐにディールも近づいてくる俺の存在に気が付いたが、その表情はどこか困惑し儚い表情を描いていた。


「どうした? ディールが勝ったんだからもっと喜べばいいのに」


「いや、ちょっとな……」


 やはりディールの表情は暗いままであった。

 そんなディールの額を、俺はデコピンしてやった。


「なんだよ、はっきり言えよ」


 ディールは少しの間考えるように下を向き、決意した顔でこちらを見た。


「ゴートラスを殺したとき、やつの記憶の一部が俺に流れ込んできた」


「そっか、それは聞かないでおくわ」


「そうしておくといい、この記憶は墓まで持っていくつもりだ」


「そうしてくれ、俺は知りたくない。それで……まだ戦えるのか? 最後に超級魔法使ってたけど」


「当たり前だ、俺を誰だと思っている。誇り高きクロープス族の長、ディールだぞ」


 ディールは自信満々にそう言うと、黒い外套から腕を出し、腕の甲冑を脱いだ。

 腕にはびっしりと刺青が刻まれていた。

 それは絵などではなく、どこかの文字のようだ。


(あー、そういうことか)


 俺は納得したように頷き、ディールの腕を観察する。

 最後に言ってた「その名を体に刻むことを許せ」という意味、ようやく合点がいったのだ。


「今まで倒してきた敵の名前……てきな?」


「そうだ、この体に刻む名前は生涯忘れないと決めた奴だけだ。ここにお前の名前も入れてある。もちろんンパの名もあるぞ」


 なぜかディールは鼻を高くして言ってきた。

 俺は片手を前に突き出し、手のひらをディールへと向け嫌そうな顔を浮かべた。


「あっ、そういうのいいんで。つーか、その名前消してくれない? さすがに知り合いの男が体に俺の名前を刺青入れてるとか気持ち悪いんだけど」


「……本当に気持ち悪いですよ、ディールさん」


 俺がディールの言動に芯底引いていると、脇に担がれているンパも顔を引きつらせながら言い放った。

 どうやらディールの異常行動は、地球と異世界で共通認識らしい。


 この反応は想定外だったのか、それとも「嬉しいっ! 大好きっ!」と言われるとでも酔狂なことを思っていたのか、ディールはがっくりと首を落とした。

 少しぶつぶつと何かを呟きつつ、ディールは刺青を隠すように腕の装備を再び着用する。


「おい、落ち込むのもいいけど一旦降りるぞ。小太郎たちの様子も気になるしな」


「ディールさん、早く行きますよ。ンパだって早くレーザーカノン撃ちたいのです。でも、蛍さんが許可してくれないと撃てないので、一刻も早く強そうな敵を探しに行きましょう」


「ンパ……その前に小太郎たちの場所だ」


「は、はいなのですよ。わかっているのですよ……でも撃ちたいものは撃ちたいのです。蛍さんならわかってくれると……」


「わかった、わかった。その気持ちはよーくわかるから、小太郎の様子見たらすぐに七ヶ浜に行くぞ。健も結構苦戦してそうだしな」


 そう言って俺は七ヶ浜の方にちらりと視線を向けた。


 ここからでは実際にこの目で見ることはできないが、『守りの流水』で七ヶ浜で激しい戦闘を行っているいくつかの反応が確認できている。

 一つは見慣れた反応で健だとわかる。

 それ以外にも二つ、おそらく柳ちゃんが言っていたシングル冒険者であるNumber7とNumber10だろう。健と共闘するよう立ち回っている。

 いや、Number10は一桁ではないか。まあその辺はどうでもいいや。


 そんな中で、一つだけ納得できない反応があった。


 非常に小さな反応だが、その三人と前線で一緒に戦っている人物がいるのだ。

 反応が小さすぎて人物の特定まではできないが、あきらかに健やNumber7、Number10との実力差が開いている、その場にいるには少し不相応な人だ。


「さすがは蛍さんなのです! 大好きです!」


「いや、無性生物からの告白とかいらないから」


 俺はンパを軽くあしらいつつ、近くの林で木に背中を預けながら休憩している小太郎たちの元へと向かって飛んでいく。


 小太郎は隠しているつもりらしいが、脹脛(ふくらはぎ)の筋肉に怪我を負っていたのだ。

『守りの流水』を通してみれば全身の力の伝達が上手く伝わっているのか、伝わっていないのか、俺にはすべてわかってしまうのだ。


 小太郎がゴートラスと戦っている間、脹脛で力の伝達が著しく低下していた。

 おそらく肉離れか何かが原因だろう。痛そうなんだけど、よく平然と戦っていられるよな。


 俺はゲームで結構ギリギリまでHP管理しながらポーションを使う派だけど、現実だとかすり傷一つでもすぐに回復魔法を使っちゃうタイプだ。

 痛みに耐えながら戦うなんて、絶対に俺には無理無理。


「大丈夫か? 小太郎」


 俺は小太郎や鳴無くんなど、負傷者が運ばれているのであろう林にある後衛の休憩地に降り立った。ここはあくまで一時避難場所のような休憩地なのだろう。


 ばさりと一度翼を煽ぎ、アイに指輪に戻るように指示を出す。


 周囲を見渡せば、怪我を負った戦闘員、体力的に限界な様子の戦闘員、治療を施している自衛官など五十人ほどが確認できる。

 施設も立派なものではなく、仮設テントのようなものが立ち並んでいるだけである。


「ああ、うん。たぶん足をやっちゃったかな。それよりも……もう終わったの?」


「終わったよ、ディールが一方的に嬲り殺してた」


「おい、人聞きの悪いことを言うな」


 傍から見ていた感想をありのままに伝えただけなのに、なぜかディールに背後から頭を叩かれてしまった。別に躱そうと思えば躱せるのだが、ここは甘んじて受け入れておこう。

 俺は「へいへい、すいません」と適当に返し、小太郎の足に回復魔法をかけることにした。


 ついでに近くで休憩していた龍園の爺さんと鳴無くんにも回復魔法を掛けておこう。


 この三人が復活すれば、魔獣に押され始めているこの戦場もすぐに押し返すことができるだろう。

 一応他にも戦闘員が近くにいたのだが、見ていた感じ彼らを回復したところでさほど大きな戦力とはならないだろう。


 ……すまないが自力で回復してくれ。


「『ウォーターヒーリング・ダブル』ッ」


 小太郎の足を中心に水球が出現し、傷を癒す七色の小魚が優雅に泳ぎまわっていく。

 七色魚が怪我を感知すると、吸い込まれていくように小魚が向かっていき、みるみると怪我が癒えていった。


「さすがNumber1、回復魔法も一級品だね。そこら辺の回復魔法師よりも治りが早いよ」


「小太郎は回復手段ないのか?」


「ないよ、俺は基本的に怪我をしないから。さっきみたいな化け物が現れない限りね。そういうときは我慢する」


 小太郎の顔は笑っていったが、その瞳だけは悔しさが滲み出ているようだった。


「そっか。それじゃあ、あとはここを任せてもいいよね? 俺たちは七ヶ浜に向かうよ。あっちも中々ハードモードなようだしね」


「うん、本当に今回は助かったよ。ありがとう」


「まあ、その言葉はディールに言ってやれ。俺は一回しか殺してないから。あとの七百近くはディールが殺した」


「えっ? 七百? どういうこと?」


 小太郎は珍しく目をきょとんと座らせて、首を傾げた。


「あー、さっきの敵は『命の数』があったんだ。つまり残機が七百っつー、どこのチートゲーマーだよっていうやつだったんだ。そりゃあ何度も再生するわな」


「えっ……でもあの化け物をどうやって殺したの? 参考として教えてほしい。正直、俺では手も足も出なかったんだ」


 小太郎は何が何だかわからないといった表情を見せていた。

 いつもはポーカーフェイスを崩さない印象だったが、非常識を目の当たりにした場合は普通の青年に戻るようだ。


 俺は別に普通に……。


「顔面を海に叩きつけて、これで斬った」


 俺は腰に携えているカルナダ姉さんから受け継いだ妖刀を触って見せる。

 赤とも、薄桜色とも捉えられる二色の色で装飾された鞘は、武器マニアの小太郎の目にも魅力的に写ったようだ。

 興味津々と言った表情で俺の刀をジッと見つめている。


 そうして満足したころには、小太郎がディールへと目配せをした。


「俺は魂に対し永遠に消えない炎を植えただけだ。特に難しいことはしていない」


 ディールは面倒くさいのか、少し疲れたのかよくわからに表情で淡々と回答した。


 すると、小太郎が珍しく大きな声で笑いだした。


「あははははははっ!」


「ど、どうした!? 笑い茸でも食ったか?」


 突然笑い出した小太郎に驚いたのか、ディールが慌てて聞いた。


「あはは、いや、ごめんごめん。ちなみにだけど君が誰なのか聞いてもいいのかな?」


 小太郎はディールの目を見て、続いて俺の顔を見て真剣な態度で聞いた。

 ディールはさも当たり前のように姿勢を正し、騎士のような流麗な動作で拳を胸にあてた。


「俺はクロープス族の長にして、黒焔魔法を操る元騎士、ディールだ」


「あぁ……そういうことか。ディールって呼んでも?」


 たったこれだけの状況で小太郎は何かを察したらしい。

 正確にはディールがこの世界の人間ではないことがわかった、というとこだろう。


 さすがは高ランカーのダンジョン冒険者だ、未知の情報に対する適応能力が高い。


「ああ、構わんぞ」


「ありがとう」


 そうして二人は握手を交わした。

 お互いにどこか惹きつけ合う物でもあったのだろうか。


 よくわからんが、俺も早く七ヶ浜に向かいたいので水でも差してやろう。


「ちなみにこいつ何百年も生きてるような変人だぞ」


 ニヤリと笑いながら、俺はンパを抱えて逃げるように空へと飛び立ったのであった。

 それを見たディールも「また会おう」と小太郎に言い、慌てて空へと飛び立つ。


 小太郎はそんな俺たちを見て、「えっ?」と心底驚いたような声を漏らしたのであった。




「さて、七ヶ浜へ向かうぞ」


「おう」


 ディールが少しだけ疲れたような声で小さく答えた。

 対して、ンパは。


「ようやくなのですよ! ンパが火を噴きますよ!」


「お前はドラゴンか」


 急にボケだしたンパの頬をグイグイッと突いてやると、ンパの頬が膨れだした。


「ンパはンパなのです。ドラゴン如きと比較されても困ります」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 認めよう異文化、やめよう偏見。 まぁ仕える主人の名前彫った武将くらいは地球上の歴史でもいた気がしますのでディールの奇行くらいは大目に
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