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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【最終章】D侵略防衛戦争 編

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わ、笑ってないですよ。ンパは

 


 自衛官の制止を力づくで振り切って、ンパとディールが俺の元へと駆け寄ってきた。


「遅いですよ、蛍さんは!」


 早々にぷく顔で近寄ってきたのは、いつも通りのだらしない格好をしたンパ……ではなく、初めて会ったときの姿をしたンパであった。

 ふわりとスカートが風にはためく深緑のドレスに、薔薇の茎が複雑に絡まり合った杖。


 それはまさしくンパのフル装備であった。


「ふん、全くだぞ。賢人に掛け合ってすぐにでも前線に参加できると思いきや、こんな戦闘もできないダンジョンに匿われるなんて、クロープス族の恥だ」


 いつも通りの太々しい顔で現れたのは、北海道奪還作戦で二つ名を持つ憤怒のタルタロスを共に討伐した異世界魔人の生き残りであるディールであった。


 中二病だと言われてもおかしくないような黒装束に、騎士のような甲冑を腕や足に纏っている姿は、間違いなくあのディールだ。


 それにしても、なんでこいつが日本にいるんだよ。

 世界中を旅しているんじゃなかったのか、暇かよ。

 たまに電話も来てたけど、結構楽しそうに世界旅行していたじゃん。あれ、世界を旅して魔獣と戦っていたんだっけ。


 まあ何でもいいや。


「いや、そんなに捲し立てられても……俺はダンジョンにいたんだし、無理だっての」


 俺は迫ってくる二人の肩を押しのけ苦笑する。

 それにしてもなんで二人は俺を待っていたのだろうか。


 戦いたいなら、賢人に行って融通利かせてもらえばよかったのに。


 と、二人と悠長に話をしていた時だった。


 割って入るように虎虎さんが二人を覗き込んできた。


「あんたらどなたか知りまへんが、こっちは急いでいるんや。Number1はんも急いでくれへんか? 小太郎はん、かなりやばそうだったんや」


 そう言った虎虎さんの表情は、少しの焦りと申し訳なさを両立させたような顔だった。


 そういえば虎虎さんは怪我をしていて、一時戦線離脱をしていたんだったな。

 強い魔獣との戦いを淡谷小太郎に任せてきてしまった、という申し訳なさが心を締め付けているのだろう。


「すいません。とりあえずそこに行きましょうか。七ヶ浜には俺の知り合いの戦力を向かわせたので当分は大丈夫でしょう」


「そっか、知り合いか……。詮索はやめておくわな。よっしゃ、とりあえず急ごうや!」


 そう言うや否や、虎虎さんは方向転換し、こっちだと言わんばかりの視線を向け、颯爽と駆けだしていくのであった。


 俺は無言で頭を縦に振り、すぐにンパとディールにも目配せをする。


「ンパ、ディール詳しい話は走りながら聞くからとりあえず行くぞ」


「もちろんだ」


「はいなのです!」


 こんな状況だと言うのにいつもとそう変わらない二人の雰囲気を見て、俺はほんの少し安堵するのだった。


 ダンジョンを攻略してからというもの、どこに行っても殺伐とした雰囲気が流れていたのだ。意図せず出していないにしても、誰もかれもが緊張感を隠そうとしていなかった。


 それが俺にとっては少し居心地が悪かった。


 そんな折に、いつも通りのリラックスをしているンパとディールに出会い、なんだか俺はほっと安堵していたのだ。


(ああ、良かった。俺と同じようなやつらもこの世界にはいたんだと)


 ランキングが1位とわかってから、なんだかんだ隣を一緒に歩いてくれるような人は少なかった。いや、元々少なかったんだけど、ニート時代よりもさらに少なくなっていた。


 俺と話すとき、みんな一歩引いて言葉を交わそうとするのだ。


 もちろん居心地がいいなんてことは微塵もなかった。


 その点、賢人や先輩、ひよりに恵。俺の地位なんて知る由もない、罵詈雑言言い放題なギルドメンバーたち(ゲームの中)。


 彼らといる時間だけは居心地が良かった。


 そこに今、ンパとディールが加わってくれような感覚だった。

 それも一緒に戦うものとして、隣に立ってくれる存在が二人もいる。


 その事実だけで、俺は心の底から安心できるような気持になっていた。


「遅れるなよ?」


 にやりと悪戯な意味も込めてディールに言ってやると、逆にからかわれるようにふんと鼻息を鳴らされた。


「そっちこそ、俺に後れを取るなよ。クロープス族の長を舐めるな」


「ン、ンパもですよ! ンパだって、一応ヴァンパイア族の天才ですからね! 走ることには自信があるのですよ!」


 はいはいはい、と片手をあげて私も入れてとせがんでくる、見た目は美少女なンパ。


「よし、行くか」


 その掛け声で、先に走っていた虎虎さんに追い付くように走り出したのだった。





「お待たせしました、虎さん」


「おう、待ってたで……にしても、その二人も何者や」


 三人で走り出して一分後には虎虎さんの背中が見え、すぐに追いついていた。


 虎虎さんは俺たちが合流しやすいように速度を緩めて走っていたのだろうが、追いついたと同時に俺の後ろに平然とついてきている二人に目線を送り、そんなことを呟いたのだった。


 確か虎虎さんはスピードに特化して、敵を翻弄するタイプの戦闘を好んでいたはず。だからこそ、平然と追いつかれたことに驚いているのだろう。

 まあ確かに、今の走る速度は車の速度を優に超えている。俺やスピード特化の虎虎さんならばともかく、見ず知らずの一般人と思っていた二人も平然とついてこれることが不可解に思っているのかもしれない。


 以前までならば二人の存在を平気で隠そうとしていたが、まあこの期に及んでこの二人を隠そうとは思っていない。


 なんだか、この戦いには全力を注がなければいけない気がするのだ。

 だからこそ信頼における(賢人情報)虎虎さんに話すのは、問題ないだろう。


「こっちのちっこいのが上位魔人のヴァンパイアで名前をンパって言います」


「ンパです!」


 さらりと流した真実に、虎虎さんが「はぁ!?」と目を見張った。


「それでこっちの太々しいのが異世界から来たクロープス族のディールです」


「ディールだ、よろしく頼む」


 そう言うと虎虎さんはさらに一段と目を見開いて、「異世界ぃぃ!?」と腰を抜かしそうなほど驚いたのであった。

 そこで俺は説明を付け加えることにした。


「まあ、どっちも俺の仲間なんで気にしないでください。実力は保証します」


「……仲間って…………まあ、ええわ。詮索はしないが、戦力になるならば今は誰だっていいわな!」


 なんだか自棄になったような返答ではあったが、無事に異世界コンビは虎虎さんに受け入れてもらえることになった。


(虎虎さんってお喋りさんで、見た目は厳ついおじさんだけど……順応能力は高いな。やっぱりダンジョン冒険者をやっていると驚きも薄れていくのだろうか)


 と思ってたが、虎虎さんは何かを考えこんでいるのか今にも頭頂部から湯気が出そうなほどに、異世界コンビ二人を受け入れようと無言になってしまったのである。

 そんな虎虎さんに情報を訊ねるのも気が引けたので、俺はほんの少しだけスピードを緩め、後方を走っていたンパとディールの間に挟まるような位置に来た。


 まあ、聞きたいことはあれだ。


「で、異世界コンビはなんであんな微妙なダンジョンにいたんだ? 賢人から何か指示でもあったのか。その……秘密の作戦! みたいなやつ」


「いや、そんな作戦は賢人からは聞いていないない。それに好んで俺たちはあの場所にじっとしていたわけではないぞ」


「そうです、そうですよ! 蛍さんはンパを見くびりすぎです! ンパだって戦う気マンマンですよぉ!」


 好んであの場所にいたわけではない、か。

 つーか、ンパは戦うというよりも超火力ブッパしたら使い物にならなくなるだろう。戦う以前に、管理者がいなければただのお邪魔虫扱いされてしまうよ。


「なるほどな。おおよそ賢人に頼んだけど存在を忘れられていたか……融通を利かせられなかったってところか?」


「さすがは蛍だ、話が早い。本来は俺も初めから戦争に加わるつもりだったのだが、さすがの賢人でも無理だったらしい。得体の知れない人物は参加させられない、と」


 ああ、なるほど。

 何となくだが掴めてきたぞ。


 ちょうどこの辺りに二体ほど反応が強い魔獣が存在しているのだ。それも北海道で出会った憤怒のタルタロスと似たような反応だ。

 おそらくディールは彼らを倒すために日本にやってきたが、「得体の知れない人物」として処理されてしまい、後方で燻っていたってところか。


「ああ、そういうことか。俺が来ればお前らを権力で連れ出せると判断して、前線の近いこのダンジョンで待機させていたのか」


「その通りだ。だから俺たちはお前の帰りを今か今かと待ちわびていたのだぞ」


「そうです、そうです! 早くレーザーカノン撃たせろですよ!」


「まあ結果は権力というよりも、お前らから制止を振り切って中から出てきたんだけどな。あれ、これって俺がいなくても戦いに出られたんじゃない?」


「確かにあの避難場所から抜け出すことは容易だったが、その後が問題だった。人間側から敵と認識されない保証はどこにもないからな」


「まあ確かにそうだな」


「だが蛍と一緒に行動をすれば、心配はない。そうだろう?」


 ディールは早く戦わせろというような獰猛な笑みを浮かべている。

 対してンパは、よくわかっていない様子だ。ああ、これはあれだ。たぶんお小遣いアップで釣られてこの場で待機していたパターンかな。

 ンパは上位魔人なのだが、ディールのような思慮深さは微塵もなく、ポンコツ要素高めだからな。


 二人の様子の違いに、俺は思わずくすっと笑ってしまう。


「まあなんでもいいや」


「それは助かる。この戦いで確実に原始の十二王の一体は討つ。そのつもりで俺は今、ここにいる」


「それは殊勝な心掛けなことで。だが、鈍ってないだろうな?」


「何を当たり前な。俺の『黒焔魔法』はいつだって最高の状態だ」


 ディールは異世界の魔人である。


 今現在、この世界で流通しているランキングシステムには反映されない人種なのだ。

 以前ディールからそう聞いたことがあった。


 正確には「俺のステータスにそのような奇怪な称号は無い。なんなのだそれは」と電話で言われたことがあって初めて知ったのだ。

 称号欄に「Number」の文字がないということは、この世界のランキング外の存在であるということ。


 故に、ディールの強さを知る者はこの世界でほとんどいない。


 そんなときであった。

 少し先を先導するように走っていた虎虎さんがこちらに振り向き、真剣な眼差しで伝えてきた。


「Number1はん、もうすぐや。あの道路を超えた先に、例の化け物がいる。頼むぞ、世界の希望」


 真面目な顔で「世界の希望」なんて呼ばれて、ついつい吹き出しそうになってしまったが、笑うわけにもいかず俺は無理矢理感情を心の奥の方に抑え込んだ。

 そして、「まあ、頑張ります」と絞り出すように返事をしたのだった。


 さあ、異世界コンビよ。


 存分に暴れてくれ。


「ぶっ」


「おい、ンパ何笑ってるんだ」


「わ、笑ってないです!!」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の考え方脳筋の部類だろ
[一言] やばい異世界コンビ二人が異世界こんびに人に見えてしまった
[良い点] 元来の異世界にはランキングシステムはなかった?とするとここで設定したのは師匠でしょうか。 強さの可視化の目的とはいったい
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