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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【最終章】D侵略防衛戦争 編

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えっと、誰?

 


 彼岸花のアイテムで転移した先は、北海道の地で見慣れた日本式軍用テントの中だった。

 テント中の壁際にはいくつもの転移アイテムが植木鉢に植えられており、おそらくここが緊急時の拠点間転移をするための要所なのだろうと判断できた。


 俺は久しぶりに嗅いだ日本特有の豊かな自然の香りに、思わず心を緩めていく。


 この数か月はほとんどずっと潮の香りが充満しているダンジョンで過ごしていたのだ。

 ようやく帰ってきたんだという感覚が深呼吸と共にドッと襲ってくる。


「待ってたよ、雨川くん」


 俺たちが転移して数秒も経たないときだった。


 ふぁさっとテント入り口が開かれ、そこから工藤さんが現れたのだ。

 まさかこれほどの戦力である工藤さんが迎えに来てくれるとは思ってもいなく、俺と健は呆気に取られていた。いや、『幻惑魔法』を使用して後方部隊の隠ぺいを行っているのかもしれないな。


「第四波に間に合ってくれて本当に助かった。突然で悪いけど、早速向かってほしい場所がある」


 久しぶりの再会だと言うのに、工藤さんは会話の時間を省き、早速本題へと入っていった。

 いつもの工藤さんであれば多少の冗談や会話を挟む人なのだが、今日はそんな様子もない。


 俺は工藤さんの意図を読み取った。


 現状、かなり切迫しているのだろう。


「もちろんです。それで、場所は?」


 そう話しながら、俺は工藤さんや健と共にテントを早足で出る。


 テントの外は、どうやら戦場の後方部隊の拠点のような場所であっていたようだ。


 北海道のときにも、このような基地を見たことが何度もある。

 いくつもの軍用テントが並び、そこに自衛隊服を着た自衛官が忙しなく動き回り、一般人には見慣れない重火器がそこら中に配置されている。

 かといって、それらは無造作に置かれているわけではなく、とある法則に則った配置で置かれている。この場合の法則とは、戦場での立ち回りを重視したということである。


 その経験から判断していた。


 俺と健はほぼ同じタイミングで一度立ち止まった。


「健、『守りの流水』で確認しておけよ」


「もちろんだよ」


 指示するや否や、健はすぐに瞼を閉じて集中力を高めていく。

 そして、俺も集中する前に工藤さんへと向かう。


「工藤さん」


「何だい?」


「少し時間をもらいますね。手っ取り早く、状況を確認します」


 そうして俺はカルナダ式MP操作術、その一の技術『守りの流水』を最大の感知範囲で展開していく。


 体の内で渦巻くMPを体外へと薄く、流水の球のごとく展開して、周囲の環境を詳細に把握する技術だ。

 いつもならばこんな立ち止まって使うことはないが、最大範囲で使用する場合だけは別なのだ。まだ俺らの技術では動きながら使えなくて……カルナダ姉さんはどんな態勢、状況だろうとも使えていたのだから、改めてその化け物っぷりがわかる。


 とはいっても、動きながらでも二、三キロほどの距離なら使えるけどね。


 俺はさらに集中力を水の底へと落としていく。


 ここから東に向かうと、砂浜がある。

 そこの戦場が一番激しいようだな。


 こちらの戦闘員も、魔獣の数も他の場所より数倍は多い。それにダンジョン冒険者や自衛隊員の中でも実力者はここに配置されている模様だ。


 それと周囲にあるダンジョンの半径三キロ以内に、微弱な反応が多数、数え切れないほどの反応だ。

 これは……避難民かな。避難する際に、魔獣の不可侵領域を利用して効率的に避難を完了させたのだろう。

 だが、周囲にもかなりの魔獣が集まっていることから、実害は全くないが精神的な恐怖はかなり負担になっているだろうな。


 未来のことは知らないが、日本の首相よ。尻ぬぐいは頑張ってくれ、国民の不満が爆発しないように。


 あとは海岸沿いから何層にも分けて、ダンジョン冒険者や自衛隊員が配置されている。

 これは自衛隊の作戦なのだろう、何が目的なのかは読めないけど。


 そして、この一帯の後方部隊、いわゆる補給や休憩などの場所がここなのだろう。

 工藤さんが『幻惑魔法』でこの近くにあるダンジョン丸ごと覆っていることから、かなりの重要拠点になっていそうだな。実際に俺が最初に転移してきたのも、ここなわけだし。


 まあ、この一帯の戦況はそんなところかな。

 少し海岸沿いにある砂浜に大きな魔獣の反応が二つあるが、善戦しているようだし、大丈夫だろう。とりあえず、あと少し耐えてくれ、見知らぬ外国人二人よ。


(ふむ、海岸沿いの砂浜が一番激しく戦っていることはわかったが、少しおかしいな。……あいつは一体そこで何をしているんだ?)


 この場所から北東方向にあるダンジョン、その半径三キロ以内に非常に見覚えのある人物が二人もいたのだ。

 そいつらは本来ならば

 一番過激な戦場で戦っていそうなものなんだけど、本当に何をしているんだろうか。


 ほんの少し、この戦場の状況の理解に苦しんでしまった。


 すると、今まで大人しく俺と健の様子を見ながら待ってくれていた工藤さんが、俺が瞼を開いたと同時に口を開いて質問してきた。


「何をしていたんだい?」


「周囲の状況を詳しく確認していました。聞くより、自分で確認した方が早いと思ったので。健は……もう少し時間が掛かりそうですね」


 いまだに目を瞑って守りの流水に集中している健を見て、俺は答えた。


 しかし、なんでだろうか。

 工藤さんは健を見ずに、俺の顔を見て驚きの表情を浮かべていた。


「えっと……もしかしてまた強くなったかな?」


 ああ、そういうこと。


「そりゃあダンジョンを攻略してきましたからね。誰だって攻略すれば、一皮や二皮も剥けますよ」


「そ、そうか……ウルグアイ海底ダンジョンを攻略してきたのか。さすが、だね」


「いやー、それほどでもぉ」


 柄になく褒められたことで嬉しくなっていると、ようやく健が瞼を開いた。


「ごめん、やっと確認できたよ。あっ、工藤上官。お久しぶりです、以前情報の受け渡しをやっていました新田健です。覚えていますかね?」


「あ、ああ……もちろん覚えているよ」


 そういえば、なんでこの子が一緒にいたのだろうか。

 そんな表情を浮かべた工藤さんが、ゆっくりとこちらに視線を向けてきた。


 ああ、そういえば言ってなかたっけ。

 つい賢人が説明してくれるものだと思ってたよ。


 まあ、賢人だって忙しいしな。それに話していいものなのかの判断もできなかったのだろう。賢人は俺とチームを組んでから、いつもよりも思い切りがなくなったんだよな。

 昔はもっと思いっきりがいい性格をしていたのに。


「時間がないので大雑把に説明しますと、俺の弟子になりました。以上です」


「そ、そうか……そういう扱いにしておこう。でも、どう扱えばいい?」


 どう扱えばいい。

 その言葉で工藤さんが「Number1の弟子」という人間を戦力として測りかねているのだろう。

 もちろんその気持ちはわかる。

 健はいわゆるぽっと出の新人だ、それも実力者と共に現れた。


「トップランカーと同様に。戦力としては問題ないです、特に遠距離攻撃が得意なので。あっ、でもこいつには自由を与えてやってください。自分の判断で動けるやつなので」


「わかった。それじゃあ、二人にはこれを渡そう」


 そう言って、工藤さんは二つの小型無線機を俺と健に手渡ししてくれた。


 ああ、懐かしいな。

 北海道奪還作戦の時、ほぼ毎日着用していたやつだ。


 なんか秘密の組織みたいな格好になるので、俺は結構好きだったりする。


 俺と健はすぐにそれを耳に付け、感度を確認する。


「あー、あっ! 聞こえてますか、工藤さん」


『良好だ』


 それだけのやり取りで、この場で確認することはなくなったのだった。


「では、沿岸沿いの砂浜に行けばいいんですよね? 見た感じ、あそこが一番やばそうなので」


「……驚いたよ、その通りだ。作戦を伝えてもいないのに……本当に強くなって帰ってきたんだね。秋川くんの予想した通りだよ」


 工藤さんが俺の判断の速さに感嘆の声を漏らした。


 まあ、改めて思うと確かに俺は数倍強くなって帰ってきたな。


 サリエス師匠に夢で「裏側のダンジョン」の存在を示され、そこでカルナダ姉さんと出会った。

「本物の戦闘を教えてやる」その言葉をきっかけに、俺は戦い方を教わった。

 そして、精霊の境地と言われる精霊の超級魔法を習得し、今に至る。


(実際に試してみたいな。……この力がどこまで通用するのか)


 俺はそんなことを考えながら、久しぶりの青空を見上げた。

 そして、健へと視線を向ける。


「健は先に激戦地の砂浜に向かってくれ。俺はあとで合流するから」


「うん、わかった。じゃあ、先に行ってるね!」


 健はいつも通りの犬みたいな笑みを浮かべると、工藤さんに「行きます」と一礼して、その場を全速力で駆け抜けていく。

 カルナダ姉さんに「移動するときは、例え一歩だろうと『速・鼓血動』を使えっ!」と調教されているため、健はその足裏にMPを凝縮し、開放と同時に超速度を手にしている。


 それは傍から見れば……。


「い、今のなんだ!?」

「ま、魔獣か!?」

「……人間じゃなかったか?」

「えっ、今の誰?」

「速っ!?」

「ッ!?」

「は?」


 などと、周囲から驚きの声が響き渡ったのだった。


「か、彼……古参のダンジョン冒険者だったかな? ……私の記憶だと、つい数か月前まで普通のどこにでもいる一般人だったと思うんだけど」


 隣に立っていた工藤さんが遠い目をしながら、ぼそりとそんなことを呟いた。

 その精気の抜けたような表情に、思わず俺はくすっと笑ってしまう。


「ふふっ、そうですよ。さっきも言ったじゃないですか、ダンジョンを攻略すれば誰だって一皮や二皮は剥けるもんですよ」


「……いや、一皮や二皮じゃ済まないレベルだと思うのは気のせいかな?」


 工藤さんのその言葉に俺ははっと気が付いた。


 確かに、たったの数か月でこんなに強くなるって……えっ、チート野郎ですか? って聞きたくなる目の疑いようだな。


「……ああ、今にして思えば。あれ、本当に人間なんですかね?」


「あれかな? 雨川くんに影響されたら、みんなこうなっちゃうのかな?」


「やめてくださいよ~、俺が人じゃないみたいな言い方は。じゃあ、俺はそろそろ行きますね」


「ああ、うん。任せたよ。それで雨川くんも砂浜に向かってくれるんだよね?」


「その前にちょっと気になることがあるんで、そこに向かいます」


「そ、そうか……くれぐれも無線には応答してくれよ」


「わかってますって。人をそんなわがまま大王みたいに言わないでくださいよ」


 俺はすぐに指輪型の紅葉烏のアイに防具化するよう指示を出し、羽を出現させる。

 ばさりと状態を確認するように一回翼をはためかせた。


「よし、ちょっと遅れちゃったけど……頑張ろ」


 最大速度で、空を飛んでいくのであった。





 蛍が人外じみた姿で、人外じみた格好で空を飛んで行った後のこと。

 柳隊員が、呆気にとられたような表情で口を開いた。


「工藤上官、工藤上官」


「ど、どうした? 柳隊員」


「あの人って、自分がNumber1っていう自覚が欠落していると思いません?」


「ああ、それは……まあ、そうだね」


「ですよね、ですよね。私の感覚がおかしいのかと思っちゃいました」


「まあでも…………それが彼の良いところでもあると私は思うよ」


 この殺伐とした戦場で、あっけらかんとした態度でいた蛍に、二人はこんなことを想っていたのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 25年前 仙台に住んでたので七ヶ浜よく行ってました。泳いだり、釣りしたり仙台新港より好きでした。流石に地震後は近寄って無いのですが 名前読むだけで何とも言えない気持ちになります。年? でもな…
[一言] いよいよ主人公の出番ですね。楽しみです。
[良い点] シングルナンバーでないシングルナンバー級とは確かに折角世間が納得しかけた新しい常識を崩す面倒な存在、弟子健
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