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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【最終章】D侵略防衛戦争 編

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最終章プロローグ 前編

 


 いくつもの閃光弾が陸上から海上に向かって放たれた。轟音とともに空気を裂き、綺麗な放物線を描いていく弾をここにいる全員が見つめていた。

 閃光弾が眩い光を放ち、暗闇に包まれている海上の様相を映し出した。


「もうすぐですかね?」


 今か今かと戦闘合図を待ち構えている飯尾綾人さんに向かって俺、秋川賢人は話しかける。綾人さんはにっこりとした笑顔を向け、答えた。


「そうだね……もう近くに来ている気がするよ。見てよ、これ」


 綾人さんはそう言うと、袖をまくって腕を見せてきた。


「鳥肌が止まらないんだ。あはは、緊張しているのかもね」


「わかります。数年前まではこんな戦争みたいな戦いに赴くなんて考えてもいなかったので、俺もビビってます。超ビビってます」


 俺と綾人さんはお互いに微妙な笑みを浮かべた。

 その会話を聞いていた周りの人たちも同じように微妙な笑みを浮かべ、緊張しているように感じた。


 それもそのはずだ。ここは最前線の中の最前線である、七ヶ浜町小豆浜だ。未来を占えるというNumber12のスキルによって、世界でも最も激しい戦いが繰り広げられると聞かされているA級指定戦域の一つであり、俺が臨時で組んでいる新選事務所のエースチームである飯尾綾人、権田孝、金井彩夏、飼葉鈴菜ら四人を加えたこのチームは、中でも第二陣として組み込まれているのだ。


 この小豆浜には合計七陣からなる陣形が組まれている。


 小豆浜に立っているのが第一陣である、Number7のグレイ・ローガンとNumber10のジュリオ・チスターナの二人だ。

 その後ろにある道路で待ち構えているのが、俺たち第二陣組である。その後ろにもそれぞれの戦いやすい場所で、横に広く何層にも分けて戦闘人員を配置している。


 第一陣の役目は「掃討」。要するに魔獣の数を高火力の能力で攻撃することだ。俺たちのようなダンジョン冒険者には使えないような魔法やスキルを駆使するシングル冒険者だからこそなせる方法である。

 初手で高火力技を使ったシングル冒険者はすぐに回復に取り掛かり、戦線が交わるその時に再び前線へと加わることになっている。


 そして俺たち第二陣の役割は、撃ち漏れた魔獣をチームごとに各個撃破と遠距離による数を減らす攻撃だ。怪我を負ったチームはすぐに戦線を離脱し、一番奥で控えている後衛で回復してから戦線に戻ると言う作業を繰り返すのだ。


 ダンジョン対策機関の目論見としては、できれば第四陣より背後には魔獣を侵入させたくないと考えているらしい。

 第一陣から第四陣の間で、向かってくる魔獣をすべて倒すことができれば、この作戦は大成功なのである。


「さて、そろそろ来るよ」


 突然、綾人さんが俺の背中をドンと力強く叩いてきた。


「はい!」


「よし、孝も彩夏も鈴菜もこんなところで死ぬなよ」


 綾人さんはリーダーらしく、チーム全員の名前を呼び笑顔を振りまいた。その言葉にチームであるみんなも「まかせろ」と言わんばかりの力強い瞳で返した。


 俺は元々この戦線に参加することさえできない人間だ。

 魔獣という恐怖を拭えず、日々を悶々と過ごしてきた。そんな中、綾人さんや虎さんが背中を押してくれた。戦いたいならば協力する、思う存分戦え、と言ってくれた。

 だから俺は今ここに立っている。

 綾人さんに頭を下げ、このチームに臨時として組み込んでくれた。元々綾人さんのチームは四人は固定で、他にもう一人をダンジョンに連れていくというルーティーンで戦ってきたため、俺のような個人の冒険者との連携に慣れているのだ。


 これで少しでも、蛍に追い付けるだろうか。

 親友として背中を追うだけでなく、隣に立つ資格を得られるだろうか。


 俺は蛍に渡された『はじめての大盾』と『小さな槍』をギュッと握り締めた。そして一緒に戦ってくれる四人に振り向いて、真剣な表情で言った。 


「よろしくお願いします」


 その言葉に全員が「おう!」と答えてくれた。


 そんな時だった。


 第一陣として砂浜で待機していたグレイ・ローガンがくるりと方向を転換し、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきたのだった。

 その瞳に映っているのは、間違いなく俺の姿だった。


「ニンジャボーイアキカワ。君は冒険者じゃないんだって? すごいね」


「な、なにがですか?」


「ここに立っていることがだよ。僕は君を尊敬する。危なくなったら僕のところに駆け寄ってくるんだよ、守ってあげるから」


 まぶしいくらいの笑顔で俺の頭に手を置き、ぐしゃぐしゃと髪を撫でまわされた。俺は少しだけ動揺しながらも、逆に笑顔で返した。


「グレイも死なないでね。Number1に会うまでは死ねないんだろ?」


「誰に向かって言っているんだ。僕は――」


 グレイがそう言いかけたその時だった。


 綾人さんの服に縫い付けられていた無線から、ザザッと音が流れ、野太い男の声が聞こえてきたのだった。


『ダンジョン冒険者のみなさんに報告します。魔獣までの距離約二十キロメートル、数は不明。視界を覆うほどの魔獣の群れがなだれ込んできます。最初の会敵まで残り十分程度になります。準備の最終確認を開始してください。事前の無線報告は以上で最終になります。行動の開始はシングル冒険者の攻撃と同時です。みなさんのご武運を祈ります、以上!』


 再びザザッと雑音が鳴り、無線が切れたのだった。


 ……残り十分。


 俺はその報告を噛み締めながら、さらに強く手に持つ武器を握り締めた。

 すると目の前にいたグレイが徐に手を差し伸べ、俺の武器に手を触れたのだった。


「ニンジャボーイアキカワ、力を抜くんだ。この作戦は長期戦になることが決まっている。最初からそんな調子じゃ、あとあと戦力にならなくなるよ。適度に力を抜くんだ。大丈夫、僕とジュリオがいるんだ。ここにいる誰も殺させやしない」


 グレイの瞳の奥には静かな炎が燃えていた。

 まるで今言った言葉が本当であり、誰一人死なせるつもりがないと、真剣に言っているみたいだ。

 戦争に絶対なんてない。なのにも関わらず迷いなく言ったのだ。


「ありがとう、グレイ」


「あはははっ、こういうのは慣れているから気にしないでくれ! それじゃあ初手の攻撃は少し派手にやろうかな。その方がみんなは安心して戦えるだろ? シングル冒険者がいるってね」


 きらりんとウィンクをして、グレイは再び自分の待機位置へと戻っていったのであった。


 ……なんというか、蛍とはまるで性質が違うな。


 あいつは自由奔放で自己中という表現がぴったりだが、グレイには本物のシングル冒険者としての自覚が芽生えている。というかもう咲いているのかもしれない。

 シングル冒険者自身がどう思っているかは知らないけど、俺のような一般人から見れば彼らは「希望」だ。

 かっこよくて、強くて、魔獣を怖いと感じていないその姿は輝いて見えるのだ。


 目の前の砂浜に立つ二人の冒険者の背中が大きく見える。


 俺から見て右側に立っているのがグレイだ。

 今日も金髪を逆立てながら整えており、耳には神々しく感じる不死鳥のイヤリングが装着されている。纏う防具はダンジョン産の物であり、赤色で統一されている。その上に羽織っているのが、白い外套だ。海風に靡くその外套が勇ましく感じる。


 対して、左側に立っているのがジュリオ・チスターナだ。

 最近は大人しく準備をしている姿しか見ていないが、本来の彼の姿はもう少し怖い。

 それでも戦いに向けて真剣に準備を備えていく姿や、日々の準備運動や筋肉トレーニングを見ていると、嫌でもジュリオがシングル冒険者に近いNumber10なんだと実感できた。

 今日は最初に会ったときのスーツではなく、ダンジョン用の装備を身に纏っている。確か会議ではシングル冒険者のみがダンジョン産の装備を許されていたので、ジュリオはギリギリで許可が得られなかったのであろう。


 黄色と黒で統一された装備を身に纏い、右手に持つ一本の金色の槍が特徴的に目に映る。

 一見すると普通の槍にしか見えないが、なぜかジュリオが持つと神具と見間違えるほどの神々しさを感じる。


 グレイはよく『知欲のグレイ』と呼ばれるが、ジュリオのニュースでよく見る異名は『雷槍のジュリオ』だ。

 その名の如く、雷とユニーク武器を組み合わせた戦闘スタイルである。


 まだ二人の本気の戦闘は見たことがないが、準備運動を見るだけでも俺や綾人さんとも凄みが違うのがわかった。

 少し楽しみである。


 蛍以外のシングル冒険者を目の前で見て、俺がどう感じるのかが。


 ダンジョン冒険者だけじゃない。自衛隊の精鋭たちの緊張が自然と伝播していき、いつのまにか辺りはシンと静まり返っていた。

 ジャリッと靴と砂が擦れる音や、衣擦れの音、呼吸の音や唾を飲み込む音が異様に大きく聞こえてくる。


 そこで再び綾人さんが持っている無線から、ザザッと雑音が鳴り響いた。


『カウント開始……30、29、28、27……』


 魔獣の波が押し寄せてくるまでのカウントダウンが始まった。

 事前の打ち合わせでは「0」になった瞬間に、水平線から現れると聞いている。


 海上はいつの間にか真っ黒ではなく、薄く紫が交わり始めていた。太陽の光の端と暗闇が交わる狭間の時間だ。日の出がもうすぐなのだろう。

 水平線がいつの間にか明るくなり、空の色も薄紫色へと変えていく。

 一気に視界が開け、まるで世界が変わってしまったような感覚を抱いていた。


『10、9、8、7……』


 その頃には、朝日が顔を出し始めていた。

 まぶしく感じる朝日と同時に、水平線の先から何かが来るという恐怖の感覚が体中を襲い、ぶるりと体を震わせた。


 そして――、


『3、2、1、カウント0、今!』


 水平線から黒い影が現れた。


 最初は小さかった黒い影が続々と水平線から顔を出し始め、気が付いた時には視界に入るほとんどの水平線すべてが真っ黒な影に染められていたのだった。


 その数に思わずごくりと唾を飲み込んだ。


 まるで雨雲のような魔獣の絨毯が海に沿って押し寄せてくる。

 ここにいる全員がその数に圧倒されていた時だった、砂浜に立っていた二人が口論を始めたのだ。


「最初は俺だ! デカブツ!」


「10位の君に何ができるって言うんだ? ここは大人しくシングルである僕に任せろ」


「うるせぇ! 俺の方が殲滅力の高い魔法が使えるだろう」


「君は僕の何を知っているというんだ? たかが10位が」


「……さっきから10位、10位って……黙りやがれ!」


「ふむ、これだから君はシングルにはなれないんだよ」


 最悪だと思った。

 でも、それはほんの一瞬のことだった。


 ほぼ二人同時に攻撃の準備を始めたのだった。

 我先にと争い、口論をして決着がつかないと判断したのだろう。早い者勝ち的な雰囲気が漂い始めた。


 ジュリオは右手に持っている槍の石附を地面に向かって力強くガンと叩きつけ、槍で舞い始めたのだ。空気を裂くように槍を突き、ブンッと風切り音を鳴らしながら大きく槍を回し、まるで踊りでも踊っているかのような光景だった。


 回っていく槍は徐々に淡く青に発光し始めた。

 ビリビリと電気が槍に宿っていき、回し、突くたびにその青い光が強くなっていく。


 その間、グレイはただただ目を閉じて片膝を砂浜に付き、両手を地面へとつけていた。


 最初に動いたのはジュリオだった。


 ブン、ブン、と力強い音を鳴らしながら、ある時に槍がカッと目を覆いたくなるほどにまぶしく輝いたのだった。

 ジュリオは嬉しそうに口角を上げ、にやりと獰猛な笑みを浮かべた。


 その槍を投げるように大きく構えた。


『ドラーゴ・トレ・トォオーノ』ッ!!


 ビュンッと槍が撃ち放たれた。

 到底人間が投げたとは思えないほどの速さと轟音を響かせながら、青く輝く槍が一直線に海上に浮かぶ影に向かって進んでいく。


 着弾。


 その瞬間、槍が一層まぶしく光り輝き、青く輝く龍が三体現れた。龍はまるで意志でも持っているかのように近くにいた魔獣を襲い、一瞬で消し炭へと変えていった。襲われた魔獣は次から次へと海へと落ちていき、槍が着弾した周辺の黒い影が見る形もなくなっていたのだった。


 たった一撃で、一帯を掃討した。その現実に俺は身震いするほどの高揚感を抱いていた。

 そして、少し遅れてこの砂浜にもバァンッと耳を塞ぎたくなるほどの轟音が鳴り響き、さらに衝撃波が体を撫でてきた。


「すっご」


 思わず口から尊敬の言葉が漏れていた。


「これが10位の力……」


 隣に立っていた綾人さんがボソリと小さな声でそんな言葉を呟いていた。その顔には尊敬と同時にやる気に漲った表情があった。


 少し遅れて、ようやくグレイが動き出した。


 砂浜に付けていた両手から一気に何かが注ぎ込まれているように、グレイの辺りの砂浜だけがぐにゃりとマグマのように溶けだしたのだ。

 そして、次の瞬間であった。


 ジュリオが掃討した魔獣たちよりも少し離れた海上が突如盛り上がり、赤い何かが飛び出てきたのだった。


「は?」


 驚きのあまり目を見張った。


 その赤い何かはグレイが操作しているのか、ゆっくりと範囲を広げていき魔獣に向かって押し寄せる巨大な赤い波として、ジュリオが掃討した五倍以上の魔獣を一瞬で黒焦げにしてしまったのである。


 遅れて、ぶわりと顔を殴るような熱風が海上から押し寄せてきた。


「……溶岩、か?」


 グレイが使った攻撃は、溶岩の大波だった。

 遠隔で操作し、どろりとした赤い溶岩が大波になって魔獣を瞬く間に、無慈悲に、倒したのだった。


 確かにジュリオも凄かった。


 それでも……グレイは桁が違った。

 範囲といい、火力といい、すごさといい、衝撃といい……すべての桁が規格外のものだったのだ。


「これがシングル冒険者……世界で7位の攻撃」


 こうして、小豆浜での戦いが始まったのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 久しぶりの更新だー‼︎ ひぃやっほー!! 最終章…泣泣 最後まで応援してます(o^^o)
[良い点] そうか10はシングルじゃないのか。 ここでの活躍でシングルからトップ10という概念に切り替えられるのか
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