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任命

 「ようこそお越しくださいました越前守様」玄関から武内家当主忠信の声が聞こえた。越前守は当主の案内で座敷に通される。


 「今日はどのようなご用で」忠信は慇懃に瓶子を傾け尋ねた。


 「今奥州にて争乱が起きていることはそこもとも存じておろう」


 「一応聞き及んでおりまする」 


 「禁裏は近々討伐の軍をお興しになられる。我が越前からも一隊を出さねばならない」

                            

 そこでだとおもむろに顔を上げた。

「その大将を織田神社の禰宜に占って頂いたところ、お主の嫡男である忠家とするべしとの卦が出た」


 忠信ははっとした。もともと肝の小さい方だったから心臓が飛び出る程驚いたらしい。

 

 「忠家はどこにいる」越前守は尋ねた。


 「み、身が忠家にございます」忠家は震え声で答える。

  

 「そこもとがか」越前守は忠家の顔を覗きこんだ。全く以て平凡な相貌である。眉目秀麗なる訳でも、この場合としては非常に重要な武人としての風格があるわけでもない。


 (本当にこの者で良いのだろうか)彼は失望した。明らかに一隊を率いるには頼りない青年である。そしてとりわけ筋目がよいとも言えない。


 一応武内家は橘の庶流であり、故に忠家は下賤ではないが、とはいえそれは分家の分家の分家の分家の分家の分家あたりであり、彼以上の家格の者はこの越前にもゴロゴロといるだろう。

 

 (織田殿は何をお考えか)実をいうとそもそも忠家に対する大将指名は神託ではない。越前に於いては貴人として尊ばれている織田神社宮司がどうしてもというから越前守は忠家に一軍を委ねるであり、従って多分に政治的な配慮であった。

      

 (まぁ戦の采は朝倉殿がとられるであろう)朝倉は彼が副将に任命した人物である。十年前の蝦夷討伐の折りにも功があり、越前どころか北陸道では童さえも知っている程、戦巧者として有名だった。   


 「既に諸将は麿の居館に集まっておる。そこもともよう来られよ」

 

 「はっ」忠家は恭しく一礼した。越前守が冷ややかな視線を注いでいるとは知らずに。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 



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