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短編集

獣人愛の人間様

作者:

一度投稿してからも短編なのに完結していないことをお詫びします。出来ればそのときにポイント評価や感想お聞かせください!よろしくお願い致します!至らない点がございましたら感想で下さい!

モクモクと私の部屋の中で白煙が充満する。


「げほっげほっ!っ何これ?」


私は突然わいた白煙に滅茶苦茶むせた。


「小娘。わしを呼んだのはお前か。」


未だに収まらない白煙から低く掠れた男の太い声が聞こえる。突然のことに驚き私は咳き込みながらも白煙の中をキョロキョロ探してみる。


「誰っ? 」


白煙の向こうの誰かに聞いてみる。


「ここだ。」


「だからどこなのよ!」


「ここだ!」


主張しても分からないでしょう!もっと具体的に言いなさいよ!ってか、この白煙どうにかしてよ!


「そうか。わかった。」


ザーッ


強い風が大して広くもない部屋の中で巻き起こる。私は強すぎる風に目をつむった。


というか、心読まれた!?


「読んでなどいない。お前が勝手に喋っているのだろう。」


えっ、嘘!


「嘘ではない。わしが嘘などつくか。」


どうやら、心の中で叫んでいたつもりが声に出していたらしい。少女漫画みたいだ。


「しょうじょまんがは知らんがお前は私が恐くはないのか?」


風が止んだのでそろりと目を開ける。強くつむり過ぎた目を開けると霞んだ視界に白のような灰色のような黒のような塊が目の前に大きく見える。視界がはっきりしてくると目の前にはフサフサの毛があった。


「ん?毛?」


私は目の前の毛を触る。さらさらしてて気持ちいい。


「お前。わしを触れるのか。」


!?


「毛玉が喋った!」


「どこを見ている。上だ上を見ろ。」


確かに上から声がする。恐れることなく見上げると右目に傷がある獣の顔があった。


「うおっ!なんだ?夢じゃねぇの?夢なら一杯触ってもいいよね。」


ガバッ


私は夢と勘違いして獣に抱きつく。


「ああ~。きんもち。てかこの生物なに?まぁ、どうでもいいや。とにかく癒される~。」


私は目の前の毛玉に抱きつきながら今日の失敗についての鬱憤を晴らす。


「あの野郎。課長だからって威張りすぎなのよっっ!」


私は毛玉から引き剥がされた。


「わしに気安く抱きつくな。小娘ごときが。」


「へ?おっちゃんいいじゃん。減るもんじゃないし。よっと。」


また抱きつこうとしたら頭を掴まれた。脚をM字に曲げて座って抱きつこうとしたら頭を掴まれたので変な体勢になった。


「おっちゃん等ではない。口を慎め。」


「お名前はぁ?何ですか?私は、生瀬はるかでぇーす。」


獣は不機嫌そうに喋る。


「わしは、神だ。名を教えるわけがなかろう。」


「神様でしたかぁ。それは敬わねば。はい。チョコレート。ブランデー入りの美味しいやつですよ。」


私は無造作に机の上にあったクチが開いている市販のチョコレートを神様とやらに渡した。


「何だ?ちょこれーと?」


私はチョコレートを渡したあとコクりと船をこいでいた。


「あっ!神様はおいぬさんっぽいので、チョコレートは毒になるね!じゃあ、だめぇー!」


私は顔をガバッとあげ言った後神様からチョコレートを取り上げた。


「なっ!その態度はなんだ!わしは神だぞ!」


「じゃあ、神様!ひとぉーつ質問です!神様が名前を教えてくれないので何と呼べばよいのですかぁー………。」


ドサッ


私はチョコレートを取り上げたことを忘れて質問をしたあとに寝落ちた。


ふわふわしてて気持ちいい。そうだ。私が名前をつけてあげよう。タケオ、サトシ、ユウヤ。歴代の彼氏の名前をあげていく。趣味が悪いわ。猛々しく凛々しい名前がいいなぁ。そうだ。


秋仙しゅうせんがいいな。



********


「ん。眩しい。カーテン閉めて。」


頭がガンガン痛い。飲み過ぎた。


モフッ


?、モフッ?


「起きろ。」


「え、誰?」


ベッドにモフッの正体がもたれ掛かっている。


「えっ。何?誰あんた。というか毛!毛!毛!」


「興奮するな。五月蝿い。」


私は昨晩の出来事を思い出した。


「あ、神様!ってことは、秋仙だ!」


夢で考えた名前をがっつり覚えていた私はその仮の名前を呼んだ。


「秋仙、か。良い名だ。この見てくれにはあまり似合わんがな。」


「というか、ええ!うちに神様がいる……。えっと、何のご用で?」


「わしにも分からん。」


私はベッドから降りて正座した。


「あの、私これから仕事があるのですが、ついてきますか?」


私はお仕事同伴のお誘いをした。


「仕事か、良いな。そうしよう。」


多分皆にはえないと思うから大丈夫だよね?だって、漫画ではこういった展開だと視えない設定の方が多いからね。鉄板ネタでいってみよう。


「あの、秋仙さんは朝食は食べますか?」


「いや、いらん。」


「そうですか。あの、ご飯は食べれるんですか?」


「ああ、食べれないことはない。だが、必要がないだけだ。」


獣の神様こと秋仙さんがそうこたえる。


「あの、少し立っていただけますか?」


「別に良いが、何故だ?」


もしや、まさか、とは思っていたものの予想が当たってしまった。


秋仙が立つと毛で全身が覆われているとはいえ彼のアソコはあまりにも無防備だった。


いやああああああああああああ!うおおおおおおおおおお!


秋仙は全く気にしていない様子だけど、私は流石に気にしてしまう!心の中では叫んだけど、顔は明らかに固まってしまっているだろう。



お母さんお父さん私は神様のアソコを見てしまいました。



私は大慌てで洗面所に駆け込みバスタオルをとり秋仙のアソコを隠すように腰に巻いた。


「はぁ、はぁ、はぁ、……デカかった。」


「何がデカいのだ?」


「いいえ!なんでもございません!」


やべぇ、神のナニは神級だったぁぁぁぁぁぁ!!!


はるかは食事をとり、秋仙ははるかの父が着ていた浴衣を着た。因みにアソコはボクサーで隠しました。


「いってきまぁす。」


ガチャリ


鍵閉めよし。さぁ、今日も1日根気強く頑張りましょう!って言いたいところだけれど。と考えはるかは後ろをそろりと振り返った。狼顔の獣人を連れて大通りを歩くのはやはり視えないというのは些か自分でも自信がない。


そういえば、漫画では人になれる神様とかいたよね?秋仙さんはいけるのかなぁ?


「あの、秋仙さんは人の姿になれますか?」


「ん。ああ、なれるぞ。」


やったー!


「じゃあ、早速なってみてください。その姿で視える人にみられたら大変になると思うんです。」


秋仙は少し考え納得した。


「わかった。」


私が一つ瞬きをしている間に秋仙さんが人の姿になった。


「はやっ!もうちょっとドロンとか煙とか登場したときみたいなのはないんですか?」


私は違うところに目をつけツッコんでいた。本当にツッコむべきところはその秋仙さんの見てくれだった。髪の毛は染めたのではないのかというほど灰色でさらさらしている。灰色なのに艶のある髪は色気がある。鼻筋が通っていて唇は薄く眼光が鋭い。眉毛が灰色なので地毛なんだと思ってしまった。体つきは筋肉がつきすぎず無さすぎずの綺麗な逆三角形だ。そして、やはり右目には傷跡が残っている。浴衣を着なれた日本男子の完成だ。


「秋仙さんの髪って綺麗ですね。」


うっかりポロリと言っていた。


「む。そうか?鬱陶しいから切りたいのだが。」


「あ、そうですか。切りたいのならば私が切りますが、いいんでしょうか。そんなに綺麗なのに。私は好きですよ。」


って、うおおおおおおおおおお!告白みたいになっとるがなぁぁぁぁぁぁ!


「そうか。では、頼もう。それはそうと玄関で道草を既に食らっているが、大丈夫なのか?例のかちょうとやらに怒られるのではないのか?」


私は腕時計をみる。


8時34分


うおおおおおおおおおお!


「やばいです!急ぎましょう!」


私は心の中で絶叫し秋仙さんの手を掴んで走り出していた。




********


「ぜぇ、ぜぇ。秋仙さんここで座って待っていてください。絶対に知らない人にはついていかないでくださいよ。知り合いに似ていても他人のそら似というやつですから。では!」


「ああ、わかっている。」


心配だ。朝からこんなイケメンを連れて会社に来ているなんて、課長にだけは知られたくない!死んでもごめんだ!といか、面白かったな。集団の真ん中を通っても秋仙さんの見てくれで何故か道が開けるんだよね。


はるかは会社の中を走りながらそんなことを考えていた。


「生瀬ぇぇ!………遅刻だ。」


ゲッ!課長だ。


ニタニタ笑いながら腕時計をトントンと叩いている。


気持ち悪い。


「すみません!今朝ちょっとトラブルがありまして。」


「言い訳は聞いとらん。さっさとやってくれないかねぇ。シ・ゴ・ト。」


シ・ゴ・トの部分でニタァっと最悪で最高の笑みを浮かべる。


そのオフィスにいた人間は皆また始まった。と諦めている様子だ。


「今日もお茶汲みよろちくび☆」


「「「「うわぁ。」」」」←オフィスにいる人達の心の声



ああ、もう耐えられない。仕事、辞めようかな。死にたい。


はるかは重い鬱になっていた。セクハラ、パワハラ諸々を一人で受け止めていたのだからそうなるだろう。しかも、オフィスに入ると途端に弱くなる。ここで鬱が出てきてしまうのだ。


どうしよう、辞めたい。死にたい。


「はるか。」


秋仙さんの幻聴が聞こえる。ああ、私はダメな大人なんだ。子供なんだ。


「はるか。」


えっ。


肩に手をおかれる。後ろを振り返ると秋仙さんがいた。


「おいおい。君、何をしているんだね?早く出ていきなさい。ここは関係者以外立ち入り禁止だよ。」


課長が秋仙さんの後ろで話す。


「秋仙さん!どうしてここに!待っててって言ったじゃないですか。」


「生瀬の知り合いか?話を聞き」


「いや、何でもない。あと、どのくらいわしは待てばいい?」


「えっと、その、………。」


「おい。生瀬」


戸惑う私は答えられない。どうしよう。皆が見てる。課長に何を言われるんだろう。もしかしてクビ?ダメだ。せっかく就職出来たんだから、耐えればいい。でも、…………。


「おい。はるか。」


「はい。」


「休むか?」


「はい、………はいっ!?」


私はいつの間にか落ちていた頭を勢いよく台詞と共にあげた。


「休むかと聞いている。休むのか?休まないのか?」


「あの、でも、まだ仕事を一つもやっていないのでやらなくちゃダメなんです。」


「休むそうだ。先程から五月蝿い野郎。そう。お前だ。わしに偉そうな口を利くな。はるかは体調不良で休む。」


「なっ!お前こそ誰だ!名乗れ!俺は課長だぞぉぉぉぉ!」


「五月蝿い蠅の様な男だな。わしの名など貴様に教えるわけがなかろう。名の品が落ちる、消えろ。」


そう言って秋仙さんは手を課長の顔の前にかざした。私は嫌な予感がした。


「秋仙さん!駄目です!休みますから!行きましょう!やめて……。」


私は咄嗟に秋仙さんの腕にしがみついた。


「わかったか。貴様、次はないぞ。」


秋仙さんは腕をおろしそう吐き捨てた。私は秋仙さんの腕から離れて課長に一週間の休暇をとると言いその場を後にした。後ろで課長が大声でクビだとエレベーターに乗るまで叫んでいた。


********


私達は近くの純喫茶店に入っていた。人がいないのと、静かなところで落ち着きたかったからだ。


「はるか。ここはなんだ?どこだ?家ではないな。」


「秋仙さん。」


「む。」


「有難うございます。」


私はテーブルにおでこがつくかつかないかのところまで頭を下げた。


「む。わしは何をしたのか?」


秋仙さんは本当にわかってなさそうだった。でも、今はそれが救いだ。


「いいんです。有難うございます。ズッ。」


頭を下げ続けているので涙を流しても頬に伝うことはなく目から直接テーブルに落ちる。ポトポトと音がする。


「はるか。この、字はなんだ?読めないぞ。何だ?泣いているのか。面倒くさい。泣くな。堂々としろ。全く人間はすぐに泣いて面倒だ。」


「ズッ、………ズッ。」


涙が止まらない。嗚咽を堪えるのに必死で鼻水がテーブルに垂れても頭をあげることができなかった。ごめんマスター。後で拭くよ。


「~!顔をあげろ!さっさとこれを読んでくれ!だから面倒なんだ!人間は!」


私は顔をあげると酷い顔だったらしく、秋仙さんが身を引いた。


「ごべんなざい。ズッ。」


「汚い。拭け。」


「ばい。」


ブーッ。


私はティッシュで鼻をかむと水を飲んだ。


「はぁ~。」


秋仙さんを見やると喫茶店の外を眺めていた。その横顔はとても美しい。全く姿もかたちも違うのにどうしてか獣の姿の時の顔がかぶる。


秋仙さんがこちらに気づく。


「はるか。これを読め。」


「はいっ!」


私は快く返事をした。秋仙さんが何を考えていようと私には関係ない。そう割りきった。


********


休日3日目


秋仙さんは現代に大分馴染んだ。ひらがなカタカナはマスターしたし、漢字も読める。けれども、不器用すぎて掃除も料理もできなかった。家事は秋仙さんがやりたいと言い出した。退屈だったらしく、私が忙しく動くので暇潰し程度にやってやると意気込んでいたが、掃除機を持つと掃除機が機能しなくなり、もちろん料理も火事が起こるかと思ったくらいの火が家庭用コンロから噴いた。これは、秋仙さんが神様だからだと思う。だって、私が持つと全て正常に機能し始めたからだ。神様だから、それに影響されて大きくなってしまったり、機能しなくなったりするらしい。秋仙さんも初めてやったので、初めて知ったらしい。因みに家事が出来ないので、部屋でナンプレをやってもらっている。部屋を覗くとこちらに気付かないくらい険しい顔をしながら熟考する獣姿の秋仙さんがいる。案外ハマったらしい。秋仙さんは手先は不器用だが、教えるとすぐに理解するほど頭が良い。あの見た目で。かなりのギャップがある。


「秋仙さん終わりましたよ。」


「ああ。そうか。」


秋仙さんはナンプレから目を離すもすぐに戻してしまう。


フフッ。


私は秋仙さんの隣に座りその横顔を眺める。顔から笑顔が漏れる。


こっちに気付いたらしい秋仙さんが鬱陶しそうにするも私を殴ったりなんてしないし、態度に出すだけできつい言葉を言ってきたりはしない。私がぴっとりくっつくとやはり態度に出すだけで何も言ってこない。優しすぎるよ。見た目とのギャップ凄すぎるよ。でも、そこが良い。あーあ、休暇が終わったらまた会社に出勤か。嫌だな。でも、秋仙さんがいるから良いや。


「おい。はるか。今日の夕飯はわしも食うぞ。」


「え?どうしてですか?」


「別に良いだろう。理由なんぞ。はるかが一人で食べているからとかじゃないぞ。」


「ツンデレですか。」


「なんと言った。」


「いいえ。わかりました。今日は腕によりをかけて料理をふるまいましょう。」


「おい。はるか。わしは聞こえたぞ。つんでれと聞こえたぞ。はっきりとな。それはなんだ。答えろ。」


秋仙さんがムキになってこちらを向く。


「へぇ、秋仙さんの獣姿の耳は伊達じゃなかったんですね。」


私は秋仙さんの耳を触ろうとした。だが、手を引っ込める。何故だかわからないけど、手を引っ込めたくなった。でも、本当は触りたい。


「?はるか。どうした。調子でも悪いのか?胸が悪いのか?」


秋仙さんはそう言い私の手を引っ張る。私はどんな顔をしているのだろうか。秋仙さんが酷すぎる顔をみるとそっぽを向いた。やっぱり酷いんだこの顔。


「そんな訳ではない!」


秋仙さんが声を荒げる。


「え?どういう意味ですか?」


秋仙さんは私の手を掴んでいる反対の手で顔を抑え何かブツブツ言いながらしきりに首を振っている。


「あ~!クソッ!」


「わっ!えっ!」


秋仙さんは急に私を引っ張りあさっての方向に私を反転させた。それから何もないので気になって後ろを振り返ると秋仙さんが私を後ろから抱き包んだ。私は驚いた。言葉がでなかった。唯一漏れた言葉が「えっ」だった。私が小さくなると秋仙さんの脚が私の前に置かれる。


しばらくその状態が続いた。


「あ、あの……、しゅ、秋仙さん。これはいったむぐっ!」


口を抑えられた。といってもかなり優しくだ。そういえば、身体を拘束されているけどキツいとか全くない。私がモゾモゾ動けば秋仙さんの体がビクッとするだけだ。


すると、秋仙さんが私の肩からぬっと顔を出した。何か喋るのかと思ったが、何も喋らない。目を閉じて耳を私の顔に擦り付けてきた。私は秋仙さんが何を言いたくて言えないのかはわからなかったが、これは耳を触っても良いという合図なのだろうかと思い、おそるおそる耳を触った。またピクッとなった。不思議だ。私は秋仙さんの耳から頭を撫でていた。それから顔を擦り付けていた。秋仙さんの腕に少しばかり力が入る。まさか、そんなわけがないと私は可能性を必死に拭った。



でも、まさか、秋仙さんってまさか、私に甘えてる?いや、違うかもさっき耳を触ろうとしたから顔に擦り付けてきたのかな?触らしてくれたのかな?いつも私が秋仙さんにくっついているせいかな?


後ろを振り返ろうとしたとき


「見るな、振り返るな。」


耳元で秋仙さんの低い声が私の動きを止める。恥ずかしい。何故かその感情が私に生まれた。


「あ、あの、秋仙さん。いつまでこれをするんですか?」


「静かにしろ。次もまた口を抑えるぞ。」


「え。あ、はい。わかりました。あの、持たれても良いですか?えっと、駄目だったらいいんです。あ、やっぱりい」


取り消そうとしたとき秋仙さんが被せて喋る。


「いい。もたれろ。はるかみたいなちっぽけな体はもたれ掛かっても大丈夫だ。」


そういう意味じゃないけど。


「じゃあ、お言葉に甘えて。し、失礼します。」


私は思いきって身を委ねてみることにした。


********


壁の振り子時計を見ると午後6時をまわっていた。いつの間にか寝ていたらしい。


「ん。………!?そうだった。」


私は秋仙さんに抱かれて寝ていた。あのまま身を委ねているとふわふわした気分になりいつの間にか寝てしまったらしい。そして、動けない秋仙さんもそのまま寝てしまったらしい。


「初めて見た。」


私は秋仙さんの寝姿すら見たことがなかったので、寝顔を見るのが新鮮だった。


無防備な秋仙さん。可愛い。


私は秋仙さんの寝顔に魅入ってしまった。獣姿の秋仙さんはとても穏やかな表情かおをしている。私もつい笑顔がこぼれる。


「さてと、料理をしましょうか。あ、今日は二人分だ。へへ。」


私は秋仙さんに抱き枕を持たせて台所に向かった。


********


「秋仙さん。ご飯ですよ。へへ。」


私は秋仙さんの顔の前で秋仙さんを起こした。


「ん。むう。あ?んー。…………あぁ。起きた。」


目を擦りながら秋仙さんは返事をする。まるで人間みたいだ。そんなことを思ってしまった。


「秋仙さん。今日は菜っ葉の煮浸しと、大根のお味噌汁と鯖の味噌煮ですよ。食後はおはぎです。」


おはぎと発言したとき秋仙さんの耳がピクッと動く。目を擦っていた手も止まる。


もしかして。おはぎ好きなのかな?あ、あんこが好きなのかな?案外甘党なんだ。


「食べるぞ。」


「はい。秋仙さんはこちらです。」


私は秋仙さんを席に案内する。


「秋仙さん。手を合わせてください。」


私は箸に手をつけようとしていた秋仙さんに促した。


「ああ。そうだな。」


秋仙さんは手を合わせる。


「「いただきます。」」


同時に声を発し箸を手に取りお茶碗を左手にとる。秋仙さんは私の真似をしている。煮浸しをつまみ口に運び咀嚼する。そして、秋仙さんも。


「秋仙さん。もしかして、食べ方分からないんですか?それと、食事をするときは耳と尻尾はそのままで良いですけど、人の姿の方が食べやすいですよ。特に味噌汁とか。口の端からこぼれると思うんです。」


秋仙さんは自分の姿を再確認し食べ方の指摘をスルーして獣人の姿になった。


そして、私の真似をして食事をする。私はそんな食卓を楽しみながら食事をした。ただ、抱きついてきた秋仙さんの真意は聞くに聞けなかった。一体どういう意味だったんだろう。


********


休日6日目


秋仙さんは相も変わらずナンプレを解くのにいそしんでいる。見ていて微笑ましい。


あれから食事は一緒にするようになった。でも、やっぱり秋仙さんの抱きついてきた真意はわからないままだ。その後も秋仙さんは普段通りだ。ところで秋仙さん、貴方急に消えたりしませんよね。私は不安です。意外にこの生活が大好きなんですよ。私。秋仙さんはどうですか?どんな思いでいるんですか?


私は当初感じなかった不安を胸に抱くようになった。それでも秋仙さんは何も言ってこない。どうしてこうなってしまったのかもわからないままだ。秋仙さんも知らないのかな。


「秋仙さん。掃除終わりましたよ。」


「む。ああ。そうか。」


そう言って秋仙さんは、あぐらの上に乗るように私を促す。


私は秋仙さんのあぐらに乗りふわふわの毛に包まれながらナンプレを一緒に解く。あの日から私達は近くにくっつくようになった。


私は湯たんぽ代わりなのかな?そう思うことにした。


「秋仙さん。ここ9入りますよ。ほらここも。」


「よくはるかは気付くな。どうしてだ?」


「へへ。途中参加すると案外気付くものですよ。」


「そうなのか。」


秋仙さんはよくわからないといった顔をする。


「今日の昼ごはんは何が良いですか?」


「はるかに任せる。」


「それが一番困るんですよ。まぁ、良いですよ。………確かあれがあったからあれでいいや。」


「む、そうか。だが、わしは食べ物を知らん。」


「そうでしたね。………へへ。夫婦みたい。」


私は返事のあとに小さく呟いた。秋仙さんに聞こえているかはわからない。ただ、秋仙さんの体温が少し上がったと思ったのは私の体温が上がったせいで、気のせいなのかもしれない。


「あ、ここ8ですよ。秋仙さん。」


********


休日7日目最終日


今日は秋仙さんに雑巾がけを手伝ってもらうことにした。これなら心配ないだろう。不器用でもできるし、雑巾絞りは私が担当すれば済む問題だ。女の独り暮らしには少し広すぎる私の家は日本家屋だ。廊下が長く多い。最後の休日なので大掃除だ。


秋仙さんが私の絞った雑巾で廊下を走り抜ける。獣姿なので異様な光景だ。


今更ながらに秋仙さんは神様なんだと改めて考えた。でも、何の神様なんだろ。後で聞いてみよう。聞くぐらい良いよね?


「はるか。やってくれ。」


「はい。じゃあ、こちらをどうぞ。」


「わかった。」


秋仙さんは最近大人しい。素直になってきたし、最初の頃の様なイライラした感じの物言いは全くなくなったと断言できるほどだ。何の影響だろう。


私はバケツで雑巾の汚れを洗い落とし固く絞った。バケツの水が汚れたので雑巾を床に置き洗面所に向かう。


でも、考えれば考えるほど謎が深まっていく。秋仙さんの名前を私は知らない。それと、どうして現れたのかだ。帰ろうと思えば帰れるはずだ。秋仙さんの目の傷は何のときについたんだろう。どうして私に休むかと聞いてきたんだろう。課長には名が汚れるって。


あれ?


おかしい。秋仙さんの名が汚れるってどういうことだろう。だって、秋仙は私がつけた仮の名前だもん。名乗っても問題ないはず。どうして名乗らなかったんだろう。………。


わからない。


私は沢山の疑問を胸に抱えたまま秋仙さんの雑巾がけを応援した。


********


雑巾がけを終えて今は昼の12時だ。もうそろそろご飯の用意をしても良い頃合いだろう。


「秋仙さん。私ご飯の用意をしてきますね。」


「ああ。楽しみにしている。」


秋仙さんは黒い薄い箱形のものつまりはテレビが気になっていたと昨日の夜にカミングアウトしてくれた。なので今は昼のニュースを熱心に観ている。目を細めて観ている。


近眼かな?神様なのに?


最近の神様ってちょっとズレてる様な気がしてならない。


私は台所に移動しながらそんなことを考えていた。


********


「秋仙さん。ご飯ですよ。」


秋仙さんがいない。何処に行ったのかな。トイレかな。


ーこない。


10分待ったけどこない。


大かなあ。内心焦っていたのだけれど変なことを思うことでまぎらわせた。


トイレの前に移動し2回ノックする。


コンコン


「秋仙さん。入ってますか?」


ドアノブを見るとカギが閉まってない。応答もない。私は勢いよくドアを開けた。


いない。


私は焦りを覚えて家中探し回った。


いない。


いない。


ここもいない。


焦って廊下でこけた。それからなかなか立ち上がることができない。


どうして。何で。せめて置き手紙でも欲しい。


「はるか。」


え。


後ろを振り返ると秋仙さんがいた。


「秋仙さん!」


私は立ち上がったもののヨロヨロと力なく秋仙さんに向かって走り出す。秋仙さんが受け止めてくれる。私は秋仙さんの背中に手を回し浴衣を力強く握り締めた。もう何処にも消えないように。


「秋仙さん。何処に行ってたんですか。心配したじゃないですか。」


「どうした。はるか。ちょっと玄関を出てみただけだ。大丈夫か?」


なんだ。そうなんだ。


台所と玄関は遠い。居間から玄関まで台所を通らずに行ける。秋仙さんは玄関の扉を開けるときはいつも上手くて無音だ。


「もうやめてください。私、秋仙さんが居なくなると弱くなってしまうみたいなんです。だから、お願いします。約束してください。もう私の前から消えないで下さい。神頼みしてるんです。」


「それは、…………。無理な神頼みだ。わしははるかと一緒にいてはならない存在なのだ。」


秋仙さんは少しの間を置いて拒んだ。拒絶した。


「そんな………。」


「早くご飯を食すぞ。冷めてしまう。行くぞ。」


秋仙さんは私の声にはこたえてくれなかった。


********


重い空気で昼食を終え私は自室に籠っていた。


しょうがないよね。私が間違ってたんだ。だって、秋仙さんは神様だから。私が普段から一緒にいるから慣れちゃっただけだったんだ。私の感覚がおかしいんだ。だって、秋仙さんだって言ってたじゃん、一緒にいてはならない存在だって。いざってときは祠作って祀ってこっちから会いに行けば良いじゃん。そうじゃん。いつでも会えるのにでも、欲をかいてしまう。


ポトポトと抱えた膝に涙と鼻水が落ちる。こんな顔神様に見せられない。秋仙さんに見られないようにしないと。だって喫茶店のとき見られて秋仙さん、引いてたもん。だから、せめて嫌われたくない。好かれなくとも嫌われたくない。堪えろ私。今までだって我慢してきたじゃないか。お願い止まって。


涙は10分以内に止まるもの。誰かが言ってたなぁ。




********


休日明け。出勤日。


私は玄関で秋仙さんに見送りをしてもらうことにした。いってらっしゃいと言ってもらえるとまだ家で待っている。と言われているような感じになると思ったからだ。


「秋仙さん。言ってくださいね。」


「ああ。わかっている。」


「じゃあ、行ってきます!」


「いってらっしゃい。」


獣姿の秋仙さんが言う。


ほら、やっぱりまだ家にいるって。言ってるじゃん。安心安心。


私は玄関を出て会社に向かった。


会社の前に立つと怪物が私に襲いかかる寸前の様だ。私は意気込んでオフィスへ向かった。エレベーターの中に入るとひそひそ話が聞こえる。広まっていたのか。考えていなかった。抜かった。


心臓が飛び出そうだ。吐き気がする。冷や汗も凄い。胃が痛くなってきた。吐き気は少ししかしなかったのにはっきりとしている。エレベーターをおりてオフィスに近付くごとに体調が悪くなっている。


オフィスの扉を開ける。


ガチャリ


「お、おはようございます。」


ああ。どうしよう。逃げたい。死にたい。


激しく思った。


周りは挨拶を返してくれるも酷く小さく席に着く間も好奇の目が向けられる。


死にたい。どうしよう。仕事しなきゃ。課長は?


そう思ったときだった。


「生瀬さぁ~ん。おはよう。元気になったのかなぁ~?」


課長が後ろから至近距離でお尻を撫でながら話しかけてきた。気持ち悪い。死にたい。


「はい。お陰様で。」


「そうかぁ。じゃあお仕事してね。それと、本日付で生瀬クビだから。」


え。


「返事は?」


「………………はい。」


絶望。


こういう時に使うのだろう。私は適当に業務を済ませた。適当に。


********


靴を脱ぎ7階建てのオフィスビルの屋上から下を見下ろす。冷たい風が吹き荒れる。耳が痛い。鼻も息をする度痛い。死のう。


どうせ誰も私を必要としていないんだ。


ここだって何処だって。私は要らないんだ。人も秋仙かみさんも。死んじゃえば良いじゃん。その方がきっと楽だ。


はるかはもう一度ビルの下を見る。大通りを歩く人達は心なしかキラキラ輝いて見えてしまう。どうしてだろう。どうして私だけが輝いて見えないのだろう。


死の、


「はるか。」


秋仙さんの声が聞こえる。


「どうして来てるんですか?私は、」


「はるか。こっちを見ろ。」


秋仙さんの言葉に遮られる。


私は後ろを振り返る。

秋仙さんは獣姿のまま来ていた。


「秋仙さん!言ったじゃないですか!私と居ちゃいけないって!本来は私ごときと居ちゃいけないんですよね!良いじゃないですか!私がこうなって丁度良いじゃないですか!私は秋仙さんの隣に居たいんです!それすらも叶わないのならば良いんです!こんな輝いていない私は必要とされないんです!要らないんで」


「お前は何を勘違いしている。」


秋仙さんの低くもよくとおる声で言葉を遮られた。


「わしはここでは何もできない。」


「でも、雑巾がけ」


「それは、はるかが手伝ってくれたからだろう。わし一人じゃ何も出来ない。はるか。わしは何の神か知っておるか?」


「いいえ。だって、教えてもらってないんだから。」


「そうだ。教えていないからだ。そして、今から教えることでもある。わしは、いや俺は」


「戦神」


誰?


秋仙さん以外の声が聞こえた。秋仙さんが驚いている。後ろを振り返って。秋仙さんの背中からひょっこりと地味な男の人が出てきた。


「大国主っ!」


秋仙さんが驚きの声をあげる。


「大国主ってあの出雲の?それに秋仙さんが戦神って。」


秋仙さんが私の台詞に虚を突かれる。


「そうだ。その大国主だ。そして、お前たちを会わせた張本人でもある。」


「え。」


「やはり、お前だったか。」


「ああ。そうだ。一つ昔話をしてあげよう。昔々あるところに一匹の狼がいました。狼は人間に祀られる為に殺されました。狼は神の眷属となりました。そして、狼は大層、人を怨んでおりました。その神は戦神でした。狼は戦神に内緒で霊も人も全てを食らって大暴れしました。気づいた戦神は止めにいきましたが、逆に殺されてしまいました。狼は戦神に成りました。狼は既に狼の姿をしていませんでした。人を沢山食べたので、喋れるようになり人の形になりましたが、完全に人ではありませんでした。霊も沢山食べたので力が沢山ついて最強になりました。そして、戦神となった狼は沢山の争いを生み出し災いの元となりました。そして、戦神と戦った時に右目に一生消えない傷を負わされました。数百年後戦神はある女の家に現れました。戦神は女と暮らすうちに改心しあろうことか女を愛してしまいましたとさ。」



長い沈黙が流れる。


秋仙さんの顔がなんとも言えないような顔になっている。合っているらしい。でも、私は


「はるか!いつか言わなければいけないときが来るとわかっていた。だが、お前には、その、」


「秋仙さん。名前、本当の名前を教えて下さい。秋仙さんじゃなく本当の。」


秋仙さんは真剣に応える。


「ない。………俺は戦神と呼ばれていただけだ。だが、つい最近名前がついた。秋仙だ。はるか。ありがとう。感謝している。いや、好きだ。愛している。」


っ!


「秋仙さんは私がどう見えますか?」


「誰よりも輝いて見える。眩しいくらいにな。」


「秋仙さん。月が綺麗ですね。」


「ああ。そうだな。月が綺麗だ。月が綺麗だ。その意味もわかっている。」


「秋仙さん。好きですっ!」


私は泣きじゃくりながら秋仙さんのところに行こうとしたその時風が強く吹き私はビルから落ちた。


そう思った時秋仙さんもビルから落ちてくる。すると私をキャッチしビルの屋上へ戻っていた。


「さすがだな。まぁ、本当はlikeの方で人間を好きになってほしかったのだがな。」


そう言い大国主は姿を消した。


私は秋仙さんにお姫様抱っこされていた。


「あ。」


「目を閉じてろ。」


私は秋仙さんの言うとおりにする。


すると、人間の唇の感触が私の口にはあった。


感想出来れば下さい。お願いします。

完結です!完璧に!夜の4時19分です。眠いです。流石に。疲れました。

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