11話 影の薄いダンジョンマスターがやっと働き始めました。
「と、言う訳で私も参戦しようと思う!」
「最初からそうしてくれ」
思わずツッコミを入れずにはいられなかったのか、井上が言う。
ダンジョンマスターは基本自分で直接的な攻撃ができないらしい。
働きたくないだけだろ、と思うが。
そもそもこの間はしばらくダンジョンを留守にしてたらしい。
ていうか、ダンジョンマスター解雇だろ。
だが、今回の件で流石に思い立ったらしい。
直接戦闘はしなくても、罠などで応戦がしたいと。
それで廊下に来ていた。
「私にはこの便利スキル『罠設置』があるから」
といい、そこら辺に手をかざすと、
「はい!罠完成」
別になんの変化もない廊下の床。
「何も…ないですわよ」
「そう見えるでしょ!?陸、ちょっとここ踏んでみて」
俺は仕方なく、先程真希が手をかざしていた床を踏む。
その瞬間――――!
俺の体に鞭を打つような激しい痛みが襲う。
「ウギャッ――――っ!何だこれ」
思わず声を上げてしまう。
そういえば、ラーニルの時は仕方なかったが、声を出すことすっかりが増えてしまった。少しは自重(?)せねば。
「特製痺れ罠だよ!ドラゴンでも動けなくなるぐらいの」
おい、少しは俺を尊重しろ。
「お次はこれっ!」
また床に手をかざすが、やはり見た目状の変化は無い。
「はい、陸お願い!」
嫌だよ。俺だって学習能力はある。
「ハア〜。仕方ないな〜」
そう言うと、『転移魔法』で俺の後ろに転移し、
俺をまるで冗談かのように、罠の方へ放り投げた。
軽々と宙を舞う俺の身体。
地面に叩きつけられるとほぼ同時に、床が消える。
下に落下していく俺。
畜生―――――っ!落とし穴かよ―――っ!
そして、俺はさらにさらに下の地面へ叩きつけられる。
が、痛みが全く無い。
どうやら下にクッション的なものがあった。
真希の奴、まさかこんなに人道的な罠を作ったのか。
落とし穴の上から俺を見下ろす女性陣も、驚きで…
いや、俺を見て、目を隠す。
それを見て、俺は今相当ヤバイ状態になってるのがわかった。
「これは私特製。敵を落とし、武器や装備を溶かせる罠」
おおおおおい―――――!装備どころか服まで溶けてるううう!
そもそも冒険者達の装備を売って生活費にしている俺達。
装備溶かしちまったら生活できねぇだろうが!
「キャ――――――――――――――――――っ!《炎神よ 愚かなる者を灰と化せ》」
全裸にされた上に、理不尽に焼かれる可哀想な俺であった。
◇
数日後、既にラーニルの怪我は完治していた。
「ラーニル。本当にここに残るのか?ここは危ないぞ」
井上が心配そうに言う。
ラーニルを外へ送る日であったが、ラーニルがここに残りたいと言い出したのだ。
「はい、危ないのは重々承知です。ですが、皆様のところから離れたくないです」
「ですけど…」
「特にリン様。貴方は私に寝るときに沢山お話させてくれました」
以外だ。只のお嬢様でしかないこいつがそんな事を…
鈴原は記憶を失い心の拠り所が無くなったラーニルの依存対象になったらしい。
「それに、私の精霊術なら、きっとお役に立てると思います」
自分は精霊術が使える。
ラーニルが名前以外に覚えていたもう一つの記憶だった。
「俺がお前を命をかけて守る」
これは償いという意味だけではない。
ラーニル。俺達を信じてくれた少女へのお礼。
俺は心に誓った。
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