10話 悪夢
張り詰めた空気。
全てを伝えた俺は、ラーニルの言葉を待つのみ。
何も偽らず、何も誤魔化さず、真実のみを伝えた。
重い沈黙、徐々に暗くなるラーニルの顔。
どれくらい沈黙が続いただろうか。
意を決したように、口を開くラーニル。
「あなた方が姉上を殺したのなら、その時の私はさぞ怒っていたでしょう」
僅かに大人びてるが、未だ幼いその心。
だが、そこにはさっきまでの暗さは無い。
力強い、そして曇りなき純粋な表情。
「私にとって姉上がどんなに大切だったかは記憶を失くしているのでわかりません」
「しかし、あなた達は私を助けてくれました」
そこには、怨みも憎しみも無い。
「私には、あなた達が悪い人には到底思えません」
穢を知らぬその声色に、目尻に涙が浮かぶのは仕方ないのではないか。
騙さず、真実を語った俺達を信じての言葉だろう。
「何か理由があった。そう信じています」
◇
無限に続く荒涼とした大地。
そこは多数の屍で埋まり、まさに地獄そのものだった。
空まで黒き闇に包まれたその場所に1人立ち尽くす勇者。
返り血を全身に浴び、狂気の表情の彼は勇者というより魔王の容貌だ。
屍と自分以外誰もいない地で、1人勇者は呟く。
「あと何人殺せば、俺は満足するのか?」
勇者の表情には殺傷に対する躊躇いはない。
「グオぅ――――っ!許さぬ、許さぬぞっ!」
憎悪の形相で死にかけの魔族兵が叫ぶ。
「黙れ」
刹那。もがき苦しむことも許さず、魔族兵の首が飛ぶ。
勇者に慈悲は無い。
ただ、哀れだった。
あの女性を助けられず、殺ししか脳がなくなった自分が。
「さあ、行くか。魔王とやらをぶっ殺しに」
だが、彼の足を掴み、行く手を阻む別の魔族兵。
勇者は黙って魔術の詠唱を始める。
それはどこかで聞き覚えのある、慈悲無き魔術だった。
◇
「誰だ!誰の記憶だ」
ベットから飛び起き、俺は叫ぶ。
またあの夢を見た。自分とは姿の違う誰かの夢を。
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