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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私はとっても不幸な人間

作者: よくいるゴミ



「ぐっ……」


 あまりの苦しみと痛みに、喘ぎ暴れても、無力な私ではその苦しみから解放されることは叶わない。それでも、生物としての本能なのかはわからないが、暴れることをやめられなかった。

 私は昔からそうだった。不幸だった。いつもいつも不幸だった。じゃなければきっと、こんな目にもあわなかった。



 最初の大きな不幸は母が死んだとき。

 私が5歳の時、母親が死亡し父親は葬式で一目もはばからず痛哭(つうこく)する程に悲しみ、守ってやることができなかったことを悔やんだ。きっと、たまたま母親が殺人鬼に殺されて一部を食べられてしまったことも、そこまで悔やんだ理由なのだろう。守れなかったことを、婆様に口汚く責めたてられたこともあるのだろう。

 結果的に父親は、私にあたった。毎日暴言を吐かれ、私は毎日泣いた。

 その殺人鬼は逮捕されたが、脱走し自殺した。ああ、せめて罰を受けてくれさえすれば、父親も少しは気が晴れただろうに。


 私が小学生になると、イジメの対象になった。暴言を吐かれることには慣れていたから、気にしなかった。……そのせいか、イジメはエスカレートした。高学年になって、皆に裸にされて体育倉庫に閉じ込められてしまった。恥ずかしくて助けは呼べなかったし、寒くて仕方がなかくて、苦しかった。

 結局朝に先生に見つけられたけど、その先生は体育着を私に渡すと「こんなところで遊ぶんじゃない、ふしだらな」と言って私を殴った。何を誤解したのか知らないけど、私の話は少しも聞かなかったし、着替えで授業に遅れた私を、クラスみんながいる教室で馬鹿にした。

 私は耐えられなくなった。


 ――殺してやる。


 あまりに馬鹿らしく短絡的な考え。でもその時の私はそうした方がいいのだと思って、私は実行に移した。


「謝れ!謝れ!謝れ!謝れ!謝れ!謝れ!」


 家から持ってきたハンマーで何度も人を殴った。楽しくて、関係ないクラスメイトも殴った。駆けつけてきた先生も殴った。なんだか、叫んで暴れると楽しくて仕方がなくて。ストレス解消になってたのかな。体の中身が全部空気になっちゃったみたいに、とても軽かった。

 そして先生3人に動きを封じられて、警察沙汰になって、カウンセラーと話して、少年院送り。どうやらクラスメイトが1人死んでしまったからとかいっていたようなきもする。話が難しくて退屈だったから、ほとんど覚えていない。


 中学生になって、恋人ができた。優しくてとても好きだった。好きだったから言うことはなんでも聞いてあげて、プレゼントも贈ったし、気持ち悪かったけど体だって許した。

 でもそれは私だけだったようで、行為中の、私の裸の写真を学校中に貼り、私を嘲笑った。私はまたもやイジメの対象になった。


 ――殺してやる。


 私は馬鹿だった。殺してしまえばなんとかなると思ったのだ。家の包丁を持ってきて、二人で話そうと言い家の近くで殺した。口を塞いで喉を切り裂いて、死んだのを確認して家に戻った。

 ……家には、いつの間にか父親がいた。出かけていたはずなのに。困った、血だらけの姿を見られてしまった。


 ――殺してやる。


 やっぱり私は大馬鹿で、父親も殺せばいいと思った。

 包丁を持って父親を切った。切られながらも父親は私の手を掴み、包丁を奪った。そして私は首を絞められる。


「ぐっ……ぁっ……!」


 私は昔からそうだった。不幸だった。いつもいつも不幸だった。

 困惑と悲しみと悔しさの浮かんだ父親のその目は……まるで……母親が死んだときのようだ。なぜそんな目をしている?私が人を殺したから?過去を悔やんでいるの?


「っ……っ……!」


 首を絞められて、体に力が入らなってくる。


 ――私は昔からそうだった。不幸だった。いつもいつも不幸だった。


 本当は違うのかもしれない。幸せな時もあったばず。私がそれを思い出さないだけ。不幸な私ばかりをみていただけ。どうすれば幸せになれるのかばかり考えて、今の幸せに気付かなかっただけ……なのかもしれない。でももう私は死ぬかもしれないのだから、関係のない話だ。

 私はいまから死ぬかもしれない。いや、きっと死ぬ。今から死ぬ。絶対だ。

 それでいい。生から解放されて、私はそれできっと幸せ。

 それで、やっと私は幸せ。


 ああ、今私は、幸せにみちている。












 白いベッドの上。


 私は絶望した。だから、現実を見るのをやめた。いや、脳がそれをやめさせたのかもしれない。

 脳の後ろに潜む、妙に冷静で大人びた私は、意味のない声をだす私をただ眺めている。


「あー…あうー…あ…」


 知らない人がたくさんきた。私に何か用なのかもしれない。それとも、パパにかな?ママにかな?


「う、うああああああああああ!!」


 わたしは泣いた。パパとママがいないのから、泣いたらいつもきてくれるから、泣くの。しらない人はびっくりしてるけど、でも、パパとママがいないから。

 でもなかなかパパとママはこない。

 まいごかな。むかえにいかなきゃ。私は走り出した。なぜか、知らない人を吹っ飛ばせるほどに力がでたけど、そんなのしらない。パパとママのもとにいかなきゃ。


「パパ!ママ!」


 わたしは窓につっこんだ。そこにいると思ったから。ガラスの破片が私を痛めつけるけど、たいしたものではない。

 私は今、とても高い所にいる。そういえば昔、よくたかいたかいをしてもらっていた。父親も私も高い所が大好きで、怖がって父にべったりな母を無視して、東京スカイツリーではしゃいだ。父は母をなだめたり楽しんだり忙しそうだったっけ。

 母のことはよく覚えていない。でも、とっても優しかった。優しい笑顔とぬくもりだけは覚えている。


 私の体が地面にぶつかる寸前、私は父親と母親をやっとみつけた。

 首をつった父親と、一部体のパーツが足りない母親。私をじいっと見つめて、少しも動いたりなどしなかったのだけれど、きっとその目は慈愛に満ちていた。




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