白い砂地は眩しい
あれからしばらく経つが
宿代について心配になったが
どうやら、この世界も紙幣はないらしく
家事などを手伝ってくれれば
いくらでもいていいらしい
テニムから力について色々聞いたが
よく理解できなかった
ただほとんどの人が
何も無いところから何かを取り出すことはできないらしい
無から有は生まれない
だから俺の能力はまれらしい
チコについてだが一度も声を発さず
テニムと俺はもしかしてチコは
声が出ないんじゃないか?
と話し合いながら枕カバーやシーツを取りに
部屋に行くとチコはどうやら
着替えをしていたらしく
チコが一瞬だが小動物が鳴いたような声を出した
「声出せるんじゃん
かわいい声出しやがって」
なんて俺が間抜けな事を言ってるうちに
チコは近くにある硬いものを取って俺達に
投げてきた
テニムはうまく避けれたが
俺は顔面に花瓶をクリティカルヒットさせた
テニムは逃げ出したが
俺はその場で倒れていた
気がつくとチコはすでにワンピースを着ていた
「いや、悪気があったわけじゃないんだ」
チコは頬を膨らませ顔は赤くなっていた
「いやあの、許してくれ」
そう言うと
チコはコクリとうなずいた
「あの喋らないの?」
またコクリとうなずくだけだった
「そっか、さぁ朝飯にしよう
準備できたら降りて来い」
そう言って俺は降りて行った
「おぃ、大丈夫だったか?」
「頭が痛いかな?」
「また包帯をまいとくか?」
「いや、いいや」
「そうかい
まぁ噴水にぶつかったときの方が
血を流してたからな」
「あの時は死ぬかと思ったよ」
「確かにな」
「なぁ、この後、闘技場にでも行かないか?」
「俺は別にいいけど」
「じゃぁ決まりな
さっさと飯食うぞ」
そう言ってやけに嬉しそうに飯を食っていた
「おぃ、早く行くぞ巧真」
「ちょっと待てくれ
チコお前も行くか?」
チコはただ首を横に振るだけだった
「そっかわかった」
そう言って俺はテニムの後を追った
「ところでどうして闘技場に行こうだなんて
言い出したんだ?」
「今日は闘技場が一般開放されるんだ」
「中に入れるってこと?」
「そう言うこと」
「へぇ、面白そうだな」
「だろ?
武器とかも木製だけど使って遊べるんだぞ」
「まぁ俺は本物を持ってるけどな」
「でも出せないだろ」
「まぁね
いつか出せるようになるんじゃない?」
俺の力はだんだんと成長していた
今では遠くのものを触らずに
近くに寄せることもできる
テレビのリモコンが届かない時に
この力があったら便利だろうな・・
まぁ、この世界にテレビはないけど
あと壊れたものを修復する事もできるようになっていた
ただ、刀を取り出すことは相変わらずできなかった
闘技場は上から見ると凄かったが
下から見るともっと凄かった
周りは観客席に覆われ
当たり前だが屋根はなく
地面はすべて白い砂が敷き詰められていた
「おぃ、巧真」
そう言ってテニムは俺に木の剣を投げてきた
俺はそれを掴んだ
「勝負だ勝負」
そう言ってテニムは手招きしてきた
「いいよ、参ったって言わせれば勝ちなんだろ」
そう言って俺は剣の形を
一振りして木刀に変えた
「おぉ、すごいな」
「まぁね、行くぞ」
そう言って俺はテニムに飛びかかった
俺がこんなに動けるとは思ってもいなかった
右からの攻撃をかわし
突きをくらわす
テニムは突きをかわし
素早く遠くに下がる
最初は悪ふざけのつもりだったが
やっていく間にだんだんと面白くなってきた
テニムもかなり強い
互いに遊びでやっているのに
知らない間に周りには観客が集まってきた
しばらくして
互いにつばぜり合いになり
同時に後ろに下がり
俺はもう疲れたので
「テニム、もぅいいでしょ?
疲れたよ」
「あぁ、そうだな」
そう言って互いに刀を下した
それで俺は一礼しようとすると
「敵から目を放すなぁ」
そう言ってテニムは俺に襲いかかってきた
テニムは頭上から剣を振り下ろしてきた
俺はそれを刀で受け止め
そのまま刀を滑らせ
テニムの腹に一撃を喰らわせた
「胴━━!!」
テニムはその場で片膝をついた
周りからは
「いいぞ、兄ちゃん
久しぶりにいいもの見させてもらった」
などと歓声があがった
「いってぇ〜最後の一撃
取ったと思ったんだけどな」
「テニム大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ
けど巧真よくあんなに動けたな」
「うん、俺もびっくりしているよ
剣道だなんてやったことないのに」
「剣道?」
「いや、なんでもない」
「今度その刀の使い方教えてくれ」
「あぁ、いいよ」
そんな話をしていると
俺とテニムに向かってナイフが飛んできた
俺は手で取りテニムは剣ではたき落していた
「商人ごときがなに盛り上がってるんだよ」
そこにはいつしかの
太ったおっさんがいた
あぁ、あと強面・・
「いきなり何するんだよ
今日は一般開放の日のはずだ」
「一般開放だなんて俺は認めてねぇ
ったく俺達の聖地に商民ごときが
勝手に入ってきやがって」
なんとなく俺も一言いいたくなり
「図々しいにもほどがあるだろ
帰れデブ」
だなんて言ってしまった
すると、おっさんの顔がだんだんと赤くなってきた
横ではテニムが爆笑している
「どうした?
聖地の砂が熱くてこんがりと焼けてきたか?」
周りにいる人たちも笑い始めていた
するとおっさんが俺に指をさし
「貴様、次の試合で俺はお前を指名する」
意味がわからず無言でいたが
周りがどよめき始めた
テニムも笑う事を止め真剣な表情になっていた
「楽しみにしてな」
そう言い残しおっさんは立ち去って行った
「テニム、どういうこと?」
「ん〜ヤバい事になったな」
「まじで?」
「うん、闘技場であいつと戦わないといけなくなってしまった」
「きょっ、拒否することは?」
「できない、闘技場の中で戦いを
申し込まれた場合、拒否することはできないんだ
兵士が商民に戦いを挑むだなんて
こんなの前代未聞だ」
「なんだよそれ・・」
落ち込む俺を横目にテニムは
「よし、まぁそうと決まったら練習だ」
なんてやけに気合いが入っているし
落ち込みながら
家に帰るとすぐにテニムは練習を開始した
「いいか、巧真まずは基本中の基本
レベル1からだ」
「ところで気になってたんだけど
レベルって一体何なんだ?」
「そこから説明しなくちゃいけないのか」
そう言ってテニムはかなりうなだれていた
「いいか、レベルって言うのは
力にも色々とランクがあるんだ例えば目に集中して
物の動きがゆっくり見えるのはレベル1
ある物をある所に瞬間移動するのはレベル2」
「ある物をある所に?」
「例えば、あそこにチコがいる」
チコが珍しく一階に下りてきていた
そのチコに対しテニムは手を向けて
「あそこにいるチコを
目の前に持ってくる」
向こうにいたチコが一瞬消え
目の前に現れた
チコは自分が瞬間移動したのにも驚かず
ほとんど無反応だった
「おぉ、すごい」
「でも、これ難しいんだよな」
「どうして?」
「どうしてってそりゃあ、ねぇ色々と・・」
何やら曖昧な答えが返ってきた
チコがまた向こうに歩き出そうとしていた時
「俺もできるかな?」
「いや、やめておいた方がいいと思うぞ」
「なんで?」
そういいながら俺はすでにチコに手を向けて
力を発動していた
それを見たテニムは黙って風呂場に向かっていた
その意味がわかった時には遅かった
チコを目の前に持ってくることには成功した
ただ服を持ってくることに失敗した
「あ゛っ」
その瞬間、俺は突き飛ばされ
チコの往復ビンタの嵐を食らっていた
そこへテニムが現れチコにでかいタオルを一枚差し出した
チコはそれを羽織り二階に駆け上がっていった
「おぃ、大丈夫か?」
「顔と心が痛いジンジンする・・」
「そうか・・ところでチコの服は?」
あたりを探しても服がどこにもなかった
「俺、どこかに飛ばしちゃったのかな?」
「なぁ、チコってワンピース以外の服
着てた事ってある?」
「まさか、あれしか服無いとか?」
「お前・・どうするんだ?
チコをこれからタオル一枚で生活させる気か?」
「あぁ〜それもいいかも・・
って何言ってるんだ俺
だ、大丈夫だ
俺が何も無いところから何かを取り出せばいいんだ
有から無を・・じゃなくて反対だ
無から有を作りだす」
そう言って俺は集中し
右手である物を掴み取り出した
「おぉ、さすが上達しているな巧・・真?」
俺の右手にはメイド服が握られていた
「な、なんだ?このヒラヒラな服は?」
「い、いや何でもない
ちょっと失敗したらしい今度こそ」
そう言って掴みだした物は
「セーラー服かぁ・・」
「なんだぁ?そのセーラーって」
「俺ってそういう趣味だったのか?」
「ま、まぁこれ渡しに行ったらどうだ?」
「わかった・・渡してくる」
二階の扉を開けると
俺がさっき直しておいた花瓶がまた頭を直撃した
「あの・・申し訳ございませんでした
ふ、服は私が選んだものでございます
お気に召しませんでしたら私目に注文してくださって
結構でございます。何なりとお申し付けください
それでは失礼します」
そう言って俺は服を置き一階に下りて行った
「お、おぃどうだった」
「俺にぶつけられる花瓶って可哀想
そして俺も」
「??
まぁとりあえず力の説明を続けよう」
「・・はい
ところで俺のこの能力ってレベルなんぼなんだ?」
「う〜ん、俺も考えてたんだけど
よくわからないな」
「じゃぁあのおっさんの斧から出てくる衝撃波みたいなやつは」
「あれはレベル2だよ
俺も何とか出せるからな」
「じゃぁ、俺も出せるのか?」
「駄目だ、やらなくていい」
「いや、わかってるよ
それじゃあ壊れたものを直すのは?」
「あれはレベル1だ」
「テニムの蒸気を発生させる能力は?」
「あれは俺の個人能力」
「個人能力・・だったら俺のあの能力も」
「いや、巧真の力はよくわからないけど
そう決めつけるのも駄目だろ」
「そっか難しいな」
「そうか?」
すると、上から降りてくる足音が聞こえた
俺とテニムは階段のほうを見ると
そこにはセーラー服を着たチコがいた
それをまじまじと見ていたテニムは
「おぃ、巧真
お前の服のセンス結構いいかもな」
「えぇ、まじで?」
「あぁ・・いいかもしんない」




