それは、スケールの問題
「違う、こういう物語の場合
主人公は遅れてくるんだ」
状況が、理解できないのか
その場で、フリーズする巧真を俺は蹴りで
壁の方まで、吹き飛ばした
「ん〜、まだ今一、力の加減が難しいな」
「巧真・・どうしてお前がここにいる !!」
「決まってんだろ
お前の暴走を止めるためだ」
俺は、巧真に握っていた鞘を向けながらそう言った
だが、その鞘には、刀が入っていなかった
「俺を殺しに来たのか?」
「違う、止めに来たって言ってんだろ」
「なんで、刀を持っていない」
「お前だって、鞘を持っていないだろ
これは、俺たちの立場を表わしている」
「?」
「お前は、自分の事を本能とか言ってたろ
そして、俺はそれを抑える理性だ
刃物をむき出しにしてたら手が切れちまう
だから、鞘がある
今のおまえは、鞘を失った刀だ
刀を鞘に収めるのが、理性の義務だ」
「出来るのか?そんな事が」
壁にいたはずの巧真が消え
神の背後に現れた
「こいつを殺せば終わりだ」
神に刀を振り下ろす巧真の目の前に
突然、鞘が現れた
「くそっ」
かろうじて、避けたが
巧真の中段蹴りをまともに食らい
トイが立つ場所に飛ばされ
トイが、巧真をキャッチした
「隊長、大丈夫ですか?」
巧真は、心配するトイを払いのけた
「なんで、お前に力が戻ってるんだ !!」
「別に、力を失っていたわけじゃなかったんだ
力の使い方が、わからなかっただけなんだ
今までは、本能が教えてくれていたからな
理解するのに苦労したよ・・それから」
苦労話を淡々と話し始める
巧真に、トイが銃口を向けた
「よせ、あいつは殺すな」
引き金を引こうとするトイを巧真は、突き飛ばし
巧真に右手を向け
「しばらく、眠ってろ」
巧真の右手から巨大な衝撃波が飛んできた
俺に向かってくる衝撃波に向け
衝撃波を出し相殺した
だが、分散した衝撃波の一つがチコの目の前で破裂した
「真由、チコを頼む !!」
神は、チコの所に行き
外傷がないか調べた
「大丈夫、気を失ってるだけみたい」
「ったく、こういう時ぐらい
声出せよ」
「なによ、巧真が衝撃波を相殺しなければ
チコちゃんも、こんな事にはならなかったのよ」
「なんだと、じゃぁ、あれか?
俺に、衝撃波をまともに喰らえと?」
「そんな事、言ってないじゃないの !!」
「いいや、言ってるね
遠まわしに、言ってるわ
遠まわしに、俺に死ねって言ってるわ」
「違っ・・あぁ〜もぅ、死んじゃえ !!
巧真なんか、死んじゃえ」
「なっ、そう言う事言うか?
せっかく助けてやったのに恩をあだで返すのか
そう言う風に、親に教わったのか?
まったく、親の顔が見てみたいね」
「なによ、そんな事あんたに言われたくないわ」
「なんでだよ、意味わかんないし」
言い争う、二人に巧真は、痺れを切らせた
「おぃ、いい加減にしろ !!
そもそも、なんでそいつの味方をする
そいつは、お前を殺そうとしてたんだぞ
そんなやつを、どうしてかばう?」
「だったら、聞くが何で、俺を殺そうとしてるからって
国を滅ぼそうとする?」
「この世界が国だと?
馬鹿言うな、これは、神が創った想像の世界だ
だが、神にもう世界を創り直すほどの力は残っていない
どの道、この世界は滅びる」
「そうだよ、真由にもう力は残っていない
だから、俺を殺すこともできない」
「神に力がないからこそ
新しい、統率者が必要なんだよ
新しい社会を作る、統率者が必要だ」
「関係無い」
「はぁっ?」
「どうでもいいんだよ、んな事
世界がどうとか、社会がどうとか
俺には、世界を創る力があるとか
だからなんだ?いらねぇよ。そんな力
それに、これから、世界がどうなろうが
俺には関係無い、けどな
この世界にある俺の大切な物を壊そうとしてんなら
俺は、全力でそれを阻止する」
「・・そんなに神が大事か?」
「いや、全然」
即答する、巧真に「ちょっと」と突っ込みを入れる
真由に対し巧真はまだ、話を続ける
「だけど、真由も大切な物の一つだ
それにそう思ってる奴は、俺一人じゃないはずだ」
その言葉と同時に、扉の一部が崩れ
そこから、テニム達が現れた
「おぉ、うまくいった
案外やってみるものだな」
テニム達は、服はボロボロで
一部、破けてたりと、扉を壊すのがどれだけ大変だったかを
証明していた
「考えてみたら、私ってこんな苦労しないでも
普通に神の部屋に入れてたのよね」
「まぁ、そう言わないでください
リムさんいなくなったら、
テニムさんと僕ですよ。華がないじゃないですか」
「その、華は腐ってるけどな」
「なんですって?」
「ちょっと、二人とも落ち着いて」
扉が崩れるのを見て真由も驚いていたが
それ以上に、巧真も驚いていた
「馬鹿な、あの扉が壊れるだと?
ありえない」
「ありえなくなんかないさ
心の壁なんてその気になりゃ壊せるもんさ
俺だって、心の壁が壊されたから、ここにいるんだ
まぁ、あんな壊し方、反則だけどな」
そう言って、チコの方に目線を向けたはず
だったが、なぜかその横にいた真由が反応した
「えっ、私?」
「違うっ!!馬鹿か、お前は?
自分の殻に引きこもってる奴が
どうやって、人ん家の扉を吹き飛ばすんだよ」
「なによ、自分の事は棚にあげといて
私に説教なんかするな」
「やかましい、お前と俺とではスケールが違うんだよ
確かに、俺は自分の殻に引きこもってたかもしれないけど
お前の場合、殻じゃなくて、
城だぞ、城、城わかるか? お・し・ろ !!
キングダムだ !!」
「大きさなんて、関係無いじゃない
要は、引きこもっていたかどうかよ
お城、お城って強調しないでよ」
「そりゃ、協調したくなるよ
誰も入れたくないからって警護までつけやがって
どんな、引きこもり生活だよ」
「おぃ、お前等、いい加減にしろよ
話が進まないだろ !!
巧真、お前は大切な物は、全力で守ると言ったよな?」
「?」
「だったら、それを俺に証明してみろ」
巧真は、どこからかナイフを取り出し
テニム達に向かって、投げようとしていた
だが、気付かないうちに、手首を抑えられていた
「止せ、もうお前の負けだ」
「だから、前にも言ったろ
甘いって」
巧真は、押さえられた手とは、
反対の手にもナイフを持っていた
そして、トイも俺に銃口を向けて引き金を引こうとしていた
気づいた、カイがトイに向かって走り出したが
間に合いそうにない
だが、巧真の手に持ったナイフの行く先は、
俺の脇腹にではなく、トイの脇腹に刺さった
「ど、どうして?」
状況が理解できないトイはわけもわからず
その場に倒れた
「言っただろ、こいつは殺すなって」
巧真が冷たくそう言う
トイが倒れ、カイはそのまま
トイの所に向かった
「トイ、大丈夫か?」
頭を支え、上体を持ち上げるが
服からは、血が滲みだしていた
「か、カイ・・俺、こ・の道、
せ,選択して、間違えて・・た、たのかな?」
「しっかりしろ
頼むから・・」
カイの目からは涙が溢れていた
「で、でもな・・俺こ、の道
選択して、こ、後悔してないから・・」
そう言い残すと、トイの目からも
一滴の涙が流れると同時に、
トイの体から生気が失われた
カイが、トイを抱きながら泣き叫ぶ声が響く中
俺は、巧真の胸倉を掴んでいた
「てめぇ、何したのかわかってんのか !?」
「知っているさ
お前を助けたんだ」
「あいつは・・トイは、お前を信じて
ここまで、付いてきたんだぞ
それなのに、お前は・・」
自分の目から涙が流れているのは知っていたが
巧真の目にも涙が溜まっていることに気づいた
「知らなかっただろ?
本能は、お前を助けるためにだったら
仲間だって、殺しちゃうんだぜ
これは、全部、お前のためにやってきたんだ !!
俺を、本気で止めたかったらな」
巧真は、俺の手を無理やり放し
その場に、落ちていた刀を取った
「俺を、殺せ !!」
そう言って、俺に襲いかかってきた
俺は、流れる涙を拭い
鞘を取り出した
「巧真 !!
だから、甘いって言ってんっが・・」
俺は、巧真の横に現われ
右肩に向かって、鞘を思いっきりぶつけた
鞘からは、巧真の腕の骨がつぶれる感触が伝わってきた
巧真は、一度は痛みで、刀を落としたものの
左手で刀を拾い、また襲いかかってきた
「巧真━━!!」
無造作に振り回す刀をかわし
振り下ろしてきた刀を、上にはじき
左腕から鈍い音が出るほどの威力で鞘をぶつけた
両膝をつき、肩で息をし
両腕が肩からぶら下がった状態でも
まだ、俺に襲いかかろうとした巧真の顔の目の前に
先ほど、はじいた刀が地面に突き刺さった
俺は、その刀を地面から抜いた
「そうだ、巧真
それで俺を殺せ、それでいいんだ」
俺は、刀を高々と上げた
巧真は、目をつぶり死を覚悟した
俺は、上を向いた刃を、下に向け
刀を勢いよく下ろし、鞘に収めた
「どうして・・どうして殺さない !!」
「言ったはずだ、止めに来たって
それと、刀に鞘があるように
鞘に刀がないと、意味がない
俺のもとに戻れ
今まで、すべてお前に任せていて悪かった」
「それでいいのか?
後悔しないか?」
「あぁ、すべてを受け入れてやる」
「そうか・・それならいい」
巧真は、俺に今まで見た事がないような
満面の笑みを見せ
一瞬、ゲルになったかと思うと
俺の体の中に取り込まれていった
何が起こったか、わからない
テニムは、ただ上を向き、立ち尽くしている
巧真のもとに向かった
「巧真、大丈夫か?」
「い・・」
「い?」
「いってぇぇぇ━━!!」
巧真は、顔じゅうに脂汗をかき
両膝をつきながらそう叫んだ
「痛いってこれ、うわっ、本気で叩くんじゃなかったこれ
うわっ、右肩うごかねぇっ!!あぁっ、なんかこれ
アバラも逝ってるっ、ちょっテニム!!
俺ば、吹き飛ばすときに本気で飛ばしてんじゃねーよ
アバラが何本か逝ってるのはそのせいだ」
「なっ、馬鹿言うな
あの時は、お前を止めるので必死だったんだよ」
「だぁーくそっ、すべて受け入れるとか言ってたけど
そうな事、言うんじゃなかった
いや、でもそうじゃないと俺も納得しなかったし・・
・・あ、段々痛みが麻痺してきた・・
あぁ、でも動かすと痛い」
両膝をつき、頭を地面につけながら
一人でぶつくさと喋る巧真を見て
テニムとリムは、いつもの巧真だと安堵し
カイは、今まで見た事のない一面を見たと驚いていた
テニムは、巧真に歩み寄った
「巧真・・」
「ん〜、なに?」
「お帰り、待っていたよ」
巧真は、一瞬、鼻で笑い「あぁ、ただいま」と呟いた
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
なんか、突然の急展開や理解できない事も
たくさんあると思います。
まぁ、そこは気にしないで軽く流してください。
なんやかんやで、次最終話にしようと思います。
最後までよろしくお願いします。




