沈黙と言うのは苦手です
しばらく、沈黙が続いた
村長は黙々と進み、
俺は黙ってついていった
その後ろを、牛がヨタヨタと付いてくる
気まずい空気が漂ってくる
もぅ、これ以上耐えられない
「あの・・どこに連れていくつもりですか?」
「・・・甘次郎さんの家」
「いや、いやいやいや・・
行けないですよ
それは無理です」
「今、空き家はそこしかないんだ」
「えっ・・?」
一度、立ち止まってしまったが
村長は止まらなかった
「甘次郎さんは?」
「いなくなった
巧真君が、あそこで何をしたか知らないが
それ以来、誰も甘次郎さんを誰も見ていない」
「・・そうですか」
「甘次郎さんが、どうして
あそこに家を建ててるか知ってるかい?」
「わからないです」
「それもついでに教えてあげよう」
「え?」
「いいから、ついてきなさい」
俺はただそれに従ってついて行った・・
城のほうでは、カイが個室で
書類などに目を通し、サインをしていた
そんな中、後ろの扉が開き
「大丈夫〜かい?」
「それは、ダジャレですか?
それとも普通に訪ねてきたんですか?
リム隊長」
「いや〜、隊長の初仕事で
行き詰ってるんじゃないか、って思って
様子を見に来たんだけど、これじゃ拍子抜けね」
「えぇ、隊長になる前から
この仕事はしていたんで楽ですよ」
「巧真君、この仕事もカイに任せてたの?」
「えぇ、そうですよ
・・・あぁ、また間違えた」
どこを間違えたのか、後ろから覗くと
自分のサインではなく
巧真のサインをしていた
「よほど、前の隊長に使われてたのね・・」
「えぇ、まぁそうですね」
軽く笑いながら、カイは自分の書いたサインを
力を使って消していた
「ところで、トイは?」
「それが、隊長が、解任されてから
まだ一回も、来てないんですよ
ずっと、部屋に引きこもっちゃってて」
「ちょっと、心配ね・・」
「えぇ、そうですね」
そう言いながら、カイはペンを強く握りしめていた
そんな事には気付かず
リムは「まぁ頑張って」っと言い残し
部屋を出て行き、神のところへ向かった
神の部屋に入ると、何やら深刻な顔をして
考え事をしてる神がいた
「神様?」
「えっ?あぁお疲れ様
どうだった?」
「何も、問題ありませんよ
一体、何を心配してるんですか?」
「何もなければいいんだけど・・」
「ただ、いつも巧真君の後ろについていた
二人のうち一人が、来てないみたいですね」
「・・そう」
「神様?」
「何でもないわ、もぅ下がっていいわ」
明らかに、無理して作った笑顔で神様はそう言ってきた
「・・そうですか、わかりました」
軽く一礼し、リムは部屋から出て行った
リムが出て行ったあと、真由の横にゲル状の竜が現れた
「もぅ一回、行ってきて」
竜にそう言うと、竜はまたどこかへ行ってしまった
リムが部屋から、出ると
チコとテニムが立っていた
「ちょっと、チコはわかるけど
どうしてテニムがここに入れるの?」
「わからないけど、入れちゃった」
「はぁ?」
「とにかく、どんな感じなんだ?」
「さぁ、どうだか・・」
「おぃおぃ、それでも神様の側近か?」
「でも、巧真君が側近なんて、してただなんて
知らなかったわよ」
「カイの方は大丈夫なのか?」
「カイ君は、大丈夫だと思うけど
ただ、もう一人のトイ君については、わからないわ
二人とも、巧真君に付いて回ってたからね」
「あの巧真にね・・」
「あら・・彼は、結構部下には慕われてたのよ
隊長格には嫌われてたけど・・」
「そうだったのか・・」
「そうなのよ」
「それより、しっかりしてくれよ
下の町では大変なんだ」
「どうかしたの?」
「わからないが、何人か死人が出てらしい」
「闘技場で?」
「いや、街中で」
「どういう事?」
「だから、わからないんだよ
今までそんな事なかったから
上がしっかりしないと下から腐ってくるぞ」
「そうね、しっかりしないと」
「じゃぁ、俺見回り言ってくるわ」
そう言って、みんな別れた
巧真は甘次郎さんの家に到着した
「ここをしばらく、使うといい」
「ありがとうございます」
すると、村長が手招きし
「こっちだ」
そう言って家の裏側に向かった
「甘次郎さんがここに住んでいた
理由なんだが・・」
そこで、言葉が途切れた
「どうしたんです?」
「いや、見た方が早いな」
そう言って、また歩き始めた
牛は、もう歩けないとアピールをして
その場に倒れこんだ
牛は休ませといて
俺は、村長のあとを追った
村長は、深い林の中に入って行った
はじめは、深い林だったが
段々と木々が減り始め
中には、不自然に曲がった木や
何かの衝撃を受けて折れた木がそのまま
放置されていた
ここは・・一体?
なんて思っていると
村長が語りだした
「5年前、戦争があったのは知っているな?
正直、私たちにはなす術がなかった
無理もない、向こうの奴等は
妙な力を使うからな
二つの勢力がぶつかり合っていた
私たち、無能力者は眼中になかったんだよ
だが、この場所はとても魅力的だった
お互いの土地で争うのは被害が互いに出てしまう
だから、この場所で争うようになったんだ」
村長に、連れられて
着いた場所は、一面の戦場の跡地だった
元は家だったような物が壊されている
「そんな・・」
5年前のことだから、草は多々生い茂っているが
極端なへこみや、一部分だけ
草が生えていないなど
自然にできたとは思えないものがたくさんあった
「5年前だ
突然、戦争が終わった
世界は元々一つだった。それなのに
突然、扉と壁で囲まれた
そんな事は、私も含めてみんな、気にもしなかった
ただ、私は最近の事なんだが
偶然、この場所に来てしまった
その時、昔の記憶がなだれ込んできた
そこを、甘次郎さんに見つかった
すると甘次郎さんは、私に何度も謝ってきた
『私が目を離してるすきに申し訳ない』と
甘次郎さんは、自分の家から奥へは行かせないように
していたんだ
それが、私たちの幸せだと思って」
「村長が、この場所に来た時
甘次郎さんは何をしてたと思いますか?」
「さぁ、わからない」
「壁の向こう側にいたんだ
王様に、ある物を渡し
扉の向こうの世界を滅ぼそうとしていた」
「向こう側で、甘次郎さんがどう思われていようが
こちら側では、必要な存在だった」
「あの人は、自分の私情のために
一つの国を滅ぼした」
「本当に、それは甘次郎さんのためだったのか?」
その時、甘次郎さんが『家族のために死ぬ』と言う
言葉を思い出し、言葉を詰まらせた
「それは・・自分の願望を
家族に押し付け正当化してるだけだ」
「そうなのかもしれないな・・
でも、私にも家族がいれば
そうすると思うぞ」
「でも、家族はいないでしょ」
「いたさ・・」
「えっ・・?」
「戦争で死んだよ」
「そうですか・・」
「息子は、かなりひどい
殺され方をしていた」
「・・・」
「特殊能力者と言うのは酷いものだ
私の息子は体の内部を生焼けにされ
最後に心臓を一突きされていた」
その言葉を聞いて
一瞬その能力者が、頭を過ぎった




