ダチョウに求愛された俺って何・・
気がつくと
野原に俺は倒れていた
上半身を起こすと
目の前に真由がいる
「よぉ・・」
俺が話しかけても何も返してくれない
ただ、俺の視界を手で遮り
何かを言った
「・・・」
「なんだって?」
俺が手をどかすと
突然、この世界が俺を拒絶しはじめた
誰かが、俺の首元を引っ張ってるかのように
俺は後ろに引っ張られ
周りの風景が離れてい・・
一瞬にして、俺は無の世界に来てしまった
光も闇も音もない
白も黒もない
あるのは俺の体だけ
俺の体も段々と消えていく
前までの俺なら必死にもがいただろう
けど今の俺は何もしない
ただ消えていく体を見ているだけ
手と足が消えた
腰から段々と消えていく
ついに首まで来た
そして俺の視野もなにもかも
消えた・・
「うをぉっ・・」
俺は驚き目を覚ました
「夢か・・久しぶりの夢だな・・」
草の上で寝ていたから
体中が痛い
ただ、この世界に四季がなくて本当によかった
冬なんかあったら
絶対に死んでた
しばらくすると
山の間から強い日差しが差し込んできた
「うわっ、眩しい」
目を閉じても光が瞼を通して
伝わってくる
まぁそんな事はどうでもいい
とにかく、今夜も野宿はごめんだ
簡単なものでいいから
屋根と壁がある家を造らなくては・・
そのために持ってきた斧だ
早速使わせてもらおう・・・・
さて、ここで問題が発生した
木は時間はかかったが
何とか倒すことに成功した
ただ、運ぶ方法が無い
それと結ぶ糸もない
村の人たちはいったいどうやって
あの家を造っていたんだ?
・・こうなったら村の方に行って
いや、駄目だ
それじゃ村から離れて東の森に来た意味がない
「どぉしよう・・」
その時、後ろで何かが動く気配を感じた
なんだ?
まさか、トカゲじゃないだろうな
いや・・ないないだってあの時に
村人が全滅させたと思うし
いやでも、生き残りがいるのか?
そう思いながら
腰に差してあったナイフを構え
「頼むからトカゲじゃありませんように・・」
そう呟いて
勢いよく、後ろを振り返った
目の前には、体長2m以上あるような巨体
全身毛むくじゃら
鳴き声は牛のようにモーと鳴く生物がいた
「・・・・」
しばらく、フリーズしていたが
徐々に理解してきた
「もしかして・・牛か?」
そう聞くと、軽く鳴き返してきた
「うっわ、久しぶりだな
なんか?また大きくなってない?
ん?違うな・・毛が生え換わっているのか?
衣替えか?」
体を触ると毛が大量に抜け
その下に太い毛が生えてきていた
「衣替え・・?
もしかして?冬来るのか?
ヤバいじゃん、野宿できないじゃん」
その時、ある重大なことに、俺は気づいた
「あぁそうか毛むくじゃらの理由がわかった・・」
よく見ると
牛の体格は立派な皮下脂肪
それにプラス立派な毛
求愛などに使いそうな派手な色などもない
どう見ても、気候に特化した進化だ
つまり、ここの冬はかなりキツい
考えてみたら
村の動物も全身に毛があったような気が(トカゲは例外)・・
「早く家を造らないと・・」
そう思い急いで家を完成させた
牛もいるから
意外と簡単だ。丸太も運んでくれるし
毛もどんなに引っ張っても、ちぎれない
ナイフで切ろうとしても、全然切れない
・・こいつの毛どうなってるの?
まぁ、そんなこんなで
広くて、浅い穴を掘り
中心に丸太を立てて
壁は牛の毛で
立派な竪穴式住居ができた
「おぉ、まぁいい感じじゃないか」
俺の思考能力は、
原始人並みかと思うと、ちょっとショックだが
まぁ、これで冬越せるかな?
「いい感じだろ?牛」
そう言いながら
中に入った
少し壁が、牛臭いがまぁいいでしょ
その時、牛がよたつき
軽く家にぶつかってしまった
いや、確かに軽くぶつかっただけだが
丸太一本で何にも支えが無かった家は
メキメキと言う音を立てながら、見事に崩壊した
崩壊した場所に、全身毛まみれになった
俺が立っている
もし、周りに人がいたらかなり惨めに見えただろう
「・・・・今日も野宿かな?」
日もかなり落ち始めていた・・
体中についた毛を何とか落とし終わった。
ただ見える範囲だけだったので
まだ、背中に、びっしりと大量に毛がついてる事を、
気がつくのに、かなりの時間がかかった
「うわっ、なんで落ちてないんだよ
ってか牛、お前の毛はどうなってるんだ?」
ところが、牛は何にも反応をしないで
やけに耳を動かしている
「・・・・?」
そして、牛はある方向に目を向けた
そちら側を見ると
誰かが、こっちに近づいて来る
遠くてよく見えないが
見たことのある姿だ
「ヤバい・・村長だ」
どうにか、見つからないようにしないと
そう思い、俺はとっさに
崩壊した家・・いや、穴と言った方がいいかな?
とにかく、大量にある毛の中にダイブした
俺の背中には、毛が着いたまんまだし
見つからないだろう、と思っていた
「牛、俺がここにいるだなんて言うなよ」
そう言い残し俺は毛の中に身を潜めた
どうやら、村長がやってきたようだ
牛は、村長の視界に毛が大量に敷かれた
穴が見えないように立った
「ん?牛、こんな所で何をしているんだ」
どうやら牛は、嘘をつくのが下手らしい
明らかに、様子がおかしい
それに気がついた村長は
牛の後ろ側にまわり、穴を発見してしまった
「な、なんだ・・これは」
終わった・・見つかってしまった
「お前の仲間が、穴に落ちてしまったのか?」
はっ?
「大変だ、助けてやらないと」
そう言って、俺の背中についてる毛を
引っ張り始めた
止めてくれ・・意外と力あるんですけど、この人
明らかに50過ぎてるのに
どこにそんな力が・・?
牛も、必死になって村長を止めようとしている
「どうした?牛」
牛は必死に首を横に振る
「とにかく、助け出さないと」
そう言ってより一層
力が強くなってくる
もう無理、限界・・
地べたに這いつくばって頑張ってるんだけど
無理、無理・・
力を抜いた瞬間、俺は穴から引きずり出された
村長は、それを見て固まっている
無理もない、村長から見ると
毛の一部が大量に抜けたのだから
そしてその中から、人間が出てくる
俺は立ち上がり
「どうも、村長」
なるべく、感情を出さないように
棒読みした
それを見て、村長は我に返ったのか
辺りを見渡す。
何かを理解したのか?
突然立ち上がり
「着いて来なさい」
そう言って歩き始めた・・




