ホルモンの由来は捨てるもの(放る物)
ここの世界にきて何日か経った
俺は初めのうち夢の中だと思っていたが
今は、こっちが現実だと思い始めていた
ここの世界にもだいぶ慣れてきた
いつも、やることがなければ
家でゴロゴロしていた俺も
今では、生きるために必死に働いてる
ここの村では自給自足
そして、物と物を交換する
物々交換でここの村の商売は成り立っていた
元の世界での紙幣などはここには存在しない
「巧真君、ちょっと薪拾いに行ってくる
から留守番よろしく」
「いや、ケイトさん
俺も行きますよ手伝わせて下さい」
俺を拾ってくれたおっさんの名前はケイト
ここの村で村長をやっている
とても村長らしく見えないが
そして、俺はケイトさんの家に住ませてもらっている
「いやいや、客人にそんなことさせれないよ」
「もう、俺は客人ではありませんよ」
「そうかい?じゃぁ手伝ってもらうかな」
この世界に来てからは
俺も少しは変わった
あの、夢も見なくなり不眠症もなくなった
死んだ目をしていた俺にも
少しは活力が出てきたような気がする
「今日は、どこの森に行くんですか?」
「北の方に行こうと思ってるんだけど」
「わかりました」
そう言って外に出ると
強い日差しがやってくる
「今日も快晴ですね」
「うん、そうだな」
ここの世界ではほぼ雨が降らない
俺がここに来てからまだ一度も降っていない
「ケイトさん、牛を連れてきますね」
「うん?今日も使うのかい?」
「それ以外にいつ散歩させるんですか?
ちょっと待っててください」
牛と言っても
元の世界の奴とは違って
全身黒い体毛で包まれた奴の事だ
しかも、体がでかい2m以上はある
性格は大人しく、人懐っこい
鳴き声は、やっぱり牛だった
別に牛と言う種類ではない
この世界に牛は存在しない
ただ俺が森で見つけて人懐っこく
なかなか離れてくれなく
ケイトさんに助けを求めると
ケイトさんの家で飼うことになり
俺が牛と言う名前をつけた
牛は俺の姿を見ると俺に近づいてきた
動きは遅く
走ることはめったにない
「牛、散歩だぞ」
そう言って薪拾いに使う道具を
牛に乗せていった
何とか、道具をのせ終わり
ケイトさんのところへ向かった
「ケイトさん、準備できました」
「うん、わかった」
そう言うとケイトさんは
牛に上手に登りまたがった
「うん、じゃぁ行くか」
「はい、わかりました」
「巧真君も乗ればいいのに」
「勘弁して下さい」
牛の乗り心地は悪く
上下運動が激しい
一度乗ってみたが、案の定酔った
それ以降、俺は乗らなくなった
村の広場では
毎日、物々交換で人がたくさんいた
さすがに牛を使って
広場を横切ることはできないので
少し回り道をする
そして、人にすれ違うと
村長に挨拶をする人がほとんどである
「いい村ですね」
「うん、これが普通じゃないのかい?」
「私の世界ではこんなことありませんでしたよ」
「へぇ〜、そうかい」
「はい」
ここの村では
村人全員が一人一人の顔と名前を知っている
それだけではなく互いに助け合って生きている
俺はこの村が好きになっていた
「それにしても今日は広場以外でも
人がたくさんいますね
何かあるんですか?」
「うん、今日は祭りがあるんだよ」
「祭りですか」
「うん、今年の豊作を祈って
夜にお祭りをするんだよ」
「へぇ、そうなんですか
どんなお祭りなんですか」
「それは、夜になってからのお楽しみ」
「楽しみです」
北の森には初めて行く
ちなみに牛は東の森で見つけた
「ケイトさん、ここには
獰猛な動物とかいないんですか?」
「獰猛な動物?
例えばどんな?」
「例えば・・牛を主食とするような奴?」
牛が一瞬ビクついた
「うん、いないと思うよ
この村ではこいつが一番強いのさ
なぁ、牛」
牛が自信ありげに鳴き返した
「そうですか」
そう言って、俺はため息をついた
「なんだ残念そうだな」
「いえ、何となく納得しました
肉食動物がいないから
牛みたいな草食動物が
こんなに大きくなったんだ」
「うん、肉食動物だなんていないよ」
ケイトさんの嘘つき
あの会話が終わった後
森の手前に到着し
牛は歩き疲れその場で倒れこんだ
牛はここに置いておく事にし
二手に分かれて
薪拾いをすることにしたまでは
良かったが
俺は今、俺とほぼ同じ身長の
二足歩行のトカゲ
いや、小さな恐竜と表現した方がいいかな?
とにかくそいつと
にらみ合いをしている
明らかに犬歯が発達している
どう見ても肉食だ
俺は背中の籠に入れてあった
薪の中で太そうなものを選び
構えた
構えたまでは良かったが
一瞬にして俺は仰向けにされ
トカゲが上から襲いかかろうとしていた
何とか逃げようともがいたが
どうにもならない
トカゲが俺の頭に噛みつこうとした時
とっさに薪を使ってガードした
トカゲは薪を噛み砕こうとしていた
ヤバい死ぬ
そう思った時
俺は体の底から何かが
込みあがってくるのを感じた
すると、横から木をなぎ倒しながら
突進してきた牛がトカゲに体当たりした
まともに喰らったトカゲは
飛ばされ木にぶつかり
その場で死んだ
俺にすり寄ってくる牛に対し
「牛、助かったよ」
と頭をなでてやった
しかし、俺は今、妙なものを持っている
それはトカゲが噛み砕こうとした薪である
俺の周りにはトカゲの牙が転がっている
そして、明らかに木材ではなくなっている
薪を俺は今、持っている
牛が突進してくる前
木材を砕こうとした
トカゲの牙が砕けるのを
俺は見た
軽く叩いてみると金属音のような
響きが薪から出てきた
「なんだこれ・・」
「おぃ、何の音だ?
巧真君大丈夫か」
俺は、何故かとっさに薪を隠した
「大丈夫です
牛が助けてくれました」
「うん、そうか」
ケイトさんにこのトカゲの事を聞いても
見たことが無いらしく
とりあえずこのトカゲを
二人係で持ち帰ることにした
「うん、南の村はずれに
物知りの人いるからその人に聞くといい」
そう言ってケイトさんは
祭りの準備があるらしく
どこかへ行ってしまった
俺はその村はずれの人に会いに
行くことにした
一人では持ち運べないので
トカゲを牛に乗せようとすると
牛が嫌がった
そんな死骸なんか乗せないでくれと
なんとなく目で訴えられた
「頼む」と、お願いすると
しぶしぶトカゲを上に乗せてくれた
南側は俺が拾われた場所だ
だが、物知りの人は
それよりもずっと奥の方だった
牛もだいぶ息が上がってきた
「少し、休憩しよう」
そう言うと牛は大きな巨体を
上手に折り曲げその場に座った
その巨体に俺はよしかかる様に座った
牛の体毛は軟らかくとても気持ちがいい
そう思いながら俺は薪を一本取り出した
俺は、トカゲに殺される
そう思った瞬間、薪に変化が起きた
つまり、俺が何かをして薪が変化した
一体何をしたのか
あの時は、恐怖心、
それと何か感情が高ぶったように感じた
あの時の気持ちを再現できれば
また薪が変化するかもしれない
そう思い一生懸命念力を込めるが
薪に何も変化はなかった
やっぱり、俺の力じゃないのか
そう思いきっぱり諦めた
「よし、休憩終わり
牛、行くよ」
牛はゆっくり起き上がった
しばらく進むと、俺は大きな扉を発見する
扉なのに裏側には草原があるだけ
扉だけしかない
草原の中にただ扉が一つあるだけだった
どうやって立ってるんだ?
「なんだこれ?」
「異端の門だよ」
振り向くと牛に乗せていたトカゲを
降ろそうといているおじさんがいた
そのおじさんは、身長は小さいががっしりとした体格で
髪型は坊ちゃんで白髪交じりだ
「あなたは?」
「さっきまでは、物知りのおじさんだ」
「はぁ?」
「だが今は、好奇心旺盛なおじさんだ」
そう言って降ろしたトカゲを隅々まで見ている
牛はトカゲを降ろされて少し喜んでるように見えた
「はじめて見たなこの生物は」
「そうですか」
「この世界には肉食はいないはずなんだよ
あえて言うなら人間だけだ」
「じゃぁ、このトカゲは?」
「わからん」
「あの、異端の門って何ですか?」
「なんだ、そんなことも知らないのか」
「えぇ、まぁ詳しいことは」
「知りたいのか?」
「えぇ是非」
そう言うとおじさんは
俺のほうに手を出した
「何ですか?これ」
「情報料」
「お金取るんですか?」
「お金?何のことだそんな物は
この世界に存在はしない」
「あぁ、そうだった
何が欲しいんですか」
「そうだな・・
その生物を俺にくれ」
「このトカゲですか?」
「おぉ、トカゲというのかこの生物」
「そうじゃなくて、俺が勝手につけただけです」
「別にかまわん
存在するものには名前がなくては
で?くれるのか?」
「ええ、いいですよ」
「そうか、ありがとう」
するとおじさんはその生物を解体しはじめた
腹を開くところまでは見れたが
内臓を取り出すところまではさすがに見ていられなかった
解体も終わりトカゲは
肉と皮と骨になっていた
気分が悪そうな俺と牛を見て
「なんだ、解体するところを見るのは
初めてか?」
「えぇ、マグロの解体ショーなら
見たことありますけど」
「マグロ、あぁまぁいい
で?何を聞きたいんだ」
あぁ・・しばらくは肉料理食べれないかも
「ええっと、異端の門についてです」
「異端の門とはその名の通りだ
この村には存在しないものが住む別の場所だ
扉は別の所につながっている」
「この村に存在しないもの?」
「あぁ、形は人なんだけどな
人じゃありえないことをするんだ」
「人?人間なんですか?」
「人間なんだがここの村では人間扱いはされない
異端者と呼ばれている」
「酷い事をするな・・」
「向こうも酷い事をするんだよ
だから、この扉が存在する
互いに干渉しない為に」
「この扉は閉まってるんですか?」
「いや、押せば簡単に開くぞ」
「そうなんですか?」
「だから、向こうからも開くってわけさ、村の人はここにあまり近づかない」
「おじさんはどうして?ここにいるんですか?」
「そんなことより、ここにいていいのか?」
「え?どうしてですか」
「そろそろ、祭りだろ行かなくていいのか?」
「あぁ、忘れてた
祭りは一体何をするんですか」
「なんだ?そんなことも知らないのか」
「あの、俺この村に始めて来ましたから」
「なるほど、だから何も知らないのか
今回の祭りは村で取れた食材を
広場の巨大な鍋に放り込んでゆでるんだ
そして、ゆであがってら村人みんなでおいしく
いただくってわけよ
それ以外にも鍋を中心に全員で踊ったり色々だ」
「面白そうですね」
「だから、急いでいけ
遅れちまうぞ」
「おじさんは?」
「俺は、後から行くから心配するな
それからこのトカゲの肉少し持っていけ」
せっかくトカゲのことを忘れていたのに
思い出してしまった
俺は断ろうとしたが鍋に入れて欲しいと頼まれ
嫌々受け取ってしまった
牛に持たせようとしたら
今回ばかりは牛も必死に拒否した
結局、俺が持つことになり
手には生暖かい肉の感触が伝わってくるのが
嫌で大きな草に包めて持っていくことにした




