時が経てば社会も変わる
壁の向こうの側の襲撃事件から
かなりの月日が流れた
事件以来、兵士のあり方に
ついて議論が続き
兵士のあり方を変えることになった
代表を何人か決め
その下に部下を置く
今までは部下も上司もいない
横社会だったが
部下と上司が存在する縦社会になることに
抵抗を感じる人もいたが今ではそれもなくなった
そしてその代表者が
神と共に政治を動かす
そのような体制をとるようになった
テニムやリムも
バイロの死から立ち直り始め
城も落ち着きを取り戻していた
そして、巧真は
今、扉の向こう側の世界に
二人の部下を引き連れある所に向かっていた
リムが俺を背負い
壁の向こうから脱出した後
俺が目を覚ました時には
急展開を迎え
問題がほぼ解決していた
壁の向こう側が壊滅したのだ
「壊滅?どうして・・」
「わからない
それから、お前が捕まえた捕虜だが
今朝、自決しているのが見つかった」
「・・・
バイロは?」
「向こうで弔ってくれたらしい」
「でも、壊滅って言うのは?」
「わからない」
「嘘だね」
「どうしてだ?」
「わからない、ただなんとなくだけどわかる」
「なに言ってるんだ?」
「動揺してる、何かを知ってる
知ってるんだろ?テニム」
「・・・」
「教えてくれ
俺だって薄々は気づいてるんだ」
「・・壁の向こうの奴等は
全員、頭を抱えて死んでいた
ひどい有様だったよ」
「・・・」
「ただ一人生存者がいるんだ
そいつがお前を呼んでる」
「あぁ、知ってるよ」
「え?」
「壁の向こうの城で待ってるんだろ?」
「あ、あぁそうだ」
それを聞くと
巧真は布団から起き上がり
壁の向こうに向かった
「俺も着いて行こうか?」
「いや、いいよ
俺一人で大丈夫だ
それに俺一人じゃないと駄目だ」
レンガをすり抜け
向こうの世界に入ると
霧は全くなかった
城の方に向うにつれ
倒れてる人の数が増えていった
まるで時が止まってるかのように
苦痛の表情をそのまま残し
死んでる
俺はただ目を背けることしかできなかった
城の中に入り
生存者に会いに行った
そこには椅子に
貫禄のあるおじさんが座っていた
「待っていたよ」
「どうも、王様」
「その言い方は止してくれ
みんな死んでしまった
私の存在理由はもう無くなったんだ
すでに王様ではない」
「バイロを弔って下さって
ありがとうございます」
「いや、私のせいで
彼は死んでしまった」
「いや、俺の力不足です・・
どうして、こんなことをしたのですか?」
「聞いてないのか?」
「はい
ただ、見えるようにはなりました」
「・・そうか、君も見えるようになったのか」
「えぇだからそれに従わないと」
「じゃぁ、これから私がすることも?」
「はい、わかってます」
「復讐・・とも言えるが
私達は人間になりたかった
いや人間扱いされたかったんだ
過去になにがあったか知っているかね?」
「いえ、まだです」
「そうか・・」
「少し教えてくれませんか?」
「全ては5年前に始まったんだ
5年前にこの世界にこの社会が生まれた」
「5年前・・」
「それ以上は言えん
本当にすまなかった
君には悪い事をしたと思ってる
とても、残酷なことだ」
「でも、その選択のお陰で
あの街は救われた」
「だが、私の国は滅んだ」
「すみません」
「君のせいじゃない
こんなものは存在してはいけない
そう思ったからこれを選択したんだ
・・これから、頑張ってくれ」
そう言って、王様はある物を取り出し
自分の頭に向け引き金を引いた
パンと言う発砲音とともに
王様は椅子から転げ落ちた
巧真は王様の元に歩き
王様が握っている
この世界には存在してはならない物を
王様から外した
この世界には存在してはならない物を拾い
「どうして、こんな物がここに」
巧真は拳銃を握りしめ無表情のまま
まるで決まったセリフを
棒読みするかのようにその言葉を言った
「隊長、危ない」
扉の向こうの村の子供が
俺にめがけて石を投げていた
「うん、ちょうどこのタイミングだ」
そう言いながら頭を下ろし
石をかわし何事もなかったかのように
平然と歩き出そうとしていた
だが、そうはいかなかった
部下の一人が子供にめがけてナイフを投げていた
俺は一瞬で子供の目の前に移動し
飛んできたナイフをはじき返した
「村に帰りな
別に村を襲いに来たわけじゃない」
子供はかなり怯えていた
そろそろ、親がやって来る頃だ
・・来た
子供を抱え父親の所に持って行った
「気を付けて下さい
危なくこの子を殺すところでしたよ」
「くそっ異端者め・・」
「力もない奴が吠えてるんじゃねぇ
惨めに見える」
そう言って俺は部下のいるところに向かった
「おぃ トイ、なんでナイフを投げた」
「農民ごときが
隊長に石を投げて来たんですよ」
「俺達は本当ならここにいてはいけないんだ
それにあのぐらいの攻撃なら力を使わないでも
避けれるだろ」
「でも・・」
「文句があるなら
ついて来るな帰れ」
「・・・」
「わかったなら行くぞ」
そう言って俺は歩きだした
「隊長」
そう言ってもう一人の部下のカイが俺に駆け寄ってきた
「私達の前ならいいですが
他の部下の前であんな態度とらないでくだいよ」
「あんな態度って?」
「農民を助けるような態度です
隊長の威厳が無くなってしまいます」
「お前もそう思うのか?」
「いぇ、私はあくまで一般論を言ったまでです」
「ったく、面倒くさいな
俺はただ
いいと思った事を選択してるんだ
その後でどうこう言われる筋合いはない」
そう言って俺はまた歩き始めた
「どうして、俺達
隊長の部下なのかな?」
「え?別にいいと思うけど」
「まじかよ?
俺はリム隊長の方が良かったな」
「えぇ〜そお?」
「カイ、わかって無いな
あの人の下で働いてみろ
毎日がバラ色だぜ
30を超えているのにあの美しさ・・」
「おぃ、トイ
言いたくはないがあの人は男だぜ」
俺が進みながらそう言うと
部下二人が固まっていた
「えぇっと・・
やっぱり、隊長の元の方がいいかな?」
「でしょ?」
俺達はやけにボロいが
二階建の家の前に到着した
「着いた、ここだ
お前たちはここで待ってろ
絶対に入ってくるな」
そう言って
家の中に入って行った
「やぁ、巧真君」
「お久しぶりです
甘次郎さん」
「今日はどうしてここに来たのかな?」
「わかっているでしょ?」
「え?」
「あんたの終わりをを見に来たんだ」
そう言って
俺はナイフを取り出し
甘次郎さんの心臓めがけて投げた
甘次郎は、何とか避けようとしたが
左わき腹をかすった
そこから血が出てきているのを
右手で抑えた
「な、何をするんだ巧真君」
「もぅわかってるんですから
そんな芝居は止めて下さい」
「何を言ってるんだかわからないよ」
「あなたは異端者だ」
「そんなことはない
現にナイフだって避けれなかった
知っているぞ異端者は
無意識のうちに力を発動し
生存本能で避けるはずだ」
「そうだ、普通の異端者ならね」
「何のことだ?」
「右手を放せ」
「なんだって?」
「右手を放せって言ってんだ」
俺は力を使い
甘次郎の右手をわき腹から離した
すると、さっきナイフで切られたはずの
脇腹は傷もなければ切られたあともなかった
「あなたの場合、自然治癒力が半端じゃない
それがあなたの特殊能力
でもそれしか使えない
力の存在に気づいたのは
トカゲに噛まれてからもしくはもっと前」
「あぁ、そうだトカゲの傷がやけに
早く治ったのに疑問に思ったのがきっかけだ」
「違うね」
「これは本当だ」
「じゃぁ何でこんな村はずれに家を建てている
異端者だとばれたくないからじゃないのか?」
「違う、そんなわけじゃない」
「まぁそんな事はどうでもいいですよ
本題に入りましょう」
「本題?」
「いい加減にしてください
あなたにだって見えてるんでしょ?」
「何がだい?」
「未来が」
「そうか君も見えるように・・」
「えぇ、神が描いた未来が見えます
俺はそれに従う
バイロがそれに従ったように
それが俺にとって正しい選択だから」
「そうか・・かわいそうに」
「なにがです?」
「本当にそれがいいと思ってるのかい?
自分が滅んでもいいと?」
「そうです
だから、ここにきた」
「未来を変えようとは思わないのかい?
君は少なくともこの村の未来を救ったんだ」
「思いません」
「残念だよ
私は君に影響を受けてここまで来たと言うのに
君がいなければ私は昔の事も思い出さなかった」
「昔の俺はもういないんですよ
さぁ、渡して下さい」
「断る」
「あなたのせいで壁の向こうは滅んだんですよ」
「違う、私の言った通りにしなかったから
滅んだんだ」
「王はあなたからあれを
受け取った事を悔やんでました」
「所詮は革命を拒む臆病者だったってことだ」
「あれはこの世界には存在してはいけない
あれは人を殺す道具だ」
「なら聞くが君の刀はどうだ?
あれも人を殺す道具だ」
「刀はもぅ捨てました
この世界に争いの道具はいらない」
「捨てただと?
お前は世界が変わる所を見たくはないのか?」
「さぁ、早く渡すんだ」
「嫌だ、あれは私のこの世界での
存在理由なんだ
渡すことはできない」
「あれのお陰でどれだけの人が苦しんだと思う
渡すんだ」
「・・君は日本には帰りたくないのか?」
「突然何を言い出すんですか」
「君は神の部屋に入ったんだろ?
椅子の背もたれがやけに大きかったはずだ」
「だからなんです?」
「あれは背もたれじゃない
扉だ
神がそこに座っているのは
誰も入れたくないからだ」
「それが元の世界につながってると?」
「そうだ
神は俺達をここに閉じ込めようとしている」
「日本じゃないかもしれない」
「それはそうじゃない
私達で物語を変えればいいんだ
現に私は成功した
壁の向こうの奴等にあれを渡し
私が言った通りにすればあの街は滅んだんだ」
「俺は別に帰りたいだなんて思わない
早く渡せ
それであんたは終わりだ」
「断る !!絶対に嫌だ」
そう言って銃を取り出し俺に銃口を向けた
「わかっているはずだ
それを使っても俺は倒せない
未来が見えてるんだろ?」
「どうかな?
未来は変えれるんだ
これは私の物語だ誰にも邪魔はさせない」
すると、扉が突然開き
カイとトイが侵入してきた
それを見た甘次郎が細くほほ笑んだ
「馬鹿野郎、何で入ってきた!?」
「言い争う声が聞こえたので
すみません命令違反です」
「そんな事はどうでもいい
出て行け」
俺は力を使い
二人を家の外に飛ばした
甘次郎はケタケタと笑っている
「これもあなたが考えた物語ですか?」
「さぁどうだか・・
ただこれで未来がまた変わる」
「そんなことはさせない
俺は神と理想の世界を実現させる」
「私は日本に帰るんだ」
甘次郎は俺に引き金を引いた
俺はそれをかわし
力を使い銃の温度を上昇させた
甘次郎はたまらず
銃を落とした
皮膚がただれていたがそれも一瞬にして治った
落ちた銃はそのまま温度を上昇させ
溶かした
銃のなれの果てをみて
甘次郎は大声で泣き始めた
俺はそれを横目で
家から立ち去ろうとした
「おぃ、待ってくれ」
「何ですか」
「私にとって
これが特別なものだと知っているんだろ」
「えぇ申し訳ないと思いますが
これもこの世界のためです」
「世界のためか・・」
「あなたが俺とは
違う時代の日本から来たのも知ってます」
「そうだ、だから私は日本に帰らなくてはならない
そのために私はあの扉が必要なんだ」
「帰っても無駄です
日本は負けたんです」
「そんな事はどうでもいい
帰ることに意味があるんだ」
「くだらない」
「なんだと」
「くだらないと言ったんです
日本に帰って死ぬんですか?
そんなことして何の意味があるんですか
戦争なんかで国を守って何の意味がある」
「未来から来た
奴なんかにわかる訳がない」
「わからないですよ
でも、戦争は憎しみ以外に何も生まない」
「その通りだ
戦争にヒーローだなんていない
いたとしても殺人鬼と狂人だけだ」
「なのになんで帰りたがるんですか?」
「家族のためだ
私が日本に帰りあの場で死ぬ事に
意味があるんだ
私がそこで戦うことで家族が守られてる
私がそこで死ぬことで家族が守られる
そう信じて戦ってきた
いつでも帰れるようにあれが必要だった
それなのにお前が奪った !!」
「申し訳なかったと思ってます」
「感情のこもって無い
そんな決められた
セリフを言われたってなんとも思わん」
そう言うと甘次郎は俺に日記を放り投げてきた
「持っていけ
私にはもぅ必要ない」
「何ですかこれは?」
「未来がある様に過去もある
未来はいくつもあるが過去は一つだ
私の最後の悪あがきだ」
「予定にない事を俺がすると思いますか?」
「これは私の賭けだ
読むか読まないかは自分で決めろ」
「とりあえず、預かっておきますよ」
そう言って俺は家を出た
外にはカイとトイが待っていた
「なんで、入ってきた」
「い、いえあの・・その」
「俺達も正しいと思った事を選択したまでです
隊長にどうこう言われる
筋合いはありません」
「どうこう言えるのが隊長なんだよ トイ」
「・・すみません隊長」
「俺の影響か・・
今日の事は忘れろ
お前たちは何も見ていない
いいな?」
俺達は扉へ向かった
扉の前に着くと
そこには村長が立っていた
「先に行ってろ」
「でも隊長・・」
「大丈夫だから行け」
「わかりました」
そう言って二人は扉の中に入って行った
「久しぶりだね、巧真君」
「そうですね
牛は元気ですか?」
「君がいないことがわかると
森に帰って行ったよ
しばらくは君を探して
家の周りをぐるぐるしていたけどね
探し回る牛は見ていられなかったよ」
「そうですか・・」
「変わったね巧真君」
「そうだと思いますよ」
「あぁ、初めて会った時の目にそっくりだ」
「えぇ、自覚してます
でも今はそれが正しいと思ってますから」
「いつでも、帰ってきていいんだよ
私は歓迎するよ」
「無理はしないでください
何とかそう思おうしてるんでしょう?
俺を見て怯えてますよ」
「いや・・それは」
「大丈夫です
村の方にはなるべく近づきません」
「そんな事言わないでくれ」
「それじゃぁ、失礼します」
そう言って俺は扉をくぐった




