1.目指せ甲子園
「監督、本当に辞めるんですか?」
「監督にもっと色々教えて欲しいです!」
「辞めないで!監督!」
可愛い教え子たちが俺を囲んで訴えてくる。中には涙を流す者もいる。こんな時にアレだが、こんなにも慕われてるとは監督冥利につきるな。
「…ああ!」
そう言って、泣いている子たちの頭を撫でてやる。彼らには悪いが、俺にもやりたいこと、「夢」がある。そう俺はーー
「ーー俺は甲子園へ行くよ!指導者としてな!それが俺の夢だ!」
「でも監督、ピッチャーはどうするの?」
「……選手はもう良いんだ。未練もないしな…。」
「おい、監督!甲子園はそんなに甘くねーぜ!泣いて戻って来ても、入れてやんねーかんな!」
このちょっと口が悪いのは快斗。この春からうちのチームのエースになる男だ。身長は人並みだが、誰にも物怖じしないこのハートは、投手に向いている。きっと良い投手になるな。まぁ、俺ほどじゃないだろうがな。
「悪いがその予定はないな。お前こそ俺がいなくなったからって、簡単に負けるんじゃねーぞ。まぁそうだな、もしお前が今よりもずっと良い投手になったら、俺のチームにスカウトしてやるかもな。」
「本当か!?」
「ああ。でもそのためには軽く全国制覇してくれないとだけどな。なんたって俺のチームは甲子園に行くチームだからな!……っと、もうこんな時間か。俺はそろそろ帰るわ。じゃあみんな、元気でやれよ!たまには顔出してやるからよ!」
そう言って俺は慣れ親しんだグラウンドを去る。たった一年ちょっとだけど、妙に名残惜しい。最後にもう一度グラウンドを振り向くと、教え子たちが横一列に整列していた。
「気をつけーっ!礼っ!ありがとうございましたっ!!」
「「「ありがとうございましたっ!!」」」
俺は再び歩き出した。彼らに背中を押されるように。なんでも出来る気がした。
「行くぜ、甲子園!!」
汐見伶、高校入学前の春のことだった。




