異世界に転生したらゴリラになってたからバナナ食って生きてく
「んほおおおおおおおお!」
「おほおおおおおおおお!」
んほ。んほほほ。んほおお。
「んほ! んほお! んほほほ!」
おほほお。ほふっふおほほほほ。
「おほ! おほおおおおおおおおお!」
「ンほおおお! ンほ。ンほッほ。」
……
…………
「「んッほおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」」
「……で、これはなんだ」
高校の食堂内。生徒達が栄養バランスを考えられてつくられたご飯を我先にと取り合う中、一と裕也は食堂の隅の席で昼食をとっていた。
いつもなら勉強やアニメの話をし盛り上がる二人だったが、今日は違った。一が自作のラノベを持ってきたからだ。
普通のストーリーだったら盛り上がっていたかもしれないが、一度読んだ裕也は頭をおさえるしかなかった。そんな裕也の仕草に気がつくこともなく一は胸を張って言う。
「『異世界に転生したらゴリラになってたからバナナ食って生きてく』ってタイトルだ!」
「なるほど……。まぁ、それはどうでもいいんだ。この言語はなんだ? ナバホ語か? それとも官能小説かなにかか?」
「惜しい! ゴリラ語だ! あと官能小説じゃねぇ!」
頭の可笑しい発言を聞き流しながら裕也はラノベの原稿をもう一度見、一の考えていそうなことを聞いてみる。
「で、これを書籍化したいんだな?」
「そうだ! よくわかったな!」
漫画を描いたときも『雑誌で連載したい!』と言いながらみせてきた記憶がまだ裕也にはあったため一の魂胆はすぐにわかった。
この物語は誰がどう見てもおかしい……。裕也は一の夢を砕くための決意を胸にいくつかの質問を投げかけてみることにした。
「いくつか聞きたいことがある。二次元にヒロインは付き物だ。そのヒロインはどんなやつだ?」
「ツンデレと幼馴染みたいな尽くすタイプの娘達だ! ゴリラの女騎士とゴリラの姫をイメージしてくれ」
「凄いな。どちらも戦闘タイプじゃないか。……主人公をゴリラ語から日本語に直すことは出来ないのか? 意味が全然わからないんだが」
「それは無理だな。転生するとき女神様に体をゴリラにされてしまったんだ。だから心の声もゴリラ語なんだ!」
「そ、そうか。そこはなんとなく無理やりだな。では、物語はどうなってる? どんなストーリーなんだ?」
「主ゴリラ公とゴリラ女騎士とゴリ姫が奪われた黄金のバナナを取り戻すために旅に出る物語だ。あ、姫と女騎士のサービスシーンとかラブコメとかもあるぞ」
「物凄くいらないサービスだな」
質問を終えて裕也は息を吐いた。思って以上に手強い……が、俺には必勝の考えがある。
メガネを上げ、一の目を見据えて裕也は問い掛けた。
「じゃあ一。もしこれが書籍化し、お前が立ち読みしたとしよう。買うか?」
「買うよ。だって面白いんだもん」
「よく考えるんだ一。『んほおお!』『おほおお!』……この文字で三百ページ埋ってたらどうする? もしかするとあとがきも『んほおお!』かもしれないぞ?」
一は唸りながらその情景を思い浮かべ……
「ヤバイな」
「だろ?」
青ざめた顔で裕也が望んだ答えをだした。
「全部『んほおお!』とかだったら、狂気を感じるわ。ホラー小説なのかなとも思う」
「そしてお前はゴリラの姫とゴリラの女騎士がゴリラのオスとイチャイチャする物語を書こうとしてたんだぞ?」
「キモイな」
「だろ?」
「マジかー。何でこんな事考えれなかったんだよ俺ー」
椅子に背を預けながら悔いる一。ため息を吐いたり髪を掻き毟ったりなど結構ダメージを受けていた。それもそのはず、おかしな物語でも一は案を出しキャラや世界観などかなり作りこんでいたからだ。
きつく言ってしまったかもしれない……と裕也は反省し慰めの言葉をかけた。
「今の人類にはおかしなラノベかもしれないが、六百万年前の猿人になら売れてたと思うぞ?」
「お前馬鹿にしてんだろ」