しゃぼん玉の色
手続きを済ませ、少年が指定した庭に来た。
辺りを見回し、少年を見つける。
少年はベンチに座り、何かを紙に書いていた。
少年が少女の病室に迷い込む原因にもなった、あの紙と同じ物だと少女は考えた。
「…………。」
無言で少年の隣に座り、少し考えてから紙を覗き込んでみた。
「……。」
音符。少年の傍らに置いてあるのはスケッチブックと色鉛筆。そして本は数学。なんとも統一感の無い物たちだ。
「……。」
少女は暫く少年が書く音符を眺めていた。
その音符は綺麗な音を作ることも理解していた。
でも、それが何を意味するかは分からなかった。
ふわりと風が吹いて少女の長い髪をさらった。
すると、少年は少女に気付いた。
「…教えてくれれば良かったのに。」
「こういうものは邪魔するわけにはいかないと考えた。」
「…ごめん。」
「大丈夫だ。」
少女はずっと引っかかっていた事を聞こうと決めた。
「…聞きたいことがある。」
「なんだ?」
「…………逆、とはどういう事だ?」
「そのままの意味だ。」
「私が、今まで聞いた中では私以外の人達は感情を持っている。君が感情を持っていることは…」
「そうじゃない。」
「どういう事だ。」
「俺は、音に、色や形が見える。他にも、人の色とか…。」
「…共感覚か。なるほど。」
「知ってるのか?」
「ああ、知っている。」
「そうか。」
「そうだ。」
「…逆だと言った意味は分かったか?」
「ああ、分かった。」
少しの沈黙の後、少年は少女を見て言った。
「君は、白かった。」
「白?」
「そう、白。
流れてきた。
俺のところに。
儚げなようで、絶対に掻き消えたりしない。
そんな白。」
「そうか。」
「それで、君の白で曲を作った。そしたら、風で楽譜が飛ばされて…君に会った。」
「そうか。」
「でも、初めに会った君は…透明になって消えるかと思った。綺麗だったけど、怖かった。」
「そうか。」
「そうだ。」
また、沈黙が続いた。
先に口を開いたのは少女だった。
「……それなら、今はどうだ?どんな色に見える?」
少年は少し息を吐いて、
「────────。」
少女は目を閉じて口角を上げた。
「そうか。」
___そうか、これが。
パキンッ───
少年は目を見開いて、少女を見つめた。
少女はそんな少年を見つめ返して───微笑んだ。
その日を境に、世界から感情が無い少女は消えた。
ようやくお話が終わりました。
その後を出来れば投稿していきたいと思います。




