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三匹の子豚

作者: 螺旋

昔々ある国の自然豊かな森で、三匹の子豚と父親豚が暮らしておりました。母親こそいなかったものの、家族四匹力を合わせて幸せに、不自由なく人生……いえ、豚生を謳歌していた家族でしたが、ついに父親豚は寿命に倒れてしまいました。父親豚は「来世はイベリコ豚になりたい」と強く願いながら死んでいきましたが、残念ながら来世はサンダルに決まっていました。

この物語はそんな父親を亡くした三匹の子豚たちの会話から始まります。


雲一つない青空の元、3匹は長年暮らした、崩壊寸前のくたびれた木の家で円卓を囲んでいました。会話の内容はこれからのそれぞれの身の振り方。ついに独立の日が来たのです。

長年親しんだ室内にはしんみりとした空気が充満しており、やがて古びた柱時計を背に座り込む長男豚が先に口を開きました。

「俺はぁ、女いっぱいいっから転々と住み込むつもりだっけぇ、拠点は適当に藁でつくりゃぁいいかって感じなんけどぉ。しばらくはブー子の家に泊まっかなー。でもあいつ最近めんどいっけなー」

長男はチャラ男でバカでした。言いたいことを一人で話すだけ話すと「ほいじゃー」と軽い口調で一言。短い手を振りながら去っていきました。


それを見た二男豚が、円卓の上に両肘をつき、組んだ手の上に顎を乗せ、口元をニヤリと歪めながらつぶやきます。

「クク……藁など言語道断……我、森の生命の源、母なる樹を元に牙城を創生することを誓う……。クク……樹を切り倒す我を待つのは栄光か天誅か……」

二男は中二病でした。

彼もまた一人で呟くと、ふらふらと家を去っていきました。


残るは三男ですが、彼もまた「……行くか」と一言つぶやくと、長年お世話になった住処に一礼して森の中に消えていきました。新しい生活。三匹の胸にはそれぞれの思惑が募ります。……彼らを狙う、お腹を空かせたオオカミがいるともしらずに。


森に住む獰猛な狼は、

数日後、自分の貯蔵していた食べ物が底を尽きたオオカミは臭いを頼りに、まずは長男の家の元に向かいました。鋭くとがったキバに黒い毛皮。筋肉のついた手足。彼に襲われればひとたまりもないですが、そんなことも知らずに長男豚は適当に作り上げた藁の家の中でのんびりとしていました。

「あー、マジだりい。五股ぐれぇでガタガタ言うなよな。雌豚ども」

屑っぷり溢れるセリフを吐く長男。どうやら浮気がばれてしまったようです。ゴロゴロと床に横たわりながらブツブツ恨み言を吐いたりと煮え切らない様子ですが、彼の思考はドアを外側から叩く音で途切れました。

「あん?客か?」

長男の訝しげな問いかけに、外にいるオオカミは声色を変えて、「旅の物ですが、女一人旅で心元ありません。どうか一晩泊めてくださいな」と呼びかけます。

獰猛な狼の声帯が奏でる声は瑞々しい女の声ではなく、ずいぶんとしわがれた不快な声。残念ながら女性を演じることは難しいようです。

「え?女?」

内側からドアが開き、長男が飛び出しました。やはり長男はチャラ男でバカでした。

数秒後、彼は父親の元へ旅立ちました。



それからまた数日後、長男を食べ終えたオオカミはまたしても臭いをたよりに二男の家にたどり着きました。小枝や丸太を不恰好に組み合わせたログハウス。色々と豪語していた中二病二男豚でしたが、彼の技術ではこれが精いっぱいだったようです。

彼の元にも先日と同じようにオオカミの演技による呼びかけが始まりましたが、二男は長男よりも賢いようでした。

「クク……、我を欺くなど千年早い。貴様は黒き漆黒の闇からの使者、オオカミ。貴様程度の知能では億の知識を持つ賢豚である我を欺くことなどできん……」


演技がばれたことよりも、二男の口調にいらだったオオカミは思い切り息を吸い込むと、木の家にびゅうと吹きかけました。嵐のような豪風がちぐはぐなログハウスに襲い掛かります。そしてその風はログハウスを吹き飛ばすのに十分すぎる威力で、たちまち二男を守るべき木々は風に乗って森に還っていきました。

「自分調子のってましたああああああ!すんませんっしたぁああああ!」

普段意識していた、彼なりの格好よさを象徴する痛々しい口調は消え失せ、本性むき出しで命乞いをする二男でしたが、かれもまた数秒後に父親の元へと旅立ちました。



それからまた数日後、二男を食べ終えたオオカミは三男豚の元へ向かいました。

三男豚の家は立派なレンガ造り。これまでの豚とは違うようだと感じつつも、おきまりの演技で三男豚に呼びかけます。しかし長男のように嘘に騙されるわけでもなく、二男のように籠城するわけでもなく、三男は屋根の上からオオカミ目がけて飛び掛かりました。

想定外の事態に対処の遅れたオオカミの頭に三男のヒップドロップがさく裂します。

ふらつくオオカミに缶発いれずストレート、フック、アッパー。三男の拳の応酬。三男の体は筋骨隆々の鋼の肉体。……三男は最強でした。

「生まれ変わったら貝になって穏やかに暮らしたい」

朦朧とする意識の中、オオカミは悟りを開きました。これも三男の強さのなせる業です。

葬ってきた長男と次男の元へ向かうオオカミに静かに一礼すると、三男は日課である筋トレに今日も励むのでした。



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