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ハコニワRPG  作者: 式神
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第5話 Battle-1《月下の侍狼》

やっとバトルシーンだ

「フム、逃げずに来た事は褒めてやろう人間。だがそれは同時に無謀で愚かとも言える」


 裏庭の中央に座し、静かな佇まいでじっと待っていた霞…。その月明かりに映えるシルエットは凜としていて恐ろしくもあった。

 常に携えている刀ではなく、木刀を身前に据え、こちらの動きを伺っている。


「で…何故、魔妃と沙美まで同行している?」

「ワタクシ達は立会人、満月下の霞ではやり過ぎちゃうでしょ?」

「私は花ちゃんがコテンパンにやられる姿を見に来たんです、ベェーだ」


 魔妃はともかく、霞と沙美とは仲があまり良く無いらしい。まぁ、犬族と猫族とでは仕方が無いか…。

 日も落ち、木々の影も長くなっている。短期戦で決めないと…。


「これより、旦那様とお庭番 霞の試合を執り行います。両者前へ…」


 互いに礼をし、構えをとる。霞は手にした木刀は腰に据えたままだ。抜くまでも無いという事か、もしくは抜刀術?


「始めっ!!」


 魔妃の号令と共に僕は霞目掛けて飛び出した。


(ククク…始まった、始まったぁ〜)


 木陰に隠れている人影はジッと様子を伺っている。


「何か策を労してくるのかと思えば全くの無策とはな…」


 

 僕が振り回す木刀を意図も容易く躱していく。流石に無謀だったか…。もっとも策を労してもさした違いは無いだろうけど。


「どうした人間、これではまだ兎の方が手応えがあるぞ。それっ!」

「……っうわ!?」


 襟首を掴まれ、敷地内の一番大きな樹に向けてブン投げられた。

「何のっ!」


ダンッ!


 太い幹にぶつかる寸前、体制を変え三角跳びの要領で天高く跳ぶ。この屋敷に来てからというもの、魔妃達の強烈なアプローチから逃れる為に必死に走り回った甲斐があった様だ。自分でも驚く程基礎身体能力が上がっている。


「でりゃあーっ!!」


 この高さからの落下速に加えて、僕の体重を乗せればそれなりのダメージを与えられるかもしれない。


「成程…よく考えたものだが、鈍い、鈍過ぎる」

「クスクスクス…」


キーン…


 打ち振るう寸前突然襲った軽い耳鳴り、原因は判らないが人間の僕には大して問題は無かったが、聴覚の鋭い霞にはかなりキツイらしい。その敏捷な動きが止まった一瞬に賭け、渾身の力を込め木刀を振り下ろした。


「…クッ」


バキッ!!


 打ち合った木刀は互いに砕け、破片が宙に舞った。


パシッ!


 誰かが破片を掴んだ音がする。

 一方、霞の身体からは凄まじいオーラが出ている。様子が変だ…。

 

 見上げれば満天の星々に煌々と月が照っている。


「……月光を浴び過ぎたか?」


 暴走寸前、爛々と眼を輝かせた霞は今にも飛び掛かって来そうだった。


「コレを向こうに投げつけるですよ、お兄ちゃん!」


 振り返るとスカートの裾を押さえ、枝に逆さでぶら下がった少女がさっきの木刀の破片を投げて寄越した。


「解ったっ!」


ブンッ!


「ガウッ!?」


 てっきり僕の喉元を狙って噛み付いてくると思われた霞は全く逆の方向、つまり破片を追って飛び出していた。


「グルルル…」


 これでもかと立てた尻尾を振っているのでスカートの裾が捲れ縞々パンツが丸見えだった。


ジィー…

ニヤニヤ…


 そんな霞のあられも無い姿に一同は見入っていた。特にいやらしい笑みを浮かべた沙美はとても嬉しそうに呟く。


「プフッ……ワン子ちゃん」

「…ハッ!?」


 正気に戻った霞の顔がみるみる真っ赤になっていく。

 月光の魔力に圧され、動物としての本能が少〜し勝っていたとはいえ、何たる醜態、一生の不覚…。この誇り高き狼の我ともあろう者がよりにもよって猫や人間ごときの前で…。怒りと羞恥の紅色に染まった頬はそう語っている様に見えた。


「お〜の〜れ〜ぇ…」


 人間のたかが80年程度でも立ち直れない時が有るというのに、この妖魔はあと何百年引きずらなきゃいけないんだろう…そんな事をボーっと考えている僕の眼前がスゥ〜っと暗くなった。見上げた視線に映ったのは輝く眼と白い牙、僕は自分の[死]を予感した。


「何、呆けてるんですかお兄ちゃん、迎撃するですよ!」


 誰かが僕の背中をドンッと突き飛ばした。そこから僅かな間、記憶が無い。


「おおっ!?」

「あらまぁ…」

「お兄ちゃん、GJッ!」


 気付いた時には押し倒した霞の遠慮気味な膨らみに添えられた右手と重なった柔らかな唇。やっぱり死亡フラグ立ってたか…。

 僕を突き飛ばし、ズサザ…と後ずさる霞の瞳は怒り一色に燃えていた。


「き…貴様ァ赦さんッ!!」

「それまでッ!!」


 飛び掛かって来た霞を魔妃が征する。


「魔妃、何故邪魔をするッ?」


 吊り上がった目と口元、鋭く尖った牙と爪。満月の光を受け、全開の霞が空中でもがいていた。流石は魔物でも桁違いのランクに属する妖狐…九本の尻尾は伊達じゃなかった。


「勝負はついたわ、貴女の負けよ、花澄…」

「まだだ、まだ我は…」

迫力の無いバトルだなぁ…

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