第2話 Field-1《リビング》
遅ればせながら続きです
「ハァ…、美味しい…」
リビングに案内され、持て成しのハーブティーを喫する。生葉を煎じたのだろう、爽やかな緑と花の微かに甘い香りが鼻腔を擽る液体を何の躊躇いも無く…。
一息ついてたら改めて館内を見渡すと、外観とは異なり隅々まで手入れがされているのできっと彼女が頑張っているのだろう。
「しかし、このハーブティーは凄く爽やかで新鮮な香りがするね。本当に美味しいよ」
「でしょ、でしょ、何せ腐る程自生してるんですよぉ、裏庭にぃ」
つまり雑草って事?まぁ美味しいからどうでも良いや。そもそも蓬だってトリカブトだって人間が効能を見つけ出さなきゃ野草な訳だし。
「どうしたんです?騒がし……って、あ…貴方が新しい旦那様ですね、不動産屋さんから伺っております」
奥の扉から現れた一見清楚な巫女風で和装のメイド服を肩の辺りで僅かに着崩す艶っぽい女性、耳や尻尾から察するに狐かな?
「…!流石は旦那様、素晴らしい洞察力ですわ。ワタクシは妖狐の魔妃と申します。こちらは猫又の…」
心が読めるのか?いや、このクラスなら当然か…。ご明答と言いたげに微笑んでいるのがその証拠。
「沙美さんだよね。いやぁ、驚いたよ、空き家だと聞いてたから」
確かに不動産屋は嘘はついてない、[人]は住んで無いのだから。
「あまり過大評価しないでね、照れるから」
「いえ、度胸も大した物ですわ。ワタクシ達を人外のモノと知りながら出された飲食物を召し上がるのですから」
彼女達がその気なら僕はとっくに狩られている。そうなって無いのはその気が無いか、すぐに行動に移る必要の無い余裕か…。
「どちらかと言えば前者ですわね。旦那様はこの屋敷を正当にご購入され、堂々と鍵を開けて入って来られたのですから。ただ適度に緊張感はお持ちになられた方が良いかと…」
「ふ〜ん、じゃあそうじゃ無かった場合はどうなってたのかな?」
答える代わりに軽く口の周りを舐めた。成程、美味しく戴かれた訳ですね。
後で知った事だが、愚かな若者達が興味本位な肝試し気分で入り込む事があったらしい。最初は黙って見逃していたが、内部の調度品を盗み出したり、ガラスを割るなどと荒らしだしたので怒りを買ったようだ。
「で、僕はどうしたら良い?確かに建物は購入したけど、君達が居るとは聞いてないし、あくまで人間同士の契約だから」
今まで人間は自分達の都合で山を拓き、海を埋めたてて他の生命の住み処を略奪していった。先住者の意見を汲むのは当然だと思う。
「ワタクシ達メイドはこの屋敷の家具と同じ。先程からお呼びしています通り、旦那様の御意思に従いますわ」
つまりセット価格という事らしい。彼女達と共に暮らす条件での値段か…。敵意が無い以上、別に断る理由も無いし。あ…、因みにあの不動産屋も人外な方らしいので契約も正当な物だそうだ。ひょっとしたら総大将的な方かもしれない。後頭部大きかったし………。
「一人で暮らすには広すぎるし、世話をしてくれるなら僕も助かるよ」
妖狐の魔妃は黙って頷き微笑んだ。
理知的で妖しい艶っぽさの魔妃、甘え上手だけど自由奔放な沙美との暮らしはこうして始まった。
……まだ他にも気配がするんだけどな…。