第一話
ここから本編です。
みなみside
「おはよう、みなみ」
早朝、人っ子一人みかけないような通学路で声をかけてきたのは、小学生からの親友である、小山かぐら。彼女は陸上部で、毎朝律儀に朝練習に参加している。
「おはよう、かぐら。かぐらは今日も朝練?」
「そうだよー。もうすぐ大会だからってこまっちゃんはりきっちゃちゃっててさー……メニューがしんどいんだよね」
こまっちゃんというのは、陸上部の顧問である小松先生のことだ。体育会系というわけではないのだが、勝負事には熱い先生である。
かぐらが大会の前に小松先生の愚痴をこぼすのは、いつもの事だ。
「小松先生また張り切っちゃったの?陸上部も大変だね」
「そういうみなみは運動部でもないのに、こんな朝早くに学校になんのようなのかなー?」
そう。私は運動部ではない。もっと言うと部活動に所属していない。というのも、美術部に入るつもりだったのに、私が入学した年になぜかその部が廃部になってしまったからだ。部員が全員卒業してしまったというのがその主な理由らしい。
「絵を描きたくなっちゃってさ」
私は美術部に入ることはできなかったけれど、絵が描きたかった。だから、個人的に美術の先生に交渉をして、美術室の使用許可を勝ち取ったのだ。
先生が学校にいる時間帯だけという制約つきだが、私にとってはこれ以上ないぐらい喜ばしいことだった。
その日から週に3回は早朝の美術室で絵を描いている。コンクールに応募するでもなく、ただただ自己満足のためだけに。
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