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story 4 変わり始めた学園生活

 DNCSをダウンロードしてから、一カ月がたとうとしていた。


 ゴールデンウィークが終わり、約一週間ぶりの登校。この高揚感、胸の高鳴り、まるで初めてあの学校に登校するみたいだ。いつも通りの通学路を渡り、いつも通りの校門をくぐり、いつも通りの生徒玄関で靴を履き替える。この学校の空気もまた懐かしい。

 何というか、格好つけて言うならば感慨無量だ。


 「おーい、相宮君!」

 「ん?」

 その声を聞き俺は振り返る。セミロングの黒い髪がなびき、風を身に纏うその姿を当然俺は知っている。


 星降ほしふり有沙ゆさ。俺と同じ2年1組の女子生徒。あのDNCSを使って以降、よく会話をする俺の……友達だ。


 「ああ、星降。今日も早いな。」

 「相宮君こそ、いつもこんなに早いじゃん。朝に強いってうらやましいな。」

 「そうか?単にいつも眠れないだけだよ。授業中にがっつり睡眠時間を確保してるから、こうやって一応健康を保っていられるだけで……。」

 「授業中は寝ちゃダメだよ?もう2年生の5月だし、結構授業も難しくなってきてるよ。」

 「そうだな。気をつけるよ。」

 俺たちは階段を上り2年1組の扉を開く。ゴールデンウィーク明けということもあり、なんだか学校が懐かしく感じる。もう、あの時の暗い相宮はいないんだ。そう思うと元気が出た。


 「おおっす、功。お?星降と二人で登校とか、お前も隅に置けないな。」

 「からかうな、前嶋。」

 

 前嶋道悟。こいつも変わった。1年生のころは俺みたいな暗い奴らの中心、みたいな感じで俺たちと一緒に寂しい高校生活を送っていたはずなのだが、今となっては女子にも積極的に話しかけるし、最近では彼女ができたという噂も聞いた。本人に聞いてみたのだが、「ギャルゲーの話だよ、できるわけないだろ?」と言われ、結局謎のままだ。こいつに彼女ができたとなれば、すぐにでも爆発してもらう。

 しかし、こいつの一番の変化点は……。


 「おっはよ、星降さん。」

 「あ、おはよう。前嶋さん。」 

 「ゴホン」

 咳ばらいをし、真顔になり深刻そうな声の調子で言う。

 「今日の下着は何色なのかぜひ――」

 その瞬間、前嶋の顔に星降の強烈なパンチがヒットする。早すぎて見えねぇ。

 「んがっ」

 前嶋はそのまま椅子ごとひっくり返った。顔から鼻血が出ている。

 

 彼はこの春休み何があったのかは知らないが、変態キャラとしてこのクラスに君臨していた。しかしどういうわけか、その爽やかな変態スタイルがこのクラスにはハマったようで、クラスから孤立している――なんてことはなく、むしろそのキャラのおかげでクラスの人気者となっている。まったく、こいつも変わったな。


 「やっほーーー!」


 でかい女の声。あいつしかいない。俺は扉のほうを向く。

 その生徒は鞄を振り回しながら俺たちに近付く。


 「やあ、みなさん!こんにちワーキングホリデー!」

 俺たちに向かい、それはネタなのかどうか分からないくらい面白くないネタを、何のはばかりもなく大声で叫ぶこいつは佐井垣さいがき草苗さなえ。長い茶髪、まくりあげた袖、そしてでかい声。クラスのムードメーカーで、女の子とは思えない身体能力を持ち、勉強も学年で1,2を争う天才、書道でも全国大会に出たとかなんとか。しかしながら、書道部はもちろん、運動部にも文化部にも入っていないから謎である。

 いや、一番謎なのは、こいつの放つダジャレ。ちがうな。あれはダジャレとは言わない。


 「よお、佐井垣。今日も元気で何よりだ。」

 「おーっす、功ちゃん。今日も相変わらず星降さんとイチャイチャしてるの?うらやましぃねえ。」

 「お前は親父か。それと、功ちゃん言うな。ちゃん付けとか恥ずかしいだろ。」

 「そう?呼びやすいし、別に普通だと思うけど?」

 「……そうかよ。」

 1年生までは下の名前で呼んでくる奴なんて、せいぜい前嶋くらいだったからな。違和感があっても仕方ないとは思うが、やはり慣れないものだ。

 

 「おっす、佐井垣。」

 「あら、道ちゃん……あけおめー。」

 「なんで新年のご挨拶が5月に行われるんだ!?」

 「おお、功ちゃんナイス突っ込みー。将来は売れないお笑い芸人かな?」

 「突っ込みを褒めたんじゃねえのかよ!?」

 「あはは。いやあ、やっぱり功ちゃんをいじるのは楽しいねえ。最高だよ。」

 「そうだな。あはは。」

 前嶋が同調する。星降もなんかくすくす笑ってるし。

 俺はため息をつく。佐井垣のボケに突っ込みを入れるのはかなりの体力を使うのだ。


 チャイムが鳴り、先生が入ってくる。


 「お前ら、早く席に着け。今日は大事なお知らせがある。ほら、そこ、早く席に着け。」


 みんなが席に座る。隣は悲しいことに佐井垣だ。おかげで授業中も疲れるはめになっている。最近は授業中寝ることもできない。マジで寝不足だ。

 俺は窓の外を見る。この一カ月、知らないことを俺はたくさん経験した。これからもずっと続いていくのだろう。この学園生活が。


 「あれ?功ちゃんなにニヤけてるの?さては、窓の外にハトの死骸でもあった?」

 「何でハトの死骸があると俺はニヤけるんだ?そんな滑稽な性癖は無い。」

 「ああそうか、パンツが落ちてたんだね。納得。」

 「納得するな!というかパンツ見てニヤけるとか、男子としてしょうがないだろ?」

 「あったんだね、パンツ。」

 「あるわけねぇだろ!」

 「そうだ、今日から功ちゃんの名前はパンツちゃんね。パンツだけに。」

 「意味わかんねえよ!」

 「こら、そこ!」


 先生に注意されてしまった。周りを見ると前嶋は爆笑しているようだが、ほかの人は完全に引いていた。ちょっとでかすぎたかな、声。


 「ゴホン、今日はお前たちに転校生を紹介する。」


 教室がざわめく。来たか。


 ラブコメにおいて必須といっても過言ではない転校生イベント。


 「入ってきなさい。」


 がらりと扉が開き、きれいな金髪の美少女が入ってくる。

 あいつだ。そう、あいつ。


 一斉に教室の中から、うおおおおおというものすごい声が沸く。


 「はじめまして、私はパレットと言います。これからよろしくお願いします。」


読んでいただきありがとうございました。

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