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story 2 取扱説明書

 気がついたときには、俺はベッドで横になっていた。知らない天じょ……


 ぽっかりと空いた穴。ああ、そうか。そうだったな。たしか、ここに何か落ちてきて――


 「うわ!」


 ようやく事の重大さに気付く。俺はどうなったんだ?死んだのか?いや、どうやら生きてはいるようだ。問題は何が落ちたのか。隕石か?人工衛星か?それとも――


 真っ暗な空が見える。もうこんな時間。どのくらい寝ていたのだろうか。そういえば警察とか来ていないのか?あれほどの衝撃音と地響き。まさか近所に伝わっていないわけがない。

 布団から出ると、何かを踏んだ感触がある。柔らかい何かを。するとすぐに、「うげっ」という声が聞こえ、すぐに踏んだのは人だと判断する。

 「あっ、すみません!」

 俺は暗闇の中照明のスイッチを探す。

 「ああ、うん。だいじょうぶだよ。そっちこそ、大丈夫ですか?」

 聞いたことのない声だ。新しいクラスメイトがお見舞いにでもやってきたのだろうか。スイッチを見つける。

 「あっ、すみません。今電気つけますから。」

 ぱっ、と暗い室内が明るくなり、俺は会話の相手の姿を知った。そして、驚いた。

 金髪の女の子……まるで俺が創作話を書いているときにイメージしていたような、女の子。まさか。


 「こんにちは、新しい所有者さん、あなたの名前は?」

 「えっ」

 名前を聞かれた。そして、所有者?何の話だ。それより、まさかこの子が降ってきたというのか。そんなばかな。

 「ねえ、聞いてる?」

 「えっ、あ、はい、俺は、相宮、相宮功っていいます。」

 

 そして、沈黙。えっ、ちょっと、何かしゃべってくださいよ?


 いや、待てよ。この流れ。俺が昨日書いたあの話にそっくりじゃないか?そうだ、よく考えてみればそうだ。確証はないが、あの穴もこの子が落ちてきたから開いた……とすれば……。


 「そういう、君の名前は?」

 「私は――」


 そこで彼女は黙ってしまった。言えないことなのだろうか。それとも、さっきの衝撃で名前を忘れてしまったのだろうか。

 

 いや、違う。


 もし、仮にだ、俺の書いたあの妄想がこの現実に反映しているとしたら?あの空想が現実になっているとしたら?俺が書いたセリフは確か……ここまでだったはず。


 「私は――分かりません。」

 「は?」

 「名前は無いです。たぶん。」

 「いや、さすがに無いってことは……」

 「ううん、じゃあ、相宮さん、あなたが決めてください。」

 「はい?」

 「私の名前です。」

 いきなり何を言っているんだこいつは。俺が名付ける?

 「名前――ううん、そうだなあ……」

 さて、困った。こういうイベントはゲームとかでよく知っているが、目の前の現実にいる女の子に突然名前をつけろと言われても、いい案が浮かばないのは当然だ。

 「ええと、ああ、そうだなあ……」

 「じゃあ、こうしましょう。」


 その女の子は何かを思いついたように立ち上がって言った。

 「私の名前を付けるのは後でいいです。今は新しい物語の構成を練ってください。」

 「え、あ、新しい物語?構成?」

 「はい、あなたはDNCSを使い、私を呼び出したのでしょう?」

 「DNCS?ああ、あの……」

 「お気付きかも知れませんが、あのソフトはソフトに書かれたあらゆる事象および現象を現実世界で忠実に再現するものです。つまり、あなたの考えたことをこの現実世界に直接起こすことができるのです。」

 「はぁ。」

 ちんぷんかんぷんである。

 「え……なんですか、その顔は。まさかご存じなかったのですか?」

 「いや、知ってるというか、いまだに信じられないんだ。あのソフト。」

 「まあ、確かに初心者の相宮さんには信じがたいことかもしれませんね。」

 「しょ……初心者?」

 「ああ、そうですよね。まだ、相宮さんは何もご存じでないと。」

 さっきからこの女の子は何を言っているのだろうか。再現?忠実?初心者?


 「私はパンフレット。このDNCSの取扱説明者です。」

 「パンフレット……それは名前か?」

 「仮の名ですよ。パンフレットは説明書という意味です。」

 「ああ、なるほど。」


 どうやら、この金髪美少女さんはDNCSについて色々と知っているようだ。それは直感で分かった。


 「質問いいか?」

 「どうぞ。」

 「本当にこのDNCSは現実世界を思う通りにできるのか?」

 「相宮さんは世界征服でもたくらんでるんですか?」

 「い、いや、そんなことは――」

 「はい、書き込んだことは可能な限り現実世界に反映させます。」

 「可能な限り?できないこともあるのか。」

 「はい、たとえば犯罪行為やこちら側の技量では不可能なことなどです。」

 「技量……」

 「ほかに何かありますか?」

 「お前は俺の書いた創作による結果によって現れたのか?」

 「ううん、まあ、yesです。いずれにせよ、このソフトの所有者には私たち、パンフレットが一人に一人ずつお仕えすることとなっていますから。」

 「ちょっと待て。」

 「はい?」

 「お仕えって……なんだ?」

 「文字どおりの意味です。」

 えっ、つまりあれか、アニメとかでは定番のヒロインと同居というやつか。


 「こんな大穴開いてるのに、警察も消防車も来ないのは?」

 「面倒になるので私が結界をはっておきました。そのためです。」

 「そ、そうか。あと、もうひとつ。」

 「どうぞ。」

 俺はとにかくこれが気になった。

 「代償……みたいなのはないのか?」

 「というと?」

 「つまり、年会費みたいなやつ。金限定というわけでもないけど。」

 「ありますよ。」

 「えっ」

 あるんだ。

 「具体的に言うと、このDNCSに書き込んだ文字一文字に対し、所有者、つまり相宮さんあなたの寿命を60秒間分をいただきます。」

 「じゅ、寿命!?」

 「はい、現在の相宮さんは352文字をすでに書き込んでいるので、352分間、つまり……」

 つまり、それは……

 「約6時間文の寿命が……削られたってことか?」

 「はい、ざっつらいと!」

 見た目はかわいい金髪の美少女だが、発音がひどい。


 それにしても……なるほど、大体は分かった。


 俺はこの時大いなる野望を抱いていた。というのも、こんなかわいい女の子が自分の部屋に降ってくるという、人生で一度たりとも体験できないであろうイベントを、たった6時間の寿命と引き換えに発動させることができるのだ。


 そう、人生を操作できるのだ。


 俺のさえない高校生活も、もしかしたら――


 「ただいまー、功にい?」

 「なっ!?」


 バッドタイミングだぜ。我が妹よ。

読んでいただきありがとうございました。

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