story 1 すべての発端
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俺の物語 作:相宮功
とあるところに相宮という高校生がいた。
彼は怠惰で、無意義な生活をただダラダラと過ごすダメ人間だ。しかし、彼には少なからず変わりたいという気持ちがあるようで、高校生活では人間関係の築上に尽力していた。
成績は普通で、スポーツも普通。これといった特徴もなかったが、友達も徐々に増え始め、バラ色の高校生活への扉が開かれそうとなっていた。
そんな、ある日だ。
彼の部屋に、金髪の美少女が降ってきたのだ。
アニメやゲームではよく見る光景かもしれないが、本当に降ってきたのだ。部屋の天井を突き破り、俺めがけてその美少女は飛んできた。
驚いた。というか、失神した。
気がつけば、俺はその女の子に大丈夫ですか?と声を掛けられていた。俺は、大丈夫といい、
「君の名前は?」
と問う。
彼女は答える。
「私は――」
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そこで俺のキーボードを打つ手は止まった。名前を考えていなかったのだ。
それにしても……いくらなんでも展開がベタすぎるかな?もっと面白い出会い方は無いだろうか。
俺はパソコンの前でそのまま考え込んだ。そう、今のは俺の創作。俺の趣味だ。
当然、現実で美少女が空から降ってくるなんてあり得ないし、そんなことが仮に起きたとしても、それは俺ではなくもっとラブコメ体質の別の誰かめがけてだろう。俺はせいぜいこうやって小説に自分の願望を押し付けるしかないのだ。こういう二次元の世界が現実でも起きたらいいのになあ、と考えながら。
しかし、所詮はただの願望。そしてフィクション。慰めにもならない。
俺は何かバカらしくなってきた。
小説を書くソフトを閉じ、俺はネットサーフィンを始める。新アニメの情報とか、今ホットなニュースとか、ネットに上がってる無料ゲームとかをして時間をつぶす。まったく、本当に怠惰で無意義な生活じゃないか。
パソコンの電源をつける前に、俺は何を思ったのだろうか、新しい小説を書くソフトを探していた。今のは少し使い勝手が悪いとはいえ、これからも小説を書き続ける保証はないのに。まあ、でも、どうせ暇だし。そんな軽い気分で俺は検索。
大量のヒット。さすがに有料のものは御免だ。フリーで何か……。
適当に調べていると、目にとまったものが一つ。俺はそのページを開いた。
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『DNCS desire novel composition system』
あなたの物語をあなたで作れるソフト!
完全無料!
思うがままのハッピーライフをあなたに!
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デザイア・ノーベル・コンポジション・システム?
そんなようなことが書かれていた。いくらなんでもウソ臭すぎるだろ。これ。
自分の物語を自分で制作とある、ふん、意味不明だ。
しかし、釣られてみるのも悪くないか。どうせたいしたソフトじゃあないことは分かっているんだ。
俺はそのソフトのダウンロードボタンを押し、インストールを済ませ、そのソフトを起動した。
見た目はいたって普通。普通のソフト。
俺は心の中でソフトをバカにしながら、そしてこんなソフトに手を出してしまう自分を情けなく思いながら、さっき書いた俺の妄想物語をコピペした。
下のほうに実行と書かれたボタンがあり、どうやらこれを押すことで始まるらしい。
俺は何の躊躇もなくそのボタンを押した。
――結局、その日は何も起こらなかった。というか、起きるわけがなかった。
翌日、俺は私立白雲高等学校に登校していた。
いつも通りの朝、いつも通りのこの通学路。
「功!」
後ろからやってきたのは俺のオタク友達の前嶋道悟だ。中学校からの仲でよくアニメやゲームの話をしては盛り上がり、周りから変な目で見られるものだ。ちなみに背が高い。
「功、今日はどうした?珍しくこんな朝早くから?」
「ああ、ちょっと眠れなくてさ。いろいろとね。」
「またゲームか?」
「いや、別のこと。」
「ほう、でもまあ、睡眠は大事だぜ。」
「お前からそんな言葉が出るとはなあ。意外だ。」
俺たちは学校に到着し、靴を履き替え、新しいクラスを確認しに行く。そう、今日から俺たちは高校2年生。ピカピカの2年生。
その後、前嶋とは同じクラスで2年4組だと分かった。自己紹介は明日らしく、今日は午前中に解散となった。
「功、この後飯でも行くか?」
「ああ、ううん、俺はパス。宿題まだ終わってないんだ……。」
「安心しろ、俺なんかまだ手もつけてねえ。」
いや、それはまずいだろ。
「じゃあな。」
前嶋と別れ、俺は再びこの通学路を歩く。あいつに、あのなんちゃらっていうソフトの話でもしようかと考えたが、俺の残念な醜態をさらすのもどうかと思い、結局話さなかった。
それにしても、今日はやけにあいつ、機嫌がいい……というか、元気だったな。何かいいことでもあったのだろうか。まあどうでもいい。
家に帰り、昼飯を食べ、俺は宿題の答え写しに入った。我が私立白雲学園は、実は偏差値の高い進学校だ。故に、春休みの宿題もそこらの学校とは比べ物にならないほど多く、答えを写すだけでも精いっぱいだった。
――午後3時。それは突然だった。何の予兆もなく、起こった。
地響きのような何かを感じ、最初は地震かと思った。そう心配するほどのものでもないだろう、と再び机に向った時――
ガシャンという大きな音と同時に俺は吹き飛ばされた。何かに当たった。強烈な風圧。俺はわずかな時間の間に何が起きたのかを知ろうと考えたが、壁に頭を強く打ったようで瞬く間に意識を失った。
「大丈夫?」という声が聞こえる。
目の前に誰かいる。
金髪の……知らない……誰か……。
読んでいただきありがとうございました。