1-1 トーヤと宝と王国の牙
『あー、もしもーし。こちら待機班でーす。実行班きこえてますー?オーヴァー?』
通信機から聴こえる間の抜けた声に対し、答える声は無い。
声で答えない代わりに、通信機の持ち主が耳の横で2本の指を前後に振ると、通信機の向こう側の人間は「大丈夫そうですねぇ」と言って話を続けた。
『今回のターゲット、位置はリサーチ通りの場所から動いてないんですけど、少々面倒なことになっているみたいでしてー』
ここで一度切れた言葉に、通信機の持ち主はまるで目の前に通信相手がいるかのように頷いて先を促す。
『なんか、近くに一般人っぽい人がいるんですよねー。どうしますー?って、あー・・・』
次は何事かと眉をひそめると、通信機から別の声が飛び込んできた。
『考えてたってどうなるもんでもないわけだし、いま、時計は約束の時間をさしている!ということで!!』
言うが早いか、視界の遥か向こう側、建物の屋上部分に小さな影が現れ、よく通る声で高らかに宣言した。
「怪盗集団『王国の牙』、この場所に保管されている宝を頂きに参りましたッ!!」
途端、小さな影は複数のスポットライトで照らし出され、同時に周囲で怒号が巻き起こる。
その様子を見て、小さな影は満足そうに頷くと、あろうことか空中に身を躍らせ・・・。
忽然と姿を消した。
その一部始終を見届け、それまで一言も発することなく傍観者に徹していた影も冷たい廊下を静かに移動し始めた。
「あいつ、バカじゃないのか」
思わず口からこぼれたと言わんばかりの、暴言だけを残して。