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本当の暗殺者を知る者はいない  作者: 紅羅
一章 狂乱舞 狂い乱れる 花の舞い
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第四話 抹殺者

俺はひたすら走っていた

「藍叉の身に何かあったのでは」と思いながら

寿麻の言葉が頭の中に残って離れない



「誘拐された挙げ句惨殺されたアサシンの死体が多いらしいじゃないか」



どういうことだ?

そんな話は誰からも聞いてない


そもそもアサシンが殺される?

それこそ意味不明だ


俺たちアサシンは隠密行動に特化した上、並外れの身体能力だって持ってる


そう易々と殺されるようなもんじゃない


息が乱れる

走ることくらい何てことないのだが


苦しい、苦しい、苦しい


初めて恐怖と不安を感じたような気がする



そうだ


アサシンになってからはもう恐怖することもなかった

周りの人間からは「天才」と言われてきたんだ

まさにその通りだった


大人だって大したことはなかったし

幼少期から言ってしまえばアサシンのトップに君臨していた

気取るつもりはなかった

けれど全ては両親譲りの才能だ

最強のアサシンと言われた俺達の母親篠目朱(しのめあかね)

最強のアサシンの子は恐れるものがなかった


だが今俺は初めて恐怖に支配されている

震えが止まらない

藍叉は本当に何もないのか?

ちゃんと任務を成し遂げたのか?



我に返ると目前に家があった

勢いに身を任せドアを開ける


「藍叉!!」


反応がない

リビングからテレビの音が聞こえる

それと僅かにだがグツグツと鍋が煮えたぎっているような音もする

音のする方、台所におそるおそる向かっていき覗いてみると


誰もいない


どう考えても料理の途中だった

切りかけの野菜に例の鍋

おそらくテレビを見ながら作業していたのだろう

だが肝心の妹がいない


「…藍…叉?」


身体中が震えて身動きがとれなかった


やっぱり、藍叉に何かあった…


その矢先だった

誰かが玄関を開けて入ってきた

俺はその誰かが現れるまで動こうとしなかった

動けなかった

そんな俺の前に現れたのは…


「え?何青ざめた顔してるのよ?お兄ちゃん怖いよ」


藍叉だった

よかった…無事だったのか

一気に体は熱を取り戻した


「いや、料理の途中なのにいないもんだったから」

「隣のおばさんから野菜もらってただけだよ」


見ると片手には野菜…茄子がビニール袋いっぱいに入っていた


「今夜は茄子のフルコースだから」


……え?

俺は再び青ざめた

「あ、藍叉サン?俺が茄子嫌いなの知ってますよネ?」

「だから?」


きょとんとした顔で見られた以上もう何も言い返せなかった


ある意味恐怖はここにあった






今日の夕飯はスパゲッティだ

…茄子づくしの


しかし


その前に俺は藍叉に聞かなければならないことがある


「……なあ、藍叉」


藍叉は手に持っていたフォークを置いて不思議そうに俺の顔を見る


「な、何?珍しく真面目そうな顔して…さっきといいお兄ちゃんなんか怖いよ」


俺はそんなにも険しい顔をしているらしい


「あ、いや、これは寿麻の冗談なのかも分かんないんだけどな…その、ここ最近行方不明のアサシンっている?」


藍叉の動きがまるで呼吸までも止まったかのように固まった

どうやら何かを知っているらしい

俺はもしかしたら相当ヤバイことに首を突っ込んでいるのかもしれない

だが、それでも興味以上にこの疑念を確実にしたかった


「行方不明…というより何だ…」


中々「死者」のワードを口に出せずにいた

するとそこに藍叉が話って入る


「…死者がいるんでしょ」

やはり藍叉は知っていた

「あ、あぁ…」

「私が知っている話はほんの少し。詳しくは大爺様に聞くべきだよ」

しん、と静まり返った部屋で藍叉の息を吸う音だけが聞こえる


「暗殺者が何者かに暗殺されているの」

「え?」

俺は自分の耳を疑った

アサシンが暗殺されるなど聞いたことがない

「それって暗殺会や組織中枢の人間か?」

俺は今この質問をしたのは間違いだったかもしれない

それは俺がアサシンの中に権力を狙う裏切り者がいるかもしれないと思ってしまったからだ

根も葉もないことを聞いてしまった

しかし藍叉は首を横に振る


「殺されるのはいつもごく一般のアサシン。血縁関係からしても身内に権力者はいないらしいよ。それと…」

「それと?」

「殺されてるのはアサシンとアサシンが手をかけたわけじゃない惨殺された対象。さらに関係のない一般人まで殺されてるの」

何だよそれ?

惨殺?

その上一般人もだと?

なぜそこまでしなければならない

狂ってやがる

相当頭のイカれたやつだということはよくわかった

酷すぎる

目眩がする

吐き気がした

夕飯に手をかけることが出来なかった

俺は現実から目を背けるように目を瞑った

藍叉が椅子から立ち上がる音がして仕事の準備に取りかかった

俺も暫くしてやっと準備を始めた


テーブルの上には一口も食べることがなかったスパゲッティの皿が二つあった





二件目の仕事を終えたところで午前一時をむかえていた

ちょうど暗殺会が近くにあったから俺は寄っていくことにした


暗殺会の事務所というか見た目は普通の本屋からはまだ明かりが漏れていた


表向きでは本屋をやっている「篠目書院」

ここで大爺様は店長兼暗殺会会長を務めている

当然こんな時間に店はやっているわけではなかったから裏口にまわった


ドアにはなんと鍵がかかっていなかった

まるで俺が来るのを分かっていたかのようだった

全く不気味な祖父だな



裏口から店の中に入ると暗殺会の委員たちが書類の整理やら審議やらを行っていた


昼間は現代の本屋の顔を見せる店内だが夜は蝋燭の明かりだけが灯り古書や禁書などが敷き詰められた本棚へと姿を変える


暗殺会は総勢五十一名の委員を有している

連夜城和市を中心としたかなり大規模の地域の暗殺の書類審査や会合を行っている

それを取り締まっているのが篠目白虎こと大爺様だ


「来たか、東龍」


店の一番奥の席に威厳たっぷりにどんと構えて大爺様が漆黒に染まったソファの上に座る


「やはり来ると思っていた。して、何の用じゃ?」

「単刀直入に聞くぞ大爺様」


大爺様は動じることなく黙って俺の訪問理由を待っている

「今騒がれてるアサシンの連続殺人事件についてだが、大爺様が知っていることを少しでいい、少しでいいから教えてくれ」

「知ってどうする?」

「…さあな」

確かに…俺はそれを知ってどうするつもりなのか

興味本意?いや違う

仲間の仇討ち?違う。そうしてやりたいがもっと漠然とした何かが本当の理由だ



「ふむ、理由もなく聞こうと?」

「ああ。今考えててもなにも出てこない。かなーりアバウトに言うなら胸騒ぎがする、だな」



大爺様は暫く黙りこくった

すると突然笑いだした


「はっはっは!胸騒ぎじゃと?」

次の瞬間、この空間の空気が一気に凍てついた



「その程度でこの儂から物を聞こうなど笑止千万!!そんな暇があるなら早く今夜の仕事を片付けて来んか!」



ビリビリと目を開けられないほどの威圧感が空間を支配する

委員たちも皆動くことができなくなっていた

俺も足に力が入らなかった

立っているのがやっとだった

大爺様はやがてゆっくり厳しい顔が緩み、優しくいかにもおじいちゃんらしい笑顔で

「また出直してきなさい。今の迷ったままの状態で話をきいたところで辛いじゃろう。故にその迷いを断ち切るのじゃよ?」

普段は温厚な大爺様の顔を見てやっと緊張が解れた


「分かったよ、後で出直す」


暗殺会を後にし、俺は三件目の仕事場に向かった

暗殺会に来る前に藍叉とは離散し、あいつは先に三件目に向かっていた

それから結構時間が経っているからおそらく終わっているかもしれない


「双核臓」で思念を集中させ標的を見つける


そう遠くはなかった

場所は住宅地から離れた河川敷だった

こんな時間にどうしてそんなところにいるんだか

などと思いながら状況を把握する

暗殺の対象はその場から動くことがなかった

「俺の出る幕なしか」

内心ホッとしつつあと数メートル先で対象がいる場所に着くとこだった


そんな俺の目の前に広がる光景に俺は絶望した


見晴らしのいい河川敷に眼前には藍叉が殺したとは思えない死体がある

多分対象の死体だろう

そして


血まみれになった少女が倒れていた



「……あ、あぁ…」


名前を呼ぶにも喉が言葉を発するのを遮る

口が震えてまともに喋ることができない

それでも俺は全身の力を言葉を発するのに使った


「藍叉ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


俺はすぐに藍叉のもとに駆け寄り抱き寄せる

息はあった

致命傷ではあったがまだ生きている


すると別の声が聞こえてきた

不気味な声が


「なんだぁ?てめぇその小娘の知り合いかぁ?」

「何を言っているんですかアルガス。その男はその少女の兄ですよ。篠目家の人間ですよ」


月の光に照らされてよく見えないが二百センチはゆうに越すであろうガタイのいい明らかに日本人ではない男が大鎚を背中に携えてダルそうに立っている

その背後にこの男とは真逆で日本人で小柄な髪の長い女が立っていた


「なんだよ、お前らは…!」


俺は怒りと恐怖で体の震えが止まらなかった

それでも睨み付けるように、否、その二人を睨んでいた


アルガスと呼ばれる男と付き添いのような女は顔を見合わせてクスクスと笑って俺の問に答えた



「抹殺者」

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